回教概論 (ちくま学芸文庫 オ 17-1)

著者 :
  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (266ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480091673

感想・レビュー・書評

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  • アジア主義者にして大東亜戦争のイデオローグ大川周明は『 復興亜細亜の諸問題 』で、白人支配にあえぐイスラム諸国の団結を訴えたが、本書は大川の純学術的なイスラム研究である。大川のイスラム観で注目すべきは政治と宗教の関係だ。かつて繁栄を誇ったアジアが停滞し、白人への隷属を余儀なくされたのは、高度な精神性に到達した宗教が、その原理を社会生活上に実現する努力を怠り、内面的・個人的生活と外面的・社会的生活が分離したからだという。大川のイスラム教への関心はその政教一致原理であり、アジアの宗教に見られる両者の全き分離がもたらす弊害の克服である。

    もちろん大川は行き過ぎた政教一致が近代世界に不適合な面があることも知っている。本書にはイスラム法学の興味深い紹介があるが、政教の未分離が統治団体の成員としての自覚を阻害し、公法の発達が甚だ不完全になったとの指摘は鋭い。大川が熱い視線を注いだ青年トルコ党のケマル・アタチュルクや、ペルシャのレザー・シャーによる政治改革も宗教界による過度な政治介入の排除を企図するものだった。

    要するに大川が目指したのは、政教の完全な一致でも完全な分離でもない両者の適切な関係だ。近代的政治システムの合理性を損なわず、同時にそれが利益政治に堕すことを防ぐ精神性や指導原理を宗教に期待する。観念右翼とは一線を画する現実感覚と言ってよい。蓑田胸喜との論争で大川は「忠君」は宗教、「愛国」は政治であり、ともに大切であるとし、簑田がこの両者を混同していると批判する。ここにも政教を峻別した上での協働という発想がうかがえる。大川は精神世界と社会生活の関係の一つの理想形を、敬虔な信仰と活発な経済活動を両立させたユダヤ教に見出している。往々にして東洋的宗教と見做されがちなイスラム教だが、その西洋的性質、ユダヤ教との共通性を大川は理解していた。

    イスラム教に不案内の評者は本書が今日の研究水準からしてどの程度価値があるか知らない。大川が指導した東亜経済調査局から巣立った井筒俊彦が後に補うことになるイスラム神秘主義について全く言及がないのは確かに物足りない。しかし少なくとも当時としては先駆的な業績であったことについては竹内好の証言がある。そして何より大川がイスラム教をどんな角度から見ていたかを知ることができる貴重な文献である。

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/737834

  • 大川周明によるイスラーム研究の書。
    大川周明が書いた本というと一瞬ぎょっとするけれど、
    内容は非常に面白い。
    戦前にこのレベルでイスラーム研究をまとめられたのは尊敬に値すると思う。

  • 昭和17年にこれだけイスラム教について詳細に調査、研究している書はすごいな。
    当時の日本人にとってはイスラム教なんてさっぱりわからなかったろうな。
    回教は往々にして東洋的宗教と呼ばれ、その文化は東洋的文化と呼ばれている。
    西洋のキリスト、東にインド教があったためアラビアを中心に発展した。
    マホメットは、詩人でも政治家でもあったが、彼の本質は一貫して宗教家であったそうだ。

  •  
    ── 大川 周明《回教概論 19420820 慶応書房 19911225 中公文庫》P268 村松 剛・解説
    http://booklog.jp/users/awalibrary/archives/1/448009167X
     
    http://d.hatena.ne.jp/adlib/19921223 極月〆日の極東極刑
     
    (20091106)
     

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著者プロフィール

1886年、山形県生まれ。戦前の代表的な思想家。1911年、東京帝国大学文科大学(印度哲学専攻)卒業。1915年、日本へ亡命してきたインド人ヘーラムバ・グプタと出会い、インド独立運動に従事。19年に満鉄入社、同社の東亜経済調査局、満鉄調査部に勤務。同年、北一輝、満川亀太郎らと猶存社を結成する。20年に拓殖大学教授に就任。25年、北、満川、西田税、安岡正篤らと行地社を結成。1932年、五・一五事件に関与したとして禁固5年の判決を受ける。37年に出所すると、日中戦争から日米戦争へと向かう時代のなかで、アジア主義、日本精神の復興を訴え、世論に大きな影響を与えた。日本思想界の象徴であり、その影響力の大きさから、戦後、その著作の多くがGHQによって発禁とされた。また、東条英機らとともにA級戦犯として起訴されるが、精神疾患を理由に不起訴となる。晩年はコーランの全文翻訳を成し遂げ、日本のイスラム研究に大いに貢献した。1957年に死去。著書に『宗教の本質』『日本文明史』『日本二千六百年史』など多数。

「2018年 『大東亜秩序建設/新亜細亜小論』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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