うつくしく、やさしく、おろかなり: 私の惚れた「江戸」 (ちくま文庫 す 2-12)

著者 :
  • 筑摩書房
4.11
  • (13)
  • (17)
  • (7)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 245
感想 : 17
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (232ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480426604

作品紹介・あらすじ

あっけらかんとお目出度く生きようとしていた江戸の人たち。彼らの暮らしや紡ぎ出した文化にとことん惚れこんだ著者が思いの丈を綴った最後のラブレター。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  •  この春、手術のため、病院に入院した。医師や看護師、スタッフの皆さんに大変お世話になった。激務の中、丁寧に説明、施術、看護いただき心より感謝申し上げる。
     消化器系なので、「お通じはありましたか?」「ガスは出ましたか?」が挨拶のように交わされる。一日中ベッドにいると、自分が“糞袋”であることを自覚する。術後「院内であれば歩行してよい」と許可を得て、エレベーターホールの院内図に『患者図書室 ほほえみ』の存在を見つけた。(すっかり忘れていた)
     点滴を転がしながら足を踏み入れた途端、みるみる自分が潤うのを感じる。世界の歴史、珍しい虫の図鑑、美しい風景、生命科学の謎、作詞家の伝記…次々と知りたいこと、読みたいものが現れる。新しい本の香り立ち込める図書室で読書し、数冊を借りて病室へ持ち帰った。ほほえみの存在がオアシスのように、私の知識欲や感性がよみがえり、糞袋に背骨が生えて、シャンとした。
     ちなみに”糞袋”とは、上記本から学んだ言葉である。江戸人が好んで口にする自嘲は「人間一生糞袋」というタンカらしい。
     結局のところ生物は「食べて糞して寝て起きて、死ぬまで生きる」ものであるが、生きている間は背骨も使いたい。人間だもの。

  • 手の届くところに置いてふとしたときに好きなページをパラパラと読むんですけど、どこを読んでも息抜きになるし、からっとしていておもしろい。日常でモヤモヤしたときに効いてる気がしています。

  • 解説:松田哲夫

  • 杉浦日向子 「 うつくしく、やさしく、おろかなり 」

    江戸のうつくしさ、やさしさだけでなく、おろかさを伝えた本。死生観も意識した編集。

    「無能の人々」の人間観がとても良かった


    江戸は情夫
    学んだり手本になるもんじゃない。死ねばもろともと惚れる相手〜うつくしく、やさしいだけを見ているのじゃダメ

    岡本綺堂のおろかさ
    *誰からもいい人だと褒められるようではダメ〜一身のほかに味方なし
    *孤独を楽しむ強さ〜旅が嫌い、徒党が嫌い、書画骨董が嫌い〜著者は 綺堂の嫌いづくしに共感

    戯作は無用文学
    *古今の名作が心臓や肺とすれば、日々の暮らしに潤いを与える文芸は胃や腸〜戯作は盲腸
    *他愛のないのが値打ち

    江戸(多国籍都市)の暮らしのルール
    *生まれた国は聞かない
    *年齢を聞かない
    *過去と家族のことを聞かない

  • 「うつくしく、やさしく、おろかなり」。
    これは杉浦さんの死後、松田哲夫さんが杉浦さんの遺した文章や、講演の記録を集め、本書を編んでつけた名前だそうだ。
    本質をつかみ、なおかつ、どきりとさせられる、絶妙なタイトルであることか。

    江戸っ子の「生息地」は、神田八丁堀ということになっているが、これは実在しない地名だ、と本書にある。
    私たちの思う江戸は、イメージの中にしかない、幻の町。
    そんなことを象徴するような話だと思う。
    実は時代小説や歌舞伎に媒介される「江戸」は、どうも蘊蓄にまみれた感じがして、近づきにくく感じる。
    で、正直に言えば、杉浦さんもそういった蘊蓄化に掉さす人だと思っていた。

    杉浦さん自身は、むしろ江戸をありがたいもの、みならうべきものとして祭り上げられていくのに抵抗感があったようだ。
    「おろかなり」というのが、そのような彼女の姿勢を表す一語だろう。

    ただ江戸の雑学本のようには扱えない一冊。

  • 杉浦さんの本からは、江戸への愛情が感じられる。
    とても粋な、素敵な文章。

    江戸の生活を知ることができる貴重な一冊。

  • もう、10年経過してしまったのですね…。読むたびに杉浦さんの早すぎた死を惜しんでしまいます。

  • 江戸の生活、心意気にあらためてこころひかれるー。頑張りもよいけど、息抜きも大事。江戸の文化・生活事情にふれられるだけでなく、江戸を通して現代をみる筆者の冷静な眼がよい。

  • 既に亡くなっている杉浦日向子さんのエッセイ集。江戸の風俗に非常に詳しかった杉浦さんが様々な雑誌や本の解説、講演などで紹介していた多種多様の「江戸の生活」がこの一冊だけで一気に読めてしまうという、なかなか贅沢な本です。

    掲載された場所や時期が違うため、内容に多少の重複は見られます。しかし、重複するということはそれだけ面白い部分であるということでもあります。

    個人的には、駄洒落好きの江戸っ子がこじつけた「粋」という語の意味が面白かったです。「粋」の左半分は「米」で八十八、右半分は「九十」なので、「粋」の中には「八十九」がある。つまり…?という論の展開には、まさに江戸ならではの「粋」があると思いました。

    あと、国産の砂糖を作ったのが平賀源内だったというのは驚きでした。平賀源内、どんだけ万能なんだと。

    江戸の大切な価値観として「持たないこと」「急がないこと」というものがあるというのも心に残りました。また、共助の精神が貧しい住民たちの間にも隈なく浸透していたというのも素晴らしいと思います。
    懐古趣味で何から何まで「昔が好かった」という気はないですが、一部の生活様式や考え方、自然の感じ方に関しては、間違いなく現代に住む自分たちよりも江戸の方が「豊か」であったのだと思います。

  • 読完2011.08図書館

全17件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

杉浦 日向子(すぎうら・ひなこ):1958年、東京生まれ。1980年、「通言室之梅」(「ガロ」)で漫画家としてデビュー。1984年、『合葬』で日本漫画家協会賞優秀賞受賞。1988年、『風流江戸雀』で文藝春秋漫画賞受賞。1993年に漫画家を引退し、江戸風俗研究家、文筆家として活動した。NHK「コメディーお江戸でござる」では解説を担当。主な漫画作品に『百日紅』(上・下)『ゑひもせす』『二つ枕』『YASUJI東京』『百物語』、エッセイ集に『江戸へようこそ』『大江戸観光』『うつくしく、やさしく、おろかなり』『一日江戸人』『杉浦日向子の食・道・楽』『吞々草子』等がある。2005年、没。

「2023年 『風流江戸雀/呑々まんが』 で使われていた紹介文から引用しています。」

杉浦日向子の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
杉浦日向子
梨木 香歩
杉浦 日向子
三浦 しをん
杉浦 日向子
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×