こちらあみ子 (ちくま文庫)

著者 :
  • 筑摩書房
3.74
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本棚登録 : 1242
レビュー : 151
  • Amazon.co.jp ・本 (237ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480431820

感想・レビュー・書評

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  • デビュー作にして太宰治賞、三島由紀夫賞を受賞した表題作ほか2編。

    知的もしくは発達障害と思われる「あみ子」は、突拍子もない言動で周囲の人たちを疲弊させていく。悲しいことに、彼女のまっすぐで情熱的な思いは、好きな男の子にも両親にも受け入れてはもらえない。
    そんな重い題材を取り上げながら、暗くならず、むしろカラリと力強く進むところがいい。

    芥川賞候補ということで手に取った『星の子』に魅了され、『あひる』、本作と出版順を遡るかたちで1週間に3冊読んだ。中毒性のある特異な世界にどっぷり浸り、早くも次作が読みたくなる。今のところはこれしかないのが残念。
    それにしても、これがデビュー作とは畏れ入った。一度読んだら忘れられない作品だ。久し振りに新しく追いかけたい作家が出てきて、わくわくする。
    私の薦めで寝る前にあみ子を読んだ母は、度肝を抜かれ悪夢を見たそうで。さもありなん!

  • あちこちで「衝撃作」と評価されているのを目にし、またそんな大袈裟な、ありきたりな煽り文句を、と心の隅で思っていたのだけど、これは、どえらいものを読んでしまったとざわざわする気持ちが治まらない。
    町田康、穂村弘の解説も良い。

  • 一風変わった性格の主人公を持つ表題作、「ピクニック」、「チズさん」を収録。変わったストーリーだなと思ったが、町田康の解説を読んで納得。たしかに、主人公は一途なのだった。一途を突き詰めると、こうなってしまうのかもしれない。もう1つの解説が穂村弘なのも、いわゆる世間とのずれを意識する人(穂村さん)と意識しない人(あみ子や七瀬さん)の対比が出ていて、選定の妙を感じた。

  • ものすごい傑作を読んでしまった。あみ子の訳のわからなさ加減が半端ない。本人はそれぞれの行動にちゃんと理由があるけど、誰もそれを理解できない。理解できないけど悪気がないのは分かってるから、周囲はどうにもならない。あみ子の存在が周りに負のオーラ出しまくりなのが何とも切ないのだが、あみ子と兄、あみ子とのり君、あみ子と両親それぞれの関係性の中に、言葉にはできない大事な核が確実にあるのは感じる。あみ子がトランシーバーで助けを求める場面は胸に迫るものがあった。あと、町田康の解説もとても良かった。

  • 芥川賞候補になった作家だから、言葉をこねくり回して無理に難解にする系の小説なのかと思いきや、話に引き込まれ一気に読んだ。「こちらあみ子」はおそらく忘れられない小説になるだろう。知的障害者の目線で捉えた話で多くの人に読んでもらいたい。自閉症や多動症の子供は芸術的に天才が多く、その彼らがどんな風景を見てるのかを、正しいかどうかわからないが垣間見えると思う。

    • chie0305さん
      あみ子とのり君の例のあの会話の時、怖くなりました。分かり合えない。ここまでくると、もうホラーだわ…と。どちらが悪いというわけではないけど。私...
      あみ子とのり君の例のあの会話の時、怖くなりました。分かり合えない。ここまでくると、もうホラーだわ…と。どちらが悪いというわけではないけど。私も、この本は心に残りました。
      2017/10/31
    • kakaneさん
      チエさん。コメントありがとうございます。自分の心のままに行動し、発言する障害者に健常者はどう接すればいいのか?難しいけど
      理解していかなけれ...
      チエさん。コメントありがとうございます。自分の心のままに行動し、発言する障害者に健常者はどう接すればいいのか?難しいけど
      理解していかなければいけませんね。みんなが考えさせられる傑作だと思います。
      2017/10/31
  • 太宰治賞と三島由紀夫賞をダブル受賞した表題作と、「ピクニック」「チズさん」を合わせた短編集。
    3つとも全部、読んでいてざわざわした。何とも言えない読後感。
    ざわざわ具合ではこないだ読んだ川上弘美さんの短編集と負けず劣らず。

    風変わりな女の子・あみ子は、かつて家族から愛されていた。優しい父、一緒に登下校してくれる兄。そして書道教室の先生をしている母のお腹には赤ちゃんがいた。
    純粋無垢すぎるあみ子の行動は、周囲の人々を否応なしに変えてゆき、いつの間にかあみ子はひとりぼっちになってしまう。

    主人公のあみ子は恐らく、何かの障害を抱えているのだろうと思う(作中にそういった記述はないが)。
    純粋すぎるからこそ、どういう言動が人を傷つけたり、嫌われる原因になるのかが分からない。だから思ったままに行動してしまい、それが周囲を傷つけたり煩わせたりして、学校でもあっという間に孤立する。
    物語だと分かっていてもぎょっとする場面もある。
    だけど…物語だから、なのかも知れないけれど、最初から最後まであみ子のことは憎めないし、そもそもそれを受け入れない社会の仕組みや常識が100%正しいと言えるのか、ということを考えてしまう。

    子どもの頃にプレゼントされた、壊れたトランシーバーを大切にし続けるあみ子。「こちらあみ子、応答せよ」
    応えて欲しい人は誰も応えてくれない。でもあみ子は気づかなくても、実はそっと応えてくれる人も存在していたりする。
    孤立していることにも気づかないあみ子はとても切ない。でもそれと同時に、自分の世界を完全に確立してその中で自分らしく生きているあみ子は、彼女的には不幸ではないのかもしれない。
    導入部とラストが繋がるとやはり切ないけれど…でも不思議な爽やかさも残る。
    “自分らしく生きること”の極みを見せつけられるような作品。
    帯の絶賛具合は嘘じゃなかった。

    ざわざわ具合で言うと個人的には「ピクニック」はさらに上をいく。
    淡々と進み、どこまでが本気?と思いながら読んだ。現実感を呼び寄せる登場人物がたった1人だけ、というのが何とも。1人しかいないからその人がやたらと冷たく映ってしまうのだけど、その1人がまともなのだということに気づくとはっとする。

    これがデビュー作みたいだからまだそんなにたくさん作品は出していないのだろうけど、アメトーークの読書芸人の回で「あひる」という作品が紹介されていた気がする。
    この空気感があるのなら、読んでみたい。

  • ここのところ怪奇幻想耽美デカダンみたいな本ばかり読んでいたのでちょっと息抜き・・・と思って読んだら、意外にもなんかこう、切っ先鋭いナイフを突きつけられてしまった。町田康の解説がとても面白かったのだけど、確かに、この本からは勇気も元気も貰えないし(与えるつもりもないだろうし)でも何かがぐっさり残ってしまう。そして主人公だけでなくあらゆる登場人物に感情移入が可能だし、いろんな読み方、いろんな解釈が可能で、読む人の年齢や性格、そのときの精神状態によってきっと読み返すたびに印象が変わるのだろうな。

    私自身は、裏表紙の紹介文にあるように、あみ子を「ちょっと風変わり」だけど「純粋」で「無垢」などとは全く思えず、ダミアンか!というほど邪悪な存在に思えて疎ましかった。・・・と、正直に言うと「ひどい!」と非難する人もいるだろうし「あみ子は悪くない」「ああいう子を許容できない現代社会の問題が・・・」という意見もあるでしょう。「あたしはあみ子みたいになりたい。自由で素敵」というアホもいるでしょう(暴言)でもきっとあみ子は鏡のようなものなんだろうなと思う。
    きっと私自身が邪悪で心が荒んでて鬱屈しているから、あみ子に対して攻撃的な気持ちになってしまうんだろうな。

    いろんな読み方ができると先にも書いたけれど、私はあみ子の「無邪気」が実は特定の対象(継母)に対しては明らかに悪意の方向に発揮されているのがとても気になった。「空気を読めない」のは仕方ない、彼女はなんらかの障害を抱えているのだろうし。しかし「他人を傷つけて平然としている」のはちょっと違う。障害のせいだから、無自覚だから許していいという問題ではない。お兄ちゃんは新しいお母さんの「ホクロ」のことをそんな風に言ってはいけないと必死に妹に諭す。すごく正しく優しいお兄ちゃんだったと思う。でもそんなお兄ちゃんでさえあみ子のせいでグレてしまった。お母さんは確かに、カメラの件では意地悪だったかもしれない。でもそうなる前は継子なうえに問題児のあみ子にも歩み寄る努力をしてくれていたはず。でもあみ子は、お母さんの弱点を敏感にかぎつけて、無邪気な優しさのふりをしてお母さんの心を粉々に壊してしまった。それでいてなおかつ、鬱で寝てばかりいる、入院もするお母さんを「自分ばっかりずるい」と思っている。ずっとやさしかったお父さんがついに音を上げて「引っ越しするか」と言ったとき、あみ子はそれをお母さんと「離婚する」のだと解釈する。つまりそれがあみ子の願望だった。

    のり君に対しても、これって「一途」で片づけられる問題なのかなあ?被害者のり君からしてみればあみ子は「気持ち悪いありえないしつこいストーカー」でしかないんですよ?これを美化したら、すべてのストーカーが純粋で一途で無垢ってことになってしまう。違うでしょ、相手の気持ちを無視して自分の要望だけを主張するそれは「自己中心」「自分勝手」というのです。のり君がついにあみ子に対してブチキレたとき、よくやった!と思ってしまった私はクズなのだろうか。お父さんがあみ子だけを「引っ越し」させたことを「当然の報い」と思ってしまう私は差別主義の人非人なのだろうか。・・・と、結果、短い小説を読み終えたあとに、自分の内面と向き合うことになります。怖い小説だと思う。

    併録されている「ピクニック」にも七瀬さんという独特の変わった女性が出てきますが、このひともあえて乱暴な言葉でいえば「ちょっと頭のおかしいひと」なんだけど、彼女はただ妄想の中に生きているだけで、他の誰のことも傷つけないので私は好きでした。こちらの小説はむしろ、彼女をとりまく側の問題。いっけん七瀬さんを受け入れて仲良くしているかのような「ルミたち」の偽善なのかおふざけなのか曖昧な悪意、生意気な「新人」のように七瀬さんにきつく当たるくらいのほうがもしかして人として正常な反応なんじゃないかとか。こちらもいろんな読み方できて怖い作品だった。

    ※収録作品
    「こちらあみ子」「ピクニック」「チズさん」

  • ・こちらあみ子
    ・ピクニック
    ・チズさん
    以上の3編が書かれています。
    …う〜ん…『面白かった』の表現は違う気がするけど、後を引くというか、どれもが『ギョッ』とする。
    私には少し難しかったかな(笑)
    感想で言葉にするのは難しいけど、評価は★4で☺︎

  • 「むらさきのスカートの女」を読み、この作者の別作品も読んでみたいとの思いから手に取った。本来は、読者サイドであったはずの「主人公」が次第に感情移入することのできないほど世間とズレた存在になっていく。その変化のスピード感が恐ろしいのに読むのをやめられない魅力がある作品。作者自身はどういう気持ちで、あみ子を描いていたのだろう。あみ子という少女は世間的には「異常」だが、本人は自分の感情に素直に生きているだけなのだと思うと、その純粋さがただただ怖い…。むらさきのスカートの女が好きな人はこの作品も気に入るだろうな、と思う。

  • タイトル作を含む3本の短編作品集。どの作品も世間から浮いている女性が主人公。最近の作者の芥川賞受賞作「むらさきのスカートの女」を楽しく読めない読者は、この3作品は読まないほうが良いかもしれない。

    で、タイトル作「こちらあみ子」。主人公のあみ子は今で言う発達障害。彼女の純粋で周囲に強調しない発言や行動は家族や同級生たちをひたすら傷つける。そして、彼らはあみ子から離れたり、いじめたり、前歯を折るほど殴ったり。

    が、あみ子には受ける行為の理由がわからない。だから、辛くもないし、悲しくもない。わからないことが多すぎるが、自分が生きづらい世界に住んでいることだけはわかっている。壊れたトランシーバーに呼びかけた世界へあみ子は助けを求めたのか、そちらへ行きたいのか。

    本作品を読んで考える。もし、あみ子のような子供と出会ったら、どんな態度を取れるだろうか。トランシーバーで会話をしてあげられるだろうか。

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著者プロフィール

今村夏子(いまむら なつこ)
1980年広島県生まれ。2010年「あたらしい娘」で第26回太宰治賞を受賞。「こちらあみ子」と改題、同作と新作中短編「ピクニック」を収めた『こちらあみ子』で2011年に第24回三島由紀夫賞受賞。2016年、文芸誌『たべるのがおそい』で2年ぶりの作品「あひる」を発表、同作が第155回芥川龍之介賞候補にノミネート。同作を収録した短篇集『あひる』で、第5回河合隼雄物語賞受賞。2017年、「星の子」で第157回芥川龍之介賞候補ノミネート、第39回野間文芸新人賞受賞。 2019年、「むらさきのスカートの女」が第161回芥川龍之介賞を受賞した。

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