新版 電子と原子核の発見 20世紀物理学を築いた人々 (ちくま学芸文庫 ワ 10-1)

  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (432ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480089670

作品紹介・あらすじ

100年ほど前まで、人類は電子も原子核も陽子も中性子も知らなかった。これら究極の物質はすべて、優れた科学者たちの深い洞察と巧みな実験によってその存在が突き止められた。トムソンによる電子の発見、ミリカンによる電子の電荷の測定、ラザフォードによる原子核の発見、チャドウィックによる中性子の発見…。彼らはどのように推論し、どのような実験で未知の粒子を追いつめていったのか。壮大なドラマが、物理的な厳密さを貫きながら具体的に語られ、力学や電磁気学、熱学も必要に応じわかりやすく解説される。ノーベル賞学者による20世紀物理学への格好の入門書。名著の最新改訂版。

感想・レビュー・書評

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  • 東大教授おすすめ
    偉大な学者たちが物質の究極の要素をいかに追い求めたか

    自然のしくみ(物質の究極の組成)を解明し、それを記述する基本原理を理解する

  • すばらしい本だと思う。ワインバーグはけっこうメディア露出をする人でもあると思うけど、第一級の理論物理学者でありながらこういう一般向けの本が書けるのがえらい。そして、その内容もきちんと調べて書いていて、面白い。まあ、ある程度物理が好きな人じゃないと面白くないのかもしれないけど。少々難しいところもあるけれど、そこを読まなくても進めます。『宇宙創成はじめの3分間』、『場の量子論』もぜひ読みたい。

  • よく昼飯を食うトンカツ屋の向かいに新しく本屋ができたので,定食を待ってるあいだの退屈しのぎについ本を買ってしまいます。レコード屋に入って手ぶらで出られないひとの心理はわたしには分かりませんが,本屋に入って素通りはもったいない。とはいえ,小さい本屋に渇きを癒してくれそうな本は多くなく,結局,食指の動いたものは,700ページある保阪正康『東條英樹と天皇の時代』(ちくま文庫)だったり,400ページあるこの『電子と原子核の発見』だったりしました。トンカツを待ってるあいだに読みきれないおかげで,トンカツ屋に行く回数が減りました。ヘルシーです。

    著者スティーヴン・ワインバーグは,知るひとぞ知る電弱理論の開拓者のひとりです。すごい。野球選手にたとえると,秋山幸二くらい偉大です。

    申しわけないことに,そういう立派な著者の本を,わたしは定食の待ち時間と電車のなかと湯船のなかで読んでおりました。あらすじは,だいたい分かってるからね。戦国時代の歴史小説を読むひとが,織田信長と豊臣秀吉と徳川家康がどうなるか知ってるうえで読んでるようなものです。『電子と原子核の発見』の主人公は,J.J.トムソンとラザフォードです。あらすじを知りたいかたは,どうぞ本書をお読みください。

    わたしがこの本を読んでいちばん心に残ったのは,本書を訳した本間三郎先生の「訳者あとがき」の一節でした。

    ■■■■■
    私は,物理学の学習は真の意味での物理学,すなわち,われわれのまわりの自然界が究極的には何からどのような仕組みでつくられているかを明らかにしようとする物理学から出発すべきであると考えている.(略)それにもかかわらず,わが国の物理教育は,実はわが国ばかりではないのであるが,高校においても大学においても古典物理学から入っていっており,教科書の大部分のページがこれの記述にさかれ,現代の物理学である素粒子物理学の魅力にふれる機会がきわめて少なくなっている.これは,物理教育としては不健全であり,学ぶものにとっても教える側のものにとっても不幸なことである.(pp409- 410)
    ■■■■■

    ニュートン力学から物理学を学ぶのは「不健全」なんだ。。。

    や,わたしもそう思います。そもそも,vt-グラフから入って,慣性の法則と運動方程式を習ったあと斜面で半数の生徒が滑りおち,運動エネルギーと運動量が導入されて残り半数の生徒が壁にぶつかってるのに,それでもなお物理に興味を持ってるやつって,なんかヘンだもの。「物理でまっさきに運動が問題になるのは,開拓者であるガリレオやデカルトやニュートンが,地動説の理論を確立して教会のドグマを論破したかったからです」くらいのことを,教科書の全ページの欄外に印刷しとくといいよね。なんのために力学を勉強するのか忘れないように──でも物理の教科書に地動説って出てくるっけ?

    身近な話をします。わたしは学習塾の先公で,2月はビミョーな月です。高校受験ですと,もう合格して行くところが決まっている生徒がいる一方で,まだ第一志望校の入試を残している生徒もいます。合格してる生徒は塾に来なくていいんだけど,いちおう授業料は月ぎめでもらってるし,最近の中学生は合格してから熱心に勉強する傾向があります。高校でついてけないとヤバイ,つって。そんなわけで,わたしは週に二回ほど高校の勉強のイントロダクションをしています。なにから話するかね。まあ電子軌道と原子核の話,つづいて「モル」だろうな。

    てなわけで,先日トンカツ屋から戻ってきたわたしは,『電子と原子核の発見』からラザフォードとチャドウィックの写真をコピーして,陽子や中性子の話をしていました。意外な質問が飛んできました。

    U(生徒名・中3)「その中性子って,なんのためにあるんですか?」

    こういう質問,どう答えますか,ヤマモトさん?(仮名)

    1. なんのため,というのは,どういう目的で,という意味かな?そうだとすると,世界を作ったひとにきいてみるしかないね。ひと,じゃないかもしれないけれど。ものが存在している結果どういう現象が生じるか,と問うことは科学的ですが,ものがどういう目的で存在しているのかを問うことは──説明を簡単にするための方便でなければ──科学的でないと考えられています。
    2. 陽子ばっかりだと,プラス同士だから反発して原子核がバラバラになっちゃう,と思わないか?もしそうなったら,原子は壊れちゃう。現実には,原子はそんなにしょっちゅう壊れません。なんでだろうか?あるひとが仮説を立てました。陽子と中性子は,中間子という粒をやりとりすることによって,くっついてられるんじゃないか,と。AくんとBくんは仲が悪いから,ふたりだけだと反発する。そのあいだにCくんが入って,Aくんと上着を交換する。次にCくんはBくんと上着を交換する。そんなことやってたら,AくんはBくんと別れたくても別れられなくなっちゃうわけよ。まあちょっとちがうけど,だいたいそんなもんだ。この仮説を考えたひとは,だれでしょう?湯川秀樹さんといいます。知りませんか,あそう。

    結局わたしは,上の 1.,2.を両方話しました。

    ちょっと自然科学から離れます。「なんのため」ちゅうのは,「なぜ」と同義語ですよね。フランス語ならプルクワだ。「ひとはなぜ生きるのか」とか「ひとはなんのために生きるのか」とかって,みなさん考えるんでしょうか。むつかしい問題です。ただ,こういう問いっていうのは,その答えがもしなかったとしても,文法に沿って文として成立してるんですよね。「中性子って,なんのためにあるんですか?」という質問と同じように。問いが文として成立していると,わたしたちはつい答えがあるように思ってしまう。ときには,答えを出してしまう。でもそれは,文法が作りだしたハリボテの文かもしれない。その問いには答えがないのかもしれない。コトバにだまされちゃいかんな,ということを,わたしは中学2年生のときに思いました。だから,その後ウィトゲンシュタインの言語論的転回とやらを知ったとき,わたしはその線で受けとって納得したんですが,最近の言語論的転回主義者は言語論的転回によってドイツ観念論(とその末裔であるマルクス主義)をまともに相手にしなくても(=逃げても)いいと考えているようです。バカだ。わたしはインマヌエル・カントを高く買ってるわけじゃありませんが,カントのアンチノミーはすでに一種の言語論的転回を示唆しているとわたしは思います(そんなことは,すでにだれかが指摘しているはず)。清原なつの先生は「『ひとはなんのために生きるのか』という問いにもし答えがあったとしたら,あなたはその答えのとおりに生きるのか」と問いました。それって,清原なつの先生が(たぶん)大学生だったころの作品に出てくるセリフなんですが,その問い自体は,清原先生が中学生か高校生のときに考えついたものかもしれません。そんな感じがする,いいセリフです。いまの大学生は,そんなこと言わないな。その作品を掲載した『りぼん』という雑誌は,いまの大学生より哲学好きなひとたちが読んでいたにちがいありません。

    それはさておき。『電子と原子核の発見』の著者であるワインバーグはもちろんのこと,上に引用した本間先生もまた,おそらく十代のころから「世界はなにでできているか」という問いを抱きつづけてらっしゃるとお見受けしました。わたしは毎年,中学生相手の授業で,四元素論から近代原子論に至るまでの道筋を2時間かけて話すようにしています。「食いつき」は上々です。だって,「世界はなにでできているか」なんて問いは中学生じゃなきゃ考えませんから。それにしても,「世界はなにでできているか」という問いは,フィジックスの問いなのか,メタフィジックスの問いなのか。そのあたりの境界線が,わたしは最近さっぱり分からなくなっています。

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