自己組織化の経済学: 経済秩序はいかに創発するか (ちくま学芸文庫 ク 17-3)
- 筑摩書房 (2009年11月10日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (236ページ)
- / ISBN・EAN: 9784480092564
作品紹介・あらすじ
時として、世界経済は深刻な不況に陥る。その原因は、戦争などはっきりしていることもあるが、わからないことが多い。つまり、伝統的な国際経済学の枠組みでは、世界的な不況の原因を説明できないのである。そこで教授は考えた。複雑化し自己組織化している経済というシステムに、複雑系の概念を応用できないか-。「不安定から生じる秩序」と「ランダムな成長から生じる秩序」の原理から、不況の原因や景気循環のメカニズム、また企業の立地の変遷の仕組みや、都市がどのように形成され発展するかなどを、鮮やかかつスリリングに読み解いていく、異色の講座。経済学に新たな地平を開いた意欲作。
感想・レビュー・書評
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1994年に行われた講義をもとに1996年に書かれた本だけあって、その後の20年以上にわたる研究を踏まえるともう少し新しい知見も出てきているのであろう。
ただし、そのような点を考慮に入れても、自己組織化と経済学の関係性をわかりやすく説明してくれるという意味で、非常に有益な本である。
前半で、比較的なランダムな立地配分から都市のような集積(秩序)が生まれるというシミュレーション(エッジ・シティモデル)や、都市の規模がべき乗法則に従うというジップ法則を概略的に説明し、後半ではその背景にある数学的な構造を、あまり数式に深入りすることなく、どちらかというと直感的に説明している。
個人的に興味深かったのは、企業の空間分布をフーリエ級数で捉え、企業集積の発生をシミュレーションしたモデルである。企業立地が様々な異なる周波数を持つフーリエ級数によってあらわされるとき、企業立地における正の波及効果(近接によるメリット)と負の波及効果(近接によるデメリット)を見ると、周波数の異なる様々な変動によって立地によるメリットデメリットの強さが異なるため、正の波及効果が負の波及効果を上回る形で表れるは周波数の波が強化されることにより、企業立地が集積していくというものである。
しかし、著者も述べているが、このような変動の波は理論家の頭の中だけにあるものであり、実際の都市の中で具体的にこの波動をコントロールしているものがあるとか、波動を計測してコントロールすることができるということまでを述べようとしているものではない。
自己組織化の経済学が、現時点(出版時点)ではまだ現象を説明するためのツールとして有益なのではないかという可能性を持っているといったレベルものであり、そこから何らかの政策的な含意を導き出すといったところまでは至っていないことも、この本を読むと分かってくる。
新しい経済分析の枠組みが出来上がりつつある段階で、その面白さと現時点での限界を両方見極めつつ、それをわかりやすく解説してくれるという、非常に良心的な本であると感じた。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/738478 -
訳:北村行伸・妹尾美起
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空間編成の自己組織化過程を具体例を使って説明しています.空間経済学の研究対象や分析手法を知るにはいい導入になると思います.
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伝統的な新古典派経済学は、ある条件下での経済システムが最適収束点を持つことを保証することはできる。しかし現実の経済システムでの重要な問題、例えばシステムの動揺のような、マクロ的な構造が自律的に生じてくる「創発」現象を、ミクロな意思決定の集積で説明することはできない。
本書は、複雑なシステムの挙動は、「自己組織化」の原理でモデル化できるのではないか、という想定の下で、都市の空間的に不均衡な配置・規模がどのように創発されるか、経済システムの時間軸での挙動がどのように説明されるかの概念提示を試みている。
自己組織化を説明する二つの原理として、「不安定から生じる秩序:気象システムの対流のようなもの」と「ランダムな成長から生じる秩序:べき乗法則」が提案される。大きくみると、空間軸・時間軸それぞれで、世界に観察される不均衡な構造は、相反する二つのポテンシャル関数のせめぎあいで形成されるということだろうか。