つぎはぎ仏教入門 (ちくま文庫 く 27-2)

著者 :
  • 筑摩書房
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感想 : 11
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480433299

感想・レビュー・書評

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  • 久松達央さんが、WEBで勧めていた本。

    十年ほど前、小池龍之介さんの仏教、仏道に関する本を読んで、その考えに傾倒した時期があった。
    所謂、小乗仏教をベースとして、禅を通じて心を整える、といったものだったと思う。

    一方、じゃあ大乗仏教などなど、仏教って何、っていうことはさっぱり知らなかった。三十数年前の中途半端な受験知識がもやもやっとあるくらい。

    仏教、仏道っていいな、と思っていた割には、全体に関して無知だったな、と改めて確認できた。

    呉智英さん。
    八十年代後半頃、カッコいい人だな、と思った記憶があったのですが、あんまりお見かけしない印象。
    シャープに言いたいこと言い過ぎ、で疎んじられたのかな、と思った。
    しかし、いろんなことをよく学んでいる方だな、と改めて感じた。
    知識、知力で、格闘技、というのは、昨今流行らないのかな…


    そもそも、釈迦が覚りを開き、それを説いた宗教が仏教である,ということだ。(中略)釈迦から二千数百年、その教えである仏教は変容に変容を重ねてきた。(中略)しかし、現実に寺院に参拝し、僧侶の唱えるお経を聞き、仏教書を読む人たちは、そんなにも大きく変容してしまったものを、なんの根拠もなく仏教だと思っている。本来極めて知的な宗教であったはずの仏教が最も怠惰で愚かな因習と化している。これでは仏教が衰退するのも当然だろう。168

    「上から目線」が嫌なのは、上から目線であることが嫌なのではない。上から目線だと言えばそれで何かを批判できたと思う怠惰な精神が醜悪なのである。上に立つ者が上から目線であるのは当然ではないか。そ!のどこがいけないのだろう。社会全体の平準化圧力に同調していることを批判精神と勘違いした幼稚な甘えた連中の口にする言葉である。こんなものが批判の言葉として成り立つのは文明の衰弱以外の何ものでもない。180

    当時既に社会運動の中で、偽善的な「させていただく」主義が唱えられていた。私はこの卑屈さに強い違和感と嫌悪感を持っていた。この卑屈さはいずれ平準化圧力に迎合し、逆に差別や格差を隠蔽する役割すら果たすだろうという予感があった。182

    仏教では欲望を否定する。欲望からの脱却を唱える。個人においてはそれはいいだろう。しかし、社会がそうなら経済は停滞し,豊かな生活は破綻してしまう。実は、仏教は資本主義とは相性が悪いのだし、社会主義とも相性が悪いのである。そもそも経済活動、富の蓄積と、相性が悪いのだから。187

  • 「禅」が流行っている。でも、「禅」ってそもそもなんなのかがわからない。「禅宗」だから「臨済宗」と「曹洞宗」、つまり仏教。仏教って葬式の時くらいしか意識しないけど、釈迦が宗祖だよな。釈迦の考え方ってどんなんだっけ。入門書を読もう。仏教関係者の本はポジショントークになりがちなので第三者の意見を。ということで呉さんの書籍を購読。期待通りのそもそも論で身も蓋もないが、かえってスッキリする。釈迦は生老病死などの「苦」から逃れるために悟りを開くことを目指すこと説いた。そのためには自分の体だけでなく、家族や恋人なども捨てなければならない。何にも執着してはいけないということだ。また、苦痛や我慢を伴う修行も否定した。痛みを感じる体へ執着や我慢することの目的化を否定したのだ。このあたり、現代風の解釈と異なる点。宗祖の言葉がかなり拡大解釈されているし、都合よく意味づけされたことも多いんだろう。また、キリスト教との大きな違いは「絶対的存在である神が救済してくださる」のではなく、「自力で悟りを開くこと」。キリスト教文化圏の人たちからすると、真逆の発想だからこそ、驚きを持って受け入れられたのだと思う。仏教を見る目が変わる貴重な一冊。

  • ・仏教が、小乗と大乗に分裂したのも、密教が生まれたのも、仏教が存続しなければならない、という宿命の中で起こったことだと思いました。原典にこだわるよりも、どう解釈すれば役立つのか、それが一番大事。

     著者の呉智英さんは《仏教の専門家ではない私が書いたものであるからには「つぎはぎ仏教」にならざるをえない。》と仰っていますが、釈尊が開いた仏教の教えや歴史は、どんなに立派な研究者が可能な限り体系的に書こうとしたとしても、少ながらず「つぎはぎ仏教」にならざるをえないわけです。

     むしろ私は、この本が、仏教を他の宗教と比較したり、他の研究者が参照していない資料から得た情報を提示したり、著者が自分の信念を述べることで、実に面白い読み物になっていることに魅力を感じます。

     仏教が、小乗と大乗に分裂したのも、密教が生まれて変遷したのも、仏教そのものが存続しなければならない、という宿命の中で起こったことだと思いました。原典にこだわるよりも、どう解釈すれば役立つのか、それが一番大事。

     釈尊が覚ったこと、龍樹がまとめたこと、どのように伝えたとしても、完璧に伝えることは無理ですし、解釈もまちまちになってしまいますよね。でも、その中から、資本主義の成長志向とは馴染まない、仏教の中枢を抽出して、帳尻を合わせてゆくことが、生きてゆくということなのかもしれない、と思い始めているのです。

  • やっぱりこの人、いつも通りの目から鱗の1冊。通俗を排した根源的な仏教概観ですばらしい。メインは、日本に伝来した北伝仏教=大乗仏教が釈迦の教えと異なるものという大乗非仏説論による批判。知らなかった。以前浄土真宗の僧侶が阿弥陀仏の説教をするのを聞く機会があり「あれ?キリスト教に似てる」と思ったが、そのこともしっかり書かれている。儒教の良さはいまいち解らないが、初期仏教の良さは解ってきた。

    ・釈迦入滅後何百年もして成立した経典は、ありていに言って、偽経である。p187

    ・日本のすべての仏教徒は、まず、大乗非仏説論を認めるところから始めなければならない。p188

    ・浄土教の特徴は、「覚りの宗教」である仏教を一神教の構造を持つ「救いの宗教」に変容させたことである。~これはキリスト教によく似ている。p146

    ・曼陀羅や真言による世界との拮抗、世界の獲得は、どう考えても釈迦の教えとは無縁のものである。p137

    ・小乗-釈迦の本心を受け継ぐ仏教
     大乗-釈迦の決断を受け継ぐ仏教  p189

    ・欧米で注目される仏教とは、阿含経を中心とする初期仏教と支那において荘子思想の影響下で出現した禅、実質的にこの二つだけである。 p224

    ・梵天勧請の中に人類史上の永遠のテーマである「知識人と大衆」論が既に原形として現れていることが興味深い。p113

  • サーマー尼の話。松本俊彦氏によれば性的な危険行動は故意に自分の健康を外する自傷行為の可能性があるという。差別は悪だと著者は説くが、その部分は少し悪意を感じてしまった。年間数万人の自殺者への言及は有りそうで無し。私はマンガもここ数年で急激的に衰退傾向にあるよう感じているが、どうなのだろう。

  • 阿弥陀仏のような神はインドの土着的なヒンドゥー教には出てこない。大乗仏教での広義の「仏様」とされているものの中には、はっきりインドの土着神とし前進が分かるものが多い。弁天、帝釈天など「天」が付く仏様はことごとくそうである。 P 134


    要は、この悪人正機論は、社会に必要悪はあるのだから、それをみんなで平等に負担するのか、それができないのなら然るべき待遇改善をしよう、と言っているに過ぎない。 P 138

  • 読み助2017年10月24日(火)を参照のこと。http://yomisuke.tea-nifty.com/yomisuke/2017/10/2-64e6.html 読んだのは単行本だが、リンク先は文庫本にした。

  • 仏教徒はどんな宗教か。
    現代における仏教の価値とは何か。

    「仏教を信じているわけでもなく、哲学として仏教を専門的に学んだわけでもない」著者の、外の視点からみた仏教論。


    「勇気を持って仏教における愛の否定を果敢に説くべきである。現在、文明論的に見て愛一元支配とも言うべき時代になっている。これが人間の思考を単純化し硬直させている」(p.197)

  • ブッダ以前に仏教はなく、イエス以前にキリスト教はない。言葉の限界性を思えば、悟りから発せられた言葉であったとしても、言葉そのものは悟りではない。念仏を発明した人は南無阿弥陀仏と唱えて悟ったわけでもないし、題目を編み出した人が南無妙法蓮華経と唱えて悟ったわけでもない。
    https://sessendo.blogspot.jp/2016/07/blog-post_10.html

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著者プロフィール

評論家。1946年生まれ。愛知県出身。早稲田大学法学部卒業。評論の対象は、社会、文化、言葉、マンガなど。日本マンガ学会発足時から十四年間理事を務めた(そのうち会長を四期)。東京理科大学、愛知県立大学などで非常勤講師を務めた。著作に『封建主義 その論理と情熱』『読書家の新技術』『大衆食堂の人々』『現代マンガの全体像』『マンガ狂につける薬』『危険な思想家』『犬儒派だもの』『現代人の論語』『吉本隆明という共同幻想』『つぎはぎ仏教入門』『真実の名古屋論』『日本衆愚社会』ほか他数。

「2021年 『死と向き合う言葉』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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