カレーライスの唄 (ちくま文庫 あ 53-1)

著者 :
  • 筑摩書房
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感想 : 19
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  • Amazon.co.jp ・本 (560ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480433558

感想・レビュー・書評

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  • 2018年4月14日、読み始め。
    2018年4月22日、読了。

    著者の作品は、戦争に関するもので読みにくいという印象があった。
    しかし、この作品は平易で読みやすい。


    2021年5月6日、追記。

    著者について、ウィキペディアには、次のように書かれている。

    阿川 弘之(あがわ ひろゆき、1920年(大正9年)12月24日 - 2015年(平成27年)8月3日)は、日本の小説家、評論家。

    広島県名誉県民。日本芸術院会員。日本李登輝友の会名誉会長。文化勲章受章。海軍体験を基にした戦争物や私小説的作品、伝記物で知られる。代表作として『春の城』『雲の墓標』のほか、大日本帝国海軍提督を描いた3部作(海軍提督三部作)『山本五十六』『米内光政』『井上成美』などがある。

    法学者の阿川尚之は長男、タレント・エッセイストの阿川佐和子は長女。

  • タイトルを見てなんか美味しそうなお話だなーと思って手に取りました。カレーライスって匂いだけじゃなくて文字にしても食欲をそそりますね。
    ただ作品の中身はカレーがメインというわけではなく、カレーライスが出てくるのは大分後になってからです。ちょっとラブコメな感じで、辛いというより甘い。でも甘ったるいかというとそうでもなく、バーモントカレー中辛といった感じかな。
    われ鍋にとじ蓋の例として挙げられるような六さんと千鶴子カップル。お嬢さん育ちでちょっぴり気の強い千鶴子は、六さんをひっぱりつつも下がるところは下がって縁の下の力持ちに回ろうとする。六さんもすぐ癇癪を起こすくせに二の足を踏んで前に進めずどこか要領も悪いけど、決めるところは決めるし自分の信念は貫こうとする。きっと二人はいい夫婦になると思います。
    なので後半駆け足すぎたのが残念なところ。夫婦になってからの二人と「ありがとう」も見てみたかったな。二人の周りを固める脇役もいい味出してました。

  • 2024.02.24
    阿川弘之先生がこういう「優しい」小説を書かれていたことを初めて知った。
    読みやすく温かい気持ちにさせられるし、戦争と正義と平和と、いろんなことをさりげなく考えさせてもくれる。

  • 第二次世界大戦の傷跡が残っている。六助の父親は中国で戦犯として処刑された。「棺桶の材木を燃やしたり、豚を略奪したりしたのは、死刑になるほどひどいことだったのでしょうか」という台詞がある(189頁)。これは被害者感情からは同意できない。豚を略奪されたら市民は餓死するしかない。自分達は豚が必要である、市民は何とか別の食べ物を探せばいいということは無能公務員的発想である。「パンがなければケーキを食べればいい」とはならない。自分達の保身と利益のために市民に負担や犠牲を押し付ける。

    市民に頑張って努力することを期待することは許されない。ドメスティックな日本人は、日本人と中国人と中国という視点で見て日本人を擁護するかもしれない。しかし、官憲と民衆という視点に立てば中国の市民に共感することが民間感覚である。中国人の人権を侵害する日本の公務員は日本国民にも人権侵害する。

    実際、公務員による飲食店経営者への横暴の話がある。保健所の職員が飲食店への立ち入り検査と称して酒を無料で飲ませろと強要する(522頁)。日本の公務員の腐敗は発展途上国と変わらない。新型コロナウイルス対策で保健所が大変との指摘があるが、大変なのは保健所にたらい回しにされてPCR検査も受けられず、入院もできない市民である。保健所が仕事もできないのに権限を持ち続けていることが問題である。酒類提供禁止などの自粛に飲食店の不満が高まっている。私はSocial Distance徹底を重視する立場であるが、公務員への不満は理解できる。

    娘を持つ母親は娘の恋の相手が企業経営者の不良息子でないと分かると多少安心する(353頁)。半グレ・ヤンキーへの感覚はこのようなものである。

    肝心のカレーライス店の魅力は微妙さがある。「おいしいものを安く作って、みんなに喜ばれて」というコンセプトは素晴らしい(353頁)。その割にはインド特製カレーと奇をてらっており、コンセプトのブレを感じる。

    料理評論家の解説も疑問がある。本場のカレーは「カレー粉だけでなく、赤い唐辛子をきざんでたくさん入れる」(445頁)。カレーのスパイスとして辛みとして入れることは意味があるが、唐辛子を独立して入れることに魅力を感じない。カレーを味わうことにならない。

    「朝鮮料理もそうだけど、中国の四川料理なんかも唐辛子をうんと使って、口がまがりそうに辛いのが本物よ」(445頁)。朝鮮料理の辛さと四川料理の辛さは異質であり、乱暴な議論に感じる。

  • 美味しかった、じゃない、おもしろかった。
    語り口が良い感じにユーモラスで、するすると読み始めるうちにどんどん展開が進み、最後は語り口も口を閉ざして、まあるくおしゃれに落ち着き、はい、ごちそうさまでした、という著者の気配すら感じる。

    カレー食べにいこーっと!

  • 面白く読めました。カレーライフと似たような感じかと思いましたが、開店後はあっさりとうまくいってちょっと物足りない気もしました。戦犯についての話は雰囲気と合わず重苦しい内容でしたが、戦争文学としても、青春文学としても興味深く読めました。

  • 物価が今の1/10くらいの、平和な昭和の物語。

  • 昔ながらの単純でそれでいて楽しいお話。変に凝った話より、こういうのがいい。

  • おもしろい。
    率直にそう思った。
    この本を手に取ったのは、帯に書かれていた「読み終わっちゃうのがもったいない」という言葉に魅かれたからだが、読み進むにつれて残り少なくなっていく未読ページを見て、まさにそう思った。

    舞台は昭和40年代。戦後も終わり、○○成長といわれる日本経済の急進期だ。
    出版社に努める主人公の六助は短気な一本気質で、あまり口は達者ではない。納得ができないことがあると、かぁっとなってついつい手を出してしまうような不器用な青年だ。
    情熱をもって仕事に臨むが、勤務先の出版社はもう倒産寸前で、まわりの同僚は仕事もせずに一日中将棋ばかり打っている。六助が頼み込んで出版までこぎつけたベテラン作家の長編小説は売れ行き好調だったが、その原稿料も支払えないようなありさまだ。
    そしてついに勤務先が倒産。職を失った六助は下宿代もまともに払えず、故郷の広島に帰ることになる。
    一方、かつての同僚の千鶴子はいつも前向きで、物おじしない性格だ。父親が社長業をしていて実家が裕福なこともあり、職を失った後も友人とスキー旅行に行くようなお気楽な生活をしている。六助とは対照的な人物だ。
    この二人が同じ目標を持ち、夢を実現させるサクセスストーリーであり、実はラブストーリーでもある。

    作中で重要なアイテムとして使われているのが株だ。
    二人の仲が疎遠になると株は値下がりし、気持ちが高まるのに合わせて株も値上がりする。
    読んでいる方も、この株につられて気持ちが上がったり下がったりしてしまう。

    50年も前の作品なのに、六助と一緒に時代を生きているような臨場感がある。
    この作品を読んで、つまらない日常も、おもしろい日常も、何も起こらない日常も、愛おしく感じられるようになった。
    読後は幸せな気持ちになること間違いない。

  • 広島への旅行前に購入し新幹線で一気に読了。
    元々雲の墓標や春の城、青葉の翳りなどが好きな阿川さんの作品で、しかし既知のものより、新聞連載小説ということもあり、あえて読みやすく書かれている印象。よく言えば軽快でテンポが良く、悪く言えばやや予定調和的なのか?
    他の阿川さんの小説のような重厚さはないかも知れないが、書かれた当時の世相などを伺える良作。読後感も明るく、楽しい広島旅行をスタートするお供には最適であった。

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著者プロフィール

阿川弘之
一九二〇年(大正九)広島市に生まれる。四二年(昭和一七)九月、東京帝国大学文学部国文科を繰り上げ卒業。兵科予備学生として海軍に入隊し、海軍大尉として中国の漢口にて終戦を迎えた。四六年復員。小説家、評論家。主な作品に『春の城』(読売文学賞)、『雲の墓標』、『山本五十六』(新潮社文学賞)、『米内光政』、『井上成美』(日本文学大賞)、『志賀直哉』(毎日出版文化賞、野間文芸賞)、『食味風々録』(読売文学賞)、『南蛮阿房列車』など。九五年(平成七)『高松宮日記』(全八巻)の編纂校訂に携わる。七八年、第三五回日本芸術院賞恩賜賞受賞。九三年、文化功労者に顕彰される。九九年、文化勲章受章。二〇〇七年、菊池寛賞受賞。日本芸術院会員。二〇一五年(平成二七)没。

「2023年 『海軍こぼれ話』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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