「きめ方」の論理 (ちくま学芸文庫)

著者 :
  • 筑摩書房
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感想 : 13
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  • Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480098764

作品紹介・あらすじ

ある集団のなかで何かを決定するとき、望ましい方法とはどんなものか。社会的決定をめぐる様々な理論・議論を明快に解きほぐすロングセラー入門書。

感想・レビュー・書評

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  • 意思決定理論に興味があり特に事前情報なく本書を手に取りましたが、文庫にしては恐ろしく中身の詰まった本でした。ここまで中身の濃い書籍は久しぶりで、しかも内容は簡単とは言えずかなり時間をかけてやっと読了しました。本書は「社会決定理論」ということで、ある集団のなかでの意思決定の方法やその良し悪し、落とし穴などを、これでもかというくらいの情報量で解説しています。社会決定理論は、特に数学的な展開という意味ではミクロ経済学、厚生経済学、またゲーム理論(ミクロ経済の一部)など経済学者によって発展されてきた面が強く、本書でも、アローやセン、ハーサニのようなノーベル経済学賞受賞者の理論が多数紹介されています。

    そのなかでもケネス・アローの「一般可能性定理」を本書の基底において議論が進められます。アローは、以下の民主主義の条件をすべて満たす意思決定方式は存在しない、ということを証明したのですが、具体的には(1)個人選好の無制約性、(2)市民の主権性・パレート最適性、(3)無関係対象からの独立性、(4)非独裁制、の4つです(公理と呼ばれています)。言い換えると、(1)~(3)を満たそうとすると、(4)が満たされず独裁者が生まれる、つまりある特定人物の選好が社会全体の意思決定結果になってしまう事態が起こる、ということを示しました。

    またアマルティア・センは、アローの1番目と2番目の公理を満たす社会的決定理論を構築しようとすると、各人にはどんな自由も認められない(例:あおむけで寝るかうつ伏せで寝るかの自由もない)、という「自由のパラドクス」があることを示しました。このパラドクスに対して、センは「パレート最適」の持つ「毒性」に注目します。平たく言えば、みながみな自分の好みを「社会的議論」の土壌に載せてしまうことで、制約が厳しくなり効用レベルのかなり低いパレート最適ができあがってしまう、というような話です。

    そして本書の主張は何かと言えば、これらのパラドクスが起こる根本原因として、人間を利己主義的存在としてみる見方を指摘しています。つまり議論の前提条件が間違っているということで、パレート最適という概念の危うさや、意思決定の「無関係対象からの独立性」という前提が完全に間違っていることを指摘し、これからの社会決定理論は、「社会の目」をもった人間による意思決定理論として進化させなければならない、ということです。私は著者の主張に強く共感しましたが、1点思ったのは、人間は「社会の目」をもつのと同時に「個人の目」も持っていると考える方が正しく、あまりに「社会の目」理論に偏ってしまうと、それは個人主義偏重と同様におかしなパラドクスを生み出すのではないかということです。社会の目を持った人間による意思決定では、ケインズが紹介した「美人コンテスト」のようなことが起こるかもしれません。つまり自分が誰を美人と思うかではなく、周りの人が誰を美人と思うかを予想して投票する、という意思決定です。あまりに社会の目を持ちすぎると、今風に言えば「忖度」が横行し、自分はこう思う、ではなく周りがどう思うかで意思表明してしまう人が増えてしまうかもしれない、という危惧は抱きました。

  • 第54回アワヒニビブリオバトル「選ぶ」で発表された本です。
    20197.02

  • 多数決にせよなんにせよ、いちおうは合意したルールのもとで意思決定を行ったにもかかわらず腑に落ちない。不公平感が漂い、モヤモヤする。それもそのはず、「きめる」ということは難しいのだ。しかも、それは異なる価値観、尺度を有する個々人の間で決めなければならない。
    数式が顔を出し、傍らで「公平とはなにか」というような哲学的問いが投げかけられる本書は難しい。しかし決定論にまつわる研究の一端を知り、この難しい命題に思索を巡らせられるようになるという点だけでも、一読の価値はある。

  • NSGA-Ⅱを使った多目的最適化をやっていて、かつ最近ではDeepLearningにもかぶれているという事もあり、非常に楽しく読めました♪

    前半部分については、目的関数が複数ある命題に対してどうやってただ一つの最適解を定義するかについて記述されており、最適化に関するテクニックではない歴史的な流れを学ぶ事が出来、大満足!後半は後半で、日常生活に落とし込んでの示唆に富んだ楽しい本でした♪

    以下、380ページ目にあった、僕が一番心に残った箇所を抜粋して紹介します☆
    ----------------
    人間を狼だと仮定して考案される仕組みは、どんなに立派に見え、頑強に見えるオリを作ったとしても、どこかに穴があり、別の狼の侵入を防ぎえない。<途中略>人々の倫理性を呼び覚まし、倫理性に訴えて、また、人々の本来の倫理性から来る訴えに耳を傾けて、倫理的社会を構築するための研究をしなければならないのである。

  • 1冊目(1-1)

  • 何について書いてあるか知っておくだけでもプラス。

  • 数式のところは、結構面倒くさいが丁寧に読み進めていくと、よくわかる。どんなきめ方も一長一短があり、そのことを理解して決定内容を見ていきたい。数式がないところだけ読んでもためになる。

  • 過去の読書会課題本。元々、経済数学の入門書として書かれたモノらしい。数学についての本なので、当然数式が出てくるが、読み飛ばしても内容理解が出来るように書かれているので、数式が苦手な人にも面白く読める。本書から、数学で人間の選好や行動原理を説明することの難しさを実感できた。やはり人間の行動には数学的な論理では説明しきれないところが多々あるんだろうということを改めて感じられたので、それなりにいい読書体験になったと思う。

  • 序章 「どうしたらいいと思う?」
    1 投票による決定
    2 民主的決定方式は存在するか―アローの「一般可能性定理」をめぐって
    3 個人の選好に対する社会的規制
    4 個人の自由と社会の決定―自由主義のパラドックスをめぐって
    5 ゲーム理論と社会道徳
    6 「公正な立場」からみた社会的決定の論理
    7 平等な社会と個人の倫理性
    8 多様性の中に調和を―倫理社会の決定理論

    著者:佐伯胖(1939-、岐阜県、認知心理学)

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著者プロフィール

佐伯 胖(さえき ゆたか)
1939年生まれ。専門は認知心理学。ワシントン大学大学院心理学専攻博士課程修了。東京大学・青山学院大学名誉教授。日本認知科学会フェロー、日本教育工学会名誉会員。おもな著書に、『「学び」の構造』、『「きめ方」の論理』、『「わかる」ということの意味』など。訳書にレイヴ+ウェンガー『状況に埋め込まれた学習』などがある。

「2022年 『人を賢くする道具』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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