未開社会における性と抑圧 (ちくま学芸文庫)

  • 筑摩書房
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レビュー : 2
  • Amazon.co.jp ・本 (331ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480097750

感想・レビュー・書評

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  • 現代人類学初期の立役者であるマリノフスキーが、フロイトの精神分析理論に真っ向から取り組み、これに人類学的視点からの批判を加えるという、テーマを聞いただけで血湧き肉躍るような興味深い本である。
    初版は1927年だが、それ以前に書かれた前半部と後半部で内容が分かれている。
    マリノフスキーはフロイトの学説に衝撃を受け、大いに敬意を払ったのだが、「エディプス・コンプレックスは、人類のあらゆる文明において普遍的根源的である」とするフロイトの説を修正せざるを得ず、彼への敬意からなかなか歯切れが悪く最後は中途半端な譲歩も示すものの、「性」に関する人類学的考察に関しては一徹に自らの方法を貫いている。
    私見によれば、「トーテムとタブー」(1913)等でフロイトは自らのエディプス・コンプレックス論を普遍的な文化論にまで高めようとするあまり、これを再-神話化し、途方もないようで粗雑な、夢想的な文明論を開陳するに至ってしまう。私もフロイトが現代の知における巨大な偉人であることに異論はないものの、彼の理論はエディプス・コンプレックスにしろ去勢不安にしろ、どうも彼自身のコンプレックスを理論化したもののような気がし、当時のオーストリアの、ユダヤ系の非-貧民層という限定的な状況(社会)においては定式化し得ても、他の時代他の社会においてはそのままに適用できないのではないかという気がしてならない。再-神話化されたエディプス表象も、あまりにもキリスト教的である。
    私のそのような懐疑は、本書のマリノフスキーの「健全な」学術的議論に同調した。マリノフスキー得意のトロブリアンド諸島の女系制社会の描写は冴え渡り興味深く、ヨーロッパ的社会とはまったく異なった「性」の自由なあり方の記述は面白い。
    トロブリアンドでは子ども時代後期からすでに、子どもたちは「自然なままに」互いに性的遊戯を楽しみ、大人や社会がこれを禁圧することはない。この社会で性的抑圧があるとすれば、徹底的に禁忌されている「異性のきょうだいとの性的ニュアンスを伴いかねない親密さ」だけである。
    また、母系制であるトロブリアンド諸島では、父親は子どもたちのよき友人ではあっても権威的存在ではなく、母方の叔父のみが、子に対する強大な権力を持つ。
    こうしたメラネシアの民俗誌はたいへん興味をそそるし、途中で引用される彼らの神話を読むと、レヴィ=ストロースを想起させる部分もあった。
    マリノフスキーは最終的にフロイトよりもシャンドの「情操」論により多く共感したようで、例の「近親相姦の禁忌の絶対的普遍性」という人類学の大問題については、近親相姦というあまりにも例外的な行為が、社会制度およびそれを支える人々の「情操」を破壊してしまうからだ、という、説得力のある仮説を呈示している。
    「本能」は「可塑的」なものであり、社会形成のプロセスによって生物学的欲求は修正されるのであって、人間の「本能」はその結果、決して純-生物学的なものではあり得ない、とする著者の説も正しいような気がする。
    フロイトがどうこうということは置いといて、本書はレヴィ=ストロース以前の人類学として実に充実した名著であり、かけがえのないものだと思う。

  • 原題:Sex and Repression in Savage Society (原著第4版)
    著者:Bronislaw Kasper Malinowski (1884-1942)
    訳者:阿部 年晴 (1938-)
    訳者:真崎 義博 (1947-) 
    デザイン:神田昇和

    【書誌情報】
    シリーズ:ちくま学芸文庫
    定価:本体1,200円+税
    Cコード:0139
    整理番号:マ-42-1
    刊行日: 2017/01/10
    判型:文庫判
    ページ数:336
    ISBN:978-4-480-09775-0
    JANコード:9784480097750

    「エディプス・コンプレックスはあらゆる社会に存在する」とフロイトは説いたが、マリノフスキーはこの仮説に対し民族誌的資料を駆使し、それが近代西欧の家父長制的社会特有の現象であると根底から相対化してみせた。近代的社会人類学の確立者として学説史に不朽の名を刻んだマリノフスキーが、性において人類の内なる自然と文化的力との相互作用のドラマを考察した古典的名著で、家族の起源、近親相姦の禁忌、父系制と母系制との関係等いまだ多くの示唆を与えてくれる。また、文化の概念をはじめ、彼の主要な理論、概念が展望でき、マリノフスキー理解の恰好な入門ともなっている。
    http://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480097750/


    【目次】
    序文(B・M ロンドン経済大学人類学科 1927年2月) [003-008]
    目次 [009-012]
    タイトル [013]
    題辞 [014]

    第一部 コンプレックスの形成 
    I 問題点 015
    II 父権制と母権制における家族 021
    III 家族劇の第一幕 031
    IV 母権制における父性 038
    V 幼児期の性欲 046
    VI 生活の見習い 053
    VII 子供時代後期における性欲 061
    VIII 思春期 072
    IX 母権制のコンプレックス 086


    第二部 伝承の鏡 
    I 母権制におけるコンプレックスと神話 097
    II 疾病と倒錯 098
    III 夢と行為 104
    IV わいせつなものと神話 118


    第三部 精神分析と人類学
    I 精神分析と社会科学との間の裂け目 151
    II 「抑圧されたコンプレックス」 157
    III 文化を生んだ原初のできごと 163
    IV 父親殺しの結果 169
    V 最初の父親殺しの分析 174
    VI コンプレックスか情操か 189


    第四部 本能と文化
    I 自然から文化へ 195
    II 発生期の文化の揺籃としての家族 200
    III 動物と人間における発情と性交 208
    IV 婚姻関係 216
    V 親としての愛 222
    VI 人間における家族のきずなの持続性 232
    VII 人間の本能の可塑性 238
    VIII 本能から情操へ 241
    IX 母子関係と近親相姦への誘惑 254
    X 権威と抑圧 263
    XI 父権と母権 272
    XII 文科とコンプレックス 281

    訳注 [289-206]
    解説(阿部年晴) [297-331]
    I 原著 297
    II 著者 298
    III 本書の構成 300
    IV 主題――文化における性―― 302
    V 文化と性の抑圧 309
    VI 人類進化における性の抑圧 322
    注 329

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