七時間半 (ちくま文庫 し 39-4)

著者 :
  • 筑摩書房
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感想 : 62
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  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480432674

感想・レビュー・書評

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  • 東京から大阪まで特急で七時間半を要し、いまや無き食堂車が車中の需要と娯楽を満たしていた時代の物語。1960年刊行だが、獅子文六再評価ブームにのって 2015年ちくま文庫から再版。物語自体の面白さもさることながら、東京-大阪を継ぐ特急列車の雰囲気や内情を伝えて非常に興味深い。大衆作家はその時代を記録するという役割も担っているのだ。

  • もっと群像劇コメディみたいものを想像していたが、単純にラブコメだった。全体的に平和で、語り口も気取りがなく、オチもちょっとズシンときて、よかった。しかし、最後はちょっと放り投げられた気分。たしかにタイトルが七時間半なのだから、列車が大阪に到着した時点で物語が終わってもいいのだろう。だが、オープニングも下準備から始まってるし、どうせなら最後に撤収も描いて全部決着をつけてほしかった。こう思うということは、それだけ好きになったということなのだろう。

  • タイトルの七時間半はなんだろう、と予備知識なく買って読んだところ、小説の舞台となる特急ちどりが東京-大阪間の運行所要時間であった。ちどりで働く女性乗務員や食堂車の料理人たちが繰り広げるラブコメ的物語。
    今では二時間半の距離も物語が描かれた60年代は三倍以上の時間をかけていたのか。短縮された時間でさらに色々なことをできるようになったけど、食堂車で車窓から流れる景色を眺めながら料理を食べるのも楽しいだろな、って思った。
    ぐいぐい読ませてあっという間だった

  • 新幹線開業前で、おそらく東京ー大阪の出張が止まりが常識だったころののんびりした移動の七時間半で起こる恋愛喜劇。小説がメディアだった最後の頃、時代を鮮やかに切り取る著者の技が生きた作品だ。

    もっとも、「東海道線も、昔は、品川駅を出れば、車窓の眺めも、旅情を感じさせたが、今では横浜を過ぎても、藤沢へ行っても、まだ、都市の気分である。まず、平塚を後にして、やっと、海や山のたたずまいに、旅に出た眺めを、感じる」のは、今も変わらない。


    「一人前になったコックは、誰も、年月をかけて、師匠からコツを盗んだ連中である。この封建制のために、コックも、日本料理人も、一人前になるには、長い時間を要する」のも相変わらずだ。

    スマホ、デジタル、テレワーク……、いろいろ変わったけど、根本的な日本社会は変わってないんじゃないか、50年以上前の小説をよみながら考えさせられた。

  • ホテルのシェフを夢見る食堂車助手の青年の細やかな心の動き(特に、ホテルの皿洗いから始めるのは無理と気づくあたり) 、通称BB、有女子のギャグにしか見えないキャラ、絵にかいたような個性キャラの指輪のマダムが最高。ちどりが廃車になるとわかり、死ぬとわかった病人が不摂生するような暴れぶり、「薄毛の男は案外胸毛派よ、なにも知らないのね」とかどこまで礼儀正しいのか下品なのかわからない。最後、どうなるのか楽しみに読み進めたが、スリが捕まる以外は何も解決していないのだが?!

  • 2017.8.20読了。純粋に面白かった。タイトル通り7時間半の電車という密室の中でそれぞれの陰謀が渦巻いている!あなおそろしや!と思っていたらサブタイトルに『局地的紛争』と出てきて思わず吹いた!これは確かに紛争だ!特に意図してる訳ではないのだが、女性著者の作品を読むことが多いからか、ああ男性が書いた文章だなぁとしみじみ思った。有女子さんは凄い人だなー!特に恭雄に秘密のメモを忍ばせて返事をゴミカンへと指摘していたところなんか感心して舌を巻いた。色事の駆け引き遊べる人凄い…私には絶対できないわー。列車に即したストーリーのスピード感も人間模様もとても面白かったのだが、1つだけ残念なのはラストだ。列車が到着してあっさり終わるのは悪くないが、それぞれの結末をエピローグとして少しでいいから入れておいてほしかった。喜一とサヨ子はどうなるかなんとなく想像ができるからまだいいものの有女子はどうなったのか?想像の余地と言ってしまえばいいのかもしれないがムズムズする終わり方だった。解説にある文言で「今となっては決して書かれないであろうタイプの小説となっていたのです」はなんだかはっとした。昔を舞台にした物語はこれからも書かれるかもしれないが、昭和30年代をその年代を現代として生きてる人に向けて書かれる小説は今後新たに出てくることはないのだ。そういえば昭和が舞台の物語は初めて読んだのかも?表紙は昭和らしいテイストのデフォルメが効いた登場人物達が上下左右もバラバラに描かれており浮遊感がある、さらに背景に薄っすら黄色の水面の様な模様があることでまるで沈没した船から投げ出された人のようでこれから無くなるちどりと翻弄されていく人物達を表しているようだ。フォントも昭和らしい丸が印象的なフォントを使っており全体的に昭和らしさと物語のわちゃわちゃ感がよく出ているいい表紙だと思う。

  • サヨ子と喜いやん、有女子の恋の行方から、列車内での不穏な噂まで盛りだくさんに凝縮されていて、読み終わるとあっという間という感じ。(まに列車みたい!)
    列車内の人々をとりまく出来事が次から次へと展開される。長い時間が過ぎているように思ってしまうけど、全て7時間半の乗車時間内に起こっているなんて。
    駅弁片手に、鈍行列車でふらっと旅してみたくなりました(笑)

  • えっ、これで終わりなの!?と、思わず乱丁を疑ってページ番号を確認してしまった。それまでの旅が楽しかったから余計に。
    物語って素晴らしいねえ。

  • 品川を出て大阪に到着するまでの『七時間半』。この小説の舞台、特急ちどりで働く人たちと乗客たちがその『七時間半』に繰り広げる物語。1960年の1月〜9月まで週刊新潮に掲載されたという獅子文六の大衆小説。ラブありサスペンスありのコメディーです。舞台を現代に移したらタイトルは『三時間半』とかで乗り物は特急から新幹線に代わるのかな〜。

  • 昭和の名作が初文庫化。昭和30年東京〜大阪間を七時間半掛かった特急列車ちどりを舞台にしたドタバタ劇。当時の文化風俗、様々な人間関係が交錯する群像劇であり密室劇。エンターティメントとして古びない面白さがある。

著者プロフィール

1893─1969年。横浜生まれ。小説家・劇作家・演出家。本名・岩田豊雄。慶應義塾大学文科予科中退。フランスで演劇理論を学び日本の演劇振興に尽力、岸田國士、久保田万太郎らと文学座を結成した。一方、庶民生活の日常をとらえウィットとユーモアに富んだ小説は人気を博し、昭和を代表する作家となる。『コーヒーと恋愛』『てんやわんや』『娘と私』『七時間半』『悦ちゃん』『自由学校』(以上、ちくま文庫)。『娘と私』はNHK連続テレビ小説の1作目となった。『ちんちん電車』『食味歳時記』などエッセイも多く残した。日本芸術院賞受賞、文化勲章受章。


「2017年 『バナナ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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