希望格差社会: 「負け組」の絶望感が日本を引き裂く (ちくま文庫 や 32-1)

著者 :
  • 筑摩書房
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本棚登録 : 668
感想 : 72
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  • Amazon.co.jp ・本 (302ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480423085

作品紹介・あらすじ

フリーター、ニート、使い捨ての労働者たち-。職業・家庭・教育のすべてが不安定化しているリスク社会日本で、勝ち組と負け組の格差は救いようなく拡大し、「努力したところで報われない」と感じた人々から希望が消滅していく。将来に希望が持てる人と将来に絶望している人が分裂する「希望格差社会」を克明に描き出し、「格差社会」論の火付け役となった話題書、待望の文庫化。

感想・レビュー・書評

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  • 生活が不安定化するプロセスをリスク化と二極化で捉え、労働・家庭・教育の3つの切り口で明らかにしてくというスタイル。結果として生じる格差には量的(経済的)格差・質的(ステイタス)格差・希望(心理的)格差の3つがあり、著者は希望格差を重視する。それは人は希望によって生きるものであるという著者の信念からのようである。そして希望がない(絶望する)人が多い社会は停滞し、堕落し、社会秩序が保てないと警鐘を鳴らす。(ちなみに他の本では日本人の8割が希望を持っているので絶望している人は2割という説が紹介されている)
    不安定化の背景としては第1に近代化に伴う自由主義の進展がある。自由とリスクはセットなのでリスク化が進行する。結果、運に頼る人がでてくる。第2に冷戦崩壊に伴うグローバル化の進展がある。競争激化によって勝ち組と負け組の二極化が進行する。結果、やる気がなくなり希望もなくし先送りの人生を歩む。しかしながら、政府の政策は昭和的価値観のままであり、時代の変化に対応しておらず負け組をサポートできていない。というのが著者の大まかな主張である。
    著者の主張には今となっては特に目新しいものはないが、よく整理はされている印象を受ける。ただし、16年前の本なので当時はそれなりのインパクトはあったのかもしれない。本書に付け加えるポイントとしてはネット社会の進行と中国の台頭があるだろう。気になる点と言えば、本書の肝でもある「希望」への言及は必要なのか?という点である。1~7章まではデータやそれなりの根拠を持って説明がなされているように思えるのだが、8章以降の希望の話になると演繹的に著者の主観が語られている印象を受ける。これは希望が心理的テーマであるが故に、社会科学的には検証しきれない限界があるからだろうと思われる。
    そもそも、経済格差よりも希望格差の方を重視する著者のスタンスに疑問を感じる。人はパンのみにて生くるものに非ずとは言え、パンがなければ生きてはいけない。やはり経済格差ありきの希望格差であって、根本原因としての経済格差の構造を探究すべきであり、希望格差はあくまでもオマケ程度でしかないのではないか?本書の構成も概ねそのようになっているように思えるのだが、経済格差じゃインパクトがないので希望格差として売り出したのだろうと推察する。結果、オマケがメインのような題名になってしまい、著作全体としての主張がボヤけてしまった印象も受けるのだが、決して悪い本ではないと思う。

  • (「BOOK」データベースより)
    フリーター、ニート、使い捨ての労働者たち―。職業・家庭・教育のすべてが不安定化しているリスク社会日本で、勝ち組と負け組の格差は救いようなく拡大し、「努力したところで報われない」と感じた人々から希望が消滅していく。将来に希望が持てる人と将来に絶望している人が分裂する「希望格差社会」を克明に描き出し、「格差社会」論の火付け役となった話題書、待望の文庫化。

  • 格差社会の到来と言われて久しいが,これまでは格差の実態について,収入などの「量的格差」に議論が向きがちであった。
    しかし本書では,格差の根本にある仕事能力による格差拡大を指摘し,単純労働から抜け出すことができない人の急増,いわゆる「質的格差」の存在を明らかにしている。そしてこの「質的格差」を自覚した人びとが,仕事や将来に対する「希望」を見いだせなくなっているのが現在の日本社会というのだ。
    職業は,人びとにアイデンティティを与える。アイデンティティが見いだせない社会構造はやはり問題であるし,結果的に将来の重大な社会不安定要素に繋がる。これを警鐘した本書の意義は大きい。

    ただ,教育に対する考え方に違和感を感じたこと,重複する説明が多く,無駄に読み疲れたので星3つ。

  • 2024年3月15日読了。

    高校時代の恩師に勧められてから約一年、ようやく読むことができた一冊。

    二〇年前に刊行された書籍であるが、今の時代に繋がる、共通する内容が多々あった。

    格差について興味関心を持っていた私にとって、
    改めて読み返したい本の一つとなった。

  • データに基づいた分析は的確で、20年ほど前のものだが、正に予言のごとく、格差の増大、未婚・離婚の増大・少子化…などその通りの社会になっている。
    ただ、基本的に高度経済成長期の日本社会-サラリーマン専業主婦家庭、1億総中流社会-を安定した「良い」時代のように記載し、その前提が崩れた現代社会をリスクのある不安定な危険な社会という論調には違和感を覚えた。
    能力、やる気、努力の有無など人によって千差万別だし、企業は営利団体なのだから能力の有無によって地位や報酬に差異を設けるのは合理的。
    寧ろ高度経済成長期に能力に関わらず全員を正社員として採用して保護して仕事の出来に関わらず年功序列で給与を上げたから成長しない貧しい国になったのでは?
    格差と騒いでいる人たちはマクロで物事を見過ぎ気がする。個々人の能力や努力(ミクロ)で見ると、やっぱり格差の下に属する人は結局は自己責任なのではないかと思ってしまう。

    あと、宗教が心の拠り所(防波堤)になっていたとの分析はその通りだと思う。自分は無神論者だが、海外の人はほぼ何らかの宗教を信じている。昔、海外旅していた時、あなたは何を信じているか?との質問に無神論者と回答したら「では、何を指針に生きているのか?」と言われたことを思い出した。過激派などに焦点が当たりがちだが、本来的には重要な役割を担っているのかも。

  • まぁ、なるべくしてなっていますよね!
    子どもは4-8個の財布を持って生まれたと言われますが…
    いつまでもあるわけがない。

  • 従来の教育の視点と、本書の教育の視点どちらがいいのかもう一度立ち止まって考えたい。教養を身につけることの意義とは?手段としてだけ考えることは果たしていいのか。人間性の向上の本質的な価値とはなんなのか。

    日本の教育システムであるパイプライン・システムのデメリットばかり強調されているようにいつも感じていた。しかし本書ではなぜ日本の教育が批判されるようになってしまったかについてまでしっかり触れていたため、とても良かった。改めて日本の教育システムを中立的に、メリットについてもしっかりとらえたいと思った。

  • 「パラサイト・シングル」の中には私ももちろん含まれるし、「親に寄生してるのをいいことにリッチな生活を送る独身者」という表現を何度も読むことになった。

    19年ほど前の本だけど、私の行動原理についてはほぼ予言されていた。

    つまり未来に希望を見出せない人間は未来と向き合う苦しみから逃れようとし、逃避する行動に出る。

    酒やセックス、(それならまだいい。ドラッグにハマるとヤバいと書いてあった)そして追っかけなど。

    まるで私…まさしく私だ。

    推しを追っかけて、日々酒を飲んで逃避している…そうしてないととても耐えられない…耐えたことがほぼないからわからないけど、耐えたくない!

    自殺者の増加についても触れている。

    高水準を維持したままの自殺率。

    私が今死なないのは死ぬと色々とまずい気がするからだし、生きる楽しみだってたくさん見つけられたから…
    不思議と生きる楽しみなんていつもあったはずだけど、死ねば今読んでる漫画の最新刊も気になる映画も全部なくなってしまうのに、私が飛び降りた時はそんなの気にも留めなかったな。

    ただ離婚したらその結婚のために用意したお金は全部無駄になるみたいな言い方はあんまり好きじゃなかったかも。

    パラサイト・シングルとしての行動についてだいたい言い当てられた気がする点で、私はこの本を手に取ってみてよかった。

  • beggars description!

  • 分析の根底にある企業社会に対する認識がハッキリとせず、多くが社会の変化としか記されないのだが、特に既存企業の時代遅れ感などには触れないので肯定的なのであろう。しかし「パイプライン」の先にあるはずの日本企業は本来なら様々な職種で支払われるはずであった賃金をかき集め、仕事の淘汰をしたにも関わらず将来が展望できるような実績を生み出せてはいない、つまり儲からないのに生き残っている結果を企業社会の基準にとらえている限り日本には何の希望もなくなるだろう。公的支援を施すと同時に、喰える世の中作りに進む施策が必要であろう。それは大企業や公務員支援でないのは確かである

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著者プロフィール

大阪府出身。京都大学法学部卒。華々しい英雄伝が好きですが、裏話的なテーマも、人物の個性をあぶり出してくれるので、割と嗜みます。著書に『世界ナンバー2列伝』(社会評論社)など。

「2016年 『童貞の世界史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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