- Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
- / ISBN・EAN: 9784480096791
感想・レビュー・書評
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忍耐を要し地道に仕事をすることは正しかった。
華々しく燃えるよりも、しなやかに加工し維持する方が正しいことを知った。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
晶文社(2002)の文庫化
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【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/737976 -
生涯を一介の労働者の身に置きながら、思想家として名を成したという人物は、彼が唯一無二ではないのだろうが、そんな中でもエリック・ホッファーの名がまずもって頭に浮かぶ理由は何だろうか?
私のような、とくに普段から思想書に触れることの少ない立場から言えば、それは何より後続の作家、著名人からの言及の多さに帰結する。中上健次の線から、ホッファーにたどり着いた口である。
すぐれた本は、書かれた当時の時代を鋭く切り裂いて見せるのは勿論、著者が亡くなってしまった後の世に対しても、切れ味が残っていたりする。
文庫で手に取りやすく、価格もそこそこ(むしろ1,000円で手に入る叡智としては最高のコスパか)であるし、著者の入門としては最も良いのではないか。 -
西洋社会におけるアウトサイダーの位置から歴史・文明をとらえた論考。
…というのが直観的な印象。
エリック・ホッファーは沖仲士として働きながら物を書いた人物であり、周縁の者として、大衆に関心をもっているのは一目瞭然である。大衆の青年性、大衆と知識人の対決など。
それは少数者への関心と言いたくなる。世界における例外的な存在である西ヨーロッパ、西洋社会における異端児であるアメリカ、という枠組みで世界をとらえているのだ、と。
なので西洋社会へ乗り込もうとする部外者・日本人にとって響くところがあるのではないかな。
という雑感はともかく、1960年代に書かれたものでありながら2020年代の現在を見通していたような洞察が随所にあって惹かれる。
この1冊で上記のような断定をするのは性急でもったいなく、代表作である『波止場日記』や『自伝』なども読みたくなった。 -
人間を解放する自動化
ロボットや人工知能(AI)による仕事の自動化が大量の失業を生み、社会を崩壊させるという警告をよく聞く。2020年の米大統領選に出馬を表明した民主党候補の一人、実業家のアンドリュー・ヤン氏は、仕事の自動化は米国社会を決定的に崩壊させるリスクがあるとし、それを防ぐために、成人の米国民すべてに無条件で毎月1000ドル(約11万円)のおカネを配るベーシックインカムを提案する。
しかし米国の社会哲学者、エリック・ホッファーの意見は違う。自動化は社会を崩壊させるどころか、人間が労働から解放される楽園に導くという。
本書でホッファーは、失業は必ずしも悪ではないと説く。失業は人間の創造的エネルギーを解き放つきっかけになりうる。その典型は、古代文明における文学の出現である。
文字が発明されたのは、書物を書くためではなく、帳簿をつけるためだった。文字の技術を生業とする書記は官僚であり、何世紀もの間、記録を取り続ける。その書記が作家として物を書き始めたきっかけは、失業だった。
エジプトでは、古代王国の崩壊で広大な官僚組織が瓦解すると、官僚の地位を失った書記の中から、朗々たる文句で国土に降りかかった災禍を記述しようと志す者が現れる。パレスチナでも、中央集権化したソロモン王国が崩壊し、書記が多数失業した後に文学が始まった。中国では周の崩壊後、国は群れをなして放浪する書記で満ちあふれ、文学や哲学にエネルギーを振り向ける。孔子もその一人であった。
ホッファーは、自動化によって大衆が労働から解放されることで、潜在的な創造力を実現できるとみる。文学、美術、科学などの才能は特別な人だけに恵まれているのではなく、一般大衆にもあるという。ルネサンス時代のフィレンツェでは芸術家の数が市民の数より多かったといわれるが、これらの芸術家たちの大半は店主、職人、農民、下士官などの息子だった。
7歳のとき失明し、15歳で突然視力を回復したホッファーは、一度も正規の学校教育を受けず、沖仲仕として長く働く。60歳を過ぎてカリフォルニア大学バークレー校の教授となるが、65歳になるまで港湾労働はやめなかった。
彼が半世紀以上前に本書で示した考察は、インターネットで大衆の創造力が花開く現在を見事に言い当てた。自動化が人間を解放するという予言も、きっと的中するだろう。 -
波止場労働者であり哲学者の作者。フランスの哲学者とは違って言葉は分かりやすく、視点は鋭い。殖民地にされた民族の記述は特に納得。
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『現代という時代の気質』(ちくま学芸文庫)
原題:The Temper of Our Time.
著者:Eric Hoffer (1902-1983)
訳者:柄谷行人(1941-)
【書誌情報】
シリーズ:ちくま学芸文庫
定価:本体1,000円+税
Cコード:0110
整理番号:ホ-19-1
刊行日: 2015/06/10
判型:文庫判
ページ数:192
ISBN:978-4-480-09679-1
JANコード:9784480096791
大学の教壇に立ちながらも若き日から従事してきた港湾労働を続け、「沖仲仕の哲学者」と呼ばれたホッファーによる、地に足の着いた社会批評集。現代という時代は多くの問題を解決してきたように見える。従属を強いられた国や人々に平等な世界への扉を開き、飢餓や貧困を減らす、といったように。しかし掲げられた目標が望ましいものであった場合でも、急激すぎる変化は大きな副作用を引き起こす。ホッファーの見るところ、それがナチズムでありテロリズムであり、経済至上主義であった。社会や人心を冷静に分析し、世の中と、権力と、しなやかに向き合う方法を、省察の人に学ぶ。
http://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480096791/
【簡易目次】
目次 [003]
初出雑誌一覧 [004]
献辞 [005]
序(E・H カリフォルニア州サンフランシスコにて 一九六六年月) 007
I 未成年の時代 013
II オートメーション、余暇、大衆 033
III 黒人変革 059
IV 現代をどう名づけるか 083
V 自然の回復 105
VI 現在についての考察 131
訳注 [149-153]
E・ホッファーについて [155-179]
ちくま学芸文庫版への解説(柄谷行人) [181-184]
【抜き書き】
□p. 48
“〔……〕社会的能力というものは、それが天然資源をいかに効果的に利用するかによってだけでなく、人間資源をどう利用するかによっても測られるからである。〔……〕もし全人口に潜在する才能を目覚めさせ開発しようとするなら、われわれは何が有効、有用、実際的、無駄、などであるかについてもっている概念を改めねばならない。現在までのところこの国では、われわれは時間を浪費するなと警告はされるが、人生を浪費するように育てられているのだ。” -
エリック・ホッファーは気になってたけど初めて読んだ。主に1960年代の論考だが、かなりガツンときた。
「変化」が人間精神に与える影響について。変わるとすれば良い方に変わると疑わず、変革を訴えるおっさん達は全員読んだほうがいい。
知識人・テクノクラート対大衆という1960年代のモデルは果たして現代でも有効なのだろうか、という疑問は持たざるを得なかったが、トランプ大統領騒動を見る限り、半世紀たった今でも大して変わってないようだ。
60年代にオートメーション化によって大量の労働者が失職するだろうという状況とその変化が人間精神にもたらす危機は、AIが多くの職業を不要とするだろうと言うまことしやかな風説を現実に先取りしている。さらに古くは産業革命や農耕開始だってたぶん同じことで、失職よりもドラスティックな変化そのものがいつだって問題だったのだ。
訳者の柄谷行人の解説も良い。 -
〈「文人」として説得の技術にたけているはずの知識人は、政治においてひとたび権力を握るとこの技術を発揮することを拒否する〉
社会哲学者エリック・ホッファーの雑誌への寄稿文のまとめ。
時代は1965年あたりで、アメリカが中心。
産業化の中で、知識人がどのような性質を持つようになったか。自然はどう扱われたか。黒人差別の本質はどこにあるか。
などが書かれています。
差別を受けている!と主張している者は、問題の解決を外部に求めていて、自分たちで栄誉を勝ち取ろうとする気概に欠けている、という記述に興奮。
ズバッと言う人だ。
一読では納得しかねる部分もありましたが、職業的知識人でないアメリカ人から見た社会哲学は貴重かと。