自己言及性について (ちくま学芸文庫 ル 7-1)

  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480096777

感想・レビュー・書評

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  • 社会システムで知られるニクラス・ルーマンの自己言及性についてのエッセイ。

    以前「ニクラス・ルーマン入門」を読んだが、冒頭では見事に入門書で一冊かけて触れられた考え方が書かれていた。2冊目であるからかもしれないが、内容は理解できないものの、スムーズには読み進めることができた。
    本書では、ルーマンの独特な用語の使い方や感性の一端にも触れることができる。


    冒頭付近で、オートポイエーシスと要素、コミュニケーションについて以下のように書かれる。

    > オートポイエティック・システムは、単に自己組織的なシステムであるというだけではない。つまり、みずからの構造を生産し、やがて変更するというだけではない、その自己言及は、構造以外の構成要素の産出にも同様にあてはまる。(社会システムのオートポイエーシス p.11)

    > 社会システムは、オートポイエティックな再生産の社会システムに特有の様式としてコミュニケーションを用いる。社会システムの要素は、コミュニケーションであり、このコミュニケーションは、コミュニケーションのネットワークによって回帰的に生産され再生産されるものであって、かかるネットワークの外部では存在することができない。...情報、伝達、そして理解、それらはシステムのーシステムから切り離して存在することのできないー局面であり、それらは、コミュニケーションの過程の内部で、同時に造られる。(社会システムのオートポイエーシス p.12)

    社会システムについて書かれた章では、社会システムと大抵構成要素と見なされる人間について以下のように書かれる。

    > 各々の社会を社会システムとして把握することは、身体と精神を有した人間存在が社会の「構成部分」であるといった伝統的な認識を排除する。...社会システムは、コミュニケーションによって、当該システムを作り上げている出来事(行為)を構成し、相互連結させる。この意味において、社会システムは「オートポイエティック」システムである。(社会システムとしての世界社会 p.195)

    入門書とほぼ同じく、本書でもシステムの対象として考えられているものは、政治、社会、芸術、法である。

    各システムの議論の展開は、既存のシステムの捉えられ方を前提にして考えられているように見えて、例えば社会システムでは人間を構成要素から排除するための議論が展開されているようにどうしても解釈してしまう。
    つまり、人間が構成要素として扱われている社会理論が前提になかったとしても、ルーマンの理論展開は有効なのだろうかという気持ちになってくる。

    途中の文章でポール・ヴァレリーの一節が引用されていることに意外性を感じた。

    > ポール・ヴァレリーの技法を凝らさない定式でいうところの「多くのものとして生まれながら、私は一人のものとして死んだのだ」ーの精緻化とみることもできよう。(個人の個性 p.105)

    上の引用は自己言及的システムがパラドキシカルであることについての記述の中でされている。この辺りでは、もはや使われている用語が日常的な意味を超えてルーマンの理論の一つの概念を指す別の用語になってしまっているように感じて、やきもきする。結局は、日常的な用語のフリをして、一つ一つの用語がすでに多くの他の意味を含んでいるところにルーマンの理論の難しさがあるような気がした。

    他にも手頃な関連書があれば読んで理解を深めたい。

  • 大澤真幸氏の「社会学史」に触発され、ルーマンの著作の中では唯一文庫化されている本書を手に取ったが、半分ほどでギブアップ。内容からみて入門編とはいえないのは承知の上だったが、諸理論の理解をバックアップする具体例が全くないまま抽象的な記述が延々と続き、初学者には誠にハードルが高かった。「ゼマンティク」などのタームの説明も皆無で、何とも無愛想なルーマンのキャラクターがよく伝わってくる。「社会学史」での極めて簡潔な紹介以上に理解が進んだとはいえないが、唯一、ルーマンが社会の中に「特権的な中心」の存在を認めず、多元的な社会の「機能」を起点とし、問題の諸解決法を比較することにより社会システムの構造を考察しようとしているのだということだけは掴むことができたように思う。

  • 高価な書物にも手を出してニクラス・ルーマンを探索しようとしていた矢先、なんとちくま学芸文庫でルーマンの著書が出た。
    本書の原題に「Essays」とあるからエッセイなのかもしれないが、1冊の論考としての一貫性はすくないものの普通の「エッセイ」というニュアンスからはほど遠い難解な学術的論文を集めたものである。ルーマンの思想を多角的に見られるという点で貴重な本といえるかもしれない。
    ルーマンのキー・ターム、たとえば「自己言及性」なんかも、概念それ自体はさほど難しくはないのだが、この概念の活用範囲を拡張し認識を更新していくルーマンのやり方はいつも意表を突く。だから、本当に理解しようとすればどんどん難しくなる。
    本書の中では「芸術」に関する一章に興味を惹かれた。彼は社会システムのなかで自律性を保つサブシステムとして「芸術システム」を考察しようとし、このシステムの最小単位はとりあえず個々の「作品」と措定して、それを巡るコミュニケーションの流動を考察する。
    しかし創作する人間の側から言えば、結果的に出てくる「作品」が「最小単位」ではなく、作品を構築する諸要素こそがそれなのだ。その諸要素間の「コミュニケーション」が創作のプロセスそのものであり、ルーマンにならってそのような創作システムを考え直してみたい。
    とはいえ、そうなると「社会学」の範疇には収まらなくなってしまうので、ルーマンもそれは避けたかったろう。

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著者プロフィール

ニクラス・ルーマン(Niklas Luhmann) 
ビーレフェルト大学名誉教授。1968年から1993年までビーレフェルト大学社会学部教授を務めた。著書は『社会システム』の他、『社会の……』や『社会構造とゼマンティク』のシリーズなど多数。1927年-1998年。


「2020年 『社会システム 下 或る普遍的理論の要綱』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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