- Amazon.co.jp ・本 (340ページ)
- / ISBN・EAN: 9784480092243
作品紹介・あらすじ
フランス文学者の著者、フランス語を母国語とする夫人、日仏両語で育つ令息。そして三人が出会う言語的摩擦と葛藤のかずかず。著者はそこに、西欧と日本との比較文明論や、適度や均衡点などを見出そうとするのではない。言葉とともに生きることの息苦しさと苛立ちに対峙し、言語学論理を援用しつつ、深遠なる言葉の限界領域に直接的な眼差しを向ける。それは、「正しく美しい日本語」といった抽象的虚構を追い求める従来の「日本語論」に対して、根源的な意義申し立てを行うことでもある。
感想・レビュー・書評
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たとえば、国語教師であったり、日本語教師であったり、日本語学者であったり……。「日本語」というものの姿やあるいは概念について、日々考えている人というのは少なからずいます。作家なんていうのも、場合によってはそこに含まれるかもしれませんね。ただ、思うにそれぞれ「日本語」を論じているんだけれど、その立場は違っているんじゃないかと。とりあえず、そんな中の一部の「日本語論者」に捧げられるのが、本書であると考えてみました。
著者は東大仏文の先生としても著名な蓮實先生。じゃあ『反=日本語論』というタイトルは、日本語を否定してフランス語至上主義を唱える志賀直哉チックな本なのかというと、そうではないです。「序章」の中で蓮實先生が「この書物は、いま、いたるところでくり拡げられている美しさという名の抽象、正しさという抽象への一つの批判として提出される」と述べているように、日本語を批判するのではなく、従来の日本語の論じられ方を批判する内容。
となると、「正しさ」とか「美しさ」についてあんまり言及しない日本語学者に向けて、というとちょっとズレる気がする。そういう意味では国語教師や日本語教師のような立場に批判は向けられるきらいがありそうだす。
しかし、後半になるにつれ、次第に「言語」そのものについて話題が転換していくので、言葉について考えている人は読んでみるべきなのではないかとも思われます。
と、ここまで書いてみて、「言語」がどうのこうのとかって僕ってば難しそうに捉えているなあ、なんて思ってしまった。僕自身、そんなに「言語」のことなんて知りもしないのにねー。ともすれば、なんか高尚とも思える本書ですが、ぶっちゃけ書き口は『涼宮ハルヒの憂鬱』と変わりませんわ。……なんて書くと怒られちゃうかなあ。
それというのも「滑稽さの彼岸に」という章は、
「なにも別だん斜に構えて無関心を誇示する必要もないし、軽蔑や敵意をつらつかせつつ批判めいた言辞を弄するほどの興味もないのだから、たとえばそれが世界に存在してしまうことを不当だと断じようとは思わぬが、さりとて積極的に好きになる理由も発見しがたいといった料理とか人の顔とか、とにかく曖昧にその脇をすりぬけてしまえばもうそれで充分だと納得しうる種類の何ものかの一つとしてテレヴィジョンと呼ばれる装置があるわけで、まあいってみればすべては趣味の問題に帰着しうるとするほかはないのだが、たぶん倖いなことにというべきだろう、妻もまたさりげなくその無関心を共有してくれるので、テレヴィジョンへの執着の希薄さは、もちろん「比較的」というほどのことだが、われわれの子供のうちに遺伝として確実に受けつがれている」
と始まるわけですが、ここまで一文!という驚きもありつつ、こんな語り口、「キョン」のそれと変わりがないんじゃないかと思うわけですよ。そう考えると、この『反=日本語論』にも手が伸ばしやすくなりますよねー。
そういえば、この本の中には蓮實先生の妻やお子さんの話題がふんだんしょこらなわけですが、蓮實先生の妻への愛情や、子どもの可愛がりっぷりに微笑ましくなってしまうハートフルな一冊でもあったりします。
普通に読み物として面白かったー。
【目次】
序章 パスカルにさからって
Ⅰ
滑稽さの彼岸に
歓待の掟
人の名前について
海と国境
声と墓標の群
Ⅱ
「あなた」を読む
S/Zの悲劇
シルバーシートの青い鳥
倫敦塔訪問
明晰性の神話
Ⅲ
文字と革命
萌野と空蝉
海王星の不条理
皇太后の睾丸
仕掛けのない手品
終章 わが生涯の輝ける日
あとがき
ちくま学芸文庫版あとがき
ちくま文庫版解説 二つの瞳 シャンタル蓮實詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
1986年3月25日 ちくま文庫 480円
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3/29 林修さんが
憧れの蓮實重彦さんの世界を語る
蓮實重彦さんが使った独特な擬音語について、
『反=日本語論』とあわせ紹介しました。 -
朝の情報バラエティ番組で林修先生が紹介した本。口語と文語の相違は、対談集や議事録を思い浮かべて得心がいった。しかし、彼の妻曰く「日本には海もなければ田舎もない」に賛同する筆者には失望した。漱石を引き合いに出して排除と選別の説明がなされた時に、本書の面白さと著者の主訴を感じたような気がした。いかなる国でも言葉と文字がなければ文明を築き得なかったのだから、本書の論点は亀に追いつけないアキレスを論じるがごとく問題の微分としか思えず。論文というよりはエッセイだ。
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エッセイ集だと思うのが、くどくど書いていて読みづらい。
言っていることは、おかしくないと思うが。 -
率直な感想を言うとこの本をを読んで外国語を学ぶという有意義さとそれを活かして生活することの勇気をもらった。言語の奥深さを知らせてくれた。教条的な(正しい言語)ではなく、密に複雑に折り重なった言語を読み解く楽しさ。朦朧体と呼ばれる蓮實の文章が纏わり付く。
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『夏目漱石論』を読んだ後だったこともあり、あちらよりも読みやすく感じました。
エッセイ風の読みやすい文体で書かれているので、長い一文もさほど苦労せずに読め、また内容に関していえば、丁寧に繰り返し主張し続けられている点は勿論のことながら、さりげなく挿入された事柄をも含めて非常にためになる。
面白かった。 -
8/7
西欧において発祥し、全世界的に絶大な権力を誇る音声中心主義的言語観に異を唱える、反言語論。
エッセイ風に書かれていながらこれほど重要な書物はいくつあるのだろうか。