反・仏教学: 仏教vs.倫理 (ちくま学芸文庫 ス 11-2)

著者 :
  • 筑摩書房
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感想 : 3
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  • Amazon.co.jp ・本 (281ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480095114

作品紹介・あらすじ

人間は本来的に、公共の秩序に収まらない何かを抱えて生きる存在である。常識として通用してきた倫理道徳では対応できない問題が起きたとき、そこに見えてくるのは何なのか。"人間"の領域、つまり倫理的な世界をはみ出したところで出会う「他者」、さらにはその極限にある「死者」との関わりを、著者は、古典的な仏教学ではない"現代に生きる仏教"の視座から、根源的に問い直そうとする。倫理を超える新たな地平を示すと同時に、日本仏教の思想的成果を丹念に抽出し、それを広範な哲学・思想史の中に位置づけ、鍛え直した著書。初版刊行後の理論的展開を書き下ろしで加えた、待望の文庫版。

感想・レビュー・書評

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  •  久々に面白い本を読んだ。


     大乗仏教は小乗と異なり,”善”だけでなく”悪”も考えていく。悪は,「不殺生」のように他者の存在が欠かせない。そして他者を含めるということは複雑性が増すということであり,曖昧さへの歯止めとして六波羅蜜のような極端さが必要となる。しかしそのような極端さは現実に人間レベルでは不可能であり,他者救済をするはずが本願他力へとシフトし,無責任主義となる。
     つまり,大乗とは,他者の立ち現れによる超倫理なのだ,というのが著者の意見。


     その結果,大乗では倫理の崩壊が懸念される。六波羅蜜然り。
     更に,”空”という概念では,無執着を説くため,そこから無責任が生じやすい。色即是空とは善悪不二(維摩経)であり,二元論を否定するからだ。また,この大乗は,現実の不平等の隠蔽という負の側面も担っているようである。

     極端な他者救済を掲げるも,その極端さ故に実現不可能であり,結果として他者(如来など)から救われる衆生へと変化する。これは一見キリスト教と類似しているが,その違いは,我々衆生と仏陀が異質ではない点である。自力への道が完全に絶たれている訳ではなく,媒介者(キリスト教でのイエス)は不必要となる。

     また,仏性(如来蔵)という概念も,大乗特有である(大般涅槃経の「一切衆生悉有仏性」)。これと逆のものが,法相宗の「五性各別説」であり,人の未来は先天的に決まっているというもの。何をしても因果は変わらないという立場であるため,行基や徳一のように,法相宗では社会的実践を積極的におこなう。一見パラドックスであるが,それぞれが置かれた立場でその分を超えず瞬間を生きることを,法相宗は理想としたのかもしれない。


     著者の一番の主張は,「他者」について。
     人には,互いに共有出来ない「語り得ないもの」がある。
     それは公共,人間を超えるものであり,倫理の枠にさえも嵌らない。
     その超倫理をまるごと抱え込むシステムが,宗教だというのだ。

     つまり,宗教は,人間の世界からの逸脱と還元を繰り返すのである。「他者を人間の意味の世界に回収しようとしながらも,回収しきれない他者と向き合う」のだ。超倫理,宗教とは,「<魔>や<恨>の織りなす他者との関係を前に立ちすくみ,もう一度畏れをもって見直す」システムであり,「<人の間>とそれを超えたものとの緊張関係を結びつけるものなのだ。<人の間>にだけ一方的に回収する科学や倫理との違いが,そこにはある。


     人との間で共有できる世界を,末木は「顕」と呼び,そうでない世界を「冥」と呼ぶ。
     この「冥」にもいくつかの層があり,まず自分ではなない「他者」の層,次に公共の<人の間>のルールにのぼらない他者の極限である「死者」の層,そしてそれさえも超えた「神仏」の層である。



     清沢満之は,世界を「万物一体」として説いた。
     これは縁起とほぼ同義であり,多入力多出力を意味する。このような世界において,責任や意味だけをひたすらに追及することに,どれだけの意味があるのだろう(意味のパラドックス)。

  • 反。。。って?と思った。自由な立場で語りかけてくる。早く最後まで読んで見たいな思った。

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著者プロフィール

国際日本文化研究センター名誉教授、総合研究大学院大学名誉教授、東京大学名誉教授

「2024年 『日本の近代思想を読みなおす3 美/藝術』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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