ユークリッドの窓: 平行線から超空間にいたる幾何学の物語 (ちくま学芸文庫 ム 6-1)
- 筑摩書房 (2015年2月9日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (432ページ)
- / ISBN・EAN: 9784480096456
作品紹介・あらすじ
平面、球面、歪んだ空間……。幾何学的世界像は変化し続ける。『スタートレック』の脚本家が誘う三千年のタイムトリップへようこそ
感想・レビュー・書評
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テーマは幾何学。ユークリッドからガウス、アインシュタイン、そして最先端のウィッテンの世界へ。幾何学的な内容もさることながらこれら天才たちのエピソード的なネタがとても楽しかった。
例えば、シュレーディンガーは物理学会のドンファンで、「私と一夜を共にした女性が、一生を私と共にしたいと願わなかったためしはない」と書いていたとか。写真でみると真面目そうに見えるがイメージと違っておもしろい。そして天才ウィッテン。著者はウィッテンと同じ大学ですでにウィッテンはその天才ぶりで物理の教授たちに名が知られていたが、ウィッテンは歴史学の学生で物理学の単位を一つも受講しておらず、物理は単なる趣味だった。大栗先生の本でも出ていたが、この方本当に異次元の頭脳の持ち主のようである。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
原書名:Euclid's Window
第1部 ユークリッドの物語
第2部 デカルトの物語
第3部 ガウスの物語
第4部 アインシュタインの物語
第5部 ウィッテンの物語 -
土砂の量、扉の寸法、税の金額。
数学は必要から始まり、古代から様々な場面で用いられるために発展した。
では、ピタゴラスの三平方の定理は誰が見ても有用であることが分かるが、ユークリッドは何をしたのか。
23の定義を述べ、5つの公準を設け、5つの公理を掲げ、そこから465の定理を証明した。
それは、点、線、円、直角、平面の定義であり、すなわち幾何学の創設であった。
もちろん、それを現実に役立てることは可能だが、幾何学が拓いた新しい可能性とは虚構の定義、新しい世界観の創出だ。
人の脳内で、あるいは机上で語られる数学のカタチは現実世界とどこまで同じなのか。
デカルトは空間を式に翻訳し、幾何学を代数学の言葉で表した座標幾何学に拡張した。
ガウスはユークリッド幾何学でない双曲幾何学を導いた。
アインシュタインは相対性理論により、現実世界の歪みとユークリッド幾何学の差分を明らかにした。
ウィッテンは幾何学の新領域となるM理論を築き上げつつある。
本書は数学の技術を語るのではなく、幾何学の歴史を語る本であるため、
残念ながら初学者が幾何学を理解するための道筋が据えられているわけではない。
数学を知りたい人でも歴史に興味がある人でもなく、
人間と数学はどのようにして進歩するのかを考えたい人が読むべき本だろう。 -
古代ギリシアのユークリッド幾何学から始まり、デカルト、ガウス、アインシュタイン、ウィッテンへと続く幾何学の歴史を紹介してくれる本でした。
内容は前半は簡単ですが、中盤からじょじょに難しくなり、後半はひも理論やM理論が登場して、異次元をさまよっている気分でした。(^^;
とはいえ、この本を読んだおかげで、あらためて数学は面白いと思えました。 -
サブタイトルのとおり、幾何学の歴史である。
文章が軽快で読みやすい。が、もう少し図をいれてくれるとわかりやすく、小学生でも理解できる名著になっていたと思われるが、今のままでも十分わかりやすく、楽しく読むことができる。
古典幾何学は古代ギリシアの偉大な数学者Euclidの「原論」で完成されたと言われている。
原論に書かれている内容のすべてが彼の手によるものというわけではなく、それ以前にわかっていた知識を集約したのが彼であったというのが定説ではあるが。
しかしながら、原論ではそれ以前になかった革命的なアイデアが記載されていた。それは公理から出発して、演繹的に理論を構築していくという証明のプロセスである。
現代では、なんだ当たり前じゃないか、と思うかもしれないがこれこそ数学を基礎づける方法なのだ。
現代の数学(幾何学)の観点からみるとEuclidが採用した公理系は少し修正が必要ではあるが、約2300年前にこれほど緻密な論理を展開していた彼らに敬服せざるを得ない。
という前置きはいいとして、原論に採用されている公理(厳密には、原論では公準と公理とに分かれているが、現代ではいずれも公理と呼ぶ)として以下を要請している。
・任意の一点から他の一点に対して直線を引くこと
・有限の直線を連続的にまっすぐ延長すること
・任意の中心と半径で円を描くこと
・すべての直角は互いに等しいこと
・直線が2直線と交わるとき、同じ側の内角の和が2直角より小さい場合、その2直線が限りなく延長されたとき、内角の和が2直角より小さい側で交わる。
なるほど、最初の「任意の一点から他の一点に対して直線を引くこと」ができるという公準は明確で、疑いなさそうである(が、さらに点ということば、直線という言葉を厳密に定義しないといけないが、原論ではうまく定義されていない)。
問題は、5つめの「直線が2直線と交わるとき、同じ側の内角の和が2直角より小さい場合、その2直線が限りなく延長されたとき、内角の和が2直角より小さい側で交わる」という公準である。
これには第5公準というカッコいい名前がついていて、のちの数学者を悩ませることとなる。
これは実は「三角形の内角の和は180度」であるという命題と同値であることがわかっている。
これを聞くと、小学校で習ったぞ。と思えるかもしれない。そしてそれは、小学校の勉強よろしく正しそうである。
問題は、この公理は他の4つから導くことができるのではないか?という疑問である。
なんとなく点や直線、交点等が上手に定義されていれば、三角形は3直線の3交点が交わる内部として定義できるし、その内角の和も公理として要請するのではなく、ほかの公理から計算できそうではないだろうか?
というのが古代ギリシア人の理解であったし、その後の数学者も同様のセンスであった。
が、あまたの数学者がそれを証明しようとして失敗した。
これが19世紀!まで続いた。(人によっては、この問題がもっとも人類を悩ませた問題という人もいるくらいである。なにせ1800年近くも未解決だったのだから・・)。
話は変わるが、古代ギリシア時代が終わって約16世紀までは、悲しいかな純粋数学は暗黒時代であった。
しかし、その暗黒時代も一人の大天才によって終わりを告げた。
その名をCarolus Fridericus Gaussという。
彼は、この第5公準をほかの公準から証明するという既存の枠組みから抜け出し、もしこの第5公準が成り立たない世界(幾何学)を作ったらどのような事が言えるのか、ということを研究した。
革命的なアイデアである。ある定理を証明するために背理法と呼ばれる方法を使うことがある。もし命題Aが正しい(or 正しくない)ということを仮定して、矛盾した結論を導けるのならば、最初の仮定つまりAが正しい(or正しくない)ということが間違っていることとなり、Aが正しくない(or正しい)ということを証明できる。
これを第5公準に適応した結果、驚くべき事実がわかった。
何も矛盾しないのだ。いやむしろ、従来の幾何学に勝るとも劣らない、豊かな数学的が枠組みできあがるではないか!
これをEuclid的な幾何学ではないので、非Euclid幾何学と呼ぶ。
ここまでが、本書の7割。そして後半3割は、この幾何学の物理的な意味である。ここにも天才が二人登場する。PoincareとEinsteinである。
Poincareはその数学的な土台をさらに発展させ、特殊相対性理論に近い理論を築き上げた。Einsteinはいわずもがな歴史的な物理学者である。
彼らの基礎となる数学は実は非Euclid幾何学だったのだ。
これほど2000年間数学的な対象と位置付けられてきた幾何学が、なんと物理学の先端に位置付けられてしまったのだ!
(ちなみに、当時の物理学者は非Euclid幾何学を、複雑怪奇で難解なただの数学の分野の一つとみなして誰も触ろうとしなかったようである。)
そして現代物理学では幾何学は必須の知識として認められており、それどころか高次元(10次元+1時間次元)での幾何学という恐ろしく難しい理論が研究されている。
実際、物理学と数学の境界があいまいになってきており、物理学者のE. Wittenは、数学のNobel賞といわれるFields賞を受賞している。
古代から永遠と探求されてきた純粋数学が、数百年の時を経て全く新しい数学となり、そしてそれが世界を記述する学問になるなんて、なんて素敵な歴史なのだろうか。