マイケル・K (ちくま文庫 く 22-1)

  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (286ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480422514

作品紹介・あらすじ

内戦下の南アフリカ。手押し車に病気の母親を乗せて、騒乱のケープタウンから内陸の農場をめざすマイケル。道々待ち受けるさまざまなかたちの暴力にマイケルは抵抗し、自由を渇望する-。全篇を通じ、人間の本質を問いかける緊迫した語りに圧倒される。2003年にノーベル文学賞を受賞した作家クッツェーが、世界的名声を獲得した記念すべき作品。1983年ブッカー賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • 移住に必要な許可は、待てど暮らせど公的機関から発行されない。夜間外出禁止令の禁を破り、徒歩で母親の故郷へ旅立つ男に、数々の困難が立ちはだかる。捕らわれの生活の中で露わになる、管理社会の非人間性。逃れ出て山にこもり野に暮らす生活は、男に安息をもたらすが...。
    寓意的な物語という印象を受ける。解説を読んで気づかされたのだが、発表当時、アパルトヘイト政策化にあった南アでは、抑圧側の組織名は当然出せず、思うところは暗に示す形にならざるを得ない事情があったのだ。その背景を知れば、寓意のマントに隠れて、その実、踏み込んだ内容だと思える。
    男の行動は、何かに反抗するためのものではなく、己が真に求めることを突き詰めていくと社会の要求から逸れていく、という性質のものだ。言葉を変え視点を変え、終始一貫してその事が語られていく。読んでいて引き付けられる力があり、時間が許せば再読したい箇所が、いくつかあった。

  • 途中から難しかったので正しく理解できたか分からない。
    南アフリカで恵まれない境遇に生まれ育ったマイケルが、状況に適合できずにさらに状況を悪くしていく。でも、自分のことは自分ができるところまでは何とかしたい、とはいえどうにもならなくなっても施しやおせっかいは受けたくないという、強さなのかヤケクソなのか希望なのか分からないようなある意味ポジティブな感情を持ち合わせているように感じた。
    三章に別れているが、一章が179ページ、二章が60ページ、三章が19ページと、非常にバランスが偏っている。
    一章はマイケルがついに限界を迎えるまでの物語で、ここは普通に読める。
    物語の舞台が何年頃かは記述がないが、本が出版されたのは1983年で直前にはローデシア紛争が起こっていて、物語内で進行中の戦争はそれではないかと思われる。
    二章はマイケルを受け入れたキャンプの医師に視点が変わる。ここでは主に「マイケルの理解できなさ」が中心になっているようだが、急に文章が長くなり、つながりも分かりにくく、一文一文の意味も取りづらくなってくる。
    三章は再びマイケルの視点に戻るが、文章はやはり難しい。
    何となく自分なりの世界の理解の仕方を見つけて、自分なりの希望を持てたような終わり方ではある。

  • 口唇裂をもって生まれ、子ども時代を施設で過ごし庭園で働いていたマイケル・K。彼は貧困と内戦に蝕まれる都市から脱出し、病んだ母親を手製の車いすに乗せて、彼女が幼年期を過ごしたという地方の農場を目指すが…
    病院や福祉制度、収容所にとらえられては脱け出すマイケルは、生存の限界へと自らの身体を追い詰めながら、他者からの支配を逃れるという一点を譲らない。文中にはいくどか「恥ずかしさ」という文言が現れるが、もしもガーデナーである彼がこの世界における自分の生のありように恥を覚えずにいられないのだとしたら、なぜこのわたしは、こうもたやすく他者からの支配を受け入れながら、恥を感じずに生きていられるのかという問いにとらわれる。反アパルトヘイト文学という枠をはるかに超えて支配と尊厳を問う。

  • 戦争とは全く理不尽極まりなし。社会の片隅で静かに生きていたのに。

  • ブッカー賞、訳:くぼたのぞみ、原書名:LIFE&TIMES OF MICHAEL K(Coetzee,J.M.)

  • p200「ただし、都会の鼠だったために土地か生活の糧を得る術を知らず、ひどい飢餓状態に陥った。そこを幸運にも発見され、また船に引き上げられた。だったら何をそんなに憤慨しなければならない?」

    ノーベル文学賞受賞者の著作ということで。
    獣のような漠然とした力に動かされ、生きて畑を耕し、隠れ、眠る、マイケル・K。戦争や暴力や難民キャンプに巻き込まれた、知恵のない男が、ケープタウンからプリンスアルバートの大地へ。

  • 三部構成。
    ?と?は主人公視点の三人称で淡々と、
    でも畳み掛けるように進む。
    雰囲気は「ガープの世界」と「デイヴィッド・カッパーフィールド」を足して2で割った感じ〜。

    で、だ。「?」よ。
    野垂れ死に寸前の主人公が収容された病院職員が
    彼に惹きつけられていく。あっという間に。
    強引に。ほとんど恋みたいだ。
    ひたむきさが主人公のスタンスと滑稽なくらい対極で、
    この人、これからの人生どうなっちゃうんだろ。
    作者はまったく構ってやる気がなさそうで、
    気の毒〜

    生まれつき障害を持ち、家族とは死に別れ、
    何も待たない最下層の生活をしながら
    (平成ニッポンじゃない、南阿でよ)
    めぐり合う僥倖に目もくれず、
    悪意にも構わずやり過ごし、憑かれたように
    荒野を突き進む。ただここじゃない場所へ。
    この神々しいまでの潔さの眩しいこと。

  • [ 内容 ]
    内戦下の南アフリカ。
    手押し車に病気の母親を乗せて、騒乱のケープタウンから内陸の農場をめざすマイケル。
    道々待ち受けるさまざまなかたちの暴力にマイケルは抵抗し、自由を渇望する―。
    全篇を通じ、人間の本質を問いかける緊迫した語りに圧倒される。
    2003年にノーベル文学賞を受賞した作家クッツェーが、世界的名声を獲得した記念すべき作品。
    1983年ブッカー賞受賞作。

    [ 目次 ]


    [ 問題提起 ]


    [ 結論 ]


    [ コメント ]


    [ 読了した日 ]

  • クッツェーによる移民文学の代表傑作。自由と孤独と虚無の世界に生きるKはこの世界と自分の人生に何の意味も見出さずただそこに生きるともなく生きている。陽炎のようなつかみどころのないKという人間の中に生という営みは結局何なのかという本質的な問題を見る思いがする生々しい作品です。

  • 人間の尊厳。何者にも束縛されない自由への憧れ。なにかに抵抗するとか反抗するとかではない。

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著者プロフィール

1940年、ケープタウン生まれ。ケープタウン大学で文学と数学の学位を取得して渡英、65年に奨学金を得てテキサス大学オースティン校へ、ベケットの文体研究で博士号取得。68年からニューヨーク州立大学で教壇に立つが、永住ビザがおりず、71年に南アフリカに帰国。以後ケープタウン大学を拠点に米国の大学でも教えながら執筆。初の小説『ダスクランズ』を皮切りに、南アフリカや、ヨーロッパと植民地の歴史を遡及し、意表をつく、寓意性に富む作品を発表して南アのCNA賞、仏のフェミナ賞ほか、世界の文学賞を多数受賞。83年『マイケル・K』、99年『恥辱』で英国のブッカー賞を史上初のダブル受賞。03年にノーベル文学賞受賞。02年から南オーストラリアのアデレード郊外に住み、14年から「南の文学」を提唱し、南部アフリカ、オーストラリア、ラテンアメリカ諸国をつなぐ新たな文学活動を展開する。
著書『サマータイム、青年時代、少年時代——辺境からの三つの〈自伝〉』、『スペインの家——三つの物語』、『少年時代の写真』、『鉄の時代』、『モラルの話』、『夷狄を待ちながら』、『イエスの幼子時代』、『イエスの学校時代』など。

「2023年 『ポーランドの人』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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