- Amazon.co.jp ・本 (367ページ)
- / ISBN・EAN: 9784480089984
作品紹介・あらすじ
グローバル市場経済にとっての真の危機とは、金融危機や恐慌ではない。基軸通貨ドルの価値が暴落してしまうグローバルなハイパー・インフレーションである。しかし、自由を知ってしまった人類は好むと好まざるとにかかわらず、資本主義の中で生きていかざるをえない。21世紀の資本主義の中で、何が可能であり、何をなすべきかを考察し、法人制度や市民社会のあり方までを問う先鋭的論考。
感想・レビュー・書評
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https://calil.jp/book/4480863249
筑摩書房(2000-03-01)の文庫化詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
本書は著者が80年代、90年代に書き下ろした論文集(エッセイ含む)を一冊の本にしたもので、私は文庫版を手に取りました。その意味では20年以上前に書かれている論文がほとんどですが、多くの面で現在への示唆に富んでいると思いました。まず本書の中でメインの論文が本のタイトルにもなっている「二十一世紀の資本主義論」です。岩井氏は、金融危機、経済危機が資本主義を終わらせるのではない、むしろ1997年のアジア通貨危機は基軸通貨であるドルへの信認を逆に高めたと言うことで資本主義を強化したと解釈されていて、資本主義が終焉するとしたらそれは貨幣への信認がなくなった時であると述べています(つまりハイパーインフレーション)。また面白かったのは、資本主義が「純化」すればするほど資本主義の不安定性が増す、つまり貨幣の制御ができなくなるということで、さてこれからの資本主義は再び国家の介入が増えざるを得ないのか、言い換えれば不純化されるのか、という点も興味がわいてきました。また一貫して述べられている、資本主義の本質は差異であるということ。これは産業資本主義だけでなくはるか昔から存在している商人資本主義など資本主義を大きく俯瞰すれば当然それが正しい解釈と言うことになるのだと思います。
2番目には「インターネット資本主義と電子貨幣」という論文が掲載されています。こちらも興味深く読みましたが、こちらについては不遜な言い方ですが、2017年時点のデジタル化の状況を踏まえると著者の論調は「まだまだ見通しが浅い」のではないかと感じました。岩井氏は、インターネットもこれまでと同じ資本主義内の動きであって、電子貨幣はむしろ資本主義の純化を証明していると論じています。私もこれについては同意できるのですが、もし岩井氏が現在起こりつつあるシェアエコと呼ばれる動きを見たらどう評価するのかは興味があります。ただしシェアエコとよばれるものも、大半は貨幣と遊休資産へのアクセスを交換するという点で、既存の資本主義の枠内で起こっている現象だとは思うのですが、IoTのように貨幣を介さない情報シェアリングが価値を生み出す仕組みが登場したり、貨幣を全く介さないデジタルコモンズ上でのネットワーク型物々交換の仕組みが登場しているなど、資本主義とは言えない仕組みすらデジタルは生み出している気配があります(つまり貨幣を必要としない仕組みがデジタルで生み出されている)。その意味で、デジタルは資本主義を強化する一方で資本主義を解体する力も持っているのではないかと個人的には考えています。
いずれにせよ、本書は2017年に読んでも多くの気づきが得られる本で、とても感銘を受けました。オススメです。 -
30年ほど前の内容であるので情報が少々古いが、本書に収録される「二十一世紀の資本主義論」と「インターネット資本主義と電子貨幣」は今読んでも色あせない。現在、米ドルを基軸通貨とするグローバル市場経済であるが、今世紀において最も危惧するべきなのが米ドルのハイパーインフレーションであると著者は主張する。ドルの過剰な供給が始まったとき、覇権国家としてのアメリカは凋落するであろう。
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貨幣は、貨幣として使われていることで人々の信頼を得て貨幣として使われる、循環論法的なものである云々。
素養がないので突っ込めないだけかもしれないが、異様に分かりやすい文章。 -
二十一世紀の資本主義論
(和書)2009年05月30日 21:49
2000 筑摩書房 岩井 克人
この本は出版されてすぐに買って読まずにいました。なんだか読む気がしなかったんだよね。何故買ったんだっていうことだけど、何冊かこの著者の本を読んでいてそれなりに刺激を受けたからだけど、今回読んでみて言っていることはほとんど変わっていないなーって思う。ならどうしたら良いのかってことだけどそこが積極的に書かれていない。今はどうだか知らないけど兎に角、みんな中途半端って感じです。別に違うと思ったら意見を変えても良いと思う。柄谷行人なんて考え方が変わるからって言っていました。もっと前衛的に書いて欲しいなって思った。
アメリカ発の金融危機といわれGMなどが破産法適用とか言われているけど、著者がいうドルの危機・ハイパーインフレーションが起こるかどうかは知らない。なんだかそんなところに啓蒙する何かがあるとは思えない。通貨・貨幣についての考察はそれなりに面白いところもある。しかし交換様式などの考察は柄谷行人を読んだ後では残念ながら見劣りする。
特に基本的に宗教の批判(マルクス)というものに関して、この著者が前提にしている認識が甘いように感じた。学者らしいと言えば学者らしいが、悟性のかけらのない学者(カント)にならないように気を付けなければいけないと感じる。でもこの著者は良い方なのかもしれない。そんなに詳しくないから知らないけど。 -
グローバル市場経済の真の危機を解く表題論文のほか、貨幣論、エッセイ等を含む好著。勉強になりました。
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20世紀の終わりに書かれた経済エッセイをなぜ今ごろ読んでいるのかといえば、単にそのときに読み損ねていたからにすぎないのだが、時間をおいて読むことで、また異なった感慨がある。
社会主義陣営が崩壊してからの世界の目まぐるしい変容を、私もまた、息を詰めるようにして見つめていたが、あれから20年近くの間に基軸通貨国がしかけた2度の悲惨な戦争とこの国で起きた原発事故を経て、私たちは今、ますます小さくなっていく成長のパイを追い求め、方向転換のきかない恐竜のような古い経済システムが転落へと向かっていくさまを、恐れとあきらめのうちに見守っている。岩井氏がくりかえし論じるように、貨幣を導入し資本制に組み入れられたときから、私たちはリスクを先延ばししながら大きなリスクを抱え込んでしまったのだが、それでもまだアジア通貨危機当時は、私たちはグローバル経済のリスクがこれほどのものとは実感していなかったし、よりよい経済統制システムをさぐろうともしていたのだ。このあとの岩井氏の議論の展開は市民社会論に引き継がれているので、遅ればせながら早く読まなくては。
にしてもあいかわらずエレガントなエッセイを書く方である。井原西鶴の小説やギリシャ神話の「黄金の林檎」を貨幣論で読み解いたり、売と買がもともと分離した概念ではなかったというエッセイなど、とても面白い。本筋の経済理論のみならず、こんな素敵な文章を書ける経済学者は世界でも少ないに違いない。もっと活躍していただきたい。 -
グローバル市場経済にとっての真の危機とは、金融危機や恐慌ではない。基軸通貨ドルの価値が暴落してしまうグローバルなハイパー・インフレーションである。しかし、自由を知ってしまった人類は好むと好まざるとにかかわらず、資本主義の中で生きていかざるをえない。21世紀の資本主義の中で、何が可能であり、何をなすべきかを考察し、法人制度や市民社会のあり方までを問う先鋭的論考。
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著者の短篇集。
貨幣論、ヴェニスの商人の資本論で構築された
貨幣にたんする考え方を色々な視点の随筆としてまとめられている。
資本主義は自己崩壊的なシステムである。
それは予想の連鎖に基づく、ひとつの基軸通貨からなる生態系であるからだ。
ひとたび、その予想が裏切られると貨幣は実物以下の単なる紙切れとなる=インフレ
また、投機は悪とみなされるが21世紀において誰もが投機家である。
投機家=安く買って、高く売る人たち であれば彼らは必然的に誰かと誰かをつなぎあわせており、「予想の連鎖に基づき」そのまた買い手、売り手がまだ安く買える、高く売れると考える余地がある以上、経済合理性を求め彼らもまた投機家となるのである。
この必要悪を内包した経済循環こそが、資本主義であり、であるがゆえにバブルは生じ、収縮と拡大を繰り返すのである。
そして、別の視点から見ると収縮と拡大こそすれ、システムの破綻は起きえない。それが社会主義に優る資本主義というシステムだ。
しかし、我々は21世紀に向かうにあたって情報化社会に伴う、商品の複雑化(情報商品、金融商品)、グローバル経済への進展、電子貨幣など新しいフロンティアが拡大されている。
よって我々はますます依拠せざるをえないこのシステムを前に、その本質を見極め向きあう必要があるのだ。