イギリスだより (ちくま文庫 ち 8-1 カレル・チャペック旅行記コレクション)

  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (254ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480422910

感想・レビュー・書評

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  • チェコのジャーナリスト、小説家であるカレル・チャペックがイギリスに滞在した際のイギリスに関するエッセイ。

    カレル・チャペックについては、全然知らなかったのだけれど、「ロボット」という新語を世に広めた人らしい。へぇ。
    カレル・チャペックの旅行記としては、他に、イタリア、オランダ、スペインなどがあるけれど、この「イギリスだより」は特に好評を得て、人気もあるとのこと。へぇ。

    で、内容だけど、まぁこれが独特の表現で、ユーモアあり、奇抜な言い回しあり、でわかりにくいところも多々あるのだけれど、なんか楽しい。こういう文章をウィットに富むというのだろうか。イギリスやイギリス人に対して、ズバっと毒をはいたりした直後にめっちゃ褒めたりする(笑)

    特に楽しかったところは、チェコという小国から出てきた彼が大都市ロンドンの交通機関やお巡りさんに驚いたりするところと、マダムタッソーろう人形館を訪れるところ。思わずプハっと吹き出しました。

    結局彼は、イギリスびいきで、祖国チェコが大好きってことが、よくわかった。
    本書の最後に収録されているイギリス国民へのラジオ原稿は、ナチス台頭による民主主義の危機と当時のチェコスロバキアへのファシズムの侵略を憂えたチャペックの、イギリス国民へ連帯を呼びかけたもの、とあとがきで知った。
    今のチェコ、イギリスをチャペックが見たら、どう表現するのか、すごく興味がある。

    機会があったら他の国の旅行記も読んでみようと思う。

  • ほぼ100年前の旅行記。
    筆者のカレル・チャペックはチェコ・プラハ出身の、ジャーナリスト・エッセイスト・小説家・劇作家。1924年の5月から7月にかけてイギリス国内を旅する。この間に書いた紀行文がプラハの新聞に連載され好評を博した。それを書籍化したものが本書。
    「あいさつ」と題された、筆者による前書きがある。その中に心を惹かれた文章があったので、少し長くなるが引用したい。イギリスで見た光景を思い浮かべて、筆者が考えたこと、感じたことである。私には、筆者が「旅とは何か」についてを語ってくれているように感じた。
    【引用】
    わたしが思い浮かべるのは、ただ、ケントにある一軒の赤い小さな家である。なんの変哲もない家だった。わたしがその家を見たのは、列車がフォークストンからロンドンへ走っていたときで、ほとんど一秒かそこらである。
    実際にはその家は、一面に茂っていた木のために、ちゃんと見えもしなかった。庭では、老紳士が生け垣を植木ばさみで刈っていて、緑の茂みの反対側では、平坦な道を少女が自転車で走っていた。ただそれだけだった。その少女がきちんとした格好に見えたかどうかも、わからない。その黒服の老紳士が、あるいはその土地の神父だったか、休息中の実業家だったか、それは問題ではない。
    その家には、イギリスの赤い家がみなそうであるように、高い煙突と白い窓があったが、それ以上は語れない。それでも、わたしがイギリスのことをひとり考えるときにはすぐに、ケントにあるそのありふれた家が、園芸用のはさみを手にもった老紳士が、そして熱心にひたすら自転車のペダルを踏む少女の姿が、はっきりと見える。
    そしてわたしはちょっぴりさびしくなりはじめる。わたしは、かの地で、他のさまざまなもの、たとえば、城と公園と波止場とを、イングランド銀行とウェストミンスター寺院を、そして歴史的な記念碑的なものを、あちこちで見た。しかしそれは、わたしにとってイギリスのすべてではない。
    イギリスのすべて、それはただ、あの老紳士と自転車の少女のいた、緑の庭園の中のあの素朴な家なのだ。なぜなのか、それはわからない。わたしはただ、そうなのだと話しているだけである。
    【引用終わり】

    どこかに旅行に、観光に出かける。
    どこでも良いが、筆者に敬意を表してプラハに行ったとしよう。旧市街を見物して、カレル橋を渡り、プラハ城に向かう。素晴らしくきれいな街並みに強い印象を受けるが、あなたがプラハについて思い出すのは、道に迷った際にホテルへの道順を教えてくれた地元の若い人だったり、ホテル周辺の小道にいた迷い犬だったりするかもしれない。そして、道を教えてくれる若い人は、あるいは、小道を歩く迷い犬は、今日もプラハにいるはずだ。そう思うと、家でじっとしているのがいたたまれなくなる。
    私は、上記のカレル・チャペックの文章を読んで、そんなことを感じた。

  • 100年前のチェコ人作家カレルチャペックのイギリス旅行記。
    軽妙な語り口でイギリスを自分の国と比較しながら語る。
    時に称揚し時に皮肉ってみたり、どこか牧歌的な雰囲気が漂っていてのんびりと読むことが出来る。

  • チェコ語で書かれた原典など読むことはできないが、本書の訳文の多彩な文体を見ていると、翻訳大変そうだなあ、と想像できる。

    飄々とした味わい、ちょっぴりの皮肉。
    ペンクラブの招きでのロンドン行きだったそうで、当時のイギリス文人の錚々たる顔ぶれの戯画もある。
    何でも、チャペックをそれまで高く評価していたチェスタートンは、本書p.206の戯画でかなり不愉快になったとか。

    約100年前のイギリス。
    ロンドンの様子は変わったに違いないけれど。
    郊外や地方の町はどれくらい変わったのだろう。
    そして、イングランドの人々が「私たちが行かない所」と言ったアイルランドは。
    チャペックがアイルランドに執心したことにも、どんな思いだったのだろうと考えてしまう。

    チャペックは大英帝国の文化的な支配力にも意識的だった。
    イギリス人はどこへ行ってもイギリスを引きずっている。
    世界各国に小さなイギリスを作ってしまうと。
    外国で自分の文化から抜け出せないというなら、きっと私自身もそうだろう。
    国の力が強ければ、単なる個人の嗜癖も、政治的な意味を帯びかねない。
    難しい問題だ。

    チャペックはイギリス人の島国根性も指摘する。
    そして、無口で非社交的なくせに、時々ユーモアを発動する、とも。
    逆に思う。
    チェコの人はそんなにみんなおしゃべりなのか?
    しかし、チャペックは、そういうチェコ人をとてもあいしているようだ。

    チャペックには他の旅行記もあることを知った。
    よし、じゃあ次はチェコ国内の旅行記を読んでみよう。
    手に入ったら、だけど。

  • チェコの作家カレル・チャペックの
    イギリス旅行記。

    現在でも多くの外国人が集まるような
    観光スポットを訪れているが、
    「外国人ジャーナリスト」である
    彼独自の目のつけどころがあったり、
    ユーモア溢れる文体で(私は偉大なる
    作家に向かって失礼かと思うが、
    「チャーミングな文体」だなぁと
    感じる。)綴るイギリスは
    欠点もあるが愛すべき国であると、
    約十年以上も前に旅した時のことを
    思い出しながら読んだ。

    文頭につけられた「あいさつ」と
    いう文、「旅に出て、私にとって
    心に残るのは有名な観光地ではなく、
    そこで生活を営む人々である。」と
    いった内容の言葉が私の心に刻まれた。

    私達は、
    その人の属する国や社会、団体を
    分析、評価するのではなく、
    その人自身を、
    もう少し言葉にしてみるなら、
    「その人が毎日どのように考え、
    生きているのか、
    その人が愛し、大切にしているものは何なのか」
    を見て、考えて、
    時には自分のそれと比べてみてもいい、
    同じ、似ている、
    まったく違う、わからない・・・、
    どんな感想が生まれても、
    その自分が見つめている相手が、
    自分と同じように、日々儚い、かつ大切な命の
    炎を燃やしているのだということを
    実感するべきだ。

    そして余計な雑音に惑わされず、
    自分が手に入れた実感を、何ものも裏切らない、
    確かなものとして信じればよい。

  • 故郷をこよなく愛するとともに、世界各地の多様な風景・風俗を愛したチャペックは多くの旅行記を遺している。その巧妙でユーモラスな筆致は、深い人間愛と洞察を底に秘め、世界中に今もなおファンが多い。本書は中でも特に評価が高いイギリス滞在記で、1924年にペンクラブ大会参加と大英博覧会取材のため訪れたときのもの。チャペックの「イギリスびいき」ぶりがうかがえる名著。自筆イラスト多数。

著者プロフィール

一八九〇年、東ボヘミア(現在のチェコ)の小さな町マレー・スヴァトニョヴィツェで生まれる。十五歳頃から散文や詩の創作を発表し、プラハのカレル大学で哲学を学ぶ。一九二一年、「人民新聞」に入社。チェコ「第一共和国」時代の文壇・言論界で活躍した。著書に『ロボット』『山椒魚戦争』『ダーシェンカ』など多数。三八年、プラハで死去。兄ヨゼフは特異な画家・詩人として知られ、カレルの生涯の協力者であった。

「2020年 『ロボット RUR』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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