雨の日はソファで散歩 (ちくま文庫 た 1-12)

著者 :
  • 筑摩書房
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本棚登録 : 310
感想 : 18
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  • Amazon.co.jp ・本 (267ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480427267

作品紹介・あらすじ

稀代のエンサイクロペディストが自ら選び編んだ最後のエッセイ集。

感想・レビュー・書評

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  • タイトルに惹かれて手に取ったのは、著者自選の最後のエッセイ集でした。
    装丁はクラフト・エヴィング商會。
    確か、吉田篤弘さんのエッセイ『木挽町月光夜咄』(筑摩書房)を読んだときに、種村季弘氏の名前を初めて知り、それ以来読んでみたいと思っていたのでした。

    リュックに本と缶ビールを入れて散歩に出かけ、休憩がてらビール片手に本を読み、疲れたら景色を眺める…ああ、いいなぁ…。
    ほかにもいろいろあったはずですが、お酒と食べ物の話題ばかり印象に残ってしまったのは、私の呑みたがりの性分ゆえでしょう。
    著者の幅広い知識を味わってみたいと思いつつも、次の種村エッセイは『食物漫遊記』かな、と早くも狙いをつけているのでした。

  • 本屋さんの雨の日フェアで見かけて、素敵なタイトルだったので購入。

    もはやファンタジーと言ってもいいような古き良き日本人の生活(食事・旅行など)についてを中心に博学な著者がユーモラスに語ったエッセイといった感じの本でした。
    時折さらっと核心をついていくような、胸に留めておきたい言葉も散りばめられてとても為になりました。

  • タイトルに引きずられ過ぎだろうか、明朗な語り口にも関わらず、どこかもやっとしたような、細かな霧雨が降り続く中にいるような、不思議な感覚を覚えた。
    種村氏の知識の幅広さ、結び目なく繋がっていくその糸にふんわりと絡め取られてしまいながら、あっという間に読了。そして、ムクムクと知識欲が湧いてきた。

  • 雨続きで、お出かけもしづらいし、飽きてきちゃったよー……と嘆いていたときに、書店で目に留まった一冊。『雨の日はソファで散歩』とは、なんて素敵なタイトルだろう。

    「松田という店」のエッセイのなかにある、“こんなときにはソファに寝転がって、行きたい町に本の上でつきあわしてもらうのが分相応というものだ。”の一文。

    雨で外に出るのがおっくうでも、気持ちの上ではいろんなところに行ける楽しみがあるじゃないか。こんな風に、場所というテーマを決めて本を読むことを真似しよう。

  • 「身の回りの一つ二つのものを捨てれば、
    かなりの程度世を捨てられるし、
    世から捨てられるのである」
    今朝(2024年1月20日)の新聞を読んでいて、
    この言葉を見つけた(「折々のことば」№2974)。
    最後の「世から捨てられる」にドキッとした。
    しかもそれを好ましいことのように言っている。
    解説にある「人と会ってもすぐに忘れてもらえる」
    にもドキッとする。
    「何かに打ち込みたけれ世に隠れること」
    「よく隠れた者こそよく生きた者」※
    というのも惹かれる。出典が本書だった。
    中野孝二以来の心の書の予感がしたのだ。
    作者のことは寡聞にして全く知らなかった。
    「季弘」で「すえひろ」と読むことも
    初めて知った。

    冒頭の「折々のことば」がどこで出てくるのか
    とりあえず流し読みしてみた。
    一巡目では見つからず、
    なんだかんだと三巡目。それでも見つからず
    四巡目で見つかった。
    でも途中面白い箇所が幾つかあって
    読み耽ったりもして有意義だった
    ①「そろそろ成熟した文化のなかの死を、
    軽々しく、あっさり死にたいものだ」(P17)
    ②「オキュパイド銀座」(P23)の銀座の話
    ③「とうふと洗濯」(P27)や
    「幻の豆腐を思う」(P60)など豆腐や旅の話
    ④湯河原にある「藤村ゆかりの宿」を
    「藤村(ふじむら)ゆかり」と読む話(P23)
    ⑤「温泉外人」(P45)や
    「永くて短い待合室」(P92)など温泉の話。
    総じて温泉、酒、旅、豆腐、文士、古い東京
    の話は面白い
    ⑥「七転び八起きの町へ」(P100)の新宿の話。
    コマ劇場は鴨池で浅草の旦那衆が開発した。
    「江戸の四駅といえば、開府当初は
    東海道の品川、中山道の板橋、日光街道の千住、
    甲州街道の高井戸。このうち五街道の出発点の
    日本橋から高井戸までは四里八丁。
    他にくらべて遠すぎるというので、
    あらためて中宿を設けた。だから新宿である」
    (P102)
    「大田南畝の新宿遊郭が舞台の「甲駅新話」。
    「甲駅というのは甲州街道の宿駅というほどの意味」
    「新興遊郭の新宿は客も遊女もにわか仕立ての
    寄せ集めなのである」
    ⑦「銀座の静かさは町のふところの深さから
    くるもののようだ」(P114)
    ⑧「幻の同居人」(P148)。
    『屋根裏に誰かいるんですよ。』(春日武彦)
    ⑨「生死まるごとの喜劇 山田風太郎を悼む」
    (P159)
    「人間が『死に至る存在』であることを見きわめて
    余生を喜劇化するのは、子規がいい例」
    「人生をぜんぶ余禄、余生と見て、死ぬまでの一切を、
    とりわけ死を滑稽事として演じること」
    ⑩「文化文政からあと…幕藩体制はもうだめに
    なっている…生産性はまったくないし、外圧もあって、
    もう亡びるだけ…でも、亡びるといっても、きょう、
    あしたじゃない…アヘアヘ言いながら
    過ぎていっている日常の、つまらないんだけれども、
    斜陽の日々が緩慢に傾いていく、
    ながいゆったりした時間があった。
    それはたぶん人間が死んでいく末期の
    時間と似ているんだけれど、そういうものを
    江戸の人が最後に楽しんだ時代だったんじゃ
    ないですか」(P176)
    「もう誰もなにも信じていない…ただもう
    退屈なんだよね。でも退屈のよさというものが
    あるわけです。あきらめきって、かえってのんびり
    している。…もう生産性はまったくないので、
    あと一突きされればガラガラといっちゃうという、
    そこの寸前のところでヒクヒク呼吸している状態
    …柳田国男は、そういう時は旗本なんかがウソの
    話を流すんだ、とどこかで書いている」
    「どうも江戸の人は、五月の鯉の吹き流しで、
    あんまり残さないんですね。残さないよさという
    ものがある」(P180)
    ⑪矢川澄子のことを書いた「昭和のアリス」は
    白眉
    ⑫「地盤がないとユダヤ人と同じで、金貸しになるか
    活字という空々漠々たるもので食うしかないんだね」
    「今の最初からお金持ちのインテリとは迫力が違う」
    「当時の連中は自ら選んだんじゃないってとこもある。
    それしか食う道がなかったんだよ」(P207)
    ⑬「種村さんご自身の強い遺志で、当面はその事実を
    公表することなく、密葬がとり行われた。その後も、
    少なくとも一年間は、葬儀に類することはしないこと、
    その間はもちろん、その後もご家族をわずらわせる
    ようなことは一切しないという意志は守られ、
    やがて一年経つ」(P211 あとがき)

    というわけで冒頭の言葉だが「名刺」(P37)にあった。以前自分もその隠者ぶりに興味があり
    探したことがある池内紀の話だった。

  • 2004年8月没、とんでもなく知識人です。最後のエッセイ集で最後の方は聞き書きもあり。多方面に面白く絶妙に味わい深い。

  • 「雨の日はソファで散歩」
    真っ白で囲まれた表紙に読書をしている人の絵。
    そして、このタイトル。
    本好きが手に取らないわけがない(と思えてしょうがない)。

    幻の名店を知る。が、訪れる前に閉店。
    そのことを「遅刻した」と言う。
    こんなに悔しい遅刻があるだろうか。

    言葉一つひとつから、情景や心情が伝わってくるようで、心地のいいエッセイだった。

    素白を手に歩く……
    なんて言われたら、素白でも読み直そうかなと思ってしまう。
    文学が文学をつなぐ。それも心地いい。

    たとえ一度も開かなくても、本棚に忍ばせておきたい一冊。タイトルを眺めながら、ページをめくらずにただただ積読。それさえも楽しい。
    それを飛び越えて読んだいまは、また違った充足感がある。

  • 名前は前から知っていて、なんとなく知った気になってた種村季弘さん。
    衒学的な感じかと思ってたけど全然気取りがないのに、めちゃくちゃ知識多いおじいさんという感じでとても面白く読めた。
    酒の話が多いのもなんか良い。
    岡本綺堂の話も出てきてタイムリーでうれしい。

  • 読みごたえのあるエッセイ集。昔の豆腐についての件が素晴らしく、食べてみたかったと思うばかりです。

  • 固有名詞も多く、引用される本も多いのだが、どちらかというとユーモアというよりは、過去を振り返ったりするものが多く、この作家に特に入れ込んでいる人でなければ、それほど興味を持てないのではないだろうか?

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著者プロフィール

種村 季弘(たねむら・すえひろ):1933-2004年。東京都生まれ。東京大学文学部卒業。ドイツ文学者。該博な知識人として文学、美術、映画から魔術、神秘学にいたるまで多彩なジャンルにわたり執筆活動を展開した。著書に『ビンゲンのヒルデガルトの世界』(芸術選奨文部大臣賞、斎藤緑雨賞受賞)、『書国探検記』、『魔術的リアリズム』など、訳書に『パニッツァ全集』(全3巻)などがある。

「2024年 『種村季弘コレクション 驚異の函』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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