炎の戦士ク-フリン/黄金の騎士フィン・マック-ル (ちくま文庫 さ 40-2)

  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (509ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480430229

作品紹介・あらすじ

太陽神ルグとアルスターの王女テビテラのあいだに生まれた英雄クーフリンの哀しい戦いの物語と、フィアンナ騎士団の英雄で、未来を見通し病人を癒やす不思議な力を持つフィン・マックールの物語。エリンと呼ばれた古アイルランドで活躍した美しく逞しい騎士たちを、神々や妖精が息づく世界のなかで鮮やかに描く。サトクリフ神話英雄譚の傑作2作を1冊にまとめる。

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  • 祝文庫化

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    「太古のむかし、太陽神ルグとアルスター王の一族の姫デヒテラとのあいだに生まれたクーフリンは、勇者ぞろいの赤枝戦士団のなかでも並ぶもののない勇者に成長した。『アルスターの猛犬』と呼ばれ、そして「アイルランド一の戦士」とうたわれた…。カーネギー賞作家サトクリフの手によって、力強く、迫力いっぱいに語りなおされた、ケルト神話英雄譚。『ケルト神話 黄金の騎士フィン・マックール』と対になっていっそう魅力的なケルト世界をかたちづくる。

    むかし、アイルランドはエリンと呼ばれ、五つの王国にわかれていた。小王国のあいだの争いや血の復讐を治め、またエリンを侵略者から守るために、フィアンナ騎士団はあった。英雄フィン・マックールは、その騎士団長だった…。人間と妖精がいりまじって紡ぎあげられた、フィンの冒険物語は、ケルト神話の代表的な英雄物語として古くから語りつがれてきた。鮮やかに、力強く、ときにユーモラスに、カーネギー賞作家サトクリフによって語りなおされた、ケルト神話英雄譚。 」

  • まずは、サトクリフがーーこの本が、ふたたび注目を浴びて(そのきっかけがなんであろうと!)ひかりを見たことをうれしく思う。小学生の頃からケルトの物語は私の大好きなカテゴリに入っていたが、それはもっぱらメリングのもので、残念ながらサトクリフを読む機会にめぐまれなかったからだ。以降、井村君江さん鶴岡真弓さん、片山廣子女史などさまざまな「ケルトの物語」に触れ、カオス状態な実際の伝説にも(邦訳だが!)あたってきた。この本はその中では、なんというのだろう。神話の血は継承しながらも、登場するものたちを「ひと」に近づけた佳作のように感じられて、とてもたのしく読めた。復刻に感謝したい。
    ……ひとことだけ付け加えるなら、ディアミッド・オダイナがいちばん気の毒。

  • ケルト神話を小説として語り直した2作品『炎の戦士クーフリン』及び『黄金の騎士フィン・マックール』を収録した作品集。
    双方ともアイルランドを舞台とした英雄譚ではあるものの、成立年代が大きく違うこともあり、それぞれ異なった味わいがある。

    『炎の戦士クーフリン』は、アイルランド随一の英雄、クーフリン(クー・フーリン)を主人公とした物語。重々しくも、淡々と乾いた文体は、語り出される始めから、彼の凄惨な死を描写する結末に至るまでもがただただ美しい。

    『黄金の騎士フィン・マックール』は、アイルランドを守護するフィアンナ騎士団の団長フィン・マックールを主人公とした物語。神話的な『クーフリン』に比べ、昔話的で伸びやかな印象がある。前半ではフィンの数々の武勇が語られるけれど、それらよりもむしろ後半でのディアミッド・オダイナ(ディルムッド・オディナ)の悲恋物語が印象的。高潔な心と卓抜した武を持ちながらも、人の力を超えた禁戒(ゲシュ)によって滅んでいく英雄の姿は、悲しくも心惹かれて、英雄像のひとつの原型を見ている心持ちにさせられる。

  • ケルト神話の2人の冒険譚を収録した1冊

    クーフリン、フィン・マックール、それぞれ同じケルトの地に伝わる神話の英雄ですが、時代や文化の流れで少しずつ特色の違いがあってとても興味深いです
    いつの時代でも英雄たちの人生は喜怒哀楽豊かに心に訴えかけてくる

  • 抄訳なので原典から削除された表現がある。翻訳者は裏切り者、という箴言の通りだ。

  • 文庫版では初。ハードカバー版、クーフリンのほうはどこにやったかな……。
    もともと2冊のハードカバーで出ていたのを一冊にまとめて文庫化したもの。贅沢だけど、表紙は代表でクーフリンだけらしいこと、挿画がだいぶこぢんまりしたことが惜しいと言えばそうかも。それでもこうして別の形で新しく出てくれて嬉しい。

    アルスターサイクルとフィニアンサイクルとで、神々(妖精)に属する力の働き方というのか、その手触りがずいぶん違うのに驚かされる。より神話らしいのは前者であるのに、普遍性にかけては後者の方が印象深いような。
    確たる個として超常の世界が成り立っていて、それと語られない時には忘れそうになるくらいなのに、ひとたび現れればとんでもない威力を奮う。たぶんそれがアルスターサイクル。一瞬のうちにあらゆることが起こって終わるかのような緊張感と迫力がとても好き。まるでクーフリンの運命を決定づけるドルイドの予言そのもの。
    他方、荒々しさ獰猛さが鳴りを潜めた代わりに、人界と緩く重なり合って分かちがたいのがフィニアンサイクルなのかも。フィアナ騎士団の面々が幾度となく出逢う不思議は、畏怖よりわかりやすく憧憬を掻き立てているようにも思う。あるいはそうすることで人界への影響力を繋いでいると見るべきか。「アシーンの帰還」の残酷さが胸に刺さる。

  • ・ローズマリー・サトクリフといへば再話である。邦訳もいくつかを出てゐる。ヨーロッパの神話、伝説を読み易くなるやうに直す。これによつて複雑な物語の筋が明瞭になる。そのおもしろさがいや増す。日本神話ぐらゐしか知らない人間には実にありがたいことである。このローズマリー・サトクリフ「ケルト神話ファンタジー 炎の戦士クーフリン/黄金の騎士フィン・マックール」(ちくま文庫)もそんな再話作品の一つである。旧版では2冊だつたものを文庫1冊にまとめたといふ。これもまたありがたい配慮である。
    ・この2つの物語は「ケルト神話ファンタジー」と一括されてゐるが、その時代はかなり離れてゐる。しかもクーフリンは「ケルトの神話らしく、筋の運びはときに荒唐無稽なほど奔放だが、哀調を帯びており、光と闇を秘めた魅力を持っている。」(「訳者あとがき」500頁)のに対し、フィンは「神話といふよりは 民話に近い。」(同前)のだといふ。サトクリフ自身も同様の考へを述べてゐるといふから、これはまちがひないのであらう。実際、フィンの最後「アシーンの 帰還」は浦島伝説であらう。玉手箱がないから違ふとは言へるが、アシーンも浦島も異世界を尋ねて夢の如き日々を送つたといふ点での違ひはない。さうして帰 つてみれば……である。そこに昔の面影はなく、知る人は1人もゐない。英雄の息子で吟遊詩人の哀れな末路と言つては言ひすぎかもしれない。しかし、これが 「民話に近い」といふ最も分かり易い一例であり、ラストである。大団円ではない。逆にここで、それ以前の英雄たちの物語はすべて異化されてしまふ。フィン も、ディアミッドも、マックモーナも、一炊の夢の如き存在でしかなかつたといふことになる。クーフリンはかうではない。あくまで英雄譚である。物語の陰影 などといふことを考へれば、話としてはフィンの方がおもしろくできてゐるのかもしれない。しかし、これはケルトの神話である。妖精も出てくるが、それ以上 に英雄が出てこなければならないのである。クーフリンは確かに英雄である。父は神族であるから、これだけでも超能力が保証されることになり、戦ひに於いて は正に超人的な活躍をする。サトクリフの再話はそれを実に楽しく、気持ちよく読ませる。神話は本来さういふものではない。あちこちに齟齬があつたり、物語 が入り組んだりしていて、読むのに難渋するものである。サトクリフはそれをきちんと整理する。それが再話といふものであるせよ、彼女の手際は実に鮮やかで ある。クーフリン最期の場面、いかに超人的な英雄も予言を避けることはできずに死に至る。多勢に無勢でも何とかなるつてゐた。しかし、予言は防げなかつ た。これを悲劇の英雄と言ふべきか。「哀調を帯び」た物語、ならばヤマトタケルに比すべきか。英雄とはさういふものだといふ以上に、2人には相通じるもの があらう。話が手際よく進むから、そんなことまで考へてみるのである。巻末の井辻朱美の解説は「伝説の英雄から等身大の人間へ」と題されてゐる。意味するところはクーフリンからフィンへといふことであらうか。ただ、私はクーフリンもまた生身の人間の英雄として生涯を終へ、フィンもまた伝説的な超人的な英雄 として生涯を終へたと考へる。このあたりの境界は曖昧である。神話も民話もそれを明確に区別することはなかなか難しいのではないか。もしかしたら、それを 逆手にとったのがフィンであるのかもしれないと思ふ。そこにサトクリフの腕の冴えがあつたのである。それでも私はクーフリンの方がおもしろいと思ふ。あれでこそアイルランドの英雄譚である。妖精譚とは違ふのだと思ふのであつた。

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著者プロフィール

イギリスの児童文学者、小説家。幼いときの病がもとで歩行が不自由になる。自らの運命と向きあいながら、数多くの作品を書いた。『第九軍団のワシ』、『銀の枝』、『ともしびをかかげて』(59年カーネギー賞受賞)(以上、岩波書店)のローマン・ブリテン三部作で、歴史小説家としての地位を確立。数多くの長編、ラジオの脚本、イギリスの伝説の再話、自伝などがある。

「2020年 『夜明けの風[新版]』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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