心でっかちな日本人 ――集団主義文化という幻想 (ちくま文庫)

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  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (267ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480426758

作品紹介・あらすじ

「いじめをする子どもは、他人に対する思いやりの心が欠けているのだ」。このように人がある行動をとることの原因を個人の心のあり方に求める「心でっかち」な考えが、私たちの目を曇らせてしまっている。身の周りに潜むそうした罠に陥ることなく、現実を正しく理解するにはどうすればよいのだろうか。社会と個人の関係に鋭く切り込み、問題解決への糸口を探る。

感想・レビュー・書評

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  • 日本人は集団主義文化で、西欧人は個人主義文化だと言われることがあるが、実際の調査ではこれに反する結果が得られる。日本人が集団主義的な行動をするのは、そのように行動するのが、有利な状況にあるからである。一定のサークル内でも互恵的な関係が長く続き、その外に出ると敵対的に扱われるという社会の風潮が一旦出来上がると、社会の構成員は、その風潮を強化するように行動することが有利になる。人間には、そのような交換促進的な心理メカニズムと、他人の裏切りを検知する心理メカニズムの両方が備わっており、流動的な社会では、その双方が活発に働くが、集団的な社会では、サークル内では交換促進、サークル外では敵対的という判断になるため、裏切り検知装置が退化する。そのため、一層、サークル外では、無条件に敵対的行動を取るようになる。高度成長期までには、そのような日本の社会に適応した心理傾向が、エージェントコストの軽減に役立ったが、社会がグローバル化した現在では、サークル内とサークル外とで区別する心理傾向は、機会費用が大きくなりすぎて競争上不利になる。

  • 819円購入2010-07-08

  • 目次
    はじめに あなたも「心でっかち」になっていないか 3
    第1章 日本人は集団主義ではなかった 17
    第2章 心でっかちの落とし穴 46
    第3章 心でっかちな文化理解を取り除く 85
    第4章 内集団ひいきはどのようにして生まれるのか 131
    第5章 だれもが皆、心の道具箱を持っている 164
    第6章 心の道具箱を整理しよう 208
    さいごに 文化はつくるもの 243

    <hr>
    第1章
    32 帰属の基本的エラー
    「まわりの人たちは集団主義的な心の持ち主だが、自分はちょっとちがう」

    40 知らない者同士だと日本人は協力し合わなくなる
    日本人が集団のために自己利益を犠牲にする行動をとるのは、彼らが自分の利益よりも集団の利益を優先する心の性質を持っているからではなく、彼らが集団の利益に反するように行動するのを妨げる社会のしくみ、特に相互監視と相互規制の仕組みが存在しているからだという観点。
    42 相互監視と相互制裁の可能な日常生活での文脈から切り離されると、日本人は集団主義的行動をとらなくなってしまう。

    第2章
    48 頻度依存行動
    「赤信号、みんなで渡れば恐くない」というギャグに代表される行動。ある行動をするかどうかが、その行動を取っている人がほかにどれほどいるかに依存している場合、その行動を頻度依存行動と呼ぶ。;
    51 相手を思いやる心を持った子どもは「いじめ」をしないという前提は間違い。
    58 「ほかの人が同じ行動をとればとるほど、利益が大きく、コストが小さくなる」
    67 「限界質量」「相補均衡」
    ・・・初期値が限界質量を上回った時にうまれる相補均衡・・27人が「いじめ阻止行動」
    ・・・初期値が限界質量を下回った時にうまれる相補均衡・・1人のみが「いじめ阻止行動」
    68 相補均衡は、そこにかかわっているすべての人間にとって「純利益」がプラスになっている状態
    81 普通先生が担任の場合、限界質量が存在し、初期値によって二つの相補均衡のどちらかが生まれる。熱血先生、頼りなし先生の場合、相補均衡は一つずつしかない。
    83 世の中で私達が実際に行ったり目にしたりする行動のほとんどは頻度依存行動。流行、人気大学、人気企業、居住地域、交際相手、結婚相手。
    90 「それぞれの生徒はほかの生徒がどうしているかによって行動を決めるが、そのことが同時に、ほかの生徒の行動に影響を与えている」

    第3章
    91 経済学で言うところの「戦略的補完性」
    パソコンのOS、ビデオデッキの方式、日本的雇用関係(終身雇用・年功序列)
    101 異なったグループ(労働者と経営者)の行動のあいだに頻度依存的な相互依存関係が存在する。
    112 いろいろな性質が相互依存的に均衡をつくっている場合には、そのうちのどれが原因で、どれが結果なのか、を考えることに意味はない。
    112 文化が相補均衡だということは、皆が寄ってたかって特定のやり方で考え、行動するようになる状況をつくりあげてしまっているということ。
    113 相補均衡はトートロジー(同義反復)的に存在している。
    118 「文化とは、相互依存的な実践活動の総体である」
    119 「内集団ひいき」・・「自分と同じ集団の人間を、別の集団の人間よりも優遇する行動」
    121 「集団主義社会」・・ほとんどの人間がさまざまな場面で内集団ひいき的に行動している社会
    121 「個人主義社会」・・アメリカや西欧などの、集団のちがいを重視する傾向がそれほど強くない社会
    126 なんらかの外的理由によって内集団ひいき行動に伴う機会費用が増大したとき、この均衡を支えるプロセスが逆転しはじめ、均衡を崩してしまう可能性がある。
    126 産業化に伴う市場の拡大が、内集団ひいきに伴う機会費用の増大を生み出してきた。127 自分の集団の人間だけを相手にしていたのでは、集団の外部に存在する市場を効率的に利用できなくなってしまう。
    127 「エージェント問題・・・エージェントと依頼者のあいだの利益が一致しない場合、エージェントは自分の利益を重視して、依頼者に不利益を与えてしまう可能性がある。
    128 イギリスのパブリックスクールの教育・・・「エージェント問題を生まない品質保証済みの人材」の育成
    129 古典的な個人主義・・・自らのうちに自らの行動を律する原理を装着した人間の行動原理⇔自己利益の追求者としての個人主義者

    第4章
    134 「西欧的集団主義観」・・人々が集団と心理的に一体化している心の状態。例)制服に身を包んだナチス・ドイツ
    134 「日本的集団主義観」・・他者とのあいだで相互依存的な実践活動を行う場として集団をとらえ、自分の生活における集団の重要性を認識していること。
    158 「コントロール幻想」・・「自分が内集団の人間を優遇すれば、ほかの内集団の人間も自分を優遇してくれるだろう」

    第5章
    167 「相互独立的自己観」・・自分を他人とは独立した存在だと考える
    167 「相互協調的自己観」・・自分がほかの人たちとの関係のなかではじめて自分として成り立つと考える
    167 西欧の人たちが自己高揚傾向を示すのに対して日本人は自己卑下的傾向を示す
    169 「フレーム問題」・・環境のなかに無数にある情報のなかから意味のある情報をどうやって取り出すかという問題。
    182 「社会的交換ヒューリスティック」・・人々を互酬的に行動させる行動原理。何かをしてもらったらお返しをすること
    183 「ヒューリスティック」・・アルゴリズムの反対概念。何か単純な手がかりを使って直感的に答えを出してしまうやり方
    186 合理的な判断を下すよりも、ヒューリスティックを用いたほうが「正しい」判断になる場合がある。
    198 自分にとってどうでもいい、直接の利益がかかわってこないときにだけ、人々が「合理的に」行動する。
    199 三次元空間処理の誤作動による錯視、交換促進装置の誤作動による「コントロール幻想」

    第6章
    219 集団主義社会では内集団ひいきの相補均衡が成り立っており、「集団」という大きなタグのついた交換促進装置が目立つ場所に置かれている。
    220 個人(普遍)主義社会では内集団ひいきが相補均衡を生み出しておらず、人々は集団の境界をあまり強く意識することなく行動する。
    222 低信頼者は他人の人間性を見極める能力には劣るが、人間関係の性質を見分ける能力に優れている。
    224 個人(普遍)主義社会では、内輪のつきあいの枠を超えて多くの人たちとのあいだで関係をつくっていかなくてはいけない。「不特定多数」の相手に自分を売り込むという「自分会社」としての課題が重要となる。集団主義社会では、濃密な関係にあるまわりの人たちから嫌われないということが重要な適応課題になる。

    226 機会費用が増すと内集団ひいきの均衡が崩れる
    227 市場のグローバル化によって機会費用の増大によって、均衡崩壊の最終的な段階に入りつつある(商品市場・金融市場・労働市場)。
    232 日本もアメリカもそして他の国々も、心と文化の道具箱の整理・入れ替えという点で、同じスタートラインにたっている。
    232 自律的な個人だけでは解決できないほど、エージェント問題が深刻化してきた。
    233 一つの言葉が目指すべき方向を指し示している。ネットワーキングやボランティア活動が創り出す「弱さの強さ」という金子郁容の言葉。
    233 自ら進んで情報を発信する人、自発的にボランティア活動を開始する人は、そのことによって自分の立場をバルネラブル(他人から付け込まれたり、利用されたり、非難されたりしやすい状態)にする。しかしバルネラブルな立場に自分の身をさらすことで、そういった人たちは情報を創り出し価値を生み出すことができる。
    233 この発想は、エージェント問題の構造を根底からくつがえす発想。
    234 自分の本心をさらして依頼者を搾取できない「弱い」立場に身を置いてしまえば、エージェント問題はなくなってしまう。
    240 日本人よりもアメリカ人のほうがバルネラブル。

    さいごに
    245 「進歩的文化人」 南博著「日本人の心理」 1953年出版
    246 集団に埋没し、集団の圧力に簡単に屈してしまう、独立心に欠けた日本人の心のあり方を変えなければならないという進歩的文化人の主張
    247 ロバート・ベラー著「徳川時代の宗教」 1957年出版 日本の近代化の原動力を、日本の伝統の中に求めるアプローチ
    248 高度経済成長の経験により、集団主義観が評価すべき文化的伝統として解釈されるようになった(日本文化礼賛、日本的経営礼賛)。
    251 バブル崩壊、規制緩和か日本的経営の再生か?
    252 進歩的文化人の逆襲、「近代的市民」の心を持つことが有利に働く時代がやってきたのではないか?
    252 日本文化の集団主義的性質の二つの側面
     1.権威や集団の圧力に対する隷属、仲良し主義、相互協調主義
     2.自由な機会追求活動に対する制約

    254 集団主義の終焉に備えよう
    「文化は与えられるのではなく自分たちでつくるものだ」
    文化とは、私たちが私たち自身の行動によって生み出している相補均衡。集団主義的行動をとる人々の減少は限界質量を超えて、加速度的な変化を生み出す可能性がある。
    集団主義・会社への忠誠、グローバル化と大競争社会の到来によって均衡が崩れ去ってしまう。
    内集団ひいきの原理が、それにとって代わる原理が一般する前に消滅するという、社会秩序を維持するための原理の真空状態を生み出してしまう可能性がある。

    2014.04.21 EGMフォーラム/ブログで紹介
    2014.11.04 ブログで紹介

  • 日本人は心の底から集団主義者なのか?予想外の結果が新鮮!「知らない者同士では日本人は協力し合わなくなる!」米国や諸外国と比べ、「旅の恥はかき捨て」、一匹狼行動が目立つことと集団主義は矛盾する。「囚人のジレンマ」など多くの実際の実験により、科学的に立証していく。そして「頻度依存行動」というキーワードで読み解いていく。単に相互監視・規制の組織構造が日本人を集団主義に見せている!ショッキングな主張だが、こう説明されると日本人の道徳観の乏しさに思い至り納得せざるを得ない。非協力的な人は、「他の人は必ず非協力的行動をする」と考え、協力的な人は単なるお人よしではなく、「人はさまざまだ。協力的、非協力的ともありうる」と考えていることの実験結果は興味深い。日本人は前者が多いのだろうか?

  • 読み終わったばかりで、考えがまとまらないけど、とにかく最後まで読んだら、膝を打つ内容だ。
    個人主義は他人を信用しないのではなく、他人を信用できることを前提としつつ、他人を警戒する。
    「人を見たら泥棒と思え」の考え方は、身内をとことん信用するが、「同じ日本人」という身内であっても本来的には他人への信頼をしてしまう。
    実は、個人主義的な米国人の方が他人を信頼していて、同時に警戒している。
    最終章まで読むと、一気にこれまでの???が明らかになる。
    読みものとしても、学術研究書としても面白かった!

  • 盛りだくさん。コスパいいかも。

  • 筆者は社会心理学の重臣。日本人は如何に集団主義ではないか、ということを数々の心理実験を用いて論じている。特に欧米と日本人との比較で、日本人の方が個人主義的特性があるという論、日本人の心理的状況が、企業形態、現代社会の構造にどう影響しているかという論は興味深い。
    『安心』と『信頼』の違いから生じる、日本人ー欧米人の価値観の差を考えさせられたことは新たな視点となった。

  • はじめに あなたも「心でっかち」になっていないか
    第1章 日本人は集団主義ではなかった
    第2章 心でっかちの落とし穴
    第3章 心でっかちな文化理解を取り除く
    第4章 内集団ひいきはどのようにしてうまれるのか
    第5章 だれもが皆、心の道具箱を持っている
    第6章 心の道具箱を整理しよう
    さいごに 文化はつくるもの
    解説 システムとしての社会と個人(長谷川眞理子)

    P114
    筆者は文化を、「心と行動とのあいだの相互依存関係が生み出す相補均衡」として理解する立場をとっています。

    P208
    本書の前半では、筆者は「心でっかち」な文化理解を批判し、頻度依存的行動が生み出す相補均衡として文化をとらえる考えかたを紹介しました。そして後半では、集団への心理的同一化が内集団ひいきを生み出すとする社会的アイデンティティー理論を批判し、集団のなかで相互に協力し合いながら暮らしていくための心の道具である交換促進装置が、内集団ひいき行動の背景に存在していることを示す実験を紹介してきました。本書の最後の章である第6章では、相補均衡としての文化という考え方と、心の道具箱という考え方の二つを結びつけて考えていきます。

  • 文化の差異は持って生まれた心ではなく、社会の仕組み=皆がどうするか、で決まる。その意味で日本的文化も個人の選択の合成結果であり、簡単には変わらないが、一方で短期間で変化する可能性も秘めている。
    日本企業の管理部門で長く働き、日本的経営の生命力の強さを目の当たりにしてきた評者としては、その通り!と膝を打ちたい。誰か偉い人の陰謀とか封建主義のせいにするのではなく。

    問題は筆者も指摘するように、1)日本的集団主義と欧米的個人主義の間のどこに日本の未来を見いだすか。そして、2)どのように我々の文化(社会の仕組み)を適応/変化させていくか、ですね。

  • 人の行動や文化は「心のあり方」により決定されるのではなくて、集団の中での相互依存関係により決定されるという論を展開している。言葉の定義が必ずしも明確でなく、かつ別の言葉で言い換えたりして分かりにくい論理展開になっている部分もあるが、行動を分析する切り口としては面白い。

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著者プロフィール

山岸俊男(やまぎし としお)1948年生まれ。ワシントン大学大学院社会学研究科博士課程修了。Ph.D(社会学)。現在、一橋大学国際経営研究科特任教授。専門は社会心理学。著書に『信頼の構造』(東京大学出版会)。

「2014年 『文化を実験する』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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