うつくしく、やさしく、おろかなり: 私の惚れた「江戸」 (ちくま文庫 す 2-12)
- 筑摩書房 (2009年11月10日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (232ページ)
- / ISBN・EAN: 9784480426604
作品紹介・あらすじ
あっけらかんとお目出度く生きようとしていた江戸の人たち。彼らの暮らしや紡ぎ出した文化にとことん惚れこんだ著者が思いの丈を綴った最後のラブレター。
感想・レビュー・書評
-
この春、手術のため、病院に入院した。医師や看護師、スタッフの皆さんに大変お世話になった。激務の中、丁寧に説明、施術、看護いただき心より感謝申し上げる。
消化器系なので、「お通じはありましたか?」「ガスは出ましたか?」が挨拶のように交わされる。一日中ベッドにいると、自分が“糞袋”であることを自覚する。術後「院内であれば歩行してよい」と許可を得て、エレベーターホールの院内図に『患者図書室 ほほえみ』の存在を見つけた。(すっかり忘れていた)
点滴を転がしながら足を踏み入れた途端、みるみる自分が潤うのを感じる。世界の歴史、珍しい虫の図鑑、美しい風景、生命科学の謎、作詞家の伝記…次々と知りたいこと、読みたいものが現れる。新しい本の香り立ち込める図書室で読書し、数冊を借りて病室へ持ち帰った。ほほえみの存在がオアシスのように、私の知識欲や感性がよみがえり、糞袋に背骨が生えて、シャンとした。
ちなみに”糞袋”とは、上記本から学んだ言葉である。江戸人が好んで口にする自嘲は「人間一生糞袋」というタンカらしい。
結局のところ生物は「食べて糞して寝て起きて、死ぬまで生きる」ものであるが、生きている間は背骨も使いたい。人間だもの。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
手の届くところに置いてふとしたときに好きなページをパラパラと読むんですけど、どこを読んでも息抜きになるし、からっとしていておもしろい。日常でモヤモヤしたときに効いてる気がしています。
-
解説:松田哲夫
-
杉浦日向子 「 うつくしく、やさしく、おろかなり 」
江戸のうつくしさ、やさしさだけでなく、おろかさを伝えた本。死生観も意識した編集。
「無能の人々」の人間観がとても良かった
江戸は情夫
学んだり手本になるもんじゃない。死ねばもろともと惚れる相手〜うつくしく、やさしいだけを見ているのじゃダメ
岡本綺堂のおろかさ
*誰からもいい人だと褒められるようではダメ〜一身のほかに味方なし
*孤独を楽しむ強さ〜旅が嫌い、徒党が嫌い、書画骨董が嫌い〜著者は 綺堂の嫌いづくしに共感
戯作は無用文学
*古今の名作が心臓や肺とすれば、日々の暮らしに潤いを与える文芸は胃や腸〜戯作は盲腸
*他愛のないのが値打ち
江戸(多国籍都市)の暮らしのルール
*生まれた国は聞かない
*年齢を聞かない
*過去と家族のことを聞かない -
「うつくしく、やさしく、おろかなり」。
これは杉浦さんの死後、松田哲夫さんが杉浦さんの遺した文章や、講演の記録を集め、本書を編んでつけた名前だそうだ。
本質をつかみ、なおかつ、どきりとさせられる、絶妙なタイトルであることか。
江戸っ子の「生息地」は、神田八丁堀ということになっているが、これは実在しない地名だ、と本書にある。
私たちの思う江戸は、イメージの中にしかない、幻の町。
そんなことを象徴するような話だと思う。
実は時代小説や歌舞伎に媒介される「江戸」は、どうも蘊蓄にまみれた感じがして、近づきにくく感じる。
で、正直に言えば、杉浦さんもそういった蘊蓄化に掉さす人だと思っていた。
杉浦さん自身は、むしろ江戸をありがたいもの、みならうべきものとして祭り上げられていくのに抵抗感があったようだ。
「おろかなり」というのが、そのような彼女の姿勢を表す一語だろう。
ただ江戸の雑学本のようには扱えない一冊。 -
杉浦さんの本からは、江戸への愛情が感じられる。
とても粋な、素敵な文章。
江戸の生活を知ることができる貴重な一冊。 -
もう、10年経過してしまったのですね…。読むたびに杉浦さんの早すぎた死を惜しんでしまいます。
-
江戸の生活、心意気にあらためてこころひかれるー。頑張りもよいけど、息抜きも大事。江戸の文化・生活事情にふれられるだけでなく、江戸を通して現代をみる筆者の冷静な眼がよい。
-
読完2011.08図書館