北一輝 (ちくま学芸文庫 ワ 11-1)

著者 :
  • 筑摩書房
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本棚登録 : 164
感想 : 10
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  • Amazon.co.jp ・本 (390ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480090461

作品紹介・あらすじ

二十三歳で、明治天皇制国家の本質を暴き、鋭く批判した大著『国体論及び純正社会主義』を発表して識者を震撼させた北一輝。のち『日本改造法案大綱』を著して、二・二六事件を引き起こす青年将校運動の黒幕と目され刑死する。以来、北に対する評価は毀誉褒貶あい半ばする。はたして、北一輝とは何者なのか。本書は、多くの北一輝論とは違い、「日本コミューン主義者」として第二維新革命のテーマにもっとも近代的、かつもっともよくできた解を提出した思想家ととらえ、この近代日本最大の政治思想家の真実像を描いた、夙に名著の誉れ高い労作。第33回毎日出版文化賞受賞作品。

感想・レビュー・書評

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  • 優れた思想史家である渡辺京二による、卓抜した北一輝論。

    北一輝という、極めて複雑な位相を有する人間を論じて余すところのない一冊です。著者は、北を明治維新に次ぐ第二維新革命に対して最良の解を提出した思想家としてとらえましたが、本書もまた、理論家・北一輝の姿について優れた解を与えているといえましょう。

    北の主著『国体論及び純正社会主義』を読み解きながらその顕教的/密教的思想を明らかにしていく手並みはまことにスリリングです。特に第六章「第二革命の論理」では、北の思想を綿密に解読しており必読かと。天皇の存在を保留しながら社会主義的コミューンを導き出そうとする理論の操作はそれだけで魅力的です。

    先にも述べたように、北一輝はおそろしく複雑怪奇な人物です。怪人といってもいい。「魔王」と称されたのも故ないことではありません。本書の結論に賛同するか否かも読み手によってわかれましょう。そのうえで、北の理論を読み解こうとするならば、必読の一冊かと思われます。

    なお著者自身も述べていますが、北一輝の霊的側面についてはほとんどカバーしておりません。そちらについては『魔王と呼ばれた男・北一輝』の一読をお勧めいたします。

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/737881

  • 『逝きし世の面影』で有名な渡辺京二氏の著作にして代表的な北一輝論。もともと共産主義に傾倒してた作者だけあって文章がそっち系。北一輝とは相性がいいんだろうと思う。

  • 北一輝という謎でしかなかった人物がはっきりと見えてきた。著者は北を批判する立場でなくむしろ擁護する姿勢であることがよく分った。右翼国家主義者ではなく、正真正銘の社会主義者でマルクスにも似たところがあり、天皇は国民に仕えるべき!と、立憲君主主義、天皇機関説に近い考え、最終的には天皇制廃止という考えまで持っていたとは皮肉なことだ。しかし、明治維新が社会主義革命であったとの思想はユニーク過ぎだろう。若き日の松永テルという女性との悲恋と別れ、23歳での代表作「国体論及び純正社会主義」の出版、清国への入国と退去、法華経信仰、皇太子時代の昭和天皇へのすり寄り姿勢あたりから、謀略の人物になっていくようだ。若き日の理想からリアリストとしての歩みへ、一つの残念な人生を見るようだ。

  •  人間の社会(群れあるいは家族)の発生。生産と生存のための共同体。共同体の拡大あるいは共同体相互のつながり。国家の前に存在するもの。極東の島国に連綿と存在してきたもの。
     北一輝を論じることでそこへ誘ってくれた本です。
     最近出たこの著者のちくま学芸文庫での選集(維新の夢、民衆という幻像)を読んで、国家社会の前に存在していたものが果たして今死滅しつつあるのか、情報ネットワークの発達と経済活動のグローバル化で別のものに変容しつつあるのか、どうなんだろうとおもいつつ・・(LifeのPodcastを聞いています。)

  • 著者、渡辺京二さんの著作をはじめてきちんと読んだ。率直に言えばたいへん面白い。在野の研究者(?)としては非常に高く評価されるだろう。しかし、本質は、文学者で革命家?という志向が目立ちすぎて、全面的には乗れないなあ、という印象なのだ。冷静に評価はしているのだが、ロマンチックに描きすぎる、断定する資料がない部分について思い込みが強すぎる、という危険性を感じる。とはいえ、そのような批判を上回る圧倒的な魅力、筆力がある著者なので、他の著作も読んでみようと思う。

  • 著者も指摘するように、北の基本思想は昭和期の右翼のような超国家主義ではなく、むしろマルクスに近い社会主義である。それが国体に反するがゆえに、彼は天皇を前面に出したが、実質的には天皇機関説に近い立場をとっている。

  •  国家社会主義者であり、二・二六事件の思想的支柱とも云われる北一輝の伝記。

     北と言えば「国体論および純正社会主義」(発売日同日に発禁)を20代前半で著し、その後、中国の反植民地運動に関わった事で知られる。晩年は財閥から金を無心していた。

     彼の思想は単なる右翼・左翼に分けられぬと云われているが、基本は革命・天皇制廃止を旨とする共和主義的かつ国家社会主義者である。とすると、目指すところは共和制ファシズムであり、趣は異にするがナチズム、スターリニズムに極めて近いものと言えよう。

     二・二六事件への関与は若手将校たちの思い込みもあり、定かではない。しかしながら危険人物に変わりは無く、主犯格として刑死。

  • 北一輝は、今から127年前の1883年4月3日に新潟県佐渡島に生まれた思想家・社会運動家。もちろん、その思想心情を知ろうとするなら直接に彼の書いた著作である『国体論及び純正社会主義」』や『日本改造法案大綱』や『支那革命外史』を読むのが一番なのですが、読んでみるとその実、原典に当たるということがこれほど空しい思いに駆られることは金輪際ないと思い知る好例じゃなくて最悪の例なのであって、これがまた社会主義に天皇制をくっつけた独自といえばそうですが、とにかく変ちくりんなごちゃまぜ状態の思想で、これに呼応して1936年に二、二六事件を起こした青年将校たちは誤解したのも甚だしいことだと思います。

  • 片目の魔王と呼ばれた革命家、北一輝の評伝。あとがきに、北については、すでに多くの本が書かれているが ~ そのどれかに私がある程度でも満足していたのなら、この本が書かれる必要はなかったとある。本書は、その言葉を裏切らない文句なしの傑作。一般的に、北一輝は右翼思想家の大家のごとくイメージされるが、本質においては社会主義者である。北は、明治維新を裏切られた革命と捉え、来るべき第二革命の焦点を天皇制とブルジョワジーの打倒に絞った。そして、理論家として、国体論及び純正社会主義を記すが、方法論を持たぬ革命家でもあった。北にとってのナショナリズムとは、革命の為の方便であり、そのアクロバティックな方便を見抜けなかった青年将校が、北の思想を受け入れ、決起につながったことが右翼というレッテルに信憑性を与える結果となる。この人物のある種の胡散臭さは、この辺りに起源があるようだ。日本コミューン主義の最左翼、北一輝の特異性がよく書かれている本。

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著者プロフィール

1930年、京都市生まれ。
日本近代史家。2022年12月25日逝去。
主な著書『北一輝』(毎日出版文化賞、朝日新聞社)、『評伝宮崎滔天』(書肆心水)、『神風連とその時代』『なぜいま人類史か』『日本近世の起源』(以上、洋泉社)、『逝きし世の面影』(和辻哲郎文化賞、平凡社)、『新編・荒野に立つ虹』『近代をどう超えるか』『もうひとつのこの世―石牟礼道子の宇宙』『預言の哀しみ―石牟礼道子の宇宙Ⅱ』『死民と日常―私の水俣病闘争』『万象の訪れ―わが思索』『幻のえにし―渡辺京二発言集』『肩書のない人生―渡辺京二発言集2』『〈新装版〉黒船前夜―ロシア・アイヌ・日本の三国志』(大佛次郎賞) 『渡辺京二×武田修志・博幸往復書簡集1998~2022』(以上、弦書房)、『維新の夢』『民衆という幻像』(以上、ちくま学芸文庫)、『細部にやどる夢―私と西洋文学』(石風社)、『幻影の明治―名もなき人びとの肖像』(平凡社)、『バテレンの世紀』(読売文学賞、新潮社)、『原発とジャングル』(晶文社)、『夢ひらく彼方へ ファンタジーの周辺』上・下(亜紀書房)など。

「2024年 『小さきものの近代 〔第2巻〕』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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