泉鏡花集: 黒壁 (ちくま文庫 ふ 36-4 文豪怪談傑作選)

著者 :
制作 : 東 雅夫 
  • 筑摩書房
3.70
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本棚登録 : 187
感想 : 14
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  • Amazon.co.jp ・本 (407ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480422446

感想・レビュー・書評

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  • 昨夏、読む気満々で購入しながら一年も寝かせてしまった。
    アンソロジスト東雅夫がセレクトした、鏡花の文庫未収録怪談集。
    鏡花の文章は滑らかで、するする頭に入って来ては
    絢爛なイメージの花を咲かせてくれるのだけど、読み終えるとスーッと潮が引いて、
    ちょっと時間が経ったら、もう内容を思い出せない、なんてことが多い。
    自分だけかもしれないけど(笑)
    でも、この読後の酔い醒めの感覚が好き。
    で、昔はただただ幻想・耽美……と受け止めていたけれど、
    水木しげる『神秘家列伝《其ノ四》』を読んで、
    鏡花が虚弱で神経質で、しかも食にこだわりを持っていたらしいと知って、
    適当に拾い読みなどしてみると、
    期待が外れてガッカリしたとか、美味しくて食べ過ぎて調子を崩したとか、
    確かに食い意地が反映されたエピソードがいろいろあって微笑ましい。
    この本でも「紫障子」にて、主人公が玉子焼でひどい目に遭ったかと思うと、
    切込鍋なる料理の、見た目も美しく、いかにも美味しそうな描写が出てきて、
    読んでいるこちらも味を想像してニマニマしてしまったのだった。
    表題になっている掌編「黒壁」が最もストレートに恐ろしい。
    他は解説に記されているとおり、生理的嫌悪感を催させる不穏な話や
    郷愁と(人外を含む)美しい女性への憧憬が描かれた夢幻的な作品で、
    夜更けに不思議な美女二人組を目撃しておののく「霰ふる」の、
    仲のいい少年たちの会話が可愛らしい。

  • 現世に異界を垣間見るような怪談集
    着物や植物の鮮やかな色が、綺麗な筈の月が、見慣れた筈の日常が燈が気配を変えていく
    平常を保とうとする人と
    空間を侵食していく異質なもの
    じわりとした怖さの中でも鏡花の文章は美しいなぁと思う
    「霰ふる」が好き

  • こよなく怪談噺を愛し、また自身も膨大な数の怪異譚を著した、日本文学史上唯一の別枠で語られるべき文豪・泉鏡花。文庫未収録の作品の中から選りすぐりの怪異譚を収録。読み終える頃には「女怪幻想」の虜になっていることでしょう。

    八犬伝読書の合間合間に読んでたのでおよそ一年から二年ほどかけて読んでました。順番にじゃなくて、短編から優先的に。怪談集と銘打ってあるとおりオール怪談。だいたい女の人の幽霊がでてきたり、あと蛇だったり。蛇。へびへびへび。尼ヶ紅はマムシだけど。嫌いなのに何度も作品のモチーフとして出してるってことは本当に嫌悪してたんだろう。
    正直有名どころは何一つ入ってないので、まさしく鏡花ファンか鏡花に興味ある人じゃないと挑戦できない一冊。まあ私も鏡花ファン気取りながら相変わらず読みにくかったりする。今回も四苦八苦でした。慣れていきたいので今後も継続して読んでいきたいっす。
    怪談小説の他には遺稿も収録してあります。それとは別に談話的な「幼い頃の記憶」というのがあるけどこれがかなり綺麗でどことなく切ない儚い話でこれ読んで「やっぱ鏡花好きやわ……」ってうっとりするんやけどでもあとで難解な文章読んで玉砕するから気をつけろ!いつものことです。「甲乙」「幻往来」「紫障子」辺りが好きです。

  • 中々に読みにくかったですが、慣れてくると文体自体からも怪しさが醸し出される。今には無い雰囲気が、読んでて新鮮でまたゾクっとする怖さもあった。しっかり理解して読めるようになりたい…

  •  再読。1894(明治27)年から1939(昭和14)年、泉鏡花の作家歴ほぼ全期間にわたる「怪談」から抽出したアンソロジー。
     いっときちくま文庫の「泉鏡花集成」を一気に読破したときはこの凝りまくったわがままな文体にも慣れたものだったが、久しぶりに読むとやはりスラスラと読めるものではなく、意味を把握しづらい箇所が沢山あった。殊に鏡花は文章のリズムにこだわっていたようだが、読んでいるとそのリズムに気を取られて文意を頭の中に形成することが疎かになってしまい、センテンスごとに文を読み返すような羽目になる。最近はついに「現代語訳泉鏡花」というものも出版されているのを書店で見かけ、「ああ、やっぱりこうなったか」と思ったものだが、しかし凝りに凝った文章「芸」の結実であるこの文体を味わわなければ、泉鏡花を読んだことにはならないという惜しさをも感じる。
     文体も物語中に展開されるイメージ群も、作家の好みにおいて完全に統合されていて、泉鏡花文学とは立体感とか近代文学的ないわゆる「深み」を欠いた、しかし華麗で魅力溢れる、平べったく厚みのない浮世絵のような世界を構築している。
     そこに出現する女性は、ただ単にそこに存在するというだけで驚異・怪異であり、その他者の「存在」に対峙するおののきから自分の空想が絢爛と溢れてテクストを成す。いつまでもこの原初の「存在」の立ち現れに鏡花は戦慄しており、自ら意図して働きかけることが出来ない。この点、鏡花がひどく恐れていた「蛇」の現出もまた、おなじような痙攣的な「存在」である。
     このように考えてみると鏡花文学のありようが、一種の存在論的な特殊性に見えて来てなかなか面白い。鏡花に限らないが、幽霊談というものは、そういえば、特異なるものの存在についての了解しがたさを巡る痙攣の記述であるのかもしれない。

  • 蛇と美女。泉鏡花の怪談はそのどっちか、もしくは両方が出てくる気がします。蛇は嫌いで怖いもの。美女は綺麗だけど怖いもの。
    この文庫に収められている中だと、行く先々で女の幻を見る「霰ふる」「菊あわせ」が好き。タイトルからして美しいです。

  • やっぱり、最近出たものだと、すらすら読めてペースが狂って、理解できない問題が…、どうしよう。

  • 文庫に収録されなかった鏡花の怪談を集めたもの。わかりやすい恐怖が多かったように思う。情景を想像しながら読むと、激しい炎があがったり血しぶきがとんだりするわけではないが、一種地獄絵図のようなものが垣間見られる。目覚めながらにして見る悪夢、といった風情がある。美しくも恐ろしく、現実であるようだが覚めゆく夢のような、境目のぼんやりとした鏡花の世界。妖麗な文体で様々な怪異を綴る、まさに珠玉の怪談集といったところだろうか。

  • 美しく気味悪く催眠効果の高い怪談集。読んでいるうちにぼんやりしてきて何度も電車のなかでうつらうつら。主語が後回しのくねくねした文章は正直わかりづらくて、これまた何度も前のページに戻らされた。それなのに喚起するイメージはとても鮮やかで、自分が確実になにかを受け取ったことがわかる。ぼうっとしているうちに無意識が鏡花の文章を解釈してくれたような、不思議な感覚を味わった。

    吐き気をテーマにしたアンソロジーがあったらぜひ入れてほしい「紫障子」と「尼ヶ紅」が特によかった。

  • 怪談傑作選といっても、鏡花の代表作はほとんどが妖怪変化の出てくる怪談なわけですから、とりたてて怖いとか珍しいといったことはありません。ただ、これに収められている短編は、鏡花ものによくある「義理人情のわかる物怪」の類いではなく、もうちょっと人間の怨念ぽい、いわゆる普通の幽霊的なのが多かったかな。

    高桟敷/浅茅生/幻往来/柴障子/尼ヶ紅/菊あわせ/霰ふる/甲乙/黒壁/遺稿/幼い頃の記憶

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著者プロフィール

1873(明治6)年〜1939(昭和14)年)、小説家。石川県金沢市下新町出身。
15歳のとき、尾崎紅葉『二人比丘尼色懺悔』に衝撃を受け、17歳で師事。
1893年、京都日出新聞にてデビュー作『冠弥左衛門』を連載。
1894年、父が逝去したことで経済的援助がなくなり、文筆一本で生計を立てる決意をし、『予備兵』『義血侠血』などを執筆。1895年に『夜行巡査』と『外科室』を発表。
脚気を患いながらも精力的に執筆を続け、小説『高野聖』(1900年)、『草迷宮』(1908年)、『由縁の女』(1919年)や戯曲『夜叉ヶ池』(1913年)、『天守物語』(1917年)など、数々の名作を残す。1939年9月、癌性肺腫瘍のため逝去。

「2023年 『処方秘箋  泉 鏡花 幻妖美譚傑作集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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