兎とよばれた女 (ちくま文庫 や 3-2)

著者 :
  • 筑摩書房
3.67
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本棚登録 : 272
感想 : 33
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  • Amazon.co.jp ・本 (190ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480424440

感想・レビュー・書評

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  • 再読。
    そういえばこれにもプラトンの『饗宴』的な話が出てきたなぁ、と。
    謎が謎を呼ぶメタ構造。改めて読んでみるとまた新たな発見があって面白かった。

    恥を承知で書くなら、これはわたしの物語。
    もっとも、わたしは矢川澄子ではないし、ましてや兎でも翼を持った女でもないが、それでもこれは確かにわたしの物語なのだ。


    度々使われる「赤裸」という言葉に、皮を剥がれた因幡の白兎の姿を象徴的に感じ取った。
    女性としての哀しみ。
    届かない想い。
    あまりにも著者が登場人物に自己を投影しすぎていて、いたたまれない。

    「神さまはまさしく兎のすべてでした。」
    すでに失った世界を手にするように、あるいは欠けている何かを求めるように、愛す。
    ほんの少しの既視感。
    最後の最後に兎は救われたような心地になる。
    これはあくまで物語だから。
    矢川女史、貴女は一体どんな思いで自死を選んだのですか。

  • 著者の結婚生活については
    読書好きの間に広く知られているので、
    本文中、暗に仄めかされることが何を指しているのか
    見当がついてしまうため、読んでいて気分が重くなった。

    神様と兎の住む小さな島国、仮称「スミの国」にて、
    神様は男性として魅力的だが我儘で尊大で、
    兎を振り回し、苦しめる。
    兎は神様との性愛に溺れるせいもあって
    マゾヒスティックな快楽を味わいつつ、しかし、
    自分の人生はこのままでいいのだろうかと疑問を抱き始めた……

    というお話なのだが、
    実体験を象徴化して小説として結実させようというには
    練りが足りないというか、
    実際「結の巻」と題されたパートでは
    メタフィクショナルな強引な説明を試みているし、
    これは実話ベースなんだよ、理解して!
    と訴えたいのだとしたら、
    オブラートにくるみ過ぎていて生ぬるいし……。

    もっとも、恋愛至上主義者で、かつ、
    自己陶酔型の女性読者の心には
    強く響く作品なのかもしれない(我ハ然二非ズ)。

  • 実験的な構成で、お伽話のように書かれているが結婚、妊娠、堕胎などについて作者が頭のなかでぐるぐる自問自答している過程がそのまま描かれているような箇所もあり妙に生々しい。こういう片足だけハイヒールの踵が取れてるような情念は痛々しくて目を背けたくなる。
    でも、そこが魅力でもあるのかもしれないけれど。

  • 最近新しく編集された矢川澄子のエッセイ集を読んだので、そういえば1冊本があったはずと思いだして本棚を漁り再読。初読の感想を書いていなかったので、うっすらと可哀想な女の人のファンタジーというような印象だけしか残っていなかった。

    改めて読むと、全く刺さる部分がなくて逆にびっくり(失敬)あまりにも私小説的な内容で、それを寓話的にオブラートしようとしているが成功していない。どうせなら赤裸々に全部実名で書いたほうがマシなんじゃないかというくらい、比喩が露骨でミエミエなのに、寓話の皮をかぶせているのがかえって鼻につく。

    唐突な「かぐや姫に関するノート」の挿入、急に祖父母の霊が出てきて結末に介入するくだりなどもメタとはいえ無理があり、作品としてお世辞にも完成度が高いとはいえない。

    何より「無理」と思ったのは、この主人公が思う「女らしさ」とはしょせん男性に依存して生きていくことに集約されている点。頼りになる支配的な男性の庇護下に基本的には居たい、相手に気に入られるよう人形のように自分を殺し従う(彼女が何度も堕胎させられたことを読者は知っている)それを「好きだったの!」でまとめられてもなあ…っていう。若い頃なら多少共感できたかもしれないけれど今はもう無理。

    急に二階堂奥歯の「八本脚の蝶」を思い出した。彼女も似た傾向があったかもしれないけれど、フェミニズムについてもっと自覚的かつ客観的だった。世代の違いだろうか。矢川澄子は結局古くさい男尊女卑的な価値観から逃れられず、むしろ自らすすんでその中に身を置いたかのような印象を受けた。

    ※目次
    序章 翼/いまはむかし 神さまと兎の住む小さな島国の物語(起の巻/承の巻/転の巻/かぐや姫に関するノート/転の巻つづき/さらに転ずるの巻/結の巻 もしくは幽界にての対話)/終章 兎とよばれた女

  • こういうのやだなとなんとなく思う。

  • 幻想的で殆ど体裁としては寓話なんだけど、全体に漂う生々しさはなんなんだろう。今読んでもなお実験用だと思う。
    西岡兄弟の扉絵も内容にぴったり。

    つまりはあらゆる意味で痛いってことなんだろうけど。

    • 美希さん
      >nyancomaruさん☆

      創作もすごいですよ。
      なぜか技巧にこだわる私もうなりました。
      あざとさとスマートのぎりぎりの表現といった感じ...
      >nyancomaruさん☆

      創作もすごいですよ。
      なぜか技巧にこだわる私もうなりました。
      あざとさとスマートのぎりぎりの表現といった感じ。でも痛々しさもあって私の好みでした。
      2012/10/03
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「あざとさとスマートのぎりぎり」
      何となく判るような、、、
      創作で文庫になってるのは、これだけみたいなので読んでみようかな。。。
      「あざとさとスマートのぎりぎり」
      何となく判るような、、、
      創作で文庫になってるのは、これだけみたいなので読んでみようかな。。。
      2012/10/09
    • 美希さん
      >nyancomaruさん☆

      ぜひ読んでみてください♪
      >nyancomaruさん☆

      ぜひ読んでみてください♪
      2012/10/10
  • 素人が言うのもなんだけど、才能のある人なんだろうな。
    悲しい語りだった。

    あまり現実的な事柄と結びつけないようにして読んだ。けれど大人のおとぎ話ほどグロテスクに感じてしまうものはない。筆致の美しさに救われている。

  • 日本書紀の因幡の白兎あたりをベースに、ローマ神話や聖書などを絡めつつ、古今東西の昔話などの解釈を交えて進むファンタジー。

    良く言えば神秘的、悪く言えば荒唐無稽で、神話だの竹取物語を解釈したものを加えていくというスタイル。挙げ句に最終的に作者や読者まで登場させるのだが、結局最初から最後まで、パロディーとして楽しんでいいものか、真面目に書いているのか、それとも何も考えずにいきあたりばったりなのか、理解に苦しむ。

    語彙力はそこそこあるようなのだが、同じような表現が繰り返し使われ、必要以上にひらがなばかりなど、平易に書いているのか、計算なのかどうなのか。

    世界観がひっくり返ったり、神という名で作者の手の内を明かしたりという小説には比較的慣れていると思うのだが、なんとも退屈に感じたのは、「何がどうした」という動きがなく、ひたすら状況を述べているからだけなのだと思う。

    詩人ということで、詩的という解釈もあろうが、個人的には好きになれないたぐいの文章である。

  • 再読了。こころが、とてもひりひりした。
    一読目には足りなかった理解や思索が、少しだけ育っているように感じた。
    一章ごとに、共感(だろうか?)と痛みが、線を引いたり砂を重ねたりするように積まれてゆく、と思った。よろこびがともにあると信じたい、けれどそのよろこびは、それこそ「かぐやのかつてあった国」のように、此の世とは絶対的な段を隔てた場所にしか、ほんとうはない。
    求めて寄添い、よろこびのうつそみを得こそすれ、とどくことはない。言うなれば(やや秩序的な風になってしまうが)よろこび/しあわせのイデアが、永遠に届かず魂を渴かせるようなもの、だろうか。また、世において女、替えようのないじぶんであることが、囚人の桎の錘にも似て飛翔を妨げている、と感ずる。
    求めずにいられないが、求めたものは、与えられ手にし得たものとはいつもどこかずれている、とも。とてもせつない。
    解説に挙げられた一句が、つきん、と胸を痛めてきた。

  • 2015/05

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著者プロフィール

東京生まれ。東京大学文学部美学美術史学科中退。著書に『架空の庭』『わたしのメルヘン散歩』、翻訳書に『おばけリンゴ』(福音館書店)、『キスなんて大きらい』(文化出版局)、「ババール」のシリーズ(評論社)ほか多数。

「2018年 『タイコたたきの夢』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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