岡本かの子 (ちくま日本文学)

著者 :
  • 筑摩書房
3.64
  • (4)
  • (11)
  • (12)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 128
レビュー : 12
  • Amazon.co.jp ・本 (476ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480425676

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
  • 一週間ほど前に読了した、岡本かの子の金魚撩乱(Kindle版)の他にも作品をまとめて読んでみたくなり、本書を注文し直ぐに読んでみました。

    短編は9作品収録。

    【 鯉魚 】
    「判った。だが、昭公が一緒に居たのは誰と、おなごかな。鯉魚をおなごと見誤ったのではないかな」(P18)
    修行僧の身で姫と川で行水してしまった昭青年。
    寺の僧達に見つかってしまい処罰を受けるのか?

    【 渾沌未分 】
    東京下町の水泳場で泳法を教えている父と娘の小初は、東京の真ん中で生きていきたいこだわりがある。
    しかし、水泳場は経営難。なにかと無償で世話をしてくれる材木屋の五十男 貝原から妾になれと要求される。

    【 金魚撩乱 】
    幼馴染の復一と真佐子。
    家柄の違いから真佐子とは結ばれない運命。
    金魚家の倅、復一は一生かけて真佐子を彷彿とさせる金魚を創り上げようとする。

    【 みちのく 】
    東北地方では有名な“四郎馬鹿”。
    白痴の四郎は商家の店先に来ては、せっせと掃く。
    するとたちまち店は繁盛するとの噂が広がった。
    呉服店の老舗の娘 お蘭の傍に居ることに満足げな四郎は、お蘭を嫁にもらいたいと言い出す。

    【 鮨 】
    鮨屋の娘 ともよは常連客の紳士 湊が気になる。
    湊が鮨を食べにくる理由を、ともよは知りたくて聞き出す。
    幼少の頃、偏食だった自分を母親の愛情で救われたとのエピソードは鮨にまつわるものであった。

    【 家霊 】
    「妙だね この家は、おかみさんになるものは代々、亭主に放蕩されるんだがね。あたしのお母さんも、それからお祖母さんもさ。(中略)それとまた妙なもので、誰か いのちを籠めて慰めてくれるものが出来るんだね。お母さんにもそれがあったし、お祖母さんにもそれがあった・・…」(P204)
    どじょう屋の店名は“いのち”という。
    病弱な母の代わりに店に立つ くめ子。
    彫金師の老人の溜まったツケに、やきもきするのだが。

    【 老妓抄 】
    若い芸妓たちから慕われている老妓の小その。
    彼女は発明家の卵 柚木のパトロンとなり、好き放題なことをさせて楽しんでいる。
    不思議に感じた柚木。小そのの養女みち子と縁付かせようというのか。

    【 河明り 】
    書いている途中の物語がうまく進まないので環境を変えようと河沿いの部屋を借りることにした。
    その部屋を切り盛りしている娘には、なかなか結婚出来ずにいる想い人がいるようで。
    男を追って舞台はシンガポールへ。

    【 雛妓 】
    父親が亡くなり家の浮沈に杞憂する。
    夫と供に不忍池の料亭にやってきた かの子は雛妓で同じ名前のかの子と出会う。
    「奥さまのかの子さーん」
    「お雛妓さんのかの子さーん」
    「かの子さーん」
    「かの子さーん」(P402)
    二人は心を通わせ母娘になろうと契ったが、娘はその後…。


    【 短歌 】
    ・かろきねたみより
    ・愛のなやみより
    ・浴身より
    ・わが最終歌集より


    【 太郎への手紙より 】
    言わずと知れた、かの子の息子 岡本太郎がパリへ留学中に、かの子が宛てた手紙。
    ちょうど、かの子が小説に専念した頃のようで、世間に認められつつあるとか、ビンボーだけども日本一のウナギ屋には毎週 通っているとか、太郎に近況報告。
    寂しいのか手紙ちょうだいとせがむ母親だ。
    脳充血の発作にみまわれながらも、晩年の四年足らずで多くの作品を遺している。

    かの子さんのDNAは「芸術は爆発だ」の太郎さんへ、しっかりと引継がれている。

  • 「金魚撩乱」を論じた文章を読んで興味を持った。
    崖上の邸に住む娘に秘めた恋情を抱き続ける、崖下の金魚飼育商の家の息子の子供時代からの半生を描いた物語。やがて男は叶わぬ想いを、彼女に擬した美しい金魚を自らの手で創り出すことに打ち込もうと心に定める。叶わぬ恋情に人生を捧げた一途な物語とも、妄執に憑かれた滑稽で憐れな男の物語とも取れる。また自らの手で交配を繰り返し、今までにない美しき生命を創り出そうとする男の精神は、ある意味グロテスクでもある。十数年を費やした男の努力を大雨が洗い流してしまった翌朝、放心の後の男が目にするのは、失敗作として投げ入れ放置し続けていた池の中に悠然と游ぐ美しい金魚。それは自分が思い描いていた理想を超えて美しかった。果してそれは男にとって福音なのか、ただ悠揚と游ぐ金魚が象徴的。
    他に短いけれど「みちのく」がよかったのと、「解説」にも引かれているけれど、「老妓抄」の末尾に詠われている「年々にわが悲しみは深くしていよよ華やぐいのちなりけり」という歌が印象に残った。品のある文章に感じられた。

  • 中央アジアから日本への帰路につき、サンクトペテルブルクにてトランジットの際、長旅に疲れた身体で久々にちゃんと本を読もうかと岡本かの子の短編集を開いた。すると1話目の1行目に
    「京都の嵐山の前を流れる大堰川には、雅びた渡月橋が架かっています。」
    ときた。
    心底驚いた。私の自宅から徒歩5分の風景の描写が、ちょうど旅を終えようとする私の身をも心をも故国へと引きつけた。岡本かの子が私の帰路を導くかのよう。こんな場所でこんな文章に出逢うなんて、きっと何か私と彼女を結びつける偶然ではない大きな力が働いているのだと思った。こんな表現は大げさすぎるようだが、そもそも岡本かの子(そして太郎)ほど大仰な人はいないのだから私のこのくらいは許されるだろう。

    上にあげた「鯉魚」は良い。
    「混沌未分」
    「鮨」
    「老妓抄」
    そして一連の 太郎への手紙。
    小説はどれも、言葉にならない微妙な思いを言語で確かに記述する力に驚かされる。初めて「鮨」や「老妓抄」を読んだときと同じ箇所、同じ文章で私の胸は震えた。私は、かの子の文章は外国語に翻訳できないのではないかと思う。こんな繊細微妙な感情を他の言語に移すすべが全くわからない。
    太郎の手紙はいつ見ても微笑ましい。どう見ても母親のものではない、ありったけの愛。これを全面的に受け止める太郎の方もやはり相当な器の持ち主なのだと思わされる。

  • たしか高校生の頃に国語の問題文で読み、妙な気持ち悪さが強く印象に残った作品。その気持ち悪さゆえ、快不快はともかく深く刺さるものがあったように思い、再読。問題文として切り取られていない全部を読むと味わい深い。若くして聡いともよの目を通して見る湊先生の哀愁はとても情緒にあふれている。夏をともよの若さに、病院の跡地を湊先生の実家、日暮れを湊先生の現在に、電車を過ぎゆく時間にたとえ、また二人を一部重ねながらも描き分けているように見える。

  • 脳内の想像というスクリーンに、唐突に極彩色の「美」が無限に広がっていく感じ...。
    紙に言葉が書いてあるだけなんですけどね。すごいですねえ。

    「金魚繚乱」が、読書会の課題で、この本を読んでみました。
    岡本かの子さんは、名前だけ知っていて、全く読んだことがなく。「げーじゅつは爆発だ」の岡本太郎さんのお母さん。
    戦争で日本全体がぐだぐだになってしまう直前、昭和14年(1939年)に、50歳で脳の出血か何かで急逝したそうです。
    小説を書く、という意味では晩年の3~4年間だけだったそうですね。
    ただ、その前から、文化的タレントさんではあったようです。
    もともとご主人がその時代に有名な漫画家さんだったそうで、文壇人とも付き合いがあって、小説を書く前から、なにやら「仏教を語る文化人」として本は出していたようです。
    それから、短歌も。

    この本は、ちくま日本文学シリーズです。安野光雅さんの装丁が好きです。
    内容は、

    「鯉魚」「渾沌未分」「金魚繚乱」「みちのく」「鮨」「家霊」「老妓抄」 (ここまでは基本的に短編)

    「河明り」「雛妓」 (これはけっこう中編で、割愛。読んでいません)

    「短歌」 (ちゃんと読んでません)

    「太郎への手紙」 (読みました)

    ####################

    「濃ゆいなあ」という印象。「良く出来てるなあ」とも。
    芥川龍之介、川端康成、谷崎潤一郎...
    そんなあたりの影響があるなあ、と思いました。
    (そんなときにいっつもつい、泉鏡花ってオリジナルで凄いなあ、と思ってしまいます。オリジナルっていうか、江戸と近代文学をヌエのように合体させてるセンスっていうか。以上脱線)

    上手く書けています。一生懸命書いている。言葉の使い方に、センスがある。

    一方で、作品によっては、ちょっとなんというか...アマチュアっぽい。ゆとりが少ない。ユーモアが少ない。
    なんていうか...肩の力が入りすぎている感じ...

    作品によりますが、書き手のニンゲンの、妄執的な「芸術至上主義」。耽美。ちょっと強迫観念。
    だから、恐れずに言うと、「岡本かの子」という変わったヒトのドキュメントとして、面白かった。

    そして、そういう方向性で言うと、「太郎への手紙」がいちばん面白かったかも。
    これはつまり、母親として、かの子さんが、青年・岡本太郎さんに送った私信です。セキララです。こんなお母さんがいたら、いやあ、普通はなんていうか、食傷してげっぷがでそう...。
    とっても日本人離れした直情的で感情ゆたかな物言いに、身も蓋もない母としての執着と、まるで友に恋人に話すような自分のエゴのさらけ出し。
    これは、すごかった。

    ネタバレしながら、備忘録的に各編。

    ●「鯉魚」...室町時代。禅寺。青年僧と、落魄放浪中の貴族娘の許されない恋。見つかって責められる。老師の優しさで、禅問答でひたすら「鯉魚、りぎょ」と叫んで許される。
    ===とっても芥川龍之介っぽい短編。芥川の、「古典に依拠した短編シリーズ」に似てます。ただ、なんとも耽美で生っぽい男女のあたりとか、個性だなあ、と。
    面白いなあ、と思って読みました。

    ●「渾沌未分」…執筆当時の現代。東京。なにやら水練の師匠筋の娘。ままならない家庭経済、落魄。水練大会が迫る。中年男に、生活と経済の為に身を任そうかと。一方で健康的でお金は無い若い恋人もいる。
    主人公は「東京に止まるためにお金がいる」という強迫観念にかられている。
    ===この辺から、「何かに没頭する主人公」という個性があるかなあ、と。
    話の構造というか、設定?は面白かったのだけど、転がし方とか、冒頭の入り方とかが、まあ簡単に言うとちょっとクドクって、読み辛さも。
    そういう意味で、アマチュアの良く出来た小説っぽいなあ、と。

    ●「金魚繚乱」...これは、なかなか矢張り白眉でした。執筆当時の現代。金魚の交配品種改良の技術者が主人公。お金持ちでスポンサーの社長がいて、その娘に恋慕している。そして娘も恐らくそれを知っている。でもふたりは現実的に結ばれることは無い。そういうヘンタイな恋愛のオハナシ。お互いに別に相手ができたりする。でも変わらない。主人公は、もう、現実離れした理想の美しい金魚を交配開発する、ということに、娘への恋慕を重ねて生きがいにしている。最後に、偶然からその美しい金魚を見る。
    ===どろどろぐっちゃぐちゃの変態恋愛話。そういう娯楽として、三島さんの「仮面の告白」みたい。ラストの美しい金魚のくだりは、最高に小説ならではの快感に満ちていました。スバラシイ。変態だけど。

    ●「みちのく」...エッセイっぽい手法で「こんな話を聞いたのさ」という語り口。東北で聞いた話。四郎馬鹿、と呼ばれていた、白痴の若い男。なんだか縁起がいいとされて、商家にかわいがられる。そこのとあるお嬢さんに、マジで恋する四郎馬鹿。「まともになって嫁にする」と、騙されて見世物小屋の芸人になる。みるみる落魄して、行き方知れず。その四郎馬鹿に思いを貫いて、老婆になった娘さん。
    ===これ実は、いちばん好きだったかも。エッセイ風の書き方のせいか、クドさとアクと自己顕示的な息苦しさ、という、岡本かの子さんの持ち味?が、薄目だと思います。そのくらいが、僕には読み易かった。お話自体も素敵。グっときました。

    ●「鮨」...鮨屋の娘。常連の小金もち風のおっさん。おっさんから娘が聞く、身の上話。おっさんのお母さんとの思い出、偏食を治した思い出が、鮨にある。
    ===これまた、なんというか、愛情というのがものすごくにおい立つような濃さのオハナシ。だけど、物語自体は淡い淡い感じなので、後味と言う意味ではさわやか。
    鮨、食べたくなりますねえ(笑)。小品、悪くない一篇。

    ●「家霊」...東京。庶民的な定食屋。おかみさんがやっていて、娘が跡を継いだ。先代からの常連客、職人のおじいさんが語る昔話。先代に密かに恋慕的なプラトニックな関係があって、かんざしをあげていた。
    ===これも、1位2位を争うくらい好きでした。東京っぽい職人たちの店の雰囲気が良く判る。そして、母の恋?の話。いわば、「マディソン郡の橋」です。これまた、芸術に全て捧げた人の情熱の話、ではあるんですが、なんだか筆致がふっくらしていて、達観的なぶんだけ、読み易かったですね。諸行無常感なんだけど、一抹の湿り気。恋の痛み、浮世の痛み。甘く痛い夕焼け、な後味。

    ●「老妓抄」...東京、下町?。吸いも甘いも、で、不自由なく暮らす、老妓。朋輩の尊敬の的。若い男・電気技術開発志望の青年を養う。別にいやらしい関係ではなくて、パトロン的に。ところがこの青年が、だんだんぴりっとしなくて、ずるずる堕落する。共依存のようになっていく老妓と青年。
    ===明白な解決が無い分だけ色気がありますね。なんともずぶずぶな人間関係、ニンゲンの弱さみたいなところが、谷崎さん的な。面白かったです。

    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

    割とはっきりした読後感。
    岡本太郎の母、岡本かの子の小説世界を知った、と言う意味ではタイヘンに面白かった。
    小説としては、「金魚繚乱」「みちのく」「家霊」あたりは味わい深く、魅力爆発でした。

    ただ、小説の中に横溢する、露悪方向の自意識過剰な感じと、クドさ。それと共存している、意外なキマジメさ。
    だからちょっと、長編はいったん、パスかなっ...って思いました。

    うーん。長生きされてたら、どんな小説書いたんでしょうかね。
    うーん。ただなんというか、例えば谷崎の諸作品とか、川端康成の「山の音」とか「雪国」とかと比べると、なんていうか、ふっくら豊饒、娯楽でサスペンスでミステリーで、読者の手を引いてすらすらとなだらかな岡を、長めの良い方に軽やかにいざなっていくような、そういうエンターテイメントな感じっていうのは、薄いんですね。岡本かの子さん。芸術的過ぎるんですね。芸術「的」。

    やっぱりでも、「金魚繚乱」のラストの、美しさの衝撃さ。
    これはやっぱり、文句が言えないですね。読書の快楽でしたね。
    紙に言葉が書いてあるだけで、脳内の想像というスクリーンに、放埓に唐突に、暴力的に、極彩色の「美」が無限に広がっていく感じ...。
    うーん。

    芸術は爆発、ですね。

  • 『金魚繚乱』のみ読了。
    耽美的というか変態的というか、独特の世界観(って一作しか読んでないけど)。
    幼なじみでありながら身分違いの美しい令嬢への屈折した想いを、彼女のように美しい金魚の創成に昇華させんと研究に打ち込む主人公。
    ねっとりした語り口のわりに、破滅の美みたいな方向には行かず、結末も美しく整っていて、好きでした。
    それに、いままであまり考えたことなかったけど、鑑賞のためだけに生み出された金魚という魚、その美しさを愛でる人の気持ちが少しわかったような気がします。

    注釈が同じページに書かれてあるのがとてもよかった。

  • 人間の複雑な心の動きが、内面・外面ともに饒舌に描き出される。登場するのは、何も特別な人達ではない。つまり、自分も、毎日これだけ入り組んだ感情をかかえて生きているのだなぁ、と気づかされる。

  • 仏教の影響を受けたという著者ですが、老荘思想を思わせるような悠久の時間を感じさせるような小説です。混沌未分では明治時代の隅田川河畔が舞台で健康的な水泳教師、美少女の小初が若い男の子との恋、そして50歳の旦那の妾に乞われる。哀しさが、その健康的な肉体との対比で印象的です。妖精を思い出させる美しさでした。

  • 日本文学の短編小説、「鮨」が好き。
    卵のお寿司が食べたくなります。

  • おすしが食べたいな。たまごのおすし。

全12件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

東京都生まれ。跡見女学校卒。1906年与謝野晶子に師事し「明星」に投稿。のち「スバル」同人として活躍。1910年画学生岡本一平と結婚、翌年太郎を出産。1929年から7年間渡欧。帰国後、1936年に芥川龍之介をモデルとした『鶴は病みき』で作家デビュー。以来、短編を中心に多くのすぐれた作品を残した。1939年没。

「2019年 『越年 岡本かの子恋愛小説集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

岡本かの子の作品

岡本かの子 (ちくま日本文学)を本棚に登録しているひと

ツイートする