- 本 ・本 (272ページ)
- / ISBN・EAN: 9784480433527
感想・レビュー・書評
-
出ている本は全部読みたい、と思える作家にひさしぶりに出会ってしまった。この2年ベランダ園芸に精を出しているので、本書のメインテーマである趣味の農園に対する園主の思いが鮮やかに伝わってくる。庭づくりバーチャル友だちができたようなもので、最終章の年間計画の話には一緒になって盛り上がった。
何が良かったかもうひとつ挙げると、話が脱線するところ。書いているそのときの著者の気持ちの赴くまま、物事の詳細がぐっとズームアップされ、著者がふと脱線に気づいて軌道修正がされる。その繰り返しが楽しい。伊藤礼が書けばなんでもおもしろいので、脱線してもいいし、しなくてもいい。長く生きてきた人の「まあいいじゃないか」というゆったりした姿勢が心地よかった。
伊藤礼随筆全集は出さないのか?と筑摩書房に問いたいほど気に入ってしまったので、これから少しずつ読んでいこうと思う。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
執筆時80歳ちかいおじいちゃんである筆者の、12坪の庭先農場で奮闘する日常が飄々とユーモラスに語られるエッセイです。
とても好みの作品でした。文体も、著者の目線や感受性もすごく刺さりました。エッセイの好みとしてはストライクです。家庭菜園に興味が1ミリもなくても楽しめること請け合いです。
目線は至極フラットです。きっとそもそもの素質もあるのかもしれませんが、作物や畑の環境、そして季節の移り変わりに気を配る農業を楽しむ筆者は、万物を「観察」の目線でフラットに眺めているのかもしれません。自然や他人にはもちろん、自分に対してもフラット。カッコつけが一切ありません。野菜を、やってくる害虫を、ホームセンターの店員を、著者の家人を、すべてフラットに観察しています。
文体は「だ・である調」ですが重さはなく、柔らかさを感じつつ丁寧な描写。
しかし描写が律儀なほど丁寧すぎて、それが独特なユーモアを生んでいます。そしてユーモアが80ちかい爺さんのそれじゃなく、20代の方でも「ふふ」と笑いながら読めるのではないかと思うほどです。
話が横道にそれたままになって文字数が尽きたり(連載であったため)、自分でもそれを自覚して無理やり話を戻したりと、半ばお家芸のような「果てしない余談」がまた面白い。自分に素直すぎて余談にページを割いてしまう可愛らしさ。シビンの使用法、一目惚れで買った耕運機を買ったまま使わない理由さがし、シオカラトンボの交尾などの笑える余談に大いに楽しませてもらいました。
伊藤礼さんをこの作品で初めて知りましたが、いま一番友達になりたいおじいちゃんです。 -
脱力系の菜園エッセイ。日常のささやかなことが飄々とした文体で語られる。あちこち話がそれるのも楽しい。
戦中戦後の食糧事情やサツマイモ栽培、保存のためにムロを掘った話への展開は興味深く読んだ。 -
飄々とマイペースな農耕エッセイ。話を聞いてる感じで楽しかった。
伊藤礼の作品





