増補 民族という虚構 (ちくま学芸文庫 コ 34-1)

著者 :
  • 筑摩書房
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本棚登録 : 369
感想 : 15
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  • Amazon.co.jp ・本 (362ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480093554

作品紹介・あらすじ

"民族"は、虚構に支えられた現象である。時に対立や闘争を引き起こす力を持ちながらも、その虚構性は巧みに隠蔽されている。虚構の意味を否定的に捉えてはならない。社会は虚構があってはじめて機能する。著者は"民族"の構成と再構成のメカニズムを血縁・文化連続性・記憶の精緻な分析を通して解明し、我々の常識を根本から転換させる。そしてそれらの知見を基に、開かれた共同体概念の構築へと向かう。文庫化にあたり、新たに補考「虚構論」を加えた。

感想・レビュー・書評

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  • タイトルからは想像もつかないほどに深い、良い本だった。
    イデオロギーに利用されるもろもろの概念は「虚構」であって、「民族」という概念もまたそうである。
    この概念はどこから生成してくるかというと、著者は「範疇化」という言葉を使って説明する。
    「範疇化によって複数の集団が区別され、民族として把握される。同一性が初めにあるのではなく、その反対に、差異化の運動が同一性を後から構成するのである。」(p.29)
    自己の集団への愛着・贔屓や、差別といったものもすべてこの「範疇化」によって生まれてくる。
    そして、厳密にはものとものとはあらゆる点にわたって差異を持っているのであって、たとえば「黒人vs.白人」という2極化にしても、よく見れば鼻や眼の形等々の細かな個人差を捨象して、肌の色という一点で「範疇化」が行われているに過ぎない。ここに「虚構」が存在している。
    しかしこうした「範疇化」「虚構」は人間の思考には是非とも必要なものなので、それを廃絶することはできない。虚構はうまく機能していないといけないから、常に虚構性は隠蔽される。

    さまざまな知識を動員して、じっくりとした論調で著者はこのような「虚構」を分析していく。その過程が実に知的で、おもしろい。
    さらに「常に情報交換していなければならない人間という存在」
    「『意志』の意識は、行動を無意識に決定した少し後からおくれてあらわれる(これはノーレットランダーシュの『ユーザー・イリュージョン』にも書いてあった実験的な事実だ)」
    「多数派ではなく、少数派が集団に対しより深層に及んだ影響を与える。社会の真の変革は少数派によってのみ可能である」
    といった、実に興味深い話題も盛り込まれている。

    こういう大変おもしろい本が埋もれてしまうのは惜しい。ドゥルーズなんか読むよりもずっと刺激的なのではないだろうか。

  • 東2法経図・6F指定:361.6A/Ko98m/Nakada

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/738287

  • 個人ー集合を連続させるものとして、人間という生きものの思考や認識の仕方そのものなどから、「虚構」といういわばシステムを洗い出し、ひとつずつ紐解いてゆく論著に感じた。人間存在の目は生まれつき脳によって「事実と異なってもその前後と連続する記憶」と事実をすり替えやすい構造を待ち、さらには育った集合によって、どうしてもバイアスがかかってゆく。しかしその錯視こそ、集合体をそれたらしめるものであるとのこと。個人的には、「前世代の戦争責任を後の世代が負う責任はあるのか」の章がとても興味深かった。共同体に属することによって利を得ている以上、その共同体の連続に(良しにしろ悪しきにしろ)寄与してきた過去の責任は構成員に受け継がれるだろう、というのが私の読んだ所感で、これはわかりやすかった。
    ただ、その「虚構」によって構成される集合体そのものが、お互いに補完しあってまとまる様子から、霊的なものを「役割」に還元してある意味排除してしまうのは、ごく個人的な感想ではあるが、わかりやすくてももやもやが残る。

  • 2022.3.25市立図書館
    ウクライナをめぐる問題に世界が揺れる今あらためて読むべきかと思って借りた。
    人種や民族といった概念は恣意的なラベルでしかないこと、古今東西の実例をあげて説明される差別や迫害の生まれる理由はひじょうに腑に落ちる。
    ロシアによる暴力的な侵攻はまったく許しがたいものである一方で、「民族(国家)」に価値を置きすぎることにも違和感というか危うさを感じずにはいられない理由がここにあると思った。

  • 本は脳を育てる:https://www.lib.hokudai.ac.jp/book/index_detail.php?SSID=5073
    推薦者 : 橋本 雄 所属 : 文学研究科

    本書は、強いていえば、著者小坂井氏の〈本籍〉からして、社会心理学の成果と言えるでしょうか。しかしながら本書は、グローバル時代に生きる者すべてが参照すべき卓見に満ちあふれています。隣人・隣国とのより良い関係のために書かれた書として、歴史学にとっても重要な一書と考えます。
    本書の「あとがき」によると、「生物学・社会学・政治哲学など広い領域に触れ、学際的試論の性格を持つ」、真に学際的な成果です。また、「民族同一性の脱構築を試み、近代的合理主義を批判する」ことを目指したものだともいいます。そのいずれにおいても成功を収めた快著だと私は考えます。
    もちろん、本書が指摘するように、民族の記憶が捏造・歪曲されたり、民族など所詮は虚構や宗教に過ぎない、という意見はかねてより主張されてきました。しかし、だからそれは間違っている、解体・否定すべきだ、という単純な結論に本書は進みません。民族・国家・ネイションといった近代的な概念を、ただ「脱構築」して済ませるのではなく、「虚構」の効用を積極的に語り、〈開かれた共同体〉への具体的な提言を行なうところに、本書の真骨頂があるのです(ネタバレになるので、これ以上は書くのを控えましょう)。
    最近、文化交流史の勉強に傾いている私個人としては、任意の集団・共同体が異文化を受容する際のメカニズムを論じた部分に、とくに惹かれました。でも、これって、いつの時代の、どこでも起こりうることですよね。
    それでは、そもそもなぜ集団や社会は異文化を受容するのか? マジョリティは自身の価値観に安住していれば安全・安心ではないか?――この点を考える上では、やはり同書が紹介・依拠する、「少数派影響理論」が参考になります。社会の変動や変革は、少数派によってこそもたらされる、という仮説です。マジョリティ(集団の内部・中心部)は、知らず知らずのうちにマイノリティ(外部・周縁部)の影響を深く受け、やがて変容を遂げていく傾向をもつ。外来の情報は、そうした変化の、静かな原動力となるわけです。
    この仮説を検証するためにも、我々歴史学徒はマックス=ウェーバーの潜みにならって、実証研究を行なっていかねばならないのです。

  • 筆者の本を読むのは10年ぶり,自分の美意識と完全に嵌るまごうことなく最高の本だと思う(というか10年前に筆者に影響されて今の感覚がある気さえする)が,だからこそこれをそろそろ切り崩す必要があると感じる

  • 全て飲み込めてないが、ひとまず
    私の卒論の結論と、重なるところがあって、運命だーと思って、引用するー
    私たぶんこの方の本好きそう。面白い!

  • 民族紛争や平和構築の分野に興味があり、そもそも民族とは何なのか、といったところから手に取った書籍。

    民族とは主観的範疇であり、また、民族への同一性は「自らの中心部分を守っている感覚」であるという論旨は興味深く、勉強になった。
    一つの都市に二つの民族が同居し生活区域から学校まで別々である地域に訪ねたことがある身としては、民族同一性の維持が異文化受容を促進するという論旨自体は、納得しきれない部分もあったが、全体的にはやはり面白い。

    小坂井氏の他の書籍にもあるが、道徳や規範は、共同体内の人々の相互作用の沈殿物であるから正しいと形容されているに過ぎず、虚構である、という論旨は強烈である。
    現在世界で叫ばれている正義について、今一度距離を置いて考えるきっかけをくれる。

  • 【由来】


    【期待したもの】

    ※「それは何か」を意識する、つまり、とりあえずの速読用か、テーマに関連していて、何を掴みたいのか、などを明確にする習慣を身につける訓練。

    【要約】


    【ノート】


    【目次】

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著者プロフィール

小坂井敏晶(こざかい・としあき):1956年愛知県生まれ。1994年フランス国立社会科学高等研究院修了。現在、パリ第八大学心理学部准教授。著者に『増補 民族という虚構』『増補 責任という虚構』(ちくま学芸文庫)、『人が人を裁くということ』(岩波新書)、『社会心理学講義』(筑摩選書)、『答えのない世界を生きる』(祥伝社)、『神の亡霊』(東京大学出版会)など。

「2021年 『格差という虚構』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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