文章読本さん江 (ちくま文庫 さ 13-4)

著者 :
  • 筑摩書房
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感想 : 34
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  • Amazon.co.jp ・本 (366ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480424037

感想・レビュー・書評

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  • 一言で言うと文章読本というジャンルをこきおろしている批評。

    構成として、
    ①「文章読本」というジャンル解説、
    ②日本の作文教育の歴史、
    ③日本の学校の作文文化に対するアンチテーゼとして成り立つ文章読本、
    の三つで成り立つ。

    著者のものすごい読書量(“掃いて捨てるほどある”と著者も言う文章読本を片っ端から読んでいる?!)に圧倒され、文章読本の派閥を歴史的経緯に紐づけて解剖する鮮やかな批評手腕があっぱれだった。

    本書の主題ではないものの日本の作文教育に興味を持っていたので、②が特に面白かった。
    日本の作文教育については、アメリカ・フランス・ロシアの作文教育に比べて文章の構成についての解説が脆弱なのではないかと感じていたのだけど、
    ・その理由の一端がわかった
    ・一方で、言語というのは文化と表裏一体なので、作文の構成が弱いのは教育の問題ではなく文化的なものなんだなとも思って納得した。

    本書によると、日本の作文教育は、長らく伝達か表現かどちらを重視するかでせめぎ合ってきたが、明治までの過度に形式的な書き言葉の伝統を嫌って、「思った通りに」「あるがままに」書く随筆的/私小説的な作文(=表現志向)の方向に大きく舵を切り直して今に至っている。

    感想
    ・森鴎外(江戸時代の終わりの生まれ)はどうしてあんなに格式高い漢文調の文章が書けるんだろうと思っていたけど、受けてきた教育の違いだったのか、と思った。
    ・読書感想文の文章はなんて随筆的なんだろうと思っていたけど、伝達よりも表現を重視した情緒的な作文教育の流れに沿っているだからだったのかと納得した。
    ・いずれにしても日本の作文文化は過度に形式的・規範的な書き言葉の文章、または情緒的で随筆/私小説的な文章の2パターンの間のせめぎ合いだということがわかり、それらはいずれも他国と思想を異にする作文志向だなと思った。

    参考
    アメリカの作文教育(人伝に聞いた話)
    →伝わりやすい文章の書き方に主眼を置いた作法が教えられる
    フランスの作文教育(『哲学する子どもたち』より)
    →哲学教育がだいじな土壌→自分の意見を論証する作法が教えられる
    ロシアの作文教育(『不実な美女が貞淑な醜女か』より)
    →国語の授業では文学を大切にする→テキストの構造図(コンテ)を書きだしてから文章を綴る作法が教えられる

  • 良書とは、自分がうっすら疑問に感じていたことを明快に解説してくれる本。
    やはりそうですよね斎藤先生、と言いたくなるような解釈と論拠、さすがである。

    谷崎、三島の文章読本をはじめ、気持ちいいくらい名著と言われてきた本たちを一刀両断にしていく。

    いつか読もうかと本棚に置いてあった谷崎、三島の文章読本も、ようやくもういいかなと吹っ切らせてくれた本。

  • 巷間に溢れる「文章読本」の類を、その広範な資料の精査から歴史的に吟味し、その意図するところが奈辺にあるのかを暴き出している。快著である。

  • 笑い飛ばせる部分と、謎解きに当たる部分と、それぞれ巧みだなあというのが率直な感想。

    嬉々として、文章の真髄を下々に授けようと力む「サムライ」たちが、ついついウンチクを垂れてしまう理由が、歴史を背景にして語られてしまう。その料理のされっぷりが気の毒なところと、背景の分析が勉強になるところと、この二点が本書の白眉。

  • writing

  • 解説:高橋源一郎・山崎浩一・石原千秋・中条省平、小林秀雄賞

  • 某氏にいただく。2002年刊、文庫化は2007年。こんなおもしろい本があるとは知らなかった。自分が清水幾太郎ー本多勝一路線にあることがよくわかった(もっと言えば、「わかりやすく書けないならば、豆腐の角に頭をぶつけて死んだ方がまし」という分析哲学の末裔でもある)。
    貴族高踏名文派と民主シンプル派との階級闘争という対立図式を明確にした第一部と第二部が圧巻。ここまでを読めば文章の勉強用にもなる。ただ、その背景説明を明治にまで戻ってやっている第三部と第四部はまあ時間があれば読めばよい感じ。
    この手の本だから指摘しておくが、82頁の「精神状態を類推すると」の「類推」の使い方がおかしい気がする。「推測」でよいのではないか。







    る)。

  • なるほどごもっとも。確かにそうだ。いろんな文章読本を読んでいて漠然と感じていたことをズバリ言い当てている。痛快。階級闘争に持ち込んだところは素晴らしい。
    でもそれは最初だけ。終始揶揄。からかいの連続。スパイス程度に出てくれば、権威へ矢を射るようで痛快だが、絶え間なく聞かされると悲しくなってくる。とにかく目に見えるもの、耳に入るもの全てを揶揄する。読み続けるのが次第に苦痛になってきた。ユーモアも嫌味に変わってくる。
    それでも最後まで読み通したのは何がいいたいのか知りたかったからだ。これだけ罵詈雑言を並べるだけでは終わるまいと期待したからだ。御高説ごもっともの連続なので本当に期待した。
    結論は月並み。というかケースバイケースですよね、と主張のない、その場を丸く納めるための結論。これだけ文章読本を罵倒しておいて、最後の数ページだけ自分も御高説を垂れる。しかも逃げ場を作っておく。だってケースバイケースですもの。
    文章読本の歴史を文章会の階級闘争の歴史で終わらせておけばよかったのに、自ら読本してしまった。

  • 【引用】
    ・衣装が身体の包み紙なら、文章は思想の包み紙である。着飾る対象が「思想」だから上等そうな気がするだけで、要は一張羅でドレスアップした自分(の思想)を人に見せて褒められたいってことでしょう?

    ・「文は服である」のアナロジーでいえば、「名文」ならぬ「ウケる文章(衣装)」を目指してみんながコスプレに励む、そんな時代になったのかもしれない。

  • 「文章読本」を皮肉っている本。
    ドヤ顔で「文章たるもの」を語っている本を、こうして面白く分類して冷静に突っ込みを入れられてしまうと、その威厳がかえって黒歴史的な恥ずかしさに変わるだろう。「良い文章とは」という歴史も知ることができた。

    まともな「文章読本」の人たちも自分の経験的エッセイやお気に入り文集などにしないで書けばいいのに。
    わたし谷崎潤一郎の文章読本好きですが・・・

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著者プロフィール

1956年新潟市生まれ。文芸評論家。1994年『妊娠小説』(筑摩書房)でデビュー。2002年『文章読本さん江』(筑摩書房)で小林秀雄賞。他の著書に『紅一点論』『趣味は読書。』『モダンガール論』『本の本』『学校が教えないほんとうの政治の話』『日本の同時代小説』『中古典のすすめ』等多数。

「2020年 『忖度しません』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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