七時間半 (ちくま文庫 し 39-4)

著者 :
  • 筑摩書房
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感想 : 62
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  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480432674

感想・レビュー・書評

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  • いやぁ~面白かった!
    ぶらぶら本屋を行ったり来たり彷徨うこと3時間(笑)
    書店員さんの熱烈なオススメで手にしたのだけれど、
    コレは読んで良かったなぁ~。

    1960年に書かれたとは思えない、
    (昭和35年といえば、東京オリンピックが開催される4年前で、JRがまだ国鉄で、東海道新幹線もなく、ビートルズもストーンズもまだデビューする前ですぜ!)

    歯切れのいい、竹を割ったような文章と、
    (古さからくる読みにくさは僕は感じませんでした)

    ジェットコースターのように
    ハラハラドキドキを撒き散らしながら転がるストーリーとスピード感。
    乗務員や乗客たちの恋の鞘当てをコミカルに描いたガーリーなポップ感。
    昭和のホームコメディドラマを彷彿とさせる安心感。
    しかも獅子文六は
    当時70歳に近い年齢でこの作品を書いたっていうんだから、驚きです!(笑)

    ちくま文庫の帯には、
    『今まで文庫にならなかったのが奇跡、こんなに面白い小説がまだあるんだ!』
    っとありますが、
    この売り文句がまんざら大袈裟じゃないくらい、
    ページをめくる手が止められなかったし、
    近年再評価著しい伝説の女流作家、尾崎翠が
    この作品の著者である獅子文六を好んで愛読していたことを知り、
    余計にこの作品にのめり込んだのでした(笑)


    舞台は品川~大阪間を7時間半で結ぶ豪華特急『ちどり』。
    働き者のウェイトレスとコックの恋、
    それをなんとか阻止しようと企む美人乗務員、
    そしてその美人乗務員を今日こそ射止めようと列車に乗り込んだ
    大阪のコテコテの商売人社長と大学院生とその母親。
    さらには総理大臣を乗せたこの列車に
    あろうことか爆弾が仕掛けられているという噂が駆け巡り、
    車内はパニックに…。

    登場人物たちの恋のゆくえはどうなるのか?
    走る列車内での爆弾事件の結末は?
    たくさんの乗務員と乗客たちの人生模様を同時進行で描いた
    ロードムービー風エンターテイメント群像ラブコメです(笑)
    (なんのこっちゃ)


    登場人物は、

    往年の女優、田中絹代に似た、
    給仕係リーダーの23歳、藤倉サヨ子。

    仕事熱心で誠実、一本気で喧嘩も強いが
    唯一ドモリの欠点がある、
    食堂車コック助手の矢板喜一。

    華族出身でフランスの女優ブリジッド・バルドーに似た
    美人乗務員で『ミス・ちどり』の22歳、
    今出川有女子(いまでがわ・うめこ)。

    浪速の商人でハゲ頭の
    『ブリンナーさん』こと、岸和田社長。

    東大の大学院に籍を置く27歳の気弱な学生、甲賀恭雄と
    藤倉サヨ子の働きっぷりに惚れこみ、
    恭雄との縁談を画策する恭雄の母、甲賀げん。

    そして岸和田社長に近づく、謎の美女と、
    食堂車に陣取り、不穏なひとりごとを漏らす謎の酔っぱらい男。
    (他にメインキャラではないけど、矢板喜一の上司で兄貴分のチーフ・コック・渡瀬さんの男気に僕はシビれたし、いちばんのお気にいりキャラでした)

    この一癖も二癖もあるメインメンバーが、
    入り乱れ、画策し合いながら
    果たして列車が大阪に着くまでの7時間半の間に
    それぞれの恋は成就するのか?というのがひとつの見どころです。
    (この設定だけでもワクワクするでしょ笑)


    そして、もう1つの見どころ(読みどころか笑)は、
    列車という特殊な環境で働く人たちの裏側が覗ける点。

    ウェイトレスや売子さんや
    GI帽にスチュワーデス風のセクシーな衣装に身を包んだ『ちどり・ガール』と呼ばれる美人乗務員や
    食堂車に勤務するコックさんや車掌まで、
    さまざまな仕事をこなすスペシャリストたちの仕事っぷりや苦労、
    職員にしか分からない裏側がリアルに描かれているので、
    NHKの潜入ドキュメント番組を観てる感覚で楽しめます。


    そしてなんと言っても、
    物語の舞台を、
    走る列車内に限定し、
    7時間半の間に爆弾事件を解決し、
    恋の結論を出さなきゃいけないという設定が
    コミカルな物語に程よい緊迫感を生み、
    手に汗握らざるを得ない、
    実にいい効果をもたらしています。

    列車や飛行機という乗り物は、
    何があっても車と違って好きなところで降りるわけにはいかないし、
    スピードを出して走るので、
    速い乗り物に乗るときの『潜在的不安』っていうのが
    必ずあるんですよね。

    終盤、列車内に爆弾が仕掛けられているという噂が駆け巡り、
    自分がもしや死ぬかもしれないという危機感から、
    登場人物たちの心に
    さまざまな変化が訪れるのも面白いし、よく練られています。

    死を覚悟した若きウェイトレスたちが、
    列車に電話が装備されてないことを呪う場面は
    さすがに時代を感じさせて、
    今がいかに便利かをあらためて、考えさせられました。
    (けれど、携帯電話やテレビやネットがないからこそ、楽しい時代でもあったんですよね。旅を楽しむ乗客たちの会話にもそれが窺えます)


    便利は想像力も、
    創造力さえも奪っていくのかな~なんて
    しみじみ考えたりなんかして。

    何もない時代に、
    これだけ面白い小説が存在してたことに驚きを禁じ得ないし。


    恩田陸の群像コメディの傑作『ドミノ』や、
    (実は恩田さん、かなり影響受けてるかも笑)

    キアヌ・リーブスを一躍スターに押し上げた映画『スピード』が好きな人、

    旅行や鉄道好きの人、
    ハラハラドキドキに飢えてる人(笑)、
    にやりと笑えて面白い小説をお探しのあなたに
    オススメします。

  • 特急で働くこの時代の女性たちの婚活事情。
    面白かった。
    しかし「50そこそこの婆さん」記述にはびっくり!!
    いまは60代でもおばあさんとはなかなか言わないし思えないことも多いけどw

  • 東京から大阪まで特急で七時間半を要し、いまや無き食堂車が車中の需要と娯楽を満たしていた時代の物語。1960年刊行だが、獅子文六再評価ブームにのって 2015年ちくま文庫から再版。物語自体の面白さもさることながら、東京-大阪を継ぐ特急列車の雰囲気や内情を伝えて非常に興味深い。大衆作家はその時代を記録するという役割も担っているのだ。

  • 七時間半とは急行列車ちどりが
東京から大阪まで走る時間である。

    食堂車で働くサヨ子とコックの喜一は両思いだが
家業の洋食店を継いでほしいという
サヨ子のプロポーズに
ホテルの料理長になる夢が捨てられない
    喜一は迷っている。
皆に評判のよいサヨ子に嫉妬した
美人で高慢な「ちどりガール」有女子は
喜一に気のあるフリをし
ほかの乗務員たちの和を乱す。

    また、サヨ子を嫁にと一方的に考える
旧家の母親は気のない息子とともに乗車。
有女子を妻にしたいガサツな会社社長も
同じ列車に乗り合わせていた。
さらに時の首相と、それを狙うテロリストの影が…。
果たして列車は無事
大阪にたどり着けるのだろうか?

    新幹線ができる前ですからねぇ。
テロリストってのも全共闘系の青年のことらしいし。

    でもハラハラ感は廃れてない。
サヨ子と喜一の恋の行方もだけど
有女子にも彼女なりに当時の女性として
苦労している部分があって
その結末に関しても
読み終わったあと、すっきりしたわ。

    当時の鉄道員の仕事の様子も細かく書かれてます。
出発前からはじまる乗務員たちの様子や
料理の仕込みのこと。
運行中のこまごまとしたサービス。
不審者を警戒している鉄道公安官
(懐かしい!)なんかもいるし。
そういうお仕事小説としても楽しかったです。

  • 品川ー大阪間を走る特急「ちどり」の七時間半の出来事。
    この作品が執筆された1960年ころの世相などがよく分かります。
    ラブコメというよりお仕事小説としてとても楽しく読みました。この時代、女性の仕事は結婚までの「腰掛け」と言われていましたが、プライドのある仕事っぷりに天晴です。女性の話し言葉に「ァ」とか「ェ」とか入るあたり、昭和の艶のある女優さんたちが頭に浮かびます。喜一は私の脳内では藤山扇治郎さんでした。
    しかし、50歳で「婆ァ」といわれるんだ・・・むぅ。

  • これは好きだー。たしかこれも山内マリコの本で紹介されていて、初の獅子文六チャレンジだったと思う。この本を皮切りにどハマり…笑
    女の子たちの葛藤、一度決心したつもりで何度でも迷う様子など、きめ細やかに描かれている…

  • 三谷幸喜ぽいどたばた感がおもしろかった。

    東京―大阪間を七時間半で走る特急ちどりのウェイトレスさん達とちどりガール(キャビンアテンダント)達のお仕事やら恋模様やら。
    男性の髪型が三島由紀夫式か石原裕次郎式か、とか、結核患者の療養所とか、食堂車のメニューや各駅のおみやげ物とか、昭和の香りが満載。
    そして矛盾するようだが、車内の業務の描写がとにかく具体的で、時間に追われる立ち仕事のツラさとか他部署の女性グループ間の反目とか、お仕事小説として読めば、まったく古さを感じさせない。女性グループの反目に対して男性陣が意外とよく見ているわりに事なかれ主義なところなんか、いつの時代も変わらないなあ。

    えっ、ここで終わり?という知りきれトンボな感じも、ちょっと三谷幸喜風か(笑)
    それにしても、せめて主要人物の身の振り方をもう少しまとめてほしかった。

  • もっと群像劇コメディみたいものを想像していたが、単純にラブコメだった。全体的に平和で、語り口も気取りがなく、オチもちょっとズシンときて、よかった。しかし、最後はちょっと放り投げられた気分。たしかにタイトルが七時間半なのだから、列車が大阪に到着した時点で物語が終わってもいいのだろう。だが、オープニングも下準備から始まってるし、どうせなら最後に撤収も描いて全部決着をつけてほしかった。こう思うということは、それだけ好きになったということなのだろう。

  • タイトルの七時間半はなんだろう、と予備知識なく買って読んだところ、小説の舞台となる特急ちどりが東京-大阪間の運行所要時間であった。ちどりで働く女性乗務員や食堂車の料理人たちが繰り広げるラブコメ的物語。
    今では二時間半の距離も物語が描かれた60年代は三倍以上の時間をかけていたのか。短縮された時間でさらに色々なことをできるようになったけど、食堂車で車窓から流れる景色を眺めながら料理を食べるのも楽しいだろな、って思った。
    ぐいぐい読ませてあっという間だった

  • 結局大事件は起こらずだけど、ドタバタ感と濃いキャラたちの各々が思うこととか行動を見ていることが面白かった。するする読める、テンポの良さ。適度に大衆小説って感じでした。解説でも言ってたけど、確かに即時代的なものって小説では出てこないか…そういう意味では昔すぎて逆に知っているところが、時代差ありありで後になって興味深い気がした。
    最後に有女子が気が動転したような行動をとっていってよくわからないまま終わってしまうけど、それもそれでドタバタしてて良かったような気もする。

  • 東海道新幹線開業前の東海道線優等列車の様子が詳しく描かれ、登場人物も個々に魅力的で、とても面白く読めた。

  • この時代の交通事情があってこそのドタバタコメディー、とても楽しく読ませていただきむした。
    獅子文六さん、他にも読んでみたいと思います!

  • 12両編成、食堂車は8号車
    11時35分、回送機関車が連結された。機関車がついたとなるととたんに列車がシャンと、生きてきた。機関車なしの列車なんて家屋に過ぎない。準備中の食堂車の風景がうまく描かれている。ステーキの固い肉をどう美味にするかの工夫も参考になる。昭和の素晴らしい時代だ。
    11時55分、東京駅15番線入線

    本文:上りちどり 午後1時16分頃大津駅から東より、琵琶湖と反対側の線路沿い、緑の家
    実際:上りはと 午後0時51分45秒、大阪府三島郡島本町、日紡(現ユニチカ)青葉荘、汽笛はすぐ背後に位置する天王山にこだまする。

    名古屋で給水。夕食は予約制、3回転する。
    食堂車の実情がよく分かった。かなり丁寧に取材したのではと思われる。昭和の鉄道が輝いていた時代の物語、ある意味、羨ましい。
    箱根山も読んでみたいと思う。

  • 獅子文六を初めて読了 私は昭和の女性の聡明さやお淑やかさ、兼美さなどがすごく好き。昔は東京から大阪まで新幹線でも7時間半もかかったことに驚いたりした。普通に当たり前なのだけど。私もこの時代ならウエイトレスでもコックでもなんでもいいけど新幹線に乗る仕事をしたかっだと思った。

  • 『#七時間半』

    ほぼ日書評 Day357

    Day342『箱根山』の獅子文六による1年前の作である。終盤、爆弾について語られる通り、(先の大戦の)空襲から15年「も」経った時代の物語である。

    タイトルの七時間半は、この時代の特急による東京大阪間、片道の所要時間とのこと。何せこの特急の最高時速が70km/hそこらというのだから(本作執筆の3年前には、小田急ロマンスカーとなるSE車が狭軌鉄道における当時の世界最高速度記録である145km/hを樹立していたのだが)。

    作中には、時代がかった言葉が満載。ただし、中でもあえて業界用語(例えば列車付きのCA、文中ではスチュワーデスを「メレボ」というのは、「メ」スの「レ」ール・「ボ」ーイの略である等)を多用することで、逆に用語の注釈を不可欠な位置付けにしてあるのが、現代読者には大いに助かることに。

    そんなこんなもあって、逆に今日においては新鮮味を感じる作品。筋書き自体については、小説ゆえ、触れずにおこう。

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  • ううむ、、、うむ。こりゃビビった。凄いです。こりゃ凄い。面白いです。というか、面白すぎる。いやもう、驚いた。感服です。脱帽です。

    獅子文六、という作家さんは、全然知らない人だったんですよ。いやもう、全然知らない人でした。で、友人から「獅子文六、オモロイでっせ」って紹介してもらいましてね。ふーむ、そんなら読んでみましょうかね?って、あんまり肩ひじ張らずにこう、何気なくこの本を手に取って読んでみましたら。

    いやもう凄い。めちゃくちゃオモロイやんか。驚き桃の木山椒の木、とはこの事です。獅子文六の存在を教えてくれた友人にマジ感謝。いやもう、素晴らしい小説との出会いは、何処に転がってるのか分からねえなあ、っていうね。いやもう、最近では一番の驚きの出会いでした。

    獅子文六。1893年生~1969年没。2020年末の現在からしてみると、すげえ昔の人ですね。ですがこの作品この文章。わたくしが感じる限りですが。全然古びていない。めちゃくちゃこう、瑞々しいし、わかるわあ~この感じ、だし、とにかくこう、半世紀以上昔に書かれた文章とはこれっぽっちも思えない。すげえ。って思いました。

    スラップスティック小説、とでも言いましょうか。コミカルです。文章は軽妙にして洒脱。ユーモア満点にして優しさあり。そして妙なニヒルさ、達観さもあり。うむむ、、、唸る。唸りますこの文章。というか、文体?

    あと、マジ驚いたのですが、獅子文六さんが、この作品を発表した時。獅子文六さん、御年70歳近かった、ってこと。え?マジで?言い方悪いですが、超おじいちゃんですやん?超御大ですやん?なのに、なんなの?この、エエ意味での軽さ柔らかさユルさ。70歳ですよ?それでこの文章書くのか!?という驚きは、凄かったよ個人的に。

    小説として、というか読んでいて真っ先に思い浮かんだのは、三谷幸喜監督作品の映画、でした。「ラジヲの時間」ですとか「有頂天ホテル」ですとか。あの、限られた時間と限られた空間の中でのテンヤワンヤの素敵な時間の流れ。あと、古き良き時代のハリウッド映画、みたいな雰囲気。ビッグバンドの朗らかな演奏がめちゃ合う感じ。いやあ、素敵だなあ、っていう感じ。

    あくまでも架空の、理想としての物語、なんですよね。現実の辛さをちょっとまぶしつつも、これはあなたのための物語。この作品と向き合う数時間の間は、読むあなたを徹底的に楽しませますよ、っていうスタンスを、ヒシヒシと感じるのです。ううむ。職人的な。自分の技術の粋をふるって、あなたを楽しませますよ、という矜持、みたいなもんを、感じました。わたくし勝手に。ううむ、、、プロだな。プロの仕事だな、みたいなもんを。

    あと、コレは勝手に感じただけのイメージなんですが、この作品って、獅子文六の、代表作ではないと思うんですよ。この作品だけしか読んでないんで、あくまでも勝手に感じたイメージなんですが。代表作ではないのですが、ファンとしては愛さずにおられない作品、みたいな。小粒でもキリリとピカリと光る、みたいな。有名ミュージシャンの代表的シングル曲の陰に隠れて、ファンの間ではずっと愛され続ける、シングルカップリング曲の隠れた名曲、みたいなポジション。

    無茶苦茶無理やり例えますと、宮部みゆきでいうと「ステップファザー・ステップ」みたいなポジション。「ステップファザー・ステップ」って、宮部みゆきの代表作ではないと、思うんですよ。でも宮部さんファンなら、愛さずにはいられない作品だと思うんですよ。俺だけがそう思うだけかもしらんけんども。で、この「七時間半」も、そんなポジションなんじゃね?って勝手に思った。ええ、勝手に。

    いやもうね、登場人物全員を(意地悪キャラや、ワル役でさえも)愛しく思えてしまう、というマジック。それがある、という所で、この作品は、もうねえ、、、お見事なんだよなあ。一人でも多くの方に、読んで欲しい作品ですね。いやもう、なんとしても愛しい作品なんですよ。

    ちなみに、個人的に一番好きなキャラは。チーフ・コックの渡瀬政吉、ですねえ。いやあ、これぞ名脇役!というべき、渋い立ち位置。渡瀬が、喜イやん、こと、矢板喜一にかける言葉、アドバイスの一つ一つが、、、こう、、、良いんですよねえ、、、全く。あの、目をかける後輩に対する、厳しくも愛情あるスタンス。凄く良いなあ、ってね、思いましたね。ああいう人生の先達になりたい、ってね。シミジミ思いますね。ま、勿論、他のキャラもみな魅力満点、でございます。お見事です。

  • 新幹線開業前で、おそらく東京ー大阪の出張が止まりが常識だったころののんびりした移動の七時間半で起こる恋愛喜劇。小説がメディアだった最後の頃、時代を鮮やかに切り取る著者の技が生きた作品だ。

    もっとも、「東海道線も、昔は、品川駅を出れば、車窓の眺めも、旅情を感じさせたが、今では横浜を過ぎても、藤沢へ行っても、まだ、都市の気分である。まず、平塚を後にして、やっと、海や山のたたずまいに、旅に出た眺めを、感じる」のは、今も変わらない。


    「一人前になったコックは、誰も、年月をかけて、師匠からコツを盗んだ連中である。この封建制のために、コックも、日本料理人も、一人前になるには、長い時間を要する」のも相変わらずだ。

    スマホ、デジタル、テレワーク……、いろいろ変わったけど、根本的な日本社会は変わってないんじゃないか、50年以上前の小説をよみながら考えさせられた。

  • フランキー堺主演の特急にっぽんを観る機会を何度も逃して、いてもたってもいられなくて原作を読む。読みながら映像が目に浮かぶキャラ立ちした登場人物たちが繰り広げるドタバタ喜劇。古さを感じさせない洒落た小説。楽しかった。

  • 昭和30年代、東京―大阪間を7時間半で結ぶ特急「ちどり」の中で起こるユーモラスなドタバタラブコメディ。
    食堂車でウェイトレスのリーダーである藤倉サヨ子とコック助手・矢板喜一のすれ違い気味な恋の行方、美人乗務員・今出川有女子と彼女に思いを寄せる大阪商人・岸和田社長、大学院生・甲賀恭雄、結核療養所で静養中の佐川英二という3人の男。
    旧子爵家の娘である有女子は3人を手玉にとりながら、喜一にもちょっかいを出し、サヨ子と対立する。
    さらに、列車には総理大臣が乗り込み、あろうことか、爆弾が仕掛けられているという情報が流れ列車内はパニックになり、サスペンス小説の様相も呈してくる。
    60年安保の世相を反映したり、乗客にはわからない食堂車の内実を描いた業界小説の要素を持っていたりと、単なる喜劇小説には終わっていない。
    レトロであり、今となっては決して書かれないタイプの小説として価値がある作品だと感じた。

  • 友人から紹介されて読みました。
    獅子文六さんの作品は初めてでした。

    電車の中の7時間半の中での人々の心の動きを描いた物語です。
    藤倉、今出川、という女性の人間性の対比が描かれておりました。実際こんな人いるよな、と思いながら読んでおりました笑
    女性にも好かれる女性、女性から嫌われがちだけど、その美貌から男性から寵愛される女性。僕は前者のほうが好きです笑なんかほっとする人間性の方なんだろうなと思いました。

    それとこの作品のテーマは「すれ違い」なのかなと思いました。
    ちょっとした出来事でも、その人の想いはがらっと変化してしまう。その変化の結果、お互いに通じ合っていたと思っていた状況が変わってしまう。悲しい哉と思いながらも、人生は無常であるため、それが真理なのだなと改めて感じました。

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著者プロフィール

1893─1969年。横浜生まれ。小説家・劇作家・演出家。本名・岩田豊雄。慶應義塾大学文科予科中退。フランスで演劇理論を学び日本の演劇振興に尽力、岸田國士、久保田万太郎らと文学座を結成した。一方、庶民生活の日常をとらえウィットとユーモアに富んだ小説は人気を博し、昭和を代表する作家となる。『コーヒーと恋愛』『てんやわんや』『娘と私』『七時間半』『悦ちゃん』『自由学校』(以上、ちくま文庫)。『娘と私』はNHK連続テレビ小説の1作目となった。『ちんちん電車』『食味歳時記』などエッセイも多く残した。日本芸術院賞受賞、文化勲章受章。


「2017年 『バナナ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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