新編 普通をだれも教えてくれない (ちくま学芸文庫 ワ 5-3)

著者 :
  • 筑摩書房
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感想 : 26
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  • Amazon.co.jp ・本 (350ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480092700

作品紹介・あらすじ

「普通」とは、人が生きていく上で本当に拠りどころとなること。ところが今、周りを見渡してみても、そんな「普通」はなかなか見出せない。私たちが暮らす場も大きく変わり、人と人との結ばれ方も違ってきた。自由で快適で安全な暮らし。それが実現しているようでその実、息苦しい。時として私たちは他人を、そして自らを傷つける。一体、「普通」はどこにあるのか?この社会の「いま」と哲学的思考とが切り結ばれる珠玉のエッセイ集。

感想・レビュー・書評

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  • 1990年後半から2000年代前半の筆者の体験や当時の時事問題をもとに、哲学的な思考をしていくエッセイ集。1トピック数ページでそれが何十もある構成になっており、わたし、身体、ファッションを扱った話が多い。

    タイトルから「普通」とは何か。その構造や輪郭を明らかにしてくれることを期待していたが、答えは書いていない。ヒントくらいは得られるかもしれないが。

    その観点では少しがっかりだったが、エッセイ集の中で興味深い表現や考えを知ることができたので、良しとした。

    「メディアと言うのは、それなしでもいられる個人たちを外側からつなぐものではない。メディアはわたしたちを内側から変える。じぶんでも気づかないあいだに。」253p

  • 最近、鷲田清一が話題に挙がることがあり、ブクログで調べてみたら、意外なことに内田樹との対談集『大人のいない国』しか登録していない!

    えー、意外と読んでないんだな、と思ってとりあえず二冊購入。

    ん?表紙、見たことあるよーな。

    ん??この話読んだことあるよーな。

    特に「コンビニという文化」なんて、記憶に鮮明に残っているじゃん‼︎
    ということで、既読でした。なんで、登録していなかったんだろう。

    でも、10年程前の話題が書かれているとは思えない、見通し。すごい人だ。

    一つは、当たり前のものをもう一度見直させる目。

    「未知のひとからの電話がきらいだ。そもそも音ひとつで、まるで命令するように赤の他人を電話口に呼びだすというのが、無神経だと思う。」

    「じぶんたちがやっていることへのチェック機構がはたらかないのである。だからどんな組織も「外部評価」をお願いするようになる。」

    そして、これからの社会に対する「自分」というものの姿勢。

    「家族生活をいとなむ者はだれでも、じぶんの身体がじぶんだけのものではないことを日々痛いほど感じているはずだ。」

    「ぜんぶ外部に委託するかたちをとるのが「ホームレス」ということになる。そしてアパートやマンションでの独り住まいは、まさにそういう生活のスタイルをとるようになっているというのだ。」

    「いまグローバリズムといわれているものは、そういう普遍ではない。特定の優勢な尺度が地球を覆いだしているということ、つまりは価値基準の一元化のことにすぎない。それは複数の普遍を認めない。」

    そして、こんな指摘も今のホットな話題と結び付いて面白い。

    「そこに入ると世界が裏返ってしまうような孔や隙間は、しかし、消えたのではない。なんでもない「普通」のマンションの個室に、あるいは住宅街の一室に、内在しだしたと言うべきだ。」

    この社会は、堅牢に守られていると思わせながら、ただ見えない場所に見たくないものを動かしただけで、それは見えていた頃に増して、境界のない危険となって襲いかかっている。

    他者との関係も、同じように思う。
    直接的に見たくない、触れたくないものを動かしただけで、本来、他者と関わらないことは生きていく上ではできない。
    また、自分を自分として成り立たせているのは、鏡ではなく他者なのである。
    そのことだけを都合良く忘れ、あらゆる傷は医療が治すべきものと信じ、またあらゆる危険性はサービスによって排除されているべきものと、信じてしまった気がする。

    人間としての「自然」を説こうとする筆者から、考えさせられたのだった。

  •  「普通」ってなんだろう。

     僕が生きる現代社会において「普通」という言葉はどちらかというと、マイナスの意味で使用される。「普通」の人生、「普通」の大学、「普通」の顔、、、。例えば誰かに「君って普通に暮らして、普通の大学を卒業して、普通の会社に就職して、きっとこれからも普通の人生を歩んでいくんだろうね。」と言われたら誰もいい気分はしないと思う。存在するすべての人間を何かの指標でカテゴライズして、相対的に大きなカテゴリーにあてはめることができる、というようなことがおそらく普通の意味だろうか。ただ普通と言われていい気持ちしないのに、普通の海の中に浸かっていることそのものは特に居心地は悪くない。どちらかというと普通ということに対して軽蔑の念を持ちつつも、普通の周りからあまり離れないでいようと思いながら生きている。『普通』は疎まれながらも、人間が生きる軸ともなっているのだ。心の底から腹の立つ人物がいて殺したいんだけど、普通は殺さないよね、というように。

     僕たちが馬鹿にしながら、実は心の拠り所にしている『普通』。まぁうまくいかないこともあるけれど、心の拠り所にしておけば、大きな失敗はないだろうという『普通』。その『普通』が最近どうもおかしなことになっている。今まで自分をある程度のところまで連れていってくれていた『普通』を信じて生きても、うまくいかないことがほとんどになっている、と人々は思い始めている。それは日本の社会的目的の飽和から来ているのか、日本経済の破綻から来ているのか、とにかく何を信じていいのかも分からない。手に入ることはあきらめてしまった『普通』ではないことがらだけでなく、自分たちが馬鹿にしていた『普通」ということさえ、どこかに消えてしまった。だから人々は恐怖におちいり、不安になり、そして無力感を携えながら、意味もなく街をふらふらと歩いていくのだろう。

     本書はそのような現代社会に向けて、『普通』とはなにかということのヒントを与えてくれるだろう。答えはないけれど。

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    167
    238 安部公房
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    270 大阪=リベラル



  • ちくま学芸文庫 鷲田清一 「 普通をだれも教えてくれない 」


    事件や災害、都市問題など から人々が生きていくなかで重要なものは何かを問い続けた哲学エッセイ


    タイトルの「普通」とは、生きていく上での拠り所であり、 人と人との基本的な関わりを意味しているように思う


    他者を支え、他者から支えられて生きていく相互依存 や 同一の理念なしでも成り立ち、多元的な価値基準を内蔵する都市社会に 「普通」を見出している


    「老い」に関する言葉は 名言
    「老いというのは〜できなくなったことが、どんどん増えていく経験である〜人生を〜できなかったことから見据えることができる〜「する」ことよりも「ある」こと の意味にふれようとする」




    安部公房「箱男」について
    「箱をかぶり、誰でもなくなることによって、匿名という自由を獲得する〜匿名は デモクラシーの前提であり、デモクラシーの原理を突きつめれば、社会の全員が箱男になる」という解釈は、なるほどと思う


    プレザンス(その場にいてくれること)のポジティブな意味
    予備軍がいてくれるからこそ、われわれは余力を残さず、使いきることができる






















  • この本の主要テーマを一つ挙げるとすれば、わたくしとは何か、ではないだろうか。所有していること、すなわち私有(private)の語源は、「剥奪されている」ということにある。我々は、自分の体を所有していて、どう扱うか、どう飾るかは自分の自由だと思っている。しかし、身体の本質は交差や交換にあり、こうした「『交通』という契機」を取り除いた上ではじめて、自分のものと言える。
    また、家の中で一人きりになれる空間を設けるようになったのは戦後のことだが、皮肉にもインターネットの登場は、私の空間こそを公の入口とした。
    何が私で、何が公なのか、そしてそこにはっきりとした境界はあるのか。日頃考えもないようなことについて考えさせられる。

  • p133まで。

  • さすがの一言

  • こういうことを、1990年代から考えている人がいたんだなぁと考えると不思議な気持ちになりました。

  • 1 普通をだれも教えてくれない―人生のベーシックス
    2 ひとは日付に傷つく―神戸児童虐殺事件と阪神大震災
    3 からだが悲鳴をあげている―パニック・ボディ
    4 ずっとこのままだったらいい―干上がる私的な空間
    5 街が浅くなった―都市の肌理
    6 思いがとどくだろうか―ホスピタリティについて

    著者:鷲田清一(1949-、京都市、哲学者)
    解説:苅部直(1965-、東京都、政治学)

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著者プロフィール

鷲田清一(わしだ・きよかず) 1949年生まれ。哲学者。

「2020年 『ポストコロナ期を生きるきみたちへ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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