短篇小説日和: 英国異色傑作選 (ちくま文庫 に 13-1)

  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (487ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480430342

作品紹介・あらすじ

短篇小説はこんなに面白い。十八世紀半ば〜二十世紀半ばの英国短篇小説のなかから、とびきりの作品ばかりを選りすぐった一冊。ディケンズやグレアム・グリーンなど大作家の作品から、砂に埋もれた宝石のようにひっそりと輝くマイナー作家の小品までを収める。空想、幻想、恐怖、機知、皮肉、ユーモア、感傷など、英国らしさ満載の新たな世界が見えてくる。巻末に英国短篇小説論考を収録。

感想・レビュー・書評

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  • 短編小説は昔から好きで、たびたび読んでいる。長くても数十ページのなかで状況が説明され、登場人物とその心情が動き、鮮やかに結末へと向かうのは、長編とは違った緊張感があって楽しい。近ごろは長編を読む辛抱が年とともに足りなくなってきたのか(笑)、意識しなくても短編集を手に取ることが多いように思う。これはそういったこともある(かもしれない)けれど、装画のミステリアスな感じも素敵で、発売と同時に手に取った。

    今でも著名な作家、今また見直されつつある作家、あるいは今ではもう顧みられることもほとんどない作家とりまぜての短編集。トラディショナルな英国小説といえそうなものから、緊張感のある、心理的な不安をあおる現代的なものまで、幅広い題材で選ばれているように思う。ポウイス『ピム氏と聖なるパン』とグージ『羊飼いとその恋人』は、前者のとぼけたユーモア、後者の老嬢のちょっとした、でも大胆な冒険という、典型的な英国ネタで面白いし、アンスティー『小さな吹雪の国の冒険』の、かしこまった紳士が巻き込まれるファンタジックな物語を嫌いな人はいないと思う。ミュリエル・スパークやアンナ・カヴァン、ジーン・リースの、うっ屈と不安で覆われた切れ味鋭い筆致も、読む人を選ぶとは思うものの、それはそれで見事だと思う。個人的にはベイツ『決して』が、タイトルと内容の組み合わせとして絶妙で好き。

    編者である西崎さんによる、各著者の紹介文が丁寧で、しかも微妙にカラい1行がほぼすべてにさしはさまれていて、思わずふふっと口の端で笑ってしまう。それぞれの訳も、抑えぎみのトーンで着実に進められていく感じで、ページをめくる手はスピーディーではないものの、これまた着実に進んでいく気がする。それに、巻末の解説を兼ねた論文『短篇小説論考』も専門性が高いながら、根本的なことが問われていて面白かった。そうかー、短編って、字数が少ないとか、結末の鮮やかな展開で決めてくる作品を指すものだとばかり思っていたら、そういう上っ面だけのことではなかったのね。浅はかでした、ごめんなさい!

    とはいっても、これからもずっと、浅はかにしか読めないんだろうなあ。でも、短編小説を読むときの、小さなグラスに注がれた極上のお酒をくいっと飲み干すような刺激の強さや心地よさは、やっぱり手放せないんだなあ。

  • 現代の自分とは全然違う世界へ現実逃避、とても楽しい。もっと他にもこういう短編小説集があったら、誰か教えてくれないかな?
    不気味な話も多く、それはそれで面白いけれども中盤の「羊飼いとその恋人」エリザベス・グージ、「聖エウダイモンとオレンジの樹」ヴァーノン・リー、「小さな吹雪の国の冒険」F・アンスティー辺りがほのぼのとしていて良かった。

  • 文学

  • M P シール「ユグナンの妻」にクトゥルフみを感じるけど、どこにもそんなことは書いてなかった。西インド諸島のモントセラット島に生まれれてイギリスはケンブリッジのキングスカレッジで学んだとか。
    ポーの影響下にあるのは明らかと著者の西崎さんの弁。ピエール・ルイス、ワイルド、スティーブンスンなどと親交があったとか。

    一番好きだったのは「聖エウダイモンとオレンジの樹」。(ヴァーノン・リー)

    ミュリエル・スパーク muriel spark
    マーティン・アームストロング
    W・F ハーヴィー william fryer harvey
    キャサリン・マンスフィールド katherine mansfield
    H・E・ベイツ herbert ernest bates
    グレアム・グリーン
    ジェラルド・
    カーシュ gerald kersh
    マージョリー・ボウエン marjorie bowen
    T・F・ポウイス
    エリザベス・グージ elizabeth goudge
    ヴァーノン・リー vernon lee
    F・アンスティー F anstey
    L/P・ハートリー leslie poles hartley
    ニュージェント・バーカー nugent barker
    ナイジェル・ニールnigel kneale
    チャールズ・ディケンズ charles dickens
    M・P・シール matthew phipps shiel
    ロバート・エイクマンrobert aickman
    ジーン・リース jean rhys
    アンナ・カヴァン anna kavan

  • 『英国短篇小説の愉しみ』3巻分を編集したもの。ジャンルレスの傑作ぞろいだが、選者らしくどれも幻想風味があるのが特徴。1では切れ味の良い文体スパーク「後に残してきた少女」、なんともいえないオチのハーヴィー「羊歯」、不思議な神話的世界が描かれるカーシュ「豚の島の女王」、2では美しいファンタジーのリー「聖エウダイモンとオレンジの樹」、短い中に起伏に富んだユーモアファンタジーが展開されるアンスティー「小さな吹雪の国の冒険」、執拗な男による怖ろしい心理劇ハートリー「コティヨン」、3では民話風の語り口がよいディケンズ「殺人大将」、夫婦の断絶が見事に切り取られているエイクマン「花よりもはかなく」巻末の短篇小説論考も大変素晴らしく、今後の読書の手がかりをあたえてくれる。個人的にはマン島出身のナイジェル・ニール、カリブ海と縁の深いM・P・シールやジーン・リースといった作家も気になった。

  • 短篇小説のアンソロジーの大当たりをひくことほど、
    幸福を感じることはございません!

    なんだかとっても得した気分!

    とは言え実はこの本は発売と同時に買って、
    でもなかなか読まず、
    本棚にある事は気にしながらも、月日は流れ…

    って、発行年みたら、2013年3月、だって!
    本棚であたためすぎ!

    でもさ、本屋さんで買ってきても、
    図書館で借りて来ても、いざ読もうとすると
    「なんか、今の気分じゃない」となること
    ありますよ、ね?

    さて、
    この本の中には大好きなキャサリン・マンスフィールド
    も入っていた!(自分が褒められた気分!)
    このお話、この間読んだミステリ短篇集にも入っていたな。
    (「パール・ボタンはどんなふうにさらわれたか」)

    また、グレアム・グリーンの「八人の見えない日本人」
    が入っていて、この話って何度読んでも面白いよね。

    ご大層な口を利く鼻持ちならない人が
    実は大分駄目って言うのが静かにわかるの、
    なんとも言えません。

    そして、一番は、エリザベス・グージさんの
    「羊飼いとその恋人」、このお話!

    もう、おしまいでぐっと来て、
    地下鉄の中だったけど、思わず、
    「これ!」と言いたくなっちゃった。
    (何が「これ」かと言うと、
    「最高のお話と言うのはこれ」、と言う意味)

    あー、私も自由に使えるお金がたくさんあったら、
    そうしたら…(どうするの?)

    エリザベス・グージさんの作品、
    日本では、今は出ていないけれど
    (岩波の人が岩波では絶版と言わず、
    今は出していないと言う感覚、
    とどこかに書いていたからそれに合わせました)
    岩波少年文庫で「まぼろしの白馬」と言う、
    とてもロマンティックで素敵なお話があるみたい!

    探して、すぐに読むから、待ってて!(と、その本に)

  • エリザベス・グージ「羊飼いとその恋人」F・アンスティ「小さな吹雪の国の冒険」L.P.ハートリー「コティヨン」

  • 20作の短編アンソロジー。表紙絵がバロだし、なんとなく勝手に怪奇幻想系を期待していたのだけど、タイトルはあくまで「異色傑作選」なので、そこまで幻想系ではなかった。後半になるにつれ不条理・不穏系のものが増えていった気はしましたが。

    自分の好みとしては、サーカスの見世物芸人たちが無人島に流された顛末を描いた、悪趣味だけれどインパクト大な「豚の島の女王」が一番面白かった。あとディケンズの、寓話風にまとめてあるけれど実は陰惨な青髭系の「殺人大将」、アンナ・カヴァンの「輝く草地」は安定の不条理さで安心する(笑)「看板描きと水晶の魚」は世界観はとても好きだったけれどもうちょっと種明かしして欲しかったような。ほのぼのオチとしては「羊飼いとその恋人」はわりと好きかな。アンソロジーの最初を飾る「後に残してきた少女」も、よくあるオチなのだけどそれなりに最後の数行でひっくり返される感じは好き。

    ※収録作品
    「後に残してきた少女」ミュリエル・スパーク/「ミセス・ヴォードレーの旅行」マーティン・アームストロング/「羊歯」W・F・ハーヴィー/「パール・ボタンはどんなふうにさらわれたか」キャサリン・マンスフィールド/「決して」H・E・ベイツ/「八人の見えない日本人」グレアム・グリーン/「豚の島の女王」ジェラルド・カーシュ
    「看板描きと水晶の魚」マージョリー・ボウエン/「ピム氏と聖なるパン」T・F・ボウイス/「羊飼いとその恋人」エリザベス・グージ/「聖エウダイモンとオレンジの樹」ヴァーノン・リー/「小さな吹雪の国の冒険」F・アンスティー/「コティヨン」L・P・ハートリー
    「告知」ニュージェント・バーカー/「写真」ナイジェル・ニール/「殺人大将」チャールズ・ディケンズ/「ユグナンの妻」M・P・シール/「花よりもはかなく」ロバート・エイクマン/「河の音」ジーン・リース/「輝く草地」アンナ・カヴァン

  • 英国の短篇というと、どうしても恐怖譚が圧倒的に多いイメージ。
    本選集にも様々な恐怖の味わいのあるものが幾つも納められているけれども、格別恐怖譚を集めたものではない。
    それを念頭に置いたうえで、読むのが一番よさげ。
    逆説的だが、そうすると、極上の恐怖感を味わえるから。

  • 佳作揃いで大変良い短編集だった。以下、印象に残った作品と感想。『羊飼いとその恋人』わかりやすいうえに面白い。『聖エウダイモンとオレンジの樹』雰囲気が大変好み。『パール・ボタン〜』マンスフィールドの軽やかに書かれたお話はいいなあ。『殺人大将』ディケンズはやっぱりすごい。『輝く草地』カヴァンはどこまでもカヴァン…。

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著者プロフィール

1955年生まれ。翻訳家、作家。著書に『世界の果ての庭』『蕃東国年代記』『ヘディングはおもに頭で』『未知の鳥類がやってくるまで』『全ロック史』ほか。訳書に『郵便局と蛇』コッパード、『第二の銃声』バークリー、『ヘミングウェイ短篇集』など多数。電子書籍レーベル「惑星と口笛ブックス」主宰。

「2022年 『郊外のフェアリーテール キャサリン・マンスフィールド短篇集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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