資本主義から市民主義へ (ちくま学芸文庫 イ 1-5)

  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (330ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480096197

感想・レビュー・書評

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  •  本書では資本主義の本質を探るだけではなく、ポスト資本主義の社会についても考察していく。著者はこれまで「貨幣」とは何か、を再三追求しており、その命題に対して著者は「貨幣は貨幣だから貨幣である」という結論を出す。これはマルクスの「価値形態論」を批判し追求した結果、貨幣の本質が自己循環論法であることを証明した。また貨幣のみならず、「言語」と「法」の実態についても本書で繰り返し考察される。著者によると、これら三つは、それ自体には物理的な力を持たないが、社会的実在、すなわち社会的動物としての人間が、これらを媒介することで、人間が人間として存在するのだという。言語は意味を、法は権利と義務を、そして貨幣は価値という、目では見えないが一定の力が働く。
     後半では、資本主義を超えた先にある市民社会のあり方についても考えていく。市民社会とは、国家(法の力)の側面と資本主義(貨幣の力)の側面の二つを持っていると著者は考える。そして、最終的には法が支配する国家か、貨幣が支配する資本主義を補完するようなシステムになるだろうと著者は考える。そこで鍵となるのが人間の倫理性であり、倫理性が現状の資本主義に対抗する力を有しているという。

  • 知性とか教養とかって、まさしく岩井克人みたいな人をさすのだろう。貨幣が貨幣で有るのは貨幣だから、という自己循環論が基本に。

  • 貨幣論などで著名な経済学者岩井氏による本です。本とは言っても全編通して対談形式になっています。雑ぱくな感想について。まず対談形式であればさぞ読みやすいだろうと思って読み始めましたが、内容がかなり高度、というか空中戦すぎて理解しながら読み進めるのにそこそこ時間がかかりました。また主役が岩井氏で「聞き手=三浦雅士」となっていますが、三浦氏は「聞き手」の領域を大幅に超えて「話し手」にもなっていました。これは良かったと思う箇所もありましたが、「しゃべりすぎでは?」と感じる箇所も多々ありました。個人的に岩井氏の主張にもっと誌面を割いてもらいたかったので、聞き手は聞き手らしくもっとシンプルに切り返してもらった方がありがたかったです。

    序盤は読むのに苦戦しましたが、面白いもので、中盤くらいからはだいぶペースアップしました。まず岩井氏の主張が一貫していることで、「門前の小僧習わぬ経を読む」ではありませんが、だいぶ私(門前の小僧)の頭の中にも入っていきました。
    岩井氏の主張は何かといえば、言語・法・貨幣は自己循環的に成立していること。つまりこれらによって社会が存在しているのですが、その存在基盤とも言えるこの3つは実は根拠が無く不安定なものだということです。たとえば貨幣であれば、貨幣需要がものすごく高まるとデフレ(恐慌)になり、貨幣需要がものすごく低くなるとハイパーインフレーションになったりする。そしてこの不安定な資本主義を補完しているのが、市民社会であって、それはカントの定言命題としての普遍的な倫理をベースにしたものである、という感じです。著者の主張が正しいかどうかは私のレベルではまったくわかりませんが、とても面白く感じました。そういう風に物事を見ることも出来るのか、という発見があったという感じです。繰り返しますが、「空中戦」の議論が多くて最初は良くわからないかもしれませんが、だんだん著者の言いたいことがわかってきますので、我慢して最後まで読めば多くの気づきがあるかと思いました。

  • こういうバリバリ経済学者の経済の本はほとんど読んだことがなかったし、難しいところも多くてよくわかってない部分も沢山ある。それでも、何か知的興奮があったし、「もっと知りたい」という思いにさせられた。
    経済って、もっと血が通ってなくてお金のことばっか考えてるんじゃないの?という私の経済学に対する幼稚なイメージをいい意味でぶっ飛ばしてくれた。
    経済を考えてると、そんな哲学的問題に行き着くの?!法人の存在の仕方は人間存在の仕方とニアリーイコール?!「信託」の始まりはなんと修道院にあった?!経済の話とカントヘーゲルロールズアリストテレスってそんなに関係あるの!?…等々、新鮮な驚きのオンパレード。
    岩井克人の主張は、反マルクス、反マイケル・サンデル、、、ふつうにこれだけ聞くと「なんてリベラルじゃない奴だ!」と思いきや、彼からはそういう匂いはあんまりしない。むしろ反株主主権論、挙げ句の果てには「資本主義は核に倫理性を必要とする」とか言ってる。はてさて、彼は一体何を言いたいのだろう。興味深い。私に新しい考え方を教えてくれそうなきがする。彼の他の著作も読んでいきたい。

    ・自己循環論法(存在の無根拠性)
    ・言語・法・貨幣(社会的実体のみ持つ)
    ・資本主義の本質(差異が利潤を生み出す。それ以上でも以下でもない)

  • 著者:岩井克人(1947-、渋谷区、経済学)

  • 東2法経図・6F開架 331A/I93i//K

  • 若い友人と話していて彼が先生と慕う岩井克人の論説は新聞などで触れることがあっても本で読んだことはないと気づき、まず手始めはハードル低く、ということでインタビューをまとめた文庫から手にしたのですが、文庫でビンゴ!バチーンと今の自分の脳みそにヒットしました。勢い込んでページをめくった読了直後で、その体感を言語化出来ないのですが、確実に「読みたい本を読んだな…頭の中の繋がっていない部分が繋がったな…」という感覚があります。聞き手、三浦雅志の質問に答える、というスタイルも全然ハードルを下げるものではなく、インアタビューの熱さに圧倒されてQ&Aになっていなく、どちらの主張を読んでいるんだっけ?という鬱陶しさを感じますが、慣れてくると問いの煽りに先生も乗ってくるようなコール&レスポンス感を感じました。ヒトとモノの二重性、自己循環論、不確実性の哲学をこれから反芻していくことになると思います。でも、その先はカントか…辿り着けるかな…

  • 5割も分かってない。分かってないけどここには何か大切なことが書いてある。そんな予感に突き動かされて一気に読みきりました。
    岩井克人氏の著作はこれまで幾つか読んだことがありましたが、この対談のおかげで氏の問題意識が明確になりました。

  • 岩井先生の講演会に参加したのはたぶん20年くらい前だと思う。そのころから、言語・法・貨幣の話をされていた。自己循環論法の話もさかんに出てくるので何となく理解できたように思う。ただ、聞き手の三浦氏がかしこすぎて話が余計に難しくなっているように感じる。講演会は一般向けだったのでずいぶんわかりやすく話されていた記憶がある。ただそのころはまだ、言語や法についてはくわしく研究されていなかったようなので、ずいぶんと進化・深化されたように思う。最終章で、編集者が問題提起として岩井先生のことばを引用されているが、私もその部分に線を引いていた。それは、「グローバル資本主義に対抗し得る唯一の原理はカントの倫理論である」という件である。コミュニタリア二ズムや地域通貨では太刀打ちできないとも言う。カントを読まなければ・・・。それから、信任関係についての件で、医者と患者、弁護士と依頼人、教師と生徒・・・、などについて言及されている。絶対的な非対称性・優位性のため普通の契約関係ではすまない。そこに倫理的な義務を課す必要がある。この辺の話は、内田先生も書かれていたと思うが、切実な問題として受け止めている。カントか…つらいなあ。定言命題って何度も出てくるんだけど、なんかわかりやすい具体例で、誰か上手に説明してほしいなあ。

  • 331.04||Iw

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著者プロフィール

国際基督教大学客員教授、東京財団上席研究員
東京大学卒業、マサチューセッツ工科大学経済学博士(Ph.d.)。イェール大学経済学部助教授、プリンストン大学客員準教授、ペンシルバニア大学客員教授、東京大学経済学部教授など歴任。2007年4月紫綬褒章を受章。

「2021年 『経済学の宇宙』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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