カタロニア讃歌 (ちくま学芸文庫 オ 11-2)

  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (385ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480087270

作品紹介・あらすじ

ファシズムの暗雲に覆われた1930年代のスペイン、これに抵抗した労働者の自発的な革命として市民戦争は始まった。その報道記事を書くためにバルセロナにやってきたオーウェルは、燃えさかる革命的状況に魅せられ、共和国政府軍兵士として銃を取り最前線へ赴く。人間の生命と理想を悲劇的に蕩尽してしまう戦争という日常-残酷、欠乏、虚偽。しかし、それでも捨て切れぬ人間への希望を、自らの体験をとおして、作家の透徹な視線が描ききる。二十世紀という時代のなかで人間の現実を見つめた傑作ノンフィクション。共和国政府の敗北という形で戦争が終結した後に書かれた回想録「スペイン戦争を振り返って」を併録。

感想・レビュー・書評

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  • ジョージ・オーウェルを読むのは『動物農場』『1984年』に続いてこれで3作品目ですが、その中だとこの『カタロニア讃歌』が一番好きです。

    「一番好き!」だけど同時に、「一番読みにくい!」本でもあって、読み終えるまでにかなりの時間がかかりました。なのであまり人にはお薦めできません。最も読みやすいのはやはり『動物農場』なので、『動物農場』→『1984年』と読み進んで行って、もし面白いと感じたならば、それらの原点である『カタロニア讃歌』を読んだらいいんじゃないかなと思います。

    この『カタロニア讃歌』は、のちに『動物農場』『1984年』を書く原動力となった、スペイン内戦での体験を綴ったルポルタージュです。
    戦争のルポというと、オーウェルに影響を受けた開高健の『ベトナム戦記』もありますが、それと違う点は・・・オーウェルは戦争に取材に行ったんですが、「ファシズムはやっぱり許せん!」と感じて、実際に一兵士として武器をとって戦闘に参加したんです。

    ただ、この「戦争」がひどい。

    どうひどいか?というと、「戦争」と言われてみんなが頭に思い描く「戦争」ってありますよね。飛行機が飛んで、爆弾落として、戦車が砲撃して・・・とか。

    それらとは全く違います。

    「貧者の戦争」と言ってもいいかもしれない。敵は寒さと空腹とシラミと、戦闘できない退屈さ、という・・・。だからその分、逆にリアルに感じられます。最後の方、タバコや食べ物が本当に美味しそうだもの。映画で言うと『パピヨン』とか、ああいうのに近い。


    以下、読みにくかった理由です。

    1.文字がぎっちり詰まっている
    普通の小説なら「」(かぎかっこ)の会話文の改行の後、下は空白になるんですが、これは小説ではないので1ページに空白がほとんどありません。改行の一文字空けぐらいで、あとは文字がびっしり。読んでも読んでも終わらねえ!

    2.訳が古い
    文章そのものは非常に平易、簡単です。ただ、カタカナではなく漢字が多かったり、今なら外来語として通じるものを直訳してるところが多いです。
    例)「虱」→「シラミ」(まだ全然読める部類の例)
    「針金切り」→「ワイヤーカッター」
    「茶碗」→「ティーカップ」(オーウェルはイギリス人だから紅茶を飲む)
    「犠牲の山羊」→「スケープゴート」
    「市民戦争」→「civil war」=「内戦」
    のように訳されていれば、もう少し読み易かったんじゃないのかなあ・・・と。この「ちくま版」の訳が一番古く、1970年が初出のようです。

    3.スペイン内戦の状況が複雑
    これは読みにくいと同時に、とても面白いところ。
    ファシスト勢力(フランコ側)vs.共和国政府(共産主義・社会主義・アナキスト)という単純な構図だけではなくて、
    共和国政府側って寄せ集めの連合勢力なので、後半は
    共産主義(ソ連がバックについてる)vs.アナキスト という戦いにもなってきます。
    この後半部分はまさに『1984年』の世界そのもの。だから、後半に行くにしたがってとても面白くなってきます。ラストの終わり方も最高でした。

    4.当時の熱量そのままに
    この4つ目の理由が、良くも悪くも重要だと思います。
    オーウェルが1937年にスペイン(スペイン内戦)からイギリスに帰国して、その翌年の1938年には『カタロニア讃歌』が出版されています。まだ内戦が終わってないころですよ。だから、かなり早いスピードで書かれて出版されている・・・スペイン内戦に従軍して、そこで見たり体験したことの熱量が、ばーっと一気に出てます。文章からそれが伝わってくる。

    例えるなら、大学の論文でもプレゼンでもなんでもいいんだけど
    『カタロニア讃歌』は生データで、
    『動物農場』や『1984年』は完成した論文、
    という感じなんです。
    普通、実験なりアンケートなりでデータを取って、それを抽出してまとめて考察し、グラフ等でわかりやすくして発表しますよね。

    『カタロニア讃歌』は、削ぎ落とされてる部分が少ないんです。だから読みづらいし、データ量が多い。その反面、ノンフィクションなので表現が泥臭かったり、体験した熱量がそのまま出ている部分が多いように感じました。

  • 『Hommage to Catalonia』の訳本は複数社から出版されているが、一部が省かれた版も多数存在するので、原語の内容を溢さず読みたい人には、本書をお勧めする。

    未だかつて、こんなにじっくりたっぷり読み込んだ本は無い…。大学のゼミで取り上げる題材だったから、という理由なのだけれど、そもそもは原語で読んでいて、途中あまりに複雑で心折れそうになり、論文書くうえでは母語で読まないことには先に進めず、何度も読み返しては線を引いて付箋貼っての繰り返し。

    オーウェルの生い立ちや思想とか理想というものは彼の著作を読むほどによく理解出来ると思うが、この作品は、ある意味、彼の人生のクライマックスのようなものではないかと思う。
    イギリスの「上層中流階級の下の方」に生まれた著者がどのような青少年期を過ごし、やがてスペイン内戦に従軍記者として赴くことになったのは何故か。そこで彼は何を見たのか。従軍記者として赴いたハズが、自身が銃を握ることとなったのは何故か。
    理想と現実の間でオーウェルが感じたことは何だったか。その後彼の心はどこへ向かっていったか。

    ルポルタージュと言っても決して堅苦しくなく読み易い方だと思う。世界が第二次大戦へと向かっていく直前の激動の時代、欧州で何が起きていたのか、その一端を内部から知ることが出来る貴重な書。

  •  

  • ★欺瞞の時代において真実を語ることは革命的な行動だ



    ジョージ・オーウェルは、今から62年前の1950年1月21日にわずか46歳で亡くなったイギリスのジャーナリスト・作家。

    彼との接近は、ご多分に漏れずSFにどっぷりとのめり込んだ中学生の頃に手にした『1Q84』じゃなかった、未来の管理された醜悪な世界を描いたディストピア小説『1984』が最初でしたが、その後もカール・マルクスの『ルイボナパルトのブリュメール18日』やジョン・リードの『世界をゆるがした十日間』、エドガー・スノーの『中国の赤い星』『アジアの戦争』やアグネス・スメドレーの『中国の歌ごえ』、そしてE・H・カーの『ロシア革命』などと共に、世界のすぐれたルポルタージュとしてこの本を読んだりしました。彼への関心はそれにとどまらず、晶文社のオーウェル小説コレクション全5巻や平凡社ライブラリーのオーウェル評論集のたしか全4巻を読むに至って、奇しくも同時代の同じイギリス人で79歳まで長命だったH・G・ウェルズが、やはり『タイム・マシン』や『透明人間』や『宇宙戦争』などのSFを書いて『世界史概観』や『世界文化小史』などの文明批評・歴史書も書いているのに似て、すぐれたSF作家は空想だけにとどまらず現実の世界にも多大なるコミットをするのだなあと驚嘆したものでした。

    「義勇軍に入隊する前日、私はバルセロナのレーニン兵営で、イタリア人義勇兵がひとり、将校たちのすわったテーブルの前に立っているのを見かけた。二十五、六のたくましい顔つきの青年だった。髪の毛は赤みをおびた黄色で、がっしりした肩をもっていた。先のとがった革の帽子を、片方の眼がかくれるほどぐいと引き曲げてかぶっている」

    スペインに1936年登場した左翼系共和政府に、反乱を起こしたフランコを指導者とする右翼勢力。右翼側の反乱を援助支援したのがドイツ・イタリアのファシズム勢力で、かたや不干渉政策をとったのがイギリス・フランス。共和政府側支持を表明したのがソ連、そして世界中から熱烈賛同して自発的に参加した義勇軍でした。わがシモーヌ・ヴェイユもそのひとりでしたが、ジョージ・オーウェルは最初のうちは記事を書く記者としてスペインに行ったものの、すぐさま義勇軍の一員となり実弾飛び交う戦場へと潜入し、そこで見た真実の一部始終を克明に書き綴ります。それがこのルポルタージュの最高傑作といってもよい『カタロニア讃歌』です。

  • まだ読み途中だったのですが、母が読みたいと言い出しまして、ちょうど中間だし譲ったのでした。
    なので完全にはよんでませんが、それでも言葉の端々に重いものを感じます。
    私は本当に無知だ。

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著者プロフィール

1903-50 インド・ベンガル生まれ。インド高等文官である父は、アヘンの栽培と販売に従事していた。1歳のときにイギリスに帰国。18歳で今度はビルマに渡る。37年、スペイン内戦に義勇兵として参加。その体験を基に『カタロニア讃歌』を記す。45年『動物農場』を発表。その後、全体主義的ディストピアの世界を描いた『1984年』の執筆に取り掛かる。50年、ロンドンにて死去。

「2018年 『アニマル・ファーム』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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