自己組織化と進化の論理: 宇宙を貫く複雑系の法則 (ちくま学芸文庫 カ 27-1)

  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (595ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480091246

作品紹介・あらすじ

地球上の生物の複雑多様な進化の謎は「自然淘汰」と「突然変異」のみで語れるのだろうか?答えは「否」!秩序ある生物世界に関しては、自然淘汰や突然変異も重要だが、これに加えて「自己組織化」が決定的な役割を担っている。すべての秩序は自然発生的に生まれる、と自己組織化理論は主張する。本書では、この理論に則って進化の様子を丹念に読み解いてゆく。さらにこの理論は、カンブリア紀の大爆発、生物のネットワーク、経済システムから、民主主義の生まれた所以にいたるまでを説明する。新しい視点からの理論的挑戦でわくわくできる一冊。

感想・レビュー・書評

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  • 「自然淘汰」と「突然変異」だけでは説明のつかない生命の進化。
    その進化への触媒として「自己組織化」というメカニズムが強く作用したのではないか、という主張が展開される。

    600ページ近いボリューム、そしてその専門的な内容に打ちのめされそうになるが
    テクノロジーの進化とのアナロジーやLISPでのシミュレーションなど生物学以外の分野とも連関しているため、意外と読み手は選ばないのかもしれない。

    相転移現象や適応地形など、この分野について素養がない人間でも一応なるほどと納得できる程度には説明が手厚い。

    テクノロジー畑の人間は「テクニウム」「イノベーションのジレンマ」あたりとあわせて読むとよい。

  • 「複雑系の科学」の射程と可能性についてこの本を読んで初めて理解ができたような気がする。その昔、「複雑系の科学」というものが華々しく出てきて、サンタフェ研究所がその最先端の研究をやっているとして紹介された時代に、ミッチェル・ワールドロップの『複雑系』を読んだ。フラクタル図形はきれいで不思議だけれども何の役に立つのかわからない、バタフライエフェクトは何だか胡散臭い、という印象を持ち、それ以来真剣な興味の対象にしてこなかった。
    その「複雑系の科学」に触れた本書は1993年刊行で日本語訳は1999年。もう少し早く読んでおくべき本であった。複雑系の科学というよりも、この本の題名になっている「自己組織化」についてもっと学んでおくべきであった。世界を認識するにあたって重要な視点を与えてくれる本と言える。

    この本の主題のひとつは生命の誕生と自己組織化による秩序の関係である。生命科学においては、DNA/RNAの遺伝子の機構と自然淘汰による進化をベースとしたセントラルドグマが絶対的真実として存立している。これに対して著者の主張は、進化の理論だけでは生命を含めてこの世界は説明することはできないというものである。この本の中で形を変えて何度も繰り返し主張されるのは、次のことである。

    「自然淘汰は確かに重要であるが、それが単独で、細胞や組織から生態系まで及ぶ生物圏の詳細な構造を作り上げたわけではない。もう一つの原動力である自己組織化が、秩序の基本的な発生源である。生物世界の秩序は、単に修繕職人によって作り上げられたわけではない、と私は信じている。自己組織化という基本原理によって、秩序は自然に自己発生的に生まれたのである。そのような自己組織化の原理は、複雑系の法則として、今まさに発見されつつあり、理解が進みつつあるテーマに他ならない」

    そして著者は、この自己組織化の論理が生命以外の社会システムの成立にも適用できるのではないかと示唆している。この辺りは『進化は万能である』という本を書いて、社会の隅々まで一般化された進化論の存在を見るマッド・リドレーと、ある意味では相反しているが、一方では似通っている。進化論も自己組織化の理論もそれだけの魅力がある理論なのである。そして、本書が言うところ世界の成立において二つの理論は互いに支えあっているのである。

    「もっとも普遍的なレベルから眺めた時、生きている系 - 細胞、生物、経済、社会 - が、ことごとく法則的な性質を示すかもしれないという可能性が見え始めているからである」

    「生物組織も人工物も、実際、同じように進化しているのかもしれないのである。たとえ、それが自然界の産物であろうと人間の産物であろうと、一般的な法則が複雑なものの進化を支配しているのである」

    かくも重要である自己組織化の論理を支えるのが複雑系の科学であり、また創発理論と言われているものである。この文脈が自分にかつて欠けていたために複雑系について興味が持てなかったが、この本を読んだ今はその重要性がわかる。これら複雑系の理論がこの本以降果たして十分に成熟し明らかにされたかは様々な見方が可能だろうが、現在の人工知能の発展などは一種の複雑系に絡む創発に関わるものであるといえなくもないだろう。おそらくはシンギュラリティと呼ばれる世界の変異点において、自己組織化と複雑系の理論はさらに深く関わってくると思われる。なぜなら複雑系の世界においては量が質に変換するが、メモリーと計算機の指数関数的な伸びは容易に臨界を超えて、複雑系の科学が適用されるような量が質に相転移する領域を実現することになるであろうからである。

    「生物学における非常に大きな謎は、生命が生まれてきたことであり、われわれが目にする秩序が生じてきたことである。創発理論は、窓の外のすばらしい秩序の創造を、背後に存在する何らかの法則が反映した当然の結果であると説明してくれるだろう。我々は、圧倒的倍率を勝ち抜くことによって生じた存在ではない。宇宙の中にしかるべき居場所をもつ存在であり。生じるべくして生じた存在である。こういうことを、創発理論は教えてくれるであろう」

    創発について著者はこう言う ―「われわれはこの観念を「全体は部分の総和以上のものである」という文章で表現する。この文章は刺激的である。全体にあって部分にはない、何か特別なものがありうるというのだろうか? 私は生命自身が創発した現象だと信じている」ー ここに、還元主義の限界と、創発・相転移・臨界といった概念を学ぶことの重要性が問われている。

    生命の誕生における理論は、後に書かれたニック・レーンの『生命、エネルギー、進化』にあるように熱水噴出孔での自己組織化が鍵になっていると言われている。生命の単純はある意味ではありふれたものであったというのがニック・レーンの主張だが、カウフマンの主張もそれに沿っている。おそらくはニック・レーンもこの本を読んでいたに違いない。彼がそう自信を持って語るに際して、カウフマンの次のような言葉が影響を与えなかったわけはないだろう。

    「ネットワークは原子スープの中から、十分に成長した形で自己組織的に生じることができたのである。私はそれを、「無償の秩序」と呼ぶ。私が正しければ、生命の標語は、「われわれは生じそうもなかったものである」から、「われわれは生じるべくして生じたものである」に書き換えられることになる」

    なぜこのような複雑なものが発生したのか、ということについて、「生命は単純な形ではなく、複雑で全体的な形をもって現れた。そしてそれ以来、複雑で全体的なままである」、「複雑な化学系における自然な相転移として生命が生じた」、「複雑な系がカオスの縁、あるいはカオスの縁の近傍の秩序状態に存在する理由は、進化が系をそこに連れていったからである」と語る。

    生命はまずは自己組織化が作る秩序によって生まれ、そこから自然淘汰によりより洗練された形に仕上げられていったというのがカウフマンの主張である。

    「われわれがすでに出くわした自然秩序の強力さを目にすれば、個体発生の秩序の多くがまず自発的になされ、その後、自然淘汰によって仕上げられたという可能性をまじめに調べないのは、単に愚かであるか強情であるかだと思える」。ただし、その詳細はいまだ解明されていない - 「われわれ生物学者たちが二つの秩序の源によって同時に支配された系について、考える方法をまだ理解していないからである」。

    カウフマンは、高分子の発生についてもう少し踏み込んだ形で議論を進める。多様な分子がお互いに触媒となることでさらに化学反応が進み、多くの高分子が発生する可能性を上げている。そこに至るまでに必要な複雑性について、臨界や相転移といった言葉を使って説明するのである。

    「お互いに、そして環境との間で相互作用している細胞は、新種の分子を作る。そして、その分子は一連の激しい創造の過程で、さらに他の種類の細胞を生む。この激しい過程 - 私はこれを「臨界点を超えた振る舞い」と呼ぶことにする ー 源は、すでに見た触媒反応の連結網における相転移と同じような現象にあり、そもそもその相転移が、分子を生きた有機体にしたのであろう」

    なお、先に上げたニック・レーンは、多細胞生物(真核生物)の誕生はよくあるものではなく、これまでにたった一度だけ起きた稀な現象であったとしている。本書でも真核生物の誕生とその不可思議さに対して次のように述べている。なおニック・レーンは細菌と古細菌の内部共生によって真核生物が生まれたと論じるが、本書ではそこまで踏み込まない。

    「「現代の真核細胞は、知るべきことをすべて知っている。真核細胞以後はすべて、楽な下り坂である」。ルイスの論点はこうである。多細胞生物を形成するのに必要なすべての条件が、すでに真核細胞の中に含まれている」

    著者は、自己組織化と自然選択の相互作用についても興味深い論を張っている。それが「適応地形」と「進化」の相互作用である。これが一定の複雑さを超えると単純な話ではなくなってくる。適応地形の理論によって、自発的秩序、頑強さ、冗長性、漸進主義と適応地形の間に必然的な関係を見るからである。この理論は進化の爆発の発生についても説明をしてくれる。

    「第一は次のような一般的事実を説明するものである。すなわち、根本的に新しいものが生まれると、それらは数多くの全く異なる方向に、急速にしかも劇的に改善されていく。そしてそののち、あまり劇的でない改良がつけ加わっていく。...第二の現象は、ある改良がつけ加わると、その次の改良の選択肢が一定の割合で減るということである。...改良の速度は指数関数的に減少していく。...二つの特徴はいずれも、でこぼこだが相関のある適応地形の統計的特徴から現れた単純な結果であろう」

    指数関数やベキ乗則は複雑性の理論では重要である。ブラックスワンと呼ばれる経済学上のアノマリー(異常値)は、自然の世界では非常によくあることである。ベキ乗則による異常値により、系に揺さぶりが掛けられることで再適応や絶滅が生じるのある。複雑系の科学が経済学に上手く適用されうるのは、複雑系の研究者で、フラクタルの研究を行ったマンデルブロが優秀な経済学者でもあったことからも示されているように思う。
    ベキ乗則だけでなく、著者の著述は細かく、完全にその筋を追うのが難しいところも数多い。それでも、著者が何を主張しようとしているのかはわかるようになっている。解らないところがあるかと言って心を折らずに堪えて読み進めてほしい本である。

    著者はこの研究の先に究極の理論の完成を夢見る。
    「もし、いつか生物学における最終理論を完成させたいと願うなら、自己組織化と自然淘汰が混合したものを、絶対に絶対に理解しなければならないのである。我々は、自分たちがより深い秩序の自然な表現であることを知る必要がある。究極的には、われわれは、創造神話において自分たちが結局は生じるべくして生じた存在であると知ることになるだろう。」

    感想は、「もっと早く読んでおくべき本だった」。
    次は『カウフマン、生命と宇宙を語る』を読む予定。

    ----
    『進化は万能である:人類・テクノロジー・宇宙の未来』(マッド・リドレー)のレビュー
    http://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4152096373
    『生命、エネルギー、進化』(ニック・レーン)のレビュー
    http://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4622085348

  • 物理的には熱力学第二の法則でエントロピーは増大する一方なのに、なぜ生命だけがエントロピーを小さくしているように見えるのかという問題について以前から不思議に思っていた。その疑問を解決するのが自己組織化だと言うことらしい。
    文庫本とはいえ\1,600-、ページ数にして579ページ。かなりのボリュームの上に内容が内容だけに読了までに結構時間がかかった。
    まずはじめに、地球上の分子がなぜ有機物になったのかから論じられる。
    3次元空間で単分子が分散していては有機物が生まれる可能性はほとんどないが、膜のような場所で2次元的に集合すれば触媒を介して有機物が作られる可能性が高まる。そして、大量の分子が集まれば飛躍的にその可能性が高くなる。
    そして次にいろいろな有機分子が集まれば、有機分子同士が自己触媒作用で爆発的に分子が出来て、タンパク質、RNAワールド、DNAへとつながっていく。
    つまり、いろいろな物質が大量に集まると触媒作用を介して自発的に自己組織化し新たなものを次々に生み出していくと言うことである。
    この理論あるいは法則は簡単な数学モデルから導き出される複雑系の研究の成果と言えるだろう。
    この爆発的に増える多種類の生物と自然淘汰による選別が分子から生命の進化を支えてきたという。突然変異と自然淘汰では生命の進化は説明できず、自己組織化が重要な役割を果たしているということである。
    また、共進化として他の生物と共に進化し、進化は移動するポテンシャル面の最適化としてモデル化され、進化し続けるモデルとしても説明されている。
    この理論はカンブリア紀の生物進化の大爆発などの生命の進化だけでなく、経済学の発展や技術の進化、民主主義の発生のゆえんにまでにも類似性を持ち、同様の数学モデルとして取り扱うことが出来るらしい。
    そして、これらは生命と共にエネルギー供給を受ける開放系によく見られる現象で、カオスの縁と表現されている。
    つまり、固体のように固定化された秩序と気体のようなランダムなカオスの間にあり、カオスに落ちるぎりぎりのところで秩序を保ち進化していく状況だと考えられている。
    この状況は生物はエントロピーを小さくしているように見えるが、エネルギーの供給を受けた開放系として自己組織化していると言うこととして納得できる。早い話が、食うことが出来なければ死んでしまい、ばらばらになってエントロピーは増大すると言うことである。
    著者は理論生物学者でいくつもの数学モデルを使いシミュレーションすることで生命の本質をあぶり出そうとしている。
    しかし、研究は始まったばかりでまだまだわからないことが多い。
    とにかく内容豊富で読み応えがあるが、数学モデルの説明が不十分でよくわからないところも多く、妙に情緒的文学的な表現だったりしてなかなか読むのがたいへんだったが、たいへん面白かった。
    生命は全くの偶然で生まれたのではなく、かなり必然性があって生まれてきたのだという主張はある意味では安心感を与えると思う。
    本書は1999年に出版されており、その後だいぶ時間が経っているので研究もだいぶ進んでいるのではないだろうか。その後の研究の成果がわかりやすい本になるのが楽しみだ。

  • これまでの要素還元型のアプローチとは性質が異なる視点を複雑系は与えてくれる。新鮮だ。新鮮ということは、理解がむつかしいということでもあるが。モデル化とコンピュータ・シミュレーションの威力か。生命の誕生・進化が主な記述だが,それ以外の人間活動への洞察も示唆に富んでおり,読んでいて非常に興味深かった.

    ・説明と予測の区別.量子力学とカオス理論の非決定性.
    ・全体論と創発性.自己触媒系.
    ・単純に計算すると,ありえないほど小さい確率の生命の誕生.
    ・人間の免疫系はすでに,いかなる分子エピトープも認識できる普遍的な道具箱.
    ・「理解を始める」ことぐらいしか,今の我々には望めない.
    ・進化の初期段階では,劇的に異なる変種が現れるが,のちに現れる変種は適応地形の出発点からあまり離れていないところに位置する.
    ・これまで存在した全ての種のうち99~99.9%が絶滅した.
    ・矛盾が積み重なった難しい問題では,何らかの方法で制約条件の一部を無視すれば,最善の答えが得られるかもしれない.

  • 自己組織化の本の中で、いまのところ一番面白い。

  • 自然淘汰と自己組織化    -2008.03.28記

    「自己組織化と自然淘汰が生物世界の秩序を生んだ」
    ダーウィン以前には、合理主義的形態学者と呼ばれる人々が、種は、ランダムな突然変異と淘汰の結果なんぞではなく、時間の概念を含まない形に関する法則の結果であるという考え方に満足していた。
    18世紀、あるいは19世紀において最も優れた生物学者たちは、生き物のもつ形態を比較し、いまも残るリンネの分類学に基づいた階層的なグループにそれらを分類した。
    ダーウィンの進化論-ランダムに突然変異したものに作用する自然淘汰説

    「進化とは、翼を得た偶然である」-ジャック.モノー
    「進化とは、がらくたを寄せ集めて下手にいじくりまわすことである」-フランソワ.ジャコブ
    ここには、偶然の出来事、歴史的偶発、除去によるデザイン設計といった概念が含まれている。
    深遠な秩序が、大きな、複雑な、そして明らかに乱雑な系で発見されている。このような創発的な秩序が、生命の起源の背後に存在するばかりではなく、今日生物でみられる多くの秩序の背後にも存在するのではないか。
    自然界の秩序の多くは、複雑さの法則により、自発的に形成されたもの-自己組織化-である。
    自然淘汰がさらに形を整えて洗練させるという役割を果たすのは、もっとあとになってからのことなのだ。
    自己組織化と自然淘汰をともに包含する枠組み-自発的に秩序が生じ、自然淘汰がそれを念入りに作り上げる。
    生命とその進化はつねに、自発的秩序と自然淘汰がたがいに受け入れあうことによって成り立ってきたのである。

    「創世記‥‥」
    19世紀に生まれた二つの系統の概念が合流し、その結果、星が渦巻くこの世界において、われわれは孤立した偶然の存在であるという観念が完成したといえる。
    二つの系統とは、一つはダーウィンの理論であり、もう一つはS.カルノーやR.ボルツマン、J.W.ギブスらが構築した熱力学.統計力学である。後者は、一見神秘的な熱力学第二法則-エントロピーの法則を提供した。
    物質代謝や生殖の能力があること、進化できることなどを、われわれは生きている状態に特有の性質と考えている。たがいに相互作用し合い、これらの性質を示すのに十分なほど複雑な初期の分子集団から進化したものの中で、細胞は最も成功を収めたものであるにちがいない。
    その一方で、細胞の形成以前に生じた生命体の起源も、まだ生物が存在しなかった世界の化学進化において、最も成功したものである。原子の地球におけるガス雲の中にあった限られた種類の分子から、生命、すなわち自己複製能力のある分子系へとつながっていく、多様な化学物質が作られた。
    30億年-地球の年齢の大部分に相当する年月、単細胞生物という生命形態だけが存続した。
    8億年ほど前、多細胞生物が出現した。
    およそ5億5000万年前、カンブリア紀の「生物種の大爆発」-生物の主要な門のほとんどすべてが、この進化の創造の爆発で作り出された。
    2億4500万年前の二畳紀における絶滅の危機-すべての種のうち96%が消えてしまったが、その反動期、多くの新しい種が進化した。カンブリア紀の上から下へという進化の爆発の方向性と、二畳紀の下から上へと種の多様化が進んだ、その非対称性の不思議。

    「最適化」問題-爆発的な多様な種の誕生と絶滅のパターン、生態系と時間の双方にまたがる雪崩的現象は、自己組織的であり、集団的創発現象であり、複雑さの法則の自然な現れであるようにみえる。


     無償の秩序  -2008.07.10記

    2. 生命の起源-単純な確率論からいえば生命の誕生はありえなかった-生命の理論‥‥。

    細菌の生じた原因は空気それ自身にある-ルイ.パストゥール
    原子スープ-大気中の単純な有機分子が、他のより複雑な分子とともに、新たに形成された大海の中にゆっくりと溶け原子スープが作られた。

    自己複製する分子の出現
    DNAの二重螺旋構造は、分子がどのように複製されるのかを教えてくれる
    だが、タンパク質である酵素の複雑な集団が仲介しなければ、DNAだけでは自己複製はしない。

    RNA-リボ核酸-の発見-RNA分子が自分たち自身の酵素として働き、反応を触媒できるという働き-
    RNA酵素-リボザイム-
    どんな生物も閾値以上の複雑さをもって生じたようにみえる
    自由にふるまうことのできる生物のもっとも単純なものとみられるプロナイモでさえ、細胞膜、遺伝子、RNA、タンパク質合成機構、そしてタンパク質、といった標準的な要素をすべてもっている。
    すべての生き物は最小限の複雑さを兼ね備えていて、それを下回ると生きていけないようにみえる。
    プロナイモよりはるかに単純なウィルスは、自由生活を営んでいない。これに寄生者であって、宿主の細胞を侵略し、自己複製を達成するために細胞の物質代謝機能を利用したうえで、その細胞から抜け出し、他の細胞を侵略する。
    閾値は、ランダムな突然変異と自然淘汰に由来する偶然の賜物ではない。おそらく、それは生命に固有なものであろうと考えられる。

    生命の結晶化――
    無償の秩序生命の起源について、「われわれは生じそうもなかったもの」から「われわれは生じるべくして生じたもの」へと書き換えられるとすれば、そこには<複雑系における自己組織化>のもつ深遠な力を見出さないわけにはいかない。
    <複雑系における自己組織化>-そこでは時間こそが英雄であり、20億年あるいは40億年といった、途方もない時間こそが奇跡を成し遂げる。
    化学物質の集合が十分な種類の分子を含んでいるときには、そのスープから物質代謝が必ず現れる。
    この物質代謝のネットワークは、一つの要素ごとに別々に組み立てる必要などはなく、原子スープの中から、十分に成長した形で自己組織的に生じることができたのである。

  • 2021.11.30
    この本を読み終えて、自分の世界に対する解像度が一段階上がった様な感覚を持った。
    人間が存在するのは、自然淘汰の結果であり偶然であるのではなく、自己組織化というもう一つの側面が機能しているから。
    これは、コペルニクス的転回だ。
    章を追うごとに、数学的方法で一つ一つ丁寧に証明されていく自己組織化の論理。数学の楽しさも思い出した。

  • 1076夜『自己組織化と進化の論理』スチュアート・カウフマン|松岡正剛の千夜千冊
    https://1000ya.isis.ne.jp/1076.html

    徐々に突然変異が蓄積するという一般的なダーウィン進化論の理解への反論、進化論への補足。

    化学の触媒についての考察から反応が急速に進むことがあるという予想は刺激的だし発想として応用範囲が広そう。

    しかしこれがより複雑な生物学的な話に適用できるかは示されていない?環境との共進化の話もよくわからなかった。

  • 原書名:At home in the universe

    宇宙に浮かぶわが家で―自己組織化と自然淘汰が生物世界の秩序を生んだ
    生命の起源―単純な確率論からいえば生命の誕生はありえなかった
    生じるべくして生じたもの―非平衡系で自己触媒作用をもつ分子の集団
    無償の秩序―自然に生じた自己組織化は進化する力ももっていた
    個体発生の神秘―一個の卵から生物体ができる「法則」は何か
    ノアの箱舟―生物の多様性は臨界点の境界への進化から生まれた
    約束の地―分子の自己組織化を応用すれば新しい薬を作ることができる
    高地への冒険―生物や生物集団はより適した地位へと進化していく
    生物と人工物―技術や経済や社会もより適した地位をめざして進化する
    舞台でのひととき―生物集団はたがいに影響し合って進化し、絶滅していく
    優秀さを求めて―民主主義の正当性も自己組織化の論理で説明が可能
    地球文明の出現―生態系・技術・経済・社会・宇宙を貫く自己組織化の論理

    著者:スチュアート・カウフマン(Kauffman, Stuart A, 1939-、アメリカ、生物学)
    監訳:米沢富美子(1938-、大阪府、物理学)
    訳者:森弘之(物理学)、五味壮平(物理学)、藤原進(物理学)

  • 読了

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