日本近代美術史論 (ちくま学芸文庫 タ 6-3)

著者 :
  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (458ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480089892

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  • 高階秀爾は著名な西洋美術史家であり、深い学識に裏打ちされた明晰な解説と鑑賞眼には定評があるが、誤解を恐れずに言えば、専門の西洋美術より、明治以降の「洋画」を含めた日本美術を論じたものの方が断然面白く、中でも本書は屈指の出来だと思う。高階は西洋美術の様々な技法や様式の正確な理解も然ること乍ら、それ以上に、そうした技法や様式を模索してきた画家の感受性や思想、そしてそれらを否応もなく規定する歴史的・文化的伝統に対して優れた嗅覚を持っている。だからこそ異なる伝統の接触がもたらす創造的作用だけでなく、画家が意識すると否とに関わらず、そこに孕まれる「ねじれ」や葛藤に自覚的であり得たのだと思う。

    洋画のパイオニア高橋由一を論じた巻頭論文には、そうした高階の鋭い感性がよく表れている。傑作『花魁』や『鮭』で、由一は油彩画の手法を取り入れて西洋的な「写実」を追求したが、その表現を支える感受性は意外にも日本的であった。それがむしろ作品に迫真のリアリティを与えていたという指摘は極めて興味深い。表現手段と感受性が拮抗しながらも統一を保っていたのだ。ところが由一が本場の油絵に接するようになってからは、その緊張感が失われ平凡になってしまったという。表現手段が感受性から遊離して一人歩きし始めた。自らの感受性の根と切断した様式の流入に翻弄された近代日本美術の宿命の一端がここにある。

    西洋から影響を受けたのは日本画も同じだ。洋画を排斥し、伝統美術の再興を企図したフェノロサや天心からしてそうだ。彼らが目指したのは日本美術の国際化であり、そのために伝統の中から西洋にも通用する古典主義的要素を掘り起こそうとした。その意味ではあくまで西洋の眼で日本美術を観ていた。だからフェノロサや天心に学んだ大観や春草が、西洋的な色彩や構図、そして画題に意欲的だったのも不思議ではない。洋画では高橋由一の次の世代の黒田清輝が西洋絵画を徹底的に学びながら、日本的な精神風土の中で変質していった。高階が指摘するように、明治期には洋画よりむしろ日本画の方に西洋の絵画理念が深く浸透していたというのは皮肉である。

  • 今、この世の中に居る美術評論家では、高階さんが
    1番好きです。

  • 新しい職場に備えて

  • 2012.8

  • 497夜

  • 卒論の為に再読
    参考文献がほんとに参考になります。
    由一さいこう

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著者プロフィール

高階 秀爾(たかしな・しゅうじ):1932年、東京生まれ。東京大学教養学部卒業。1954ー59年、フランス政府招聘留学生として渡仏。国立西洋美術館館長、日本芸術院院長、大原美術館館長を歴任。現在、東京大学名誉教授、日本芸術院院長。専門はルネサンス以降の西洋美術史であるが、日本美術、西洋の文学・精神史についての造詣も深い。長年にわたり、広く日本のさまざまな美術史のシーンを牽引してきた。主著に『ルネッサンスの光と闇』(中公文庫、芸術選奨)、『名画を見る眼』(岩波新書)、『日本人にとって美しさとは何か』『ヨーロッパ近代芸術論』(以上、筑摩書房)、『近代絵画史』(中公新書)など。エドガー・ウィント『芸術の狂気』、ケネス・クラーク『ザ・ヌード』など翻訳も数多く手がける。

「2024年 『エラスムス 闘う人文主義者』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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