世紀末芸術 (ちくま学芸文庫 タ 6-4)

著者 :
  • 筑摩書房
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感想 : 10
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  • Amazon.co.jp ・本 (261ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480091581

感想・レビュー・書評

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  • 陶酔と退廃、幻想と神秘、芸術のための芸術、豊かな装飾的表現、美術と工芸の融合………様々な要素を孕んだ世紀末芸術だが、その核にあるのは、人間の心は明晰な意識では捉えきれない混沌と神秘に満たされており、それは写実主義的技法では解明できないという認識だ。印象派によって絵画に眼を開かれたゴーガンは印象派の感覚主義への不満をぶちまけて言う。「彼等は自分達の眼の周囲のみを探し廻って、思想の神秘的内部に入り込もうとしない」 ゴーガンにとって「印象派とは写実主義の一変種」に過ぎないのだ。

    「色彩はそれ自身で何ごとかを表現する」と語ったゴッホも、外界の事物の再現ではない、色彩そのものの表現力を追求した。魂の奥底に口をあけた不気味な深淵をルドンは象徴という武器によって明るみに出した。ロダンやロートレックが試みたのは、モネのように水面の揺らめきを鋭敏な感覚のレンズで切り取ることではなく、動きそのものの形象化であり、造形芸術へのリズムやメロディーの導入である。世紀末に絵画の歴史は外部の「印象」を忠実に写し出すことから内部の世界を「表現」することへと大きく転換した。それは15世紀に始まるルネサンスの否定であると同時に、新しい時代の出現を予告する「第二のルネサンス」であったと著者は言う。

    本書は西洋美術史の権威高階秀爾の処女作であるが、周到な目配りと明晰な表現力には脱帽する他ない。ただ綺麗にまとまり過ぎて、世紀末の妖しく危険な香りが伝わってこないと感じるむきもあるだろう。オスカー・ワイルドやサロメについても頁が割かれてはいるのだが、著者の力点は死と背中合わせの頽廃美であるより、写実主義の残滓を払拭して20世紀の抽象絵画へと道を開いた世紀末の肯定的な側面だ。勿論世紀末芸術は多面的であり幾つもの潮流が複雑に絡み合っている。頽廃美に尽きないその全体像をバランスよく解説した良書であることは間違いない。

  • 世紀末がどんな時代で、どんな芸術が生まれ、それらがどのような特徴を持っているかは分かった。詳細に説得的に書かれている。

    しかし、それらがなぜ誕生したかについては、今一つ腑に落ちなかった。

    理由として説明の中で、○でありながら、反○の状況もあったという表現が多く、正確ではあるのだろうが、この混沌さへの説明が明快でなかったような気がする。

  • 19世紀の、新古典主義からロマン主義、写実主義、印象主義にかけてのリニアな流れと20世紀の多種多様な同時並行的「イズム」による複雑な芸術運動の間にぽっかりと空いた美術史の空白。これまで、その時代の芸術は特に顧みられてこなかった。雑多で退廃的で悪趣味ー。そうした見方が長く支配的であったからだ。しかし著者は、その時代の転換期の芸術に新たな光を投げかける。綜合と官能と鋭敏過ぎるほどの美的感受性ー。むしろ混沌とした時代であったからこそ、新しい創造の芽が生まれたのだ。絵画、彫刻、建築、装飾、デザインなど、あらゆる分野を横断して一斉に花開いた芸術の力とその精神を紐解いていく。

  • 印象主義→フォーヴィスム、キュビスムっていう把握してたら絶対思う、ゴッホとかクリムトとかセザンヌとかムンクとかそのへんの同じ並びにあるはずの有名な人らって結局どこに位置してる?っていう疑問が美しいくらい綺麗に溶けた。かつなんならそこが今に連なる転換点やったっていうの知って捉え方も大きく変わった。この人の本どれ読んでもわかりやすい面白いかつ文章綺麗

  • 象徴主義、綜合主義、新印象派等、19世紀末に芽生えた美術を包括する。当時の歴史的背景も合わせて知れて、読みやすかった。

  • 大学の講義の予習のために。

    実りある講義になりますように。

  • [ 内容 ]
    メタモルフォーズする官能の女性像、流麗なアラベスク模様、象徴的な動植物モティーフ―。
    アールヌーヴォーやユーゲントシュティールなど「世紀末芸術」は、19世紀末、爛熟の極に達した西欧文化の中から、一斉に花ひらいた。
    混沌とした転換期の鋭敏な感受性が、華麗な装飾性や、幻想的な精神世界などを追求しはじめたのだ。
    そこにはすでに、抽象表現の台頭、諸芸術の綜合、芸術言語の国際化等、20世紀芸術にとって大きな意味をもつ諸問題が提起されていた。
    新時代への「美の冒険」でもあった芸術運動を、絵画や彫刻、建築、装飾、デザインの分野にわたって捉える。

    [ 目次 ]
    序章 世紀末芸術とは何か(転換期の芸術;新しい芸術理念;頽廃と新生)
    第2章 世紀末芸術の背景(社会的風土;機械文明の発達;ジャーナリズムの繁栄;遙かな国・遠い国)
    第3章 世紀末芸術の特質(華麗な饗宴;魂の深淵;よく見る夢;音楽性と文学性)
    第4章 世紀末芸術の美学(象徴主義;綜合主義;科学主義)
    結び 二十世紀への道

    [ 問題提起 ]


    [ 結論 ]


    [ コメント ]


    [ 読了した日 ]

  • (2013/02/24購入)
    長崎県立美術館での講演会が面白かったので購入。講演会題目は「黄金の世紀末ーウィーン芸術の光と影」。クリムトを中心に、絵画における黄金の扱われ方についてのお話しでした。

  • 僕の知識が不足しているからかもしれないけれど、アール・ヌーヴォーの入門書としては、断片的で全体像がつかみにくい。アール・ヌーヴォーの成立背景などはページが多くさかれていて、それはそれぞれのヨーロッパ都市のアール・ヌーヴォーの名称の成立の項をみれば明らかだろう。もう少し、芸術を勉強した後で読んでみたい一冊だ。

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著者プロフィール

高階 秀爾(たかしな・しゅうじ):1932年、東京生まれ。東京大学教養学部卒業。1954ー59年、フランス政府招聘留学生として渡仏。国立西洋美術館館長、日本芸術院院長、大原美術館館長を歴任。現在、東京大学名誉教授、日本芸術院院長。専門はルネサンス以降の西洋美術史であるが、日本美術、西洋の文学・精神史についての造詣も深い。長年にわたり、広く日本のさまざまな美術史のシーンを牽引してきた。主著に『ルネッサンスの光と闇』(中公文庫、芸術選奨)、『名画を見る眼』(岩波新書)、『日本人にとって美しさとは何か』『ヨーロッパ近代芸術論』(以上、筑摩書房)、『近代絵画史』(中公新書)など。エドガー・ウィント『芸術の狂気』、ケネス・クラーク『ザ・ヌード』など翻訳も数多く手がける。

「2024年 『エラスムス 闘う人文主義者』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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