競売ナンバー49の叫び (ちくま文庫)

制作 : 志村 正雄 
  • 筑摩書房
3.59
  • (17)
  • (39)
  • (25)
  • (8)
  • (5)
本棚登録 : 522
レビュー : 36
  • Amazon.co.jp ・本 (367ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480426963

作品紹介・あらすじ

「謎の巨匠」の「探偵小説」仕立ての、暗喩に満ちた迷宮世界。ある夏の日の午後、主人公エディパは、大富豪ピアス・インヴェラリティの遺言管理執行人に指名されたことを知る。偽造切手とは?郵便ラッパとは?立ち現われる反体制的なコミュニケーションの方法とその歴史。短編「殺すも生かすもウィーンでは」を併録。暗喩読解のための解注も増補した。

感想・レビュー・書評

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  •  不思議な読後の感覚。
     内容云々ということではなくて、自分の中の手ごたえというか、手触りというか。
     非常に面白く読み終えた。
     非常に面白い作品なんだけど、果して本当にその面白さを堪能できたのかどうか。
     100%理解できたうえで「面白かった」と言えているのかどうか。
     物語の大筋は理解出来ていると思うし、どんどんと追い詰められ、損なわれていくエディパの心理や、あばかれていく謎の数々も概ね理解出来ていると思う。
     どちらに転んだとしても決して明るい兆しはないラストにしても、好きな終わり方だ(白黒はっきり付けられないと落ち着かない、という人にとっては、この謎を残したままの終わらせ方は最悪だろう)。
     それでも、自問自答してしまう……本当に理解した上で面白いと言っているのかと。
     併録されている短編「殺すも活かすもウィーンでは」よりもページ数が多い注釈(解注と名付けられている)は結局は煩わしくて読まなかったのだが、いずれこの「解注」をきちんと読んだうえで再読してみたいと思う。
     またこの短編「殺すも活かすもウィーンでは」もとても面白かった。
     なんとも言えない終わらせ方にゾゾッ。

  •  探す物語。
     世の中には記号論なるものまで存在しているらしいのだが、まさに、この小説には記号が横溢している。なんのためかと問えば、おそらく小説に豊穣をもたらすためだ。私たちはある言葉に対してあるイメージをいだく。文章が意味を伝えることができるのは、言葉に公認されたイメージ、誰もが合意した意味が含まれているからだ。ところが、小説となると言葉に辞書的な意味以上のものを求めることがある。主人公がオイディプスを名乗っているとしたら、いったいオイディプス王を想像しない人がいるだろうか。それは単なる名前ではない。誰もが答えを与えることのできなかった、なぞを解き、誰よりも有能と思われていた人物でありながら、自分の素性すら知らなかった男の名前、それがオイディプスだ。主人公がエディパ(Oedipa)=オイディプス(Oedipus)を名乗っていたら、私たちはそこからオイディプス王の物語、ギリシア悲劇のイメージをいだくことになる。
     そして、やはり当然のようにエディパは探し物を始める。伝説にいろどられたなぞの組織、トライステロを追いかけ始めるのだ。彼女は何を探しているのだろうか。くどいようだがオイディプスを名乗る主人公である。そうなると、探し物は、自分ということになるだろう。トライステロのなぞをめぐり、あちらこちらをさまよう主人公の冒険は、自分探しの旅ということになる。エディパという名前と探し物という文脈から、読み手が物語のイメージを勝手に膨らましていくことができてしまう。(もちろん、書き手がそれを意図的に行っているとしてもだ。オイディプスと探し物という組み合わせを使わずして、これほど説得力を持って自分探しの物語のイメージを読み手にうえつけることができるだろうか。)これこそピンチョンが小説の中に記号を溢れさせる理由だろう。そうして意図的に記号が埋め込まれていると知った読み手は、やがて彼が意図せずに使った単語にすら記号を見つけ出すだろう。なんてあくどい、いやいや上等な方法でイメージを膨らませる小説だろう。
     こういうやり口は、コードを使った小説のコード化とでもいうのだろうか。コードと記号論っていうのは、切っても離せない関係にあるらしいのだけど、そういえば小説の中では切手がひとつの鍵を握っていた。消印付きの切手が収集されているくらいだから、切手は貼ってもはがせるのだろう。ところが記号とコードははがせない。ここでいうコードは、ドレスコードのコードでいわば暗黙の了解みたいなものだろうか。一方でコードには、暗号くらいの意味もあるから、まさにピンチョンのもちいる記号っていうのは、ある種のコードだろう。この言葉は、もちろん、この意味、このイメージを暗示してますよ、暗黙の了解ですってやっておきながら、わざとらしいものから、それこそ暗号のようなものまで、いろいろと埋め込んでおく。そうすると、書き手と読み手の間に、暗黙の了解が出来上がっていく。私の書いてる言葉はコードなんです、だから注意して読んでね、というわけだ。まさに小説のコード化だ。
     ただ、そこまでを読み手に求められると、どうしても読んでいてくたびれてしまう部分もある。当たり前だけれど、彼の書いた言葉すべてに反応しきることは不可能だ。何しろ国も違えば言葉も違うし、時代も違う。だから、ほどほどに楽しめばよい。きっと、そういう小説だ。

  • 文学

  • 2010-04-00

  • トマス・ピンチョンはこれで2作目。「LAヴァイス」が気に入ったので、興味を魅かれ、読計変更して他の作品を読もうとする。

    たまたま「LAヴァイス」は難解ではなかったが、他の作品は難解との感想が多し。比較的難解ではなくピンチョンの入門本との感想を見、この作品を読むことにした。

    遥か昔にはサンリオSF文庫から発刊されていた様だ。ってSF?なら必読だ。でも粗筋はそうでもない。28歳女性の独り素人探偵物語。主人公エディバは既婚者。夫はローカルラジオ局のDJをやっている。

    あるとき、以前の恋人で実は大富豪であったピアス・インヴェラリティの遺言執行人に指名される。この関係、「LAヴァイス」のシャスタと不動産王のミッキー・ウルフマンの関係を思い出す。これが「LAヴァイス」の原型であったか?

    遺品を調査するうち、郵便喇叭マーク、地下郵便組織トライストロ、偽造切手などに出くわす。この偽造切手が現在では希少価値があり競売にかけられることになり、この作品の題名となる。

    トライストロは遥か昔から存在したのか?現実に今でも存在しているのか?この探偵劇は初めから仕組まれた悪戯なのか?エディバと一緒に読者も迷宮。何 何?

    登場人物のキャラとその会話はウィットに富んで、案外コメディタッチ。お色気場面もあり、ドラマの中にまたドラマ、得意のピンチョン節を堪能しつつ、素人探偵モドキドラマに単純に惹き込まれました。

  • 内容を深く理解できたとはとても思えないので、星4つである。ピンチョンの作品では最も短く最も読みやすいとのことだが、私にはかなり難しかった。解注といいう大変丁寧な注釈がついているが、それでも理解できたとは云い難い。
    とはいえ、読みにくい、というものではなく、どちらかというと楽しく読めた。1966年の作品であるが、全く古さは感じなかった。というよりむしろ近未来小説のような味わいさえあったと思う。

  • 初めてのピンチョン。これは入門編として比較的わかりやすいストーリーだったかも。訳者の解注もあって理解の手助けになったし。ついでに家にある1999年のレメディオス・バロ展(伊勢丹美術館)の図録を久しぶりに引っ張り出してみたのだけど、残念ながら「大地のマント~」は載ってなかった(喇叭持った女の子の絵はあった!)。しかし改めてバロの絵を眺めていたらなんだか怖くなった。

    ラジオDJの夫と暮らしている女性エディパのもとに、元カレが死んでその遺産管理執行人に指名されているという手紙が届く。(原作未読ながら映画「インヒアレント・ヴァイス」は見たのだけれど、元カレだの元カノだのが厄介ごとを持ち込むのがピンチョンの定番なんでしょうか?笑)元カレはひとつの町ごと支配してるほどの大富豪で、切手収集家。もうひとりの執行人に会いに出かけたその町で、エディパは次々と奇妙な符号に行き当たる。ミュートした喇叭のマーク、WASTEという文字、奇妙な芝居、偽造切手、そして「トライステロ」という謎の裏郵便事業組織。

    関係者が次々死んでいったり、探偵ものともミステリーとも受け取れるけど、事件はすっきり解決するわけではなくて、ただただエディパが、その身に起こったことがただの偶然の一致なのか、自身がパラノイアなのか、あるいは死んだ元カレが仕掛けた大それた悪ふざけなのか、確証のないまま、巻き込まれて逃れられなくなってゆく、疑惑に始まり疑惑に終わる。

    自分以外の人間が全員グルになって自分を騙しているのではないか、自分は常に監視され、ひとつの方向に誘導されているのではないか、日常生活の中でふとそんな妄想に取りつかれて不安になることは誰にでも起こり得ることで、それが思春期なら自意識過剰の中二病、ある程度大人になってからならパラノイアだと自覚しているけれど、心のどこかで、でもほんの1パーセントでも、もしこれが本当に何かの啓示だったら?と考えてしまう。エディパもきっとそんな心境だったのだろうと思う。

    初期短編「殺すも生かすもウィーンでは」も併録。

  • ピンチョンの世界観にどっぷり浸かったら、戻ってこれないのかもしれない
    感動、狂気、恐怖、パラノイア患者にされてしまいそう

  • 結局エディパはピアスという塔の中で、アメリカの裏世界というマントを刺繍し続けていたのだろうか
    絵の前で彼女が感じた絶望と、線路を歩き続けた彼女が感じた絶望は、同じものなのか?

  • 初ピンチョンということで入門書的な中編を手にしたが、初速から時速160㌔で情報がぶっ飛んでくるが如く濃密な読書体験だった。パラノイア的陰謀論は60'sというより現代的な主題であり、氾濫する情報はギブスンのサイバーパンク的世界観を想起させる。無数の記号が結託して共通の暗喩を導き出し、時に主人公の心情描写以上に語り掛けるものがあるというのは現代的であり、それは歴史を持たない国、アメリカの文化を正しく体現している。そう、記号は時に小説以上に小説的だ。それは全てを語り切らない、だからこそ読者は語ろうとしてしまう。

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