戦争における「人殺し」の心理学 (ちくま学芸文庫)

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レビュー : 108
  • Amazon.co.jp ・本 (509ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480088598

作品紹介・あらすじ

本来、人間には、同類を殺すことには強烈な抵抗感がある。それを、兵士として、人間を殺す場としての戦場に送りだすとはどういうことなのか。どのように、殺人に慣れされていくことができるのか。そのためにはいかなる心身の訓練が必要になるのか。心理学者にして歴史学者、そして軍人でもあった著者が、戦場というリアルな現場の視線から人間の暗部をえぐり、兵士の立場から答える。米国ウエスト・ポイント陸軍士官学校や同空軍軍士官学校の教科書として使用されている戦慄の研究書。

感想・レビュー・書評

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  • 群を抜いて興味深い本だった。表題や、カバーイラスト(血痕のような赤い模様が描かれている)のケレン味からあなどってはいけない。中身はかなり真面目で、一般にはよく知られていないリアルな事象を露出してくれる、希有で有益な書物である。
     著者グロスマンは長年軍務についてきた経験豊かな軍人だが、心理学も学び、兵士のカウンセリングもやってきたらしい。その経験から、ここには実際に戦地で兵士が味わってきた体験と心理が、豊富なケースとしてたくさん引用されている。
    戦争と死刑は、合法的・合倫理的に殺人を遂行するための超-正義的な装置である。この異常な状況は、人間にいかなる痕跡を残すのだろうか。
     冒頭の方に記された意表を突く事実は、第二次大戦中の米軍において、陸上の生身同士での戦闘では、実に8割もの兵士が、「実際には相手に発砲できなかった」ということだ。
    思想とか宗教とか抜きにしても、生理的次元で、人間は他者を殺すことに強い抵抗を覚える。たぶんこれはミラーニューロンが関係しているのだろう。
     特に目の前にいる「敵」に対しては容易に殺人を遂行できない。一方、「遠くにいる敵」は比較的殺しやすい。とりわけ、戦車などで遠方を砲撃するのはたやすいらしい。相手の「顔」が見えないからだ。
    しかし第二次大戦で発砲できなかった8割は、ベトナム戦争では逆に、発砲率9割へと転じる。これは「訓練」のたまものである。
     この「訓練」は、「時計仕掛けのオレンジ」後半の洗脳技術とは正反対に、敵兵を非人間的なものと見なし、反射的に発砲する習慣を身につけることで、実地の暴力を可能にするというようなものだ。また、仲間集団と共に戦闘することで、兵士はある種の「匿名性」に包まれるので、殺人(あるいは残虐行為!)が容易になる。これは「条件付け」と呼ばれるが、パブロフの犬とおなじ仕組みである。兵士はパブロフの犬のように条件付けられ、戦地に送りこまれたわけだ。
     ベトナム戦争では米兵は訓練の成果を発揮し、大量の殺人に成功する。しかしベトナムの特殊な状況から、民間人、とりわけ武装していない女性や子どもをも殺さざるをえないことになってしまう。
     訓練したとはいえ、現実に殺人をおこなうことは、人間に特異な反応をもたらす。はじめは「多幸感」につつまれる場合もあるが、ごく少数の「異常者」を除いて、多くの者は事後に激しい後悔に襲われる。結果、ベトナム戦争の帰還兵の多くがPTSDに苦しむはめになるが、おまけに、帰還した兵を当時のアメリカ国民は「嬰児殺し」などと批判し、冷遇した。これでは帰還兵がみんな精神疾患におちいっても当然である。
     現在の戦争はむしろ夜に戦闘が行われるという。兵士は赤外線スコープのようなものを装着して闘う。これにより、敵は「人間らしく」見えないので、ビデオゲームを楽しむかのように相手を殺戮できるのだという。「殺人を容易にする」ためのテクノロジーは、このようにどんどん進歩しているようだ。
     そして、反射的に殺人を遂行するための訓練設備と同様のものが、いまやゲームセンターにも存在するし、テレビ番組や映画をとおして、「殺人を容易にする」ための心理的条件付けが、ひろく若い世代にほどこされている、と著者は指摘している。

     実際の「戦場」が映画とはいかに異なるかということを知り、現実の「殺人」とは何か、他者と殺し合う人間とは何か、戦争とは何か、といった根源的な問いをなげかけてくれる本書は、最大限に興味深い。これは戦争や殺人について知りたい多くの人が、できるだけ読んでおいたほうが良い書物である。

  • 時代や民族の違いを問わず、戦士は人殺しを避ける。という事実を、もと兵士の経験談や内外のデータをもとにして証明する。その大前提から論考は始まり、それでも兵士が人殺しをするにあたって抵抗が少なくなる場合を分析していく。

    物理的距離、心理的距離が離れた場合がそれであり、心理的距離を生じさせる方策として、憎悪・倫理に訴えるプロパガンダの有効性を検証している。

    また、ベトナム戦争で非射撃率(敵を前にして銃を撃たない割合)が劇的に低下した策として、シミュレーションによる殺人感作の低下を挙げている。
    この策は、兵士のPTSD発症を遅めるだけだという指摘をしつつ、現代のメディアに溢れる暴力行為が、若者の暴力感作を下げていることに警鐘を鳴らしている。

    戦争の質の変化が、兵隊に及ぼす影響は大きく、当然それは国家にとっても看過できない重大事だと論ずる。

    殺せない兵隊、という視点が革新的。
    殺せない人間に殺しをさせる国家施策が戦争。有史以来、兵士のトラウマ回避術は様々あったが、現代戦はメディアの発達や大量破壊兵器の影響もあり、戦争の質が変化している。それに対して人間は変化できない、という現実をまざまざと見せつけられる。

    戦争について考える上で、ひとつ違った視座を得た気持ち。

  • 第二次世界大戦時、8割の兵士は敵兵を殺すことができなかった。敵を目の前にして、手には装填された銃があるにも関わらず。
    わたしは、なんとなく、戦争に行った兵士はふつうに敵兵を殺しているものだと思っていた。日本兵もアメリカ兵もどこの国の兵士も変わらず。もちろん、葛藤や思うところはいろいろあると思うけど、殺すのは殺していると思っていたのだ。でもどうやら違うらしい。
    人間の中にある、同種である人間を殺すことへの抵抗感。それが、この本のテーマだった。
    目から鱗というか、自分の思い込みってあるんだなと気付かされたというか。いい本と出会えた。
    チチカカコ文庫フェアで買った教養書のうちの一冊。よかった。

  • 第二次大戦時の兵士は15~20%しか実際に発砲しなかった。他の戦争におけるデータによれば、発砲されたとしてもその命中率たるや100あるいは200分の1程度にしか過ぎず、わざと弾を外していた可能性が高いという。
    戦争へ行ったことがない人々は、戦争に行ったらごく普通に人間を撃つものだと思っている。撃たねば自分や仲間がやられるから相手を撃つのだと。考えてみれば何の根拠もないそれらの推論を、本書は実際のデータに基づいて否定する。人間は根源的に人間を殺すことに強い抵抗感があるのだと作者は主張する。

    兵士の発砲率はベトナム戦争になると急に90%まで跳ね上がる。作者はその理由を「条件づけ」と「プログラミング」という要素と、それを用いた訓練によって説明している。
    ゲームやハリウッド映画が人間の攻撃性を高めるという話は時たま耳にする。今まではPTAが騒いでるくらいにしか思わなかったが、本書を読むとそれが決して眉唾な話ではないことがわかる。

    「どのように人を殺すか」という問いは、すなわち「どのように人殺しの抵抗感を和らげるか」というのとイコールである。
    キーワードは「反射」「機械の介在」「距離の問題」。
    「ニンテンドー・ウォー」という言葉をはじめて知った。暗視ゴーグルの映像を通して敵を撃つことで、人殺しへの抵抗感を飛躍的に和らげることができる。
    科学技術の進歩により、文字どおり「ゲームのような戦争」が可能になった。

    この本が書かれた当時よりも「ゲームのような戦争」はますます加速し、洗練すらされているのが今の現状だ。
    イラクやアフガニスタンの上空にはリーパーやプレデターといった無人軍用機が飛行する。
    米軍は戦場から1万2000キロも離れたアメリカ本土から無人軍用機を操り、パソコンの画面を通してミサイルを発射、敵兵を爆撃する。
    Youtubeでは米兵が爆撃する時に見ている映像と同じものを閲覧することができる。

    「人間は根源的に人間を殺さない」という点は確かに目新しい。がしかし「なぜ人を殺せないのか」という内容はしばしば退屈である。
    これは思うに、上記のことをいったんのみ込んでしまえば、「トラウマ」をキーワードにしてある程度は想像がついてしまうせいだろう。
    あとがきにもあるように、『不気味なのはその「わかりやすさ」だ』。
    戦争という人間にとって最大のトラウマを語るうえで、この「わかりやすさ」がグロッキーを生み出している原因のようである。

    とは言うものの、戦争を身近に感じたことのない人間にとっては戦争を立体的にイメージするうえでとても示唆に富んだ本であることには変わりない。

    <memo>
    自らを危険に晒してまで、負傷した兵士の介抱や弾薬の補充といった「人を撃たない仕事」に率先してまわろうとする兵士が実は多い。
    第一次対戦中には前線の兵士たちが互いによく知りあうようになったために、なんども非公式な停戦状態が発生した。
    戦争において、ティーンエイジャーは驚くほど利用価値が高い……その罪深さ。

    ブラジル帰還兵にアメリカ国家のした仕打ちを読んでいて、以下の言葉を思い出した。

    >国家はすべての冷酷な怪物のうち、もっとも冷酷なものとおもはれる。それは冷たい顔で欺く。欺瞞は、その口から這ひ出る。「我国家は民衆である」と。
    ニーチェ『ツアラトウストラはかく語る』

    国家のために孤独のなか闘った帰還兵に対してアメリカ国民がとった行動は「反戦」の流れがあったにせよあまりに残酷だ。
    ベトナム帰還兵のPTSDは50万とも150万とも言われている。
    ジョン・レノン。僕は思った。ジョン・レノンを悪く言うやつはいないが、何にだって光と闇があるはずだろう。
    そしてジョン・レノンが反戦を強く訴えるたびに、罪悪感に苛まれた帰還兵はたしかに存在したのじゃなかろうか?

    この本を読んだら考えてみることにしよう。「戦争になったら自分はどのように行動するだろうか?」と

  • 人は人を殺せない。

  • 兵士はなぜ人を殺すのか、また、なぜ殺すことを拒否するのかという点を、取材と歴史的事実、心理学から解明しようとする本。「兵士が戦場で敵を殺すのは当然」だという前提を持って戦争や軍事というものを眺めていた読者にとっては、衝撃的な内容になっていると思う。戦争によって最も危機にさらされる兵士たちは統計上の数字ではないというのはしばしば言及されるところだが、彼らが我々と同様の生きている人間であり、条件付けによって人が大きく変わることを嫌というほど実感させられる。

  • 読了。良い本であった。20年以上前にアメリカで出版され、日本で翻訳され、さらに文庫本なのなっていた。2013年13刷とあった。奥さんが古本市で買った本。積読状態でやっと読めた。人は人を殺せないことがわかって、明るい気持ちになる。誰も、人を殺して平気で過ごせるほど強くないことがわかった。

  • ・南北戦争で回収したマスケット銃を調べたら、5回以上弾込めただけで発砲していない銃が大量にあった・・・
    ・200メートル先に的に当てられる兵士も、100メートル先の敵兵になると命中率がものすごく下がる。
    ・100名の銃を持った部隊が2回斉射すれば壊滅するはずが、倍以上かかる。

     著者の父親が優秀な射手で軍で銃殺もやっていたが、「上官の発射命令と同時に上手く外して撃ったふりをした」と。

    そこから研究が始まり、ベトナム帰還兵の心理ケアやカウンセリングを通して論文を発表。陸軍の教科書にも採用されている。

    読んでみたら今までの軍や戦争のイメージが変わる。

    25.名無しさん:2018年05月31日 11:00 ID:.uDyMmRS0▼このコメントに返信
    ※21
    1割くらいのナチュラルボーンキラーが
    9割の戦果をあげるってやつだっけ?

    30.通りすがりの名無しさん:2018年05月31日 11:17 ID:TXq1j0Cq0▼このコメントに返信
    ※25
    戦場の過酷なストレスで
    9割の兵士が何らかの異常を訴えるが、1割にストレスを感じなく人を殺せる。
    ネジがブッ飛んだ奴がいるってだけで戦果とは別。

    小銃だと個人で戦場の殺人を忌避できるが、大砲やマシンガンや大型火器などグループで運用する様な場合、個人では嫌でも手抜きが出来ず敵兵を効率よく殺傷する。そして壊れる・・。
    大声でわめきながら銃を撃ったりしてるのはストレス軽減の為にやってる自衛行為の一部。

    44.名無しさん:2018年05月31日 12:16 ID:zQhBfjV00▼このコメントに返信
    そもそも戦場に出ても「殺したくない」って人が多数だから
    わざと外してるのが普通って報告あったよね
    [銃って千発撃っても殺せるのは50人程度という事実 : 大艦巨砲主義!](http://military38.com/archives/52056254.html)[確認日:2018/05/31]

  • えっほんと…?ってなるけど、確かめることも出来ない。もう昔の本になってるけど、戦場の兵士の心理や行動が興味深く読める。

  • 戦争
    心理
    軍事

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