- Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
- / ISBN・EAN: 9784480434975
感想・レビュー・書評
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昭和30年前後、女たちは西成界隈に住む底辺層で哀感と投げやりな雰囲気が漂います。語り出し、語り口が上手く、すぐに物語に引き込まれます。ディテールが丁寧なためリアリティがあります。読み終えて余韻が残る佳品揃い。「女蛭」は異色作。出世欲が強く保身しか考えない性根の腐った主人公が追い詰められていく話。女性の体臭まで感じさせるような濃密な描写でサスペンス感いっぱいでした。女性を怒らせると怖い。いずれも昭和文学のレベルの高さを感じました。
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黒岩重吾が初期に書き続けた、大阪の貧困地域が主舞台の「西成モノ」と総称される短編を集めたもの。
先日読んだこのシリーズの『西成山王ホテル』が面白かったので、復刊第1弾となった本書も購入。
帯には、《そのアパートに集まるのは大阪のどん底に飲み込まれた者たち――「男女の愛憎」を痛切に描く昭和の名作ミステリ短編集が復刊》なる惹句が躍る。
表題作「飛田(とびた)ホテル」は、かつて「飛田遊廓」があり、いまも「飛田新地」という歓楽街になっている大阪市西成区飛田を舞台にしている。
社会の落伍者が集まる汚い安アパート――通称「飛田ホテル」で、物語がくり広げられる。
刑期を終えたヤクザの主人公が「飛田ホテル」に戻ってみると、待っているはずの妻は失踪していた。行方を探すうち、妻の隠された実像を知ることになり……という話。
収録作6編のうち4編までは、殺人事件や失踪の謎を解くミステリになっている。
黒岩重吾は、初期には松本清張の流れを汲む社会派推理小説の書き手であった。直木賞を受賞した出世作『背徳のメス』も、大阪・西成の釜ヶ崎(現・あいりん地区)を舞台にした社会派推理小説だ。
ここに収められた6編も、『背徳のメス』と同じく昭和30年代に書かれたもの。
社会派推理といっても、清張作品のように精緻なトリックや緊密な構成はない。謎解きが主眼のミステリではないのだ。むしろ、事件にからむ人々の愛憎模様に主眼がある。
主人公はヤクザや娼婦、元娼婦など、社会の良識の枠からはみ出した、寄る辺ない人々ばかり。
いずれも無残な過去を背負っていたりして、世間並みの幸福をはなからあきらめている。
たとえば、「口なしの女たち」という一編は、聾唖の娼婦ばかりを集めた(!)売春組織(表向きは中華飯店)が主舞台となる。
そうした人々が織りなす物語はしみじみと哀切で、いまどきの小説にはない味わいがある。
「アルサロ」「マドロス」「ズベ公」「毛唐」などという古めかしい言葉が頻出する文章も、昭和レトロな感じでよい。 -
なにかの書評で高評価だったので読んでみた。
読み始めて、あまりの昭和感と薄暗さに全部読むかどうしようか悩んだのだけど…
読んでいくうちに、なんかこ~じわじわとおもしろさがにじんできて、最後まで一気に読んでしまった。
戦後の大阪(関西)を舞台にした男と女の短編物語集
と、こう書くだけでなんかジメジメする感じだけど…
このジメジメ感がなんかいい。
社会の落伍者が集まるアパートで繰り広げられる男女の愛「飛田ホテル」
神戸の怪しいクラブと息子の死の真相を探る「口なしの女たち」
コールガールの姉妹を描いた「隠花の露」
お金と人生と愛を描いた「虹の十字架」
愛した女の過去を探る「夜を旅した女」
女の愛情の恐ろしさを描く「女蛭」
どの物語も救いようがない結末なんだけど
ある意味では幸せな結末なのかもしれない。 -
はっきり言って誰も救われない。けれど読後に辛さがないのが不思議で、そこがいい。日陰者が集まってより深く影を作っていく。昭和の、まだ戦争の残り香さえあるような、そんな短編集だった。
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昭和の西成が舞台なので、どん底の人間模様が描かれているのか?と思ったが、温かい人情も感じる話。でも猥雑。
暗い路地に蠢くどうしようもない人間模様を見せつけられる感じ。
何か不思議な魅力があるので、西成山王ホテルも読んでみようかと。 -
2日ほどで読んだ。個人的には同じ筆者の「西成モノ」なら青い本のほうがおもしろい。
露骨なシーンはないにせよ、「性」が隠れテーマだといえる。読んでいたときには時代的なものだから(「昭和風」?)かもしれないけど、女性の立場がとにかく弱くみえた。語り手の多くが「男性」だからそのように感じたのかもしれない。でも「女性」は弱いわけではないのかも。ミステリー風でおもしろいと思ったのは「飛田ホテル」「口なしの女たち」かな。
「虹の十字架」の「浅香」の生き方しかり、この短編集にでてくる女性たちは「幸せ」なんだろうか「不幸せ」なんだろうか?「幸せ/不幸せ」の基準は自分の中にしかなくて、でもその一方で自分ひとりで決められるようで決められないもの、ともとれる。 -
戦後間もない昭和の大阪。
社会の落伍者が集うアパート「飛田ホテル」
光の当たらない暗がりで悲しく交わる男女の情と性。
今日日、男女の愛憎という言葉が最早昼ドラで使われるのか怪しいくらいに、陳腐な響きになってしまったように思うが、時代と共に、貞操観や死生観というのは移ろいでゆくもの。
平安から江戸期はもちろんのことだが、戦前、戦中、全てが焼け野原になった直後からやや落ち着き始めた時期、貞操観や死生観が現代と異なるのは当然。
そんな時代を最底辺で生活している、男と女の六編の物語。
なんだろう、重いはずなんだけど、暗い気持ちにはならないな。人間の根源みたいな原始的な、生きるって要素が滲み出てるのかな。いや、死んだら殺されたりするんだけどさ。そこに歪んではいるけど、彼等彼女らのイデオロギーを感じるからなのか。
不思議な一冊でした。 -
人生は平等な訳がない。産まれながらに不幸で死ぬまで不幸の人もいれば、産まれてから死ぬまで幸せな人もいる。小説は不幸であればあるほど面白い。