悪について (ちくま学芸文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (235ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480098412

感想・レビュー・書評

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  • 半年くらいかけて読んだ。
    哲学書に分類されるんだろうか。初めて読んでみたのでとことん素人感想…。
    生と死、退行と前進、自己愛と他者愛。
    毎日の暮らしの中でも病んでいる人が多いなあと感じられるような昨今だけれども、こういう風に分析できるのか、と腑に落ちる感じはあった。
    誰もが悪を選ぶ可能性があって、それを自覚する人ほど、人を裁く気にはなれない。
    できれば息がしやすいように、生きていきたいものだなあと思う。こういう哲学の本は、生きる手助けになるのかもしれないなあと思った。

  • 著者は人間を主に、「狼か羊かという問題は、より広く全体的な面から見れば、西洋の神学や哲学的思考の根本的な問題の一つの、特殊な形態にすぎない。旧約聖書では人は基本的に墜落しているという立場はとらない。アダムとイヴの神への不服従は、罪とは呼ばれないーー」と書いている。

    そして「悪とはヒューマニズムの重荷から逃れようとする悲劇的な企みのなかで、自分を見失うことである」とし、解説の出口さんは「フロムは自己防衛、欲求不満、復讐、不信、絶望、憎しみから生じる暴力は真の悪ではないと断じる。」

    ならば真の悪とはなんだろう、著者によれば、ネクロフィリア、ナルシシズム、などが挙げられる。それが本書の前半部になっている。

    後半部は善、と悪、を決定する自由意志の二者択一論になっている。スピノザ、マルクス、フロイト、の懐疑主義でありながら決定論者であった三方を筆頭に著者が論じていく。

    特に後半部が面白かったが、著者の提唱する論には簡単に頷けない部分もあった。それはまだ上手く理解できない部分があるからなのと、私自身の問題でもある。醜いから綺麗だとは思わないが、感情は、思考は、捻じ曲がっている方が自分の嗜好に合う。私がまだ幼いからなのだろう。

  • エーリッヒ・フロムが著した善・悪について著した本書。代表作「愛するという事」の対を成す著作で、人が悪を犯すことはどういうことかに向き合っている。

    主な要約はこうだ。

    主に暴力の分類について
    【一般的な暴力】
    ・遊びの暴力(ゲーム、競技など)
    ・反動的暴力1(脅威を感じたときに発する)
    ・反動的暴力2(欲求不満から破壊衝動に駆られる。羨望、嫉妬も含まれる)
    ・復讐の暴力(被害を受けた後に発する不合理な反応、信頼の崩壊も含む)
    ・深い絶望からの暴力(生そのものを憎む)
    ・補償的暴力(生を愛する能力が無い物が、その補償として破壊性を身に着ける。サディズムが近い)
    ・原初的な暴力(血を流すことで生を実感できる)

    以上は悪であっても、生の目的に役立つ(ように見える)暴力と攻撃性である。しかし下記3点は生と逆行するものであり、本質的な悪である。

    まず、本書では善(生)とは創造的なもの。愛。慈しみ。不確定。未来志向。としており、悪とは生とは反対に人間以前の状態に対抗させるものだ。破壊的。物質的。退行的。としている。

    1.ネクロフィリア
    死体愛好と呼ばれるが、基本的に過去に住んでいる。力(暴力)に惹かれる。ヒトよりモノを愛し、管理したがる。ちょうどナチスのよう。経済的・心理的欠乏がそうさせる。不公平にモノ扱いされて生きると助長される。

    2. ナルシシズム
    いわゆる自己中。すべてが自分の目線のみで、他者の考え・視点が全くない。他人を思うことはなく、自分の評価・安全などばかり気になる。物事を合理的に判断できず、世界と関わらないために孤独になり、孤独を埋めるために自己肥大する。そして自分の自己投影が崩壊することを何より恐れる。良性のナルシシスムは現実により補正されるが、悪性はこの機能がない。

    3.母親への共生的固着
    不確定な未来に踏み出したくない。安心な子宮に戻りたいという欲求。独立心が育たない。理性が偏った価値観に支配される。「他人」を人として経験できない。

    では、それらの悪に対してどのような対処をすればよいか。
    基本的には生を愛し、他人を愛し、自由で独立する「成長のシンドローム」を歩く事。
    人は善・悪両方の特性を持っており、どちらにも転ぶことが出来る。
    まだ傾きが小さいときはどちらの行動も選べるが、傾きが大きくなりすぎると、心は頑なになり、選択の自由はなくなる。

    とても新鮮な考え方だった。
    生(善)は人間的なもの。愛や未来を作ることで、悪はそれを遮り、暗い地面に引きづりこみ、「ヒューマニズムの重みから逃れようとする」という二項対立。
    そしてそれは誰もが持ちうるという事。
    選択するという重要性を改めて感じました。

  • ■ひとことで言うと?
    理性・愛・自由を放棄し、責任から逃れることが「真の悪」である

    ■キーポイント
    - 「真の悪」に陥る条件(衰退のシンドローム)
    - ネクロフィリア:成長しないものへの愛≒支配
    - 創造性の喪失
    - 悪性のナルシシズム:所有物による自己価値の評価
    - 愛の欠落(サディズム/ナルシシズムの傾向)
    - 近親相姦的共生:それ無しでは生きられないという感情的幻想
    - 自由・独立の放棄
    - 回避策
    - 選択肢の自覚
    - 「善」なる行動を選択できることを自覚する
    - 合理的判断
    - 非合理的な情念に反し、理性に従って選択する
    - それらの習慣化
    - 「善」の選択を習慣化し、「悪」の選択肢そのものを意識できなくする

  • 自由からの逃走は読んでないのにこっちを先に読んだ。

    人間が持つ一番の悪は、生の力すなわち創造の力を窒息させ、生そのものを衰退させるもの。そこで彼がキーワードとして挙げている三つが、ネクロフィリア、ナルシシズム、近親相姦的欲望だ。特に、ナルシシズムの章は面白かった。訳者の解説を読むに、ここが結構自由からの逃走と繋がる部分なんだろう。

  • 人間について、「ネクロフィリア、ナルシシズム、近親相姦的固着」の3つが深く関わっており、これら3つの特質が突出したものになるほど、著者が衰退のシンドロームと呼ぶ悪性が形成される。

    もちろん、それほど悪性が強くない人にもこれら3つの特質は多かれ少なかれあり、逆の特質である「バイオフィリア、隣人への愛、独立心」といった成長のシンドロームと呼ぶ良性のバランスがとれているため、悪が表出することはめったにない。

    また、これらは全て個人から表出される特質のように思われるが、国家や民族、血の濃さ等の集団的なものにも当てはめることができ、衰退のシンドロームが集団的なものとなったとき、死や破壊が世界を巻き込むほどの戦争や悲劇を引き起こした。

    戦争のような悲劇は社会的政治的な要因で引き起こされると思いがちだが、個人の心理的要因である衰退のシンドロームが引き金となった結果、それが徐々に大きな集団を形成して発生することもある。なぜなら、集団は個人の集まりであり、決して個人の心理と無関係とは言えないからだ。

  • 精神分析科、心理学者のエーリッヒフロムの書いた著。
    ネクロフィリア、バイオフィリア、ナルシシズムなど通常の生活をしていては決して踏み入れることが無い領域の学習が出来る。

    人間の善と悪、道徳と倫理。
    これらは人間の資質ではない。

  • 最近エーリッヒ・フロムの名をよく目にします。これは何か読まなければと思い、後期の本を選びました。翻訳も解説も読みやすく、ひとの醜い部分をデトックスしてくれる本でした。※個人の感想です。効果には個人差があります。

  • ここ数年の間に起こった様々な出来事(社会的、特に政治的な)を見るにつけ、自分の中に沸き上がった「悪とは何か」という問いは、考えれば考えるほど虚脱感に襲われ、「まあ、俺も人のことを言えるほど聖人君子ではないし」という所に落ち着いてしまっていました。そんな時にこの本を書店で見つけ、すぐに購入。あっという間に読み終えていました。読み進み、時々立ち止まって考え、そして先に進み、ということを繰り返す読書を、久しぶりにしました。最終章の「自由、決定論、二者択一論」は、必読です!!

  • 悪とはヒューマニズムの重荷から逃れようとする悲劇的な営みの中で、自分を見失うこと。
    性善説か性悪説かという議論があるが、人間自体には善悪はなく、善になるための行動と、悪となる手段が存在するだけである。
    最後の自由についての考察が面白かった。
    自由への闘争を読んで、再度この本を読んでみようと思う。

  • 悪に向かう要素
    ①ネクロフィリア
    ②ナルシズム
    ③母親への共生的固着

  • 自己愛パーソナリティ 自己愛

  • 悪について、精神分析の臨床的な視点で語る一冊。
    書かれたのは1960年代ですが、今の世界情勢とぴったり合っているように感じました。
    悪もそこまで行ってしまう過程を、どう考えるべきかの視座を与えてくれます。
    哲学書ほど難解な文章ではないので、できれば学生時代に
    読んで、悪や善、平和とは何かを考えるきっかけにしてほしいです。

  • 『自由からの逃走』の補助テキストって感じ。
    最終章の「悪は人間的な領域を越えて、非人間的な領域へ移ろうとする試みだが、それは実に人間的なことなのだ。(略)悪とはヒューマニズムの重荷から逃れようとする悲劇的な試みのなかで、自分を失うことである」という部分に深くうなずいた。というか前に似たようなことを書いたことあるわ。

    悪の要素として挙げている三つのうち、ナルシシズムとネクロフィリアはとくに身に覚えがある(ネクロフィリアは昔より脱せていると思うが)ので、自分の中にいるそいつらに「いるねえ」って挨拶しながら読んでいる感じだった。近親相姦的な結びつきのところはあんまり理解できていないかも。

  • 精神分析学について詳しくないうえに、「自由からの逃走」を読まずしてこの本を読んだので、多分ほぼ理解できていないと思う。悪というのが「創造する力」=生を衰退させるとのであって、それを誘引するのがナルシシズム、ネクロフィリア、共生的固着である…というところまで。その具体的な内容、どうしてそういう帰結になるのか、は理解できてないのでまた読みたい。

  • 記録

  • 人はそもそも邪悪で堕落しているのか、あるいは人間は善良で完全な存在になりうるのか。

    悪とは、人間以前の状態に退行し、特に人間的なもの──理性、愛、自由──を抹消しようとすること。悪とはヒューマニズムの重荷から逃れようとする悲劇的な試みのなかで、自分を失うこと。

    人類は退行し、かつ前進もする。
    言い方を変えれば、善であり同時に悪でもあるという傾向を持つ。
    両方への傾きのバランスがある程度取れていれば、その人は選ぶ自由を持つ。

    しかしその人の心の傾きのバランスが崩れるほどかたくなになってしまったら、もう選択の自由はない。
    自由を失うような出来事が次々と起こると、最後の決定のときにはもう自由に選択することはできない。

    ほとんどの人は人生に問いかけられているとき、そしてまだ二者択一から選ぶ余地があるとき、そのことに気づかない。
    人が生き方で失敗するのは、生まれつき悪であるとか、 よりよい生活を営むための意志に欠けているからではない。 失敗するのはその人が決定すべき人生の岐路に立っているとき、目を覚ましてそれを理解しないからなのだ。

    私たちは善を選ぶために自覚しなければならない。
    しかし他人の嘆きに、 他人のあたたかい視線に、鳥の歌に、芝の青さに心を動かされる力を失えば、どんな自覚があっても役には立たないだろう。

  • 新訳でわかりやすい日本語になっているとのことだが、心理学も哲学も体系的に学んだことのない私にとっては難解としか言いようのないものだった。原著が書かれたのは1964年、著者自身がイントロダクションで「正統派フロイト派」について「むしろどんな理論でも、六十年の間に変わらないなら、まさにその変わらないと言う事実によって、考案者のオリジナルの理論と同じものではなくなっていると言ってよい」(p.9)と述べている。にもかかわらず60年を経て新訳が出て気づくのは、世界の状況が、キューバ危機がウクライナ戦争になって、それほど変わっていないように見えることだ。もちろん時代遅れになっている部分もあると思うし、それを解決するべく努力している心理学者や哲学者もいるんだろうとは思う。

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/737820

  • 内容が難しく少しずつ読んでいたら読み終わるのに3ヶ月ほどかかった、でも言ってることはわかる(分かり切ってはない)。とても大切な概念で、どうしてこういうことを早く学校などで教えてくれないのかとため息が出そう、になるけど今知れてよかった!知ったもん勝ちじゃないのコレとちょっとはにかんでしまう。
    実際自分の体験に当てはめて、あ〜あのときナルシズム的な悪の方向に染まりつつあったなとか、色々今までの自分に当て嵌めながら読んで少し辛くもなったが、とにかく今この概念を知れて良かったと思うとはにかんでしまう。

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