アスディワル武勲詩 (ちくま学芸文庫 レ 6-1)

  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (174ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480094193

作品紹介・あらすじ

太平洋カナダ沿岸の先住民・ツィムシアン族にさまざまに異なるかたちで伝わる神話群、アスディワル武勲詩。多くの部族社会や天上界の人びとと結婚をくり返しながら、謎に満たち遍歴をくりひろげる主人公、アスディワルを中心として物語は展開される。著者はこの物語群を宇宙観、家族組織、地理、経済など多角的な視野から比較・分析、神話が成立・変容する過程を解き明かし、背後にひそむ共通の構造を浮かび上がらせる。レヴィ=ストロース人類学の集大成『神話論理』へと結実する思考の軌跡をもっともあざやかにしるす記念碑的名著。

感想・レビュー・書評

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  • フランツ・ボアズによって採取されたカナダ太平洋沿岸の先住民ツィムシアン族の神話「アスディワル武勲詩」をベースに、地理・経済・社会・宇宙観といった各シェーマの切り口にて分析するとともに、広地域に伝播された異伝との比較から語り継がれる神話の過程と変化を見通し、神話全体におけるその構造を提示した論文。
    本としては小品だが、論理の切れ味がとてもよく、割とあっさりと読めます。逆に「解説」の方が難しい。(笑)
    クロード・レヴィ=ストロースが取り組んだ神話解析の試行錯誤の実験論文ということであるが、分析手法としては、神話の各センテンスをシンボルとしてコード化し、対称な2項対立を積み上げることで方程式に一般化するというもので、弁証法的に神話構造を明らかにしている。
    神話にて描かれる父系・母系社会の対置での交叉イトコ婚の分析から導き出される、女性交換と義兄弟間の争い、そして財産相続への観点は興味深かった。また、神話の持つ矛盾克服としての意味についての仮説も興味深い。
    次に読むことを解説者が推奨する『やきもち焼きの土器つくり』も読んでみようか。

  • 太平洋カナダ沿岸部の先住民族・ツィムシアン族に伝わる神話群「アスディワル武勲詩」を紹介・解説した書。ナス川とスキーナ川という二つの川の流域を舞台に語られるアスディワルの物語を、著者が拓いた構造主義の視点から比較・分析する。
    本書は、1993年青土社より刊行された同名訳書の文庫版であり、底本はLes Temps Modernes No.179 (mars. 1961)に再録された著者論文である。ツィムシアン族(およびその近隣のニスカ族)の英雄アスディワルの伝説を扱うこの小論文は、著者後年の大著『神話論理』(1964-71)の少し前に発表されたものであり、後に同書にて結実する神話の構造研究の手法が明快に示されている。即ち、地理・宇宙観・社会といったシェーマ毎に神話の各要素を抽出・比較すること、そして神話の複数の異伝を比較することである。
    人と鳥の神霊の間に生まれた狩人アスディワルは、川の上流から下流へ、また下流から上流へと移動しながら波乱万丈の生涯を送る。著者が注目するのは、彼の物語が複数の二項対立から成り立っているという点である。天と地、川の上流と下流、山の狩と海の狩、夫方居住と妻方居住――。面白いことだが、他の地域で語られるこの手の神話とは逆に、アスディワルはこうした二項対立する諸要素を媒介・仲介"できない"存在として語られている。彼と天上の娘や異部族の娘といった異なる属性を持つ女との婚姻(それも現実のツィムシアン族の婚姻形態とは逆である妻方居住の婚姻)は何れも失敗に終わり、最期は魔法の道具を忘れたがために山の中腹で身動き出来ずに石となってしまう。そこに見えてくるのは、アスディワルの物語を語るツィムシアン(あるいはニスカ)の人々の社会・制度・地理・経済といった諸環境である。そうした主題は他部族に伝播する中で弱化・変形されながらも、時には元々の形よりも如実にその姿を伝説の中に見せるのである。
    文庫にて100ページ程度の短さではあるが、構造主義の考え方が実例を伴って分かりやすく解説されており、著者の他の著書(上に挙げた『神話論理』や、同じく著名な『構造人類学』)を読み解く上でも助けになる入門書と言えるだろう。

  • 原書名: La geste d'Asdiwal

    1 ツィムシアン族の人々
    2 アスディワルの冒険
    3 地理・経済・社会・宇宙観
    4 冒険がもつメッセージ
    5 メッセージの構造分析
    6 異伝が語ること
    7 矛盾の克服としての神話
    8 伝承による変形
    9 神話の構造化と伝播

    著者:クロード・レヴィ=ストロース(Lévi-Strauss, Claude, 1908-2009、ベルギー・ブリュッセル、社会人類学)
    訳者:西澤文昭(1946-、フランス文学)
    解説:内堀基光(1948-、東京都、文化人類学)

  • 思索

  • とても薄くて、本文は110ページくらいしかないが、中身は充実している。
    クロード・レヴィ=ストロースの、大著『神話論理』の小さな前夜祭のような本で、意外性の強い衝撃的な知の探索を読者になげかけるような、彼の神話分析のおもしろさも十分に楽しめる。とても明解だし、『神話論理』をこれから読もうかな、でもしんどそうだな、という読者にはちょうどいい入門書になるのではないだろうか。
    不思議な知的興奮をもたらすレヴィ=ストロースのクールな論理形式は、さまざまな著書に関連して、人類学内部から批判や反論もあるようだが、完全に異種な文化現象を外部から論じるのに、完璧な「正解」があるわけもない。
    驚くべき角度から神話や習俗を解体してみせるレヴィ=ストロースの手際にクラクラしながら、自らイマジネーションを広げてゆくのが、人類学の専門家ではない、私のような一般的読者にとっても楽しいレヴィ=ストロースの読み方であろう。

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