ラピスラズリ (ちくま文庫)

著者 :
  • 筑摩書房
3.69
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本棚登録 : 880
レビュー : 84
  • Amazon.co.jp ・本 (251ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480429018

作品紹介・あらすじ

冬のあいだ眠り続ける宿命を持つ"冬眠者"たち。ある冬の日、一人眠りから覚めてしまった少女が出会ったのは、「定め」を忘れたゴーストで-『閑日』/秋、冬眠者の冬の館の棟開きの日。人形を届けにきた荷運びと使用人、冬眠者、ゴーストが絡み合い、引き起こされた騒動の顛末-『竃の秋』/イメージが紡ぐ、冬眠者と人形と、春の目覚めの物語。不世出の幻想小説家が、20年の沈黙を破り発表した連作長篇小説。

感想・レビュー・書評

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  • 稀少石のきらめきを思わせる硬質な文章。薔薇窓のように装飾的な舞台装置。山尾悠子の小説を読むのは、ゴシック様式の大聖堂の内部を探索するのに似ている。緻密で入り組んだ構造は、一度で全体像を把握するのを困難にしている。暗がりには冷気が漂い、陰気な亡霊の棲まう気配まで感じるようだ。それだけに、天窓から太陽の光が降りそそぐ時、来訪者は天上の光を仰ぎ見るような感覚にうち震えることになる。

    『ラピスラズリ』は、冬になると眠りにつく習性を持つ〈冬眠者〉をめぐる5つの物語である。物語の舞台は、深夜の画廊、中世西欧のシャトー、未来の日本の片田舎、13世紀のイタリアなど、場所も時代もまちまちだ。それぞれの話は微妙につながっているが、説明が極端に少なく、しかも不意に途切れてしまったりするので、読者は想像力をフルに働かせて行間を補わなければならない。そういう作業が苦にならない人しか読破できないが、一度読破したら麻薬のように中毒になる、そういうタイプの作品だ。

    *「銅版」/深夜の画廊を訪れた〈私〉は3枚の銅版画に見入っている。絵のタイトルは〈人形狂いの奥方への使い〉〈冬寝室〉〈使用人の反乱〉という。店主の説明を聞きながら、〈私〉は幼いころ母と訪れた画廊で見た別の銅版画のことを思い出す。そのタイトルは〈痘瘡神〉〈冬の花火〉〈幼いラウダーテと姉〉というのだった。

    *「閑日」/――これがおまえたちが知ろうとしない〈冬〉なんだよ。大晦日の雪の日、主人の〈冬眠者〉一族が眠るシャトーに向って少年は叫んだ。一方、冬眠の途中で目覚めた少女ラウダーテは夜を彷徨う一人の亡霊と出会う。

    *「竈の秋」/シャトーでは冬の棟開きが目前に控えていたが、今年は例年になく不穏な気配があった。何百体ものビスクドール、痘瘡の予兆、シャトー差し押さえのための使者。そんな中、成長したラウダーテは別の亡霊と出会う。ラウダーテの弟トビアは病弱な体に倦み疲れ、輪廻転生を夢見ながら眠りにつく。

    *「トビアス」/文明が衰退して数世紀たった日本で、冬眠者の少女は自分の来し方を回想する。いなくなった母、春を待たずに死んでしまった犬のことなど…。

    *「青金石」/1224年、アッシジ近郊。死期の近づいた聖フランチェスコのもとに一人の青年が訪れる。冬になると眠ってしまう体質のせいで結婚できず、家族を持つことを望めない青年は、懺悔の後で不思議な体験談を語る。瑠璃色の光に包まれて、春の天使が降臨してきた奇蹟のことを。

    「閑日」と「竈の秋」の2篇が物語としてまとまっており、分量からいってもこの2つが本書の中核であることは疑いない。しかし最後の「青金石」を読んで私ははっとした。筋らしい筋はなく、純粋なイメージと言葉だけで紡がれた物語。眠りの底から這い出る際の不快感と、その苦痛を打ち消して余りある目覚めの朝の素晴らしさ。〈冬眠者〉の長い物語が必要だった理由に、ここにきて初めて思い到る。冬眠だけではなく、そのあとに続く〈春の目覚め〉までが主題だったのだ、と。『ラピスラズリ』は、限りなく死に近い仮死のあとに訪れる復活の恩寵を描いた作品ではないだろうか。

    そしてそれは、20年の休眠期間を経て執筆活動を再開した、作者自身の心境にも重なるところがあるのかもしれない。

  • 幻想小説というらしい。全体を通して、本当に幻想を見ているような雰囲気。美しい絵を見ていて、いつの間にかその絵の中に自分が入り込んでしまったような感じ。その絵の中でふわふわ漂っている。
    冬眠者という、冬に冬眠する一族とゴースト、使用人達…どこからが本当でどこからが幻か分からなくなる。不思議な感覚。
    最後のアッシジの聖フランシスコと冬眠者の話が特に良かった。

  • 「山尾悠子はいいぞいいぞ」と周囲から言われつつ、遠巻きにしていた。幻想文学好きには美しい函装の単行本版が必須アイテム(らしい)なのだが、今回は文庫版で。

    ギャラリーに展示された3枚の絵をキーに進む短編集だが、大きくいって「冬の眠り」をテーマにした短編集だと思う。春に穏やかな目覚めが約束されているかというとそうではなく、ひょっとしたらそこから目覚めないかもしれないし、その眠りをサポートするために眠らない人間もいる…と書きつつも、それは朦朧とした世界と筆致で作り上げられているので、自分が読みとったものが「本当にそういう世界」かというと、明言はできない。イラストを付けるとしても、イメージイラストは付けられるが、明確な舞台描写はできないと思う。解説で千野帽子さんがおっしゃるように、「小説は言葉で構築されたものであるということをその小説自体で教えてくれた作家」の作品。自分の言葉を読む力を総動員して楽しむ作品で、安易にキャラクタライズできないところが優美で美しい作品だと思う。これを萌えやらイケメンイラストを随所にちりばめて売り出すなんてことが起きたら、売る側と買う側の神経を本気で疑う。

    個人的には「銅板」の感触が好きだが(この1編ですぱっと完結してもいいような)、「閑日」→「竈の秋」はドラマチック。読みながらアンナ・カヴァン『氷』と、ポー『アッシャー家の崩壊』を思い出した。

    単行本から全面的に手が入れられているとのことで、読み比べ必須。

  • 「冬」と「眠り」に引きずられるような幻想小説短編集。
    それぞれの話には関わりがあるようでないようで。
    片手間で読んでいたのであんまりよくわからなかった。
    けど、緻密な文章と薄暗い雰囲気ははよかった。

    今度ちゃんと読む。

  • ああ・・・
    なんて幻想的・・・
    いや、幻惑的?
    5篇の中短篇の物語からなるこのラピスラズリ・・・
    読み終えた後も、何度かチョコチョコと読み返してみても、この本の全体像がボヤけてしか見えない・・・
    物語のピースをこういうことだろうか?と組み立てていっても・・・
    ハッキリした形にならない・・・
    『正解』に近づこうとも近づけない・・・
    ああ・・・
    でもでも、それはそれで良い気がする・・・
    そして、そのせいなのか?読み終えた後のこの余韻たるや・・・
    こんな不思議な余韻はなかなか感じられない・・・
    何だか美しいモノを見た(読んだ)ような・・・
    ああ・・・
    こ・と・ば・に・で・き・な・い!

    眠い眠いとなりながら、列車の到着を待つ時間つぶしに深夜営業の画廊に入ると・・・
    三枚組の小さな古い銅版画に目が留まった・・・
    タイトルは左から順に、<人形狂いの奥方への使い>、<冬寝室>、<使用人の反乱>となっております・・・
    そう言う画廊の店主とその三枚の銅版画について話していると・・・
    それにしても眠い・・・
    それに、何だか遠い昔にもこんな話をしたような・・・
    右から順に、<痘瘡神>、<冬の花火>、<幼いラウダーテと姉>というのですよ・・・
    と物語が始まる・・・
    この導入の、最初の1篇に続く2篇3篇の物語はどうやら、その銅版画の物語・・・
    冬になると眠り続けて春を待つ、『冬眠者』の物語・・・
    同じ登場人物と思われる人も現われたりするので、ああ、繋がっているんだな、となる・・・
    銅版画が語っている物語と、銅版画には語られていない物語を楽しめる・・・
    さて、次の篇は当然、この続きと思いきや・・・
    いきなりぶっ飛ぶ・・・
    いつの時代か・・・
    おそらく未来の物語・・・
    輝かしい未来ではなく・・・
    薄暗く、廃れた未来・・・
    日本のどこかの廃市での物語・・・
    この篇で気づく・・・
    ああ、この本は・・・
    銅版画に描かれている物語の本ではなく・・・
    この本を通して脈々と連なる『冬眠者』たちの物語なんだ、と・・・
    最後の篇は・・・
    一気に遡って1226年になり・・・
    ほのかな温かさを感じさせて終わる・・・
    いや、終わるのではなく、始まるのか・・・
    いくつかの夢を見て、まどろみから目が覚めたような感じになる・・・

    こんな貴重な読書体験を味わえるなんて・・・
    この本はオススメ・・・
    冬にこそ・・・

  • 「ラピスラズリ」山尾悠子◆冬眠する『 冬眠者』、ゴースト、春の目覚めー。導入部分は引き込まれるのですが、それ以降はなんだかふわふわつらつらとした詩を読まされるようで、冬眠者たちと一緒に何度も寝てしまった。絶賛するレビューも多く見られるので、たぶん自分に合わなかったのだろうと思う。

  • 繊細かつ緻密な幻想世界という印象だった。しかし、文章があまりに独特なので読みづらく、完全には理解できなかった。機会があったら腰を据えてゆっくり読み直してみたい。

  • 本屋さんで偶然に見つけて、タイトルに魅かれて購入。 この作家独自の空間もそうだが、何よりも時間感覚が難解。小説全体の構造把握もまた難渋。初めて読んだ作品だが、よほどじっくりと向きあわないと作品世界には入っていくのは困難。

  • 甘美でいてその自然さに思わずため息が出てしまうような文章。何度も読み返したくなる魔力が確かに存在する。
    最近の小説はストーリー性ばかりを重視させ、その作品が本である必要性を感じないものが多い。それはそれで良いのだが、こういった活字の素晴らしさで表現されている作品は非常に減ってきているように感じ、同時に少し寂しくもある。間違いなく私の人生の本ベストテンに入る。

  • 感覚で読む物語。儚くて尊いお話でした。

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著者プロフィール

山尾悠子(やまお ゆうこ)
1955年、岡山市生まれの小説家、歌人。寡作ながらその幻想文学は極めて高い評価を受けており、執筆中断期間もあったことから「幻の作家」「伝説の作家」と言われることもある。
同志社大学文学部国文科に入学し、高校までに読んできていた泉鏡花を専攻(のちに泉鏡花文学賞受賞という機縁もある)。大学在学中の1973年、「仮面舞踏会」が『S-Fマガジン』SF三大コンテスト小説部門の選外優秀作に選ばれたことをきっかけに、1975年11月号の「女流作家特集」で同作を掲載し20歳でデビュー。
1980年に書き下ろし長編『仮面物語』、1982年歌集『角砂糖の日』を刊行。1985年以降は出産・育児で発表が途絶えていたが、1999年に復活、2000年に国書刊行会から『山尾悠子作品集成』を、2003年には2作目の書き下ろし長編『ラピスラズリ』を刊行。
2018年刊行、15年ぶりの長編となった『飛ぶ孔雀』が第46回泉鏡花文学賞を受賞した。日本文藝家協会会員。

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