こちらあみ子 (ちくま文庫)

著者 :
  • 筑摩書房
3.75
  • (64)
  • (96)
  • (81)
  • (16)
  • (6)
本棚登録 : 1031
レビュー : 127
  • Amazon.co.jp ・本 (237ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480431820

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
  • 小学校時代、クラスに1人とは言わないまでも、学年に何人かはこんな子がいました。ただ落ち着きのない子みたいに済まされていたけれど、今は病名が付与される時代。本人にしてみれば、見えるもの聞こえるものに正直なだけ。好きな子には好きと言い、面白いものを追いかける。いわばKYで、実際に目の前にいたら、たぶん私はうざいと思ってしまう。なのにこうしてそんな子の頭の中を見せられたかのような作品に出会ったら、妙に切ない。読んでいる間は不愉快だったけど、読後感はそうじゃない。生きるのが下手でもいいじゃないかと思えます。凄い作家。

  • 菫の花に、赤い部屋。鼻を優しく撫でる墨の香りは、静謐さと賑やかさを同時に思い出させてくれます。君の一言に、サツマイモの欠片でさえ黄色い宝石のように、私の中に華やかな1頁を刻み咲かせてくれました。この世界の全てから歌が聴こえた瞬間。雲が流れるメロディ、陽が射す囁き、スキップの笑い声は不規則だけれど楽しい。だけれどその美しき音楽は何時しか自由過ぎるカプリッチオとして耳を脳を侵食していきました。皆が笑う理由が、私が泣いているからだなんて、知らなくても良かった。何一つ伝わってなどいなかった。伝わらぬ言葉はもうそれですらないと。それでもいつも真っ直ぐに突っ走ることしか知らなかった私は、最後の最後に、自分を認識してくれていた優しい目に気付いたのでした。

  • 純粋であることと暴力的であることは表裏一体なのだとつくづく思った。研ぎ澄まされているのに透明な薄い膜の中を覗いているような感覚で、怖いです。

  • 周りから見ると、とても変わっている。
    でも、当人は至ってまじめ。
    自分が変わっているなんて、つゆほども思っていない。
    その落差に、おかしみが生じる。
    昔から、そんなキャラクターに心惹かれます。
    古くは織田作之助「六白金星」の楢雄、ごく最近だと村田沙耶香「コンビニ人間」の古倉恵子、惜しくも亡くなりましたが赤染晶子「初子さん」の初子さんも、そんな人物でした。
    そして、あみ子―。
    あみ子は相当に変わっている。
    給食のカレーライスを手で食べる。
    どうやら風呂にもほとんど入らない。
    下駄箱に上履きがないからと言って、裸足で授業を受ける。
    というか、ほとんど授業には出ず、保健室で過ごしている。
    今度生まれて来る弟と遊ぼうと、トランシーバーを手に入れる。
    その弟が流産して死んでしまうと、小さなお墓を作る。
    金魚の墓の隣に…。
    あみ子は、同級生の男の子ののり君に恋をしている。
    だが、そんなあみ子だから、愛情の伝え方がとても不器用だ。
    ある日、保健室でのり君と2人きりになる。
    あみ子は「好きじゃ」と告白する。
    のり君は「殺す」と言う。
    あみ子は火がついたように「好きじゃ」を繰り返す。
    のり君も負けじと、「殺す」を繰り返すが、どうやらこちらの方が分が悪いようだ。
    あみ子は、のり君にぶん殴られる。
    そこの描写がすごい。
    「のり君が目玉を真っ赤に煮えたぎらせながら、こぶしで顔面を殴ってくれたとき、あみ子はようやく一息つく思いだった」
    あみ子は相当に変わっている。
    だが、これが人の本来の在り方ではないかと思わせる、強い何かがある。
    強い何かは作品全体に漂っている。
    読者は強い何かに背中を押され、次へ次へとページを捲る。
    そして、読み終わった時、何だかそわそわして居ても立ってもいられなくなる。
    これは恐らく長く読み継がれるであろう傑作だ。
    脱帽。

  • 思考のズレを柔らかな容器で満たした作品。

    表題作「こちらあみ子」はマイノリティから見たマジョリティ、
    「ピクニック」ではマジョリティからマイノリティ
    を表現しているとも言えなくもないが、
    もっと違った愛とか、絆をテーマにしているようでもある。

    作者からの一方通行ではなく、
    読者の感情で様々な解釈が思い浮かぶのは
    キャラクター(特にあみ子)の描き方が
    すこぶる異形だからなのかもしれない。

    常人とはかけ離れた人物の切り取り方が
    この作品、この作者の魅力の源なのかな。

  • デビュー作にして太宰治賞、三島由紀夫賞を受賞した表題作ほか2編。

    知的もしくは発達障害と思われる「あみ子」は、突拍子もない言動で周囲の人たちを疲弊させていく。悲しいことに、彼女のまっすぐで情熱的な思いは、好きな男の子にも両親にも受け入れてはもらえない。
    そんな重い題材を取り上げながら、暗くならず、むしろカラリと力強く進むところがいい。

    芥川賞候補ということで手に取った『星の子』に魅了され、『あひる』、本作と出版順を遡るかたちで1週間に3冊読んだ。中毒性のある特異な世界にどっぷり浸り、早くも次作が読みたくなる。今のところはこれしかないのが残念。
    それにしても、これがデビュー作とは畏れ入った。一度読んだら忘れられない作品だ。久し振りに新しく追いかけたい作家が出てきて、わくわくする。
    私の薦めで寝る前にあみ子を読んだ母は、度肝を抜かれ悪夢を見たそうで。さもありなん!

  • あちこちで「衝撃作」と評価されているのを目にし、またそんな大袈裟な、ありきたりな煽り文句を、と心の隅で思っていたのだけど、これは、どえらいものを読んでしまったとざわざわする気持ちが治まらない。
    町田康、穂村弘の解説も良い。

  • 一風変わった性格の主人公を持つ表題作、「ピクニック」、「チズさん」を収録。変わったストーリーだなと思ったが、町田康の解説を読んで納得。たしかに、主人公は一途なのだった。一途を突き詰めると、こうなってしまうのかもしれない。もう1つの解説が穂村弘なのも、いわゆる世間とのずれを意識する人(穂村さん)と意識しない人(あみ子や七瀬さん)の対比が出ていて、選定の妙を感じた。

  • 芥川賞候補になった作家だから、言葉をこねくり回して無理に難解にする系の小説なのかと思いきや、話に引き込まれ一気に読んだ。「こちらあみ子」はおそらく忘れられない小説になるだろう。知的障害者の目線で捉えた話で多くの人に読んでもらいたい。自閉症や多動症の子供は芸術的に天才が多く、その彼らがどんな風景を見てるのかを、正しいかどうかわからないが垣間見えると思う。

    • chie0305さん
      あみ子とのり君の例のあの会話の時、怖くなりました。分かり合えない。ここまでくると、もうホラーだわ…と。どちらが悪いというわけではないけど。私...
      あみ子とのり君の例のあの会話の時、怖くなりました。分かり合えない。ここまでくると、もうホラーだわ…と。どちらが悪いというわけではないけど。私も、この本は心に残りました。
      2017/10/31
    • kakaneさん
      チエさん。コメントありがとうございます。自分の心のままに行動し、発言する障害者に健常者はどう接すればいいのか?難しいけど
      理解していかなけれ...
      チエさん。コメントありがとうございます。自分の心のままに行動し、発言する障害者に健常者はどう接すればいいのか?難しいけど
      理解していかなければいけませんね。みんなが考えさせられる傑作だと思います。
      2017/10/31
  • 『こちらあみ子』

    多数派の中に生きる異物を、異物の視点から描いている物語である。

    あみ子が小学1年生から中学を卒業するまでの日々。
    あみ子は重度ではないが知的障害、多動などがある女の子。感情をコントロールできず衝動的で、社会性はなく人の気持ちを考えられない。
    幼いころは風変わりで済まされていたが、他の子供たちが社会の中に馴染んでいく中であみ子だけが取り残される。周囲はあみ子に振り回され、疎み、敬遠する。
    あみ子はいじめを受けたりバカにされたりするがその意味を理解できない。
    また、あみ子自身も多くの人に迷惑をかけ、傷つけるがそれが悪いことだと気づけない。

    あみ子の母は書道教室を営んでいて、あみ子は教室にやってくる同じクラスののり君に恋をする。嫌われて疎まれても正面からぶつかって行く。
    こののり君への恋心と、母が物語のキーである。

    あみ子の母は子供を死産するが、それを発端とするあみ子の行為から母は心が壊れてしまった。
    あみ子は自分の行動が及ぼす影響と結果を想像できない。母がどうしてそうなってしまったかわからず、事態はひたすら悪化して行く。

    最初は独特のズレたテンポと発散するあみ子の言動についていけないのだが、
    意図的に隠されていた母の事情がわかってからは一層深味が増す。
    最初ぐだぐだに感じたあみ子の混沌が物語世界にどんな影響を与えるのか想像し、捉え方が変化する。

    三人称で書かれているが、頭の回らないあみ子のレベルで物語は紡がれる。だが読者は世界を拡大して想像することができる。
    書かれていない登場人物の心理変化、決定的な破滅を察し、あみ子に苛立ち、他の登場人物に同情する。
    物語世界をつぶさに描く小説が、世にあるほとんど全てだけれど、これは書かれていない部分を読者が想像することで補完し完成される。高度な話だ。逆に読者の想像力に依存する部分もある。

    あみ子は正常な世界において明らかな異物であるが、当然本人は自分と他者の差に気づかない。
    あみ子は邪魔者扱いされボロボロになっていくのだが、そうなるにつれだんだんと不思議な愛しさを感じてしまう。

    頭の弱い子だからしょうがない、我慢しよう、という諦念が、あみ子を排除し、正常な世界を運営するために必要なのだと判断する物語の中の人々に、そしてそれは当然だと思ってしまう私自身から守ってあげたくなる。
    そういう心理になると、さらっと描写された内容のひとつひとつにあみ子と世界の壁を感じる。
    最後は父もあみ子を諦めてしまうのが、それすらあみ子には理解できない。
    世界を共有できない人と一緒に生きるのは難しいのだと残酷にも納得してしまうのだ。

    朝日新聞に掲載されたほむほむの書評が収録されているが、それも秀逸。
    あみ子は正常な世界で生きていくことは出来ないと感じながらも、世界の外側に行ける彼女に少し憧れてしまう感情。


    『ピクニック』
    あみ子とは逆に、異物ばかりで構成された世界に、正常な人間が”空気がよめない子”として登場している。


    正直表題作がずば抜けているため他の2作が霞む。

全127件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

今村夏子(いまむら なつこ)
1980年広島県生まれ。2010年「あたらしい娘」で第26回太宰治賞を受賞。「こちらあみ子」と改題、同作と新作中短編「ピクニック」を収めた『こちらあみ子』で2011年に第24回三島由紀夫賞受賞。2016年、文芸誌『たべるのがおそい』で2年ぶりの作品「あひる」を発表、同作が第155回芥川龍之介賞候補にノミネート。同作を収録した短篇集『あひる』で、第5回河合隼雄物語賞受賞。2017年、「星の子」で第157回芥川龍之介賞候補ノミネート、第39回野間文芸新人賞受賞。 2019年、「むらさきのスカートの女」が第161回芥川龍之介賞を受賞した。

こちらあみ子 (ちくま文庫)のその他の作品

こちらあみ子 単行本 こちらあみ子 今村夏子

今村夏子の作品

こちらあみ子 (ちくま文庫)を本棚に登録しているひと

ツイートする