日本神話の世界 (ちくま学芸文庫)

著者 :
  • 筑摩書房
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レビュー : 3
  • Amazon.co.jp ・本 (203ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480095091

作品紹介・あらすじ

『古事記』、『日本書紀』、『風土記』、『万葉集』などにつづられた日本神話から、国土の成り立ちを伝える国引き、天の岩戸の神話、因幡の白兎をはじめとする、味わい豊かな逸話の数々をセレクト。伝承を丁寧に読みとき、神話を物語る「日本語」に隠された「謎」を解明する。日本人とは何なのか。いったいどこから来て、いまどこに向かおうとしているのか。『古事記』ブームの裏に、現代人のこうした知的欲求を見つめる著者が、国文学者独自の視点から、壮大な日本神話の世界にやさしく誘う。本書を通して私たちは、心の奥底にいまも息づく、日本人の本来の姿にふたたび出会えるだろう。

感想・レビュー・書評

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  • 日本神話の世界

    5月1日、新元号が発表され、三種の神器が今上天皇に継承された。ちょうどその時読んでいた『銀行大統合 小説みずほFG』では、三行合併により形成される新銀行の名前を「みずほHD」と決定する描写があり、みずほの由来は神勅の「瑞穂の国」からである。(ちなみに行員最多得票は「ひまわり」だったらしく、みずほになって良かったと心底思う)。そういった中で、ふと日本神話に興味を持った。高校時代、古典や歴史で触れた程度で、日本神話というものは外国人に説明できない。よって、本書を手に取ったのである。
    なんといっても面白いのは、1、天地創造と2、須佐之男命の話である。
    日本神話における天地創造はイザナキとイザナミによる。二人の神が「成り成りて成り余れるところ」が「成り合わぬところ」を刺し塞ぐことで「国土うみ為さむ」としたことによって日本は創造される。しかし、国生みの物語には前段があり、まず二人の神は天の沼矛で潮をかき回し、引き上げる。その矛先から滴り落ちた塩が積み重なって出来たのが「オノゴロ島」である。オノゴロ島が出来た後には、天と地をつなぐ天の御柱が形成され、国生みにつながる。面白いのが神社にある鳥居が、御柱の変形であるという解釈である。この天の御柱を起源に、神社には必ず、神聖な柱が存在する。諏訪大社の御柱祭はその最たるもの。こんなところに起源があった。なお、天の橋立は、イザナキが天に上ろうとした際にかけた梯子が外れて、横に倒れたものらしい。
    次に出てくるのが、須佐之男命の物語、この中では有名な天の岩戸やヤマタノオロチの話が出てくる。須佐之男命は天照大神と共に誕生する。天照大神は太陽神であり、須佐之男命は風の神である。スサノオの語源はスサブ=荒ぶ、つまり荒ぶる神なのである。日本神話は一対のセットで展開してく物語が多い。別の話でも、イザナキが冥界から帰って来た際に、川で穢れを落としている際に、落ちた穢れから禍なる神が生まれ、すぐにその禍を直す直なる神が生まれる。この話は、宇宙誕生における、反物質の話に似ており、大いに興奮する。
    話がそれたが、須佐之男命は雨の神としても知られる。農耕民族であった日本人にとって、喫緊の課題であり、関心ごとは天に太陽があるか雨が降るかである。その二つの現象の具現神であるともいえる。ちなみに、ワンピースのビッグマムが持っている太陽と雲の化身は、天照大神と須佐之男命を彷彿とさせる。多湿気候である日本が、太陽たる天照大神を好むのは必然でもある。二者は対立し、須佐之男命は風雨に異心があるかのウケヒを受けさせられる。そのウケヒの結果、異心がないと認められた旧来の悪者・須佐之男命は勝利の優越感に浸る。ここからは須佐之男命の独壇場であり、凶悪な自然現象と非倫理的な行いを繰り返し、天界を恐怖に貶める。その際、恐怖から天照大神が逃げ込んだのが天の岩戸である。太陽を失った世界は、夜が続く。この現象は、現代的に解釈をすれば、冬至である。太陽が最も衰弱するこの時、世界中で祭りが催される。イエスキリストの誕生日が12月25日に設定されたのも、太陽の復活日としての冬至との関連性を捨てきれない。夜が続く中で、天照大神を引き出すために、祭りを行う。ここで、岩戸は冥界への扉であると筆者は解釈する。イザナキが黄泉の世界へ行ったのも、この天岩戸をもって遮られた岩屋の中からである。つまり、岩とは冥界との扉である。そう考えると、村上春樹の『海辺のカフカ』が想起される。海辺のカフカはいくつかのストーリーが同時進行なのだが、キーになるのは岩であった。クライマックスにて老人はその神秘的な岩を開くことで、存在が消失する。読んだ時にはとても不思議な話だと思ったが、天岩戸の話を聞くと、岩が冥界への扉を表していたことがわかり、腑に落ちる。脱線したが、お祭りがあまりに盛り上がったために、天照大神は岩から顔を出し、その瞬間、岩から引き出して太陽が復活するのがこの話の顛末である。天照大神は、岩から再び出されることで、RE:BORNしたのである。SNSで新元号「令和」はRE;IWAであると解釈している人がいた。面白い解釈である。
    天岩戸の一件で天界から追放された須佐之男命は、地上に降り立ち、川から箸が流れてくるのを見て、集落の存在に気づく。その集落では、毎回女性がヤマタノオロチの生贄とされていた。ヤマタノオロチは溶岩流のメタファーであるという説もある。それほど巨大であり、かつ恐ろしいものであった。須佐之男命はヤマタノオロチを退治する。そして、ヤマタノオロチの死体から出てきたのが草薙の剣である。この話の面白いところは、風雨の神であり、蛇の神である須佐之男命が、ヤマタノオロチという巨大な蛇を倒すことにある。むしろ、蛇神であったからこそ、他の誰にも倒すことが出来ないヤマタノオロチを倒すことができたのである。この話から、かなり論理の飛躍こそあるが、ハリー・ポッターとヴォルデモートの関係を思い浮かべる。他の誰にも倒せなかったヴォルデモート(しかも化身は蛇)は、自らがその分霊箱である、つまりヴォルデモートの一部を所有するハリーにしか倒せなかったのである。須佐之男命が同種のヤマタノオロチを倒すことは、生命力の置換ということにもつながる。出雲の国の神となり、一国を統治するに至る須佐之男命は、ヤマタノオロチを征伐し、ヤマタノオロチが持っていた力を入手することが必要不可欠であったのである。ちなみに、草薙剣は天照大神に献上され、後に三種の神器となる

  • 天地創造◆須佐之男の神◆大国主の神◆天孫の降臨◆火遠理の命

    著者:中西進、1929東京、国文学者、東京大学文学部国文学科→同大学院、国際日本文化研究センター・池坊短期大学学長

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著者プロフィール

中西進(なかにし すすむ)
1929年、東京生まれの日本文学者、比較文学者、万葉学者。奈良県立万葉文化館名誉館長、池坊短期大学学長など多くの経歴を持つ。1964年『万葉集の比較文学的研究』で第15回読売文学賞、1970年日本学士院賞で『万葉史の研究』、1990年『万葉と海彼』で第3回和辻哲郎文化賞、1997年『源氏物語と白楽天』で第24回大佛次郎賞をそれぞれ受賞。他にも、万葉集研究の大家として多くの業績があり、『万葉集 全訳注原文付』(講談社文庫)の作品がある。

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