アメリカ様 (ちくま学芸文庫)

著者 :
  • 筑摩書房
3.63
  • (2)
  • (2)
  • (3)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 87
感想 : 8
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480096036

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 帯に「日本人の奴隷根性をあぶり出すジャーナリズムの記念碑的名著」と書かれているが、正直言ってとても名著とは思えなかった。「アメリカを褒め殺すことで」などと裏表紙に書かれているものの、基本的にはアメリカのおかげで検閲を気にせず書きたいことが書けるようになった喜びが感じられ、あまりアメリカへの皮肉といったものは受け取れない。ところが最後にそのアメリカからの検閲を受けてしまったことの方がよっぽど皮肉だろう。

    ただ、この本で一番の問題なのは間違いなく西谷修とかいう人の解説だ。現代日本の政治や社会に対する自身の意見を開陳したいなら、人の作品の解説にかこつけてではなく、自身の著書でやってもらいたい。久しぶりに最低の解説を読んだ。

  • P64 帝国憲法に擬した頓知研究発布式とその研法、のばかばかしさと、それを取り締まった権力の禍々しさは、印象深い。
    明治憲法のパロディ駄文を発表しただけで、懲役三年の実刑判決とは、その40年後を予感させる事件と思う。

  • 有史以来の総力戦大敗と、外国軍隊による占領という未曾有の事態にあって
    「これは成るように成ったのだから、あきらめるのほかなし、いまさらグチを並べても追付かず、理窟を云っても何の効なし。そこでこの『アメリカ様』を発行して自らを慰め、他を慰めんとするのである」(p.015)
    泣くのはイヤだ笑っちゃお、という本である。
    怒涛の自嘲ネタに、気づけば数ページ毎に脳内ツッコミを入れている。

    “権威”とみればおちょくらずには居れない。
    “権威”ゆえにそれを取り締まらずには居れない。
    おそらくルーツは江戸の頃であり、現在この外骨の系譜上には小林よしのり氏の“ゴー宣”シリーズがあると思う。

    「歴史はある一面より云えば、国家自個の訓戒物たり。筆禍史は即ち国家が旧事を語れる懺悔話と見るもまた可ならんか」(p.149)

  • 昔の人は偉かった←それにひきかえ、、、とは言いません。墓穴を掘るだけなので・・・

    筑摩書房のPR
    「占領という外圧によりもたらされた言論の自由は、結局外圧によって葬り去られることを明らかにする、ジャーナリズムの記念碑的名著。」

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/737640

  • 東2法経図・6F開架 304A/Mi85a//K

  • 『宮武外骨伝』を読んでいるとちゅう、出かけるときにカバーをかけて持って出たつもりが、リュックの中に本がなく、読むものがナイナイナイと、途中の本屋で在庫のあった外骨の『アメリカ様』を購入。うしろには、増補改訂版の『筆禍史』が(主に明治の部分のみ)抄録されている。

    「アメリカ様」は、言論の不自由な時代を長らく過ごした外骨が、"勝ってくださったアメリカ様"がもたらした初めての言論の自由のなかで綴ったものである。本が出たのは1946年5月3日、この日は東京裁判の開廷日だったという。

    序には"アメリカ様"のおかげについて、こんなふうに書かれている。
    ▼…今日の結果から云えば、この敗戦が我日本国の大なる幸福であり我々国民の大なる仕合せであった。もしも(万一にも)こちらが勝ったのであるならば、軍閥は大々的に威張り、官僚や財閥までも共に威張り、封建的思想の残存で、ますます我々国民を迫害し、驕傲の振舞、憎々しい態度、肩で風切り、反身になって、サアベルをがちゃつかせるに相違ない。その上、重税を課し、兵役を増し、軍備を倍加し、以て八紘一宇とやらの野心をつッぱり、侵略主義の領土拡大を策するなどで、我々国民はどんなに苦しめられるか知れない。これを思えば敗戦の結果、総聯合軍のポツダム会議で決定された我日本を民主化の平和国とするべき意図の実行で、代表的のアメリカ様が御出張、マックァーサー元帥の指導命令で日本の官僚、軍閥、財閥をたたき付けて下さる壮絶の快挙、これに加え、我国開闢以来、初めて言論の自由、何という仕合せ、何という幸福であろう。… (pp.14-15)

    入獄・罰金・発禁をなんどもうけてきた外骨は、この降って湧いたような「言論の自由」のなかで、これまで書いても出せなかったこと(自身の筆禍のことも含めて不敬がどうのとか)や、ほいほい書けなかったようなこと、とりわけ戦争につっこんでいった軍部と政府への批判をたたきつけるように書いている。

    ありがたき「言論の自由」とはいえ、"日本を負けさせて下さった"アメリカ様も都合の悪いことは葬ろうとするのであって、現に外骨の「アメリカ様」のうち一頁「近頃若盛りの強盗が多い理由」はマッカーサー司令部より削除を命じられている。

    甥の吉野孝雄による巻末の解説によれば、この時に外骨は「なんだ、自由の国といっても(戦前の日本と)変わらないじゃないか」(p.231)と落胆したそうだ。吉野は、「戦後のスピード感ある自由化政策を見て、言論の自由を完全に保障する国だと拙速に思い込んでしまうような人の良さと単純さも、外骨は同時に持ち合わせていたのだ」(p.231)という。

    文庫では、それを「参考のため保存」と外骨が筆で記したらしきページ(文庫p.129)と、削除を命じられた本文(文庫p.130)とを収録している。国会図書館の近代デジタルライブラリーでは、この「アメリカ様」の初版をデジタル画面で見ることができる。
    「アメリカ様」
    http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1270316/32

    だが、このデジタル画面では削除を命じられたページは見当たらず、ハテ、この外骨自筆風の「保存」のページはどこから出てきたものか?と思っていたら、別のところが読みたくて借りてきた『宮武外骨著作集 第八巻』に「アメリカ様」も入っており、谷沢永一による「解題」の部分で経緯がちょっと分かった。

    文庫p.129に掲げられている「保存」云々は、著作集p.802(解題)にある資料[=ゲラ刷に校正した脇に毛筆で書いてある]で、こう書き添えてある。
    ▼埼玉県立浦和図書館の池田文痴庵文庫には左に掲げる資料がある。毛筆は外骨による書き込みであり、晩年の外骨を見舞った文痴庵が外骨から借用したまま手許に残したものであろうか。(著作集p.802)

    ともかく、外骨のように日本政府とアメリカ様と、双方から筆禍を受けた人物がほかにいるんやろか?(おらんのちゃうかーという気がする)

    文庫巻末の解説は、西谷修による「「アメリカ様」と「強い日本」」。これがまたおもしろい、いやおもしろいというより、あまりなタイミングの現況がちょっとこわい。

    この巻末解説を一部抜粋したものが、西谷修のブログに掲載されている。
    「乱視の「戦後レジーム」、宮武外骨の名著復刊に寄せて」
    http://www.tufs.ac.jp/blog/ts/p/gsl/2014/02/post_232.html

    (3/12了)

  • 漱石と同じ慶応三年生まれの反骨のジャーナリスト宮武外骨氏の諧謔に満ち溢れた文に、当時の思想信条の表現に対する厳しい取り締まりの様がはっきりと見てとれる。最近の政府の方針もこれと同じような方向に進みつつあるように感じられる。このまま行くと、歴史認識のうえで日本は世界から孤立してしまうんじゃないかと危惧するのです。

全8件中 1 - 8件を表示

宮武外骨の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×