小川洋子と読む 内田百閒アンソロジー (ちくま文庫)

著者 :
制作 : 小川 洋子 
  • 筑摩書房
3.84
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本棚登録 : 484
感想 : 38
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480436412

作品紹介・あらすじ

汽車に揺られ、小鳥を愛し、土手をぼんやりと歩く……どこか遠くの現実とすぐそこの幻を行き来するような、百閒先生の作品を小川洋子が編む夢の一冊

感想・レビュー・書評

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  • この前読んだのとかぶる物もあったが購入。小川洋子さんの選ぶ百閒といったら読まずにいられない。『旅愁』『尽頭子』『柳撿挍の小閑』『とおぼえ』『他生の縁』『黄牛』『残夢三昧』が好き。小川さんの感想がそれぞれの味に深みを増して良かった。

  • 作家の小川洋子さんが編んだ内田百閒のアンソロジー…もうそれだけでどきどきしてしまいます。
    24編の小説と随筆それぞれに小川さんの短いコメントが添えられていて、小川さんと一緒に読んでいるような、贅沢な気持ちになりました。

    身体が牛、顔が人間の件(くだん)に生まれ変わった男を描いた「件」。
    未来を予言をするという件になってしまったのに、何を予言すればいいのかわからない。
    なのに人々は自分のちょっとした動作さえ、期待のこもった目で見つめてくる。
    可笑しみを感じながら、同時にいたたまれなくもなるのは、もし私が件に生まれ変わったら男と同じようにうろたえそうだからだと思います。

    掴みどころがないかと思えば、肌に感覚が蘇るような生々しさもあって、落ち着かない気持ちになる。
    でもそれが癖になるなぁ…と思いながら読了。

    「消えた旋律」に添えられた小川さんのコメントがとても好きでした。
    「たいてい理屈は退屈なものだ。しかし百閒は理屈をこねただけでユーモアを生む。それを文学に変えてしまう。やはり天才は違う」

  • 小川洋子さんが編んだ百閒アンソロジー。1作ごとに小川さんの一言コメント付き、短い解説だけれどその一言だけでぐっと作品への理解が深まる気がする不思議。おなじみ「件」や「冥途」、「サラサーテの盤」「旅順入場式」と、これ1冊読めば百閒の代表作は網羅できるので入門編としてもおすすめかも。

    百閒は何冊か読んでいるので収録作の大半は既読だったけれど、何度読んでも読むたび新鮮な驚きがある。基本的にはやっぱり悪夢系のものが好きで、件は言わずもがな、もらった手土産を開けたら兎が出てきたり、段ボールの中に栗鼠が入ってたり、水枕ほどの大きさの芋虫や、鶴と目が合うとかもう走って逃げたい動物系がとくに印象的。タイトルは「蜥蜴」だけど熊と牛が戦うというのも怖い。あと「とおぼえ」は、語り手自身がうさん臭くて、誰が幽霊なんだかわからないところがいい感じ。

    これもまた夢オチかなと思って読んでいると普通の回想だったりするものも、なぜか幻想味がある不思議。「爆撃調査団」などはアメリカ兵に連行されて尋問されるという、ある意味悪夢以上に怖い現実のお話なのだけど、百閒先生は聞かれもしない雷の話などをくどくどと述べはじめて、どこから冗談なのか、それともこれ自体が痛烈な皮肉なのか、なんともいえない読後感。

    「柳検校の小閑」と「長春香」は、どちらも女性が関東大震災で亡くなる話で、繋がっているように思う。教え子の長野初という女性にまつわる「長春香」はおそらく実話エッセイなので、「柳検校の小閑」に登場する検校の弟子の三木さんは、彼女をモデルにしているのではないかと勝手に憶測。どちらの話も切ない。

    ※収録
    旅愁/冥途/件/尽頭子/蜥蜴/梟林記/旅順入城式/鶴/桃葉/柳検校の小閑/雲の脚/サラサーテの盤/とおぼえ/布哇の弗/他生の縁/黄牛/長春香/梅雨韻/琥珀/爆撃調査団/桃太郎/雀の斑/消えた旋律/残夢三昧

  • 小川洋子さんも仰っているけれど、内田百閒て天才だなと思った。この発想力、構成力、言葉の使い方。比較するのもおこがましいけれど、私の中からは絶対に出てこないなと思う。
    小川さんと同じ文章を読んで、小川さんの感じたことを知ることができるのも、とても楽しかった。

  • 歴史的仮名遣派なので、それを愛した内田先生の新字新仮名版は基本的に買はないのである。
     ただ、本書にある小川先生の「件」評は、内田先生の傑作にとどまらず、個人的な「件」観にどストライクで、良いのである。
     ほかも 内田百閒文学ならこんなもんかなチョイスで、良いのである。
     

  • 百閒先生と言えば、全編にもやがかかって、夢か現かわからないような奇妙な作品を書くイメージだったけど、「柳獫狡の小閑」「長春香」にいい意味で裏切られた。
    頑固なおじいさんの愛惜が、あまりにも愛おしすぎて、切なくて、めちゃくちゃグッときてしまった。
    イメージ通りの作品の中では、初読の「蜥蜴」のグロテスクな夢のような耽美さが心に残った。

    全体的に生と死のあわいにあるような物語なのに、不気味すぎないのは、百閒先生の心の中に、父や教え子といった、去っていった死者たちへの想いが消えずにあるからなのかなと思った。

    小川洋子さんの書評も、感覚的に読んでいいんだな、と思わせてくれつつ、物語世界を拡張していて良かった。

  • 帰宅途中の夜の地下鉄で読みすすめるととても浸れてよい短編集でした。
    初読のも既読のも面白かったです。初読のでは「蜥蜴」「とおぼえ」が怖くて好きでした。
    小説なのか随筆なのかの境界がわからないものが多いのもいい。幻想的だったり怖かったり。
    タイトルの付け方がspitzっぽい斜め上からだなと思いました。
    小川さんの各話終わりのエッセイも面白かったです。そこに目を付けるんだ、と。

  •  琥珀は松樹の脂が地中に埋もれて、何萬年かの後に石になったものである。
    琥珀/(P.236)

    少年はいい。少年である、というただ一点において、全肯定される。疑いを知らず、ひた向きで、ちょっと間が抜けている。
    (P.238)

     実に色彩豊かである。ユニークな人物像が体温とともに浮かび上がってくるようだ。だからこそ百閒の作品をまとめて読んでも、飽きるということがない。ユーモアと恐怖、悲惨と能天気、不機嫌と無邪気、幻想と現実。そうした相反するもの同士が矛盾なく一つに溶け合い、思いも寄らない局面を見せてくれる。
    (P. 284)

  • 小川洋子が選んだ内田百閒の随筆、短編アンソロジー。こんなん買うしかないやろw
    収録作のセレクトもさることながら、各短編の末尾に添えられた小川洋子の解説が、まるで内田百閒の作品の『続き』のようだった。最高。

  • おもしろい、魅力的なひと。文章の温度感が絶妙。
    内田百閒、小川洋子さんのルーツだから岡山が好きなのか。

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著者プロフィール

内田百閒(うちだ・ひゃっけん)1889―1970
岡山県生まれ。本名・栄造。15歳のときに親友・堀野寛と出会い、堀野を通じて読書の趣味に目覚める。翌年、夏目漱石の『吾輩は猫である』上篇を読み、漱石に傾倒。19歳のころには俳句熱が高まって、俳諧一夜会や苦渋会という句会を結成。岡山近郊の百間川から俳号を「百間」とした。1910年、東京帝国大学文科大学へ入学。翌年2月に、静養中だった漱石を訪ねる。漱石の面会日「漱石山房」に出席するようになり、小宮豊隆、津田青楓、森田草平、芥川龍之介、久米正雄などと知り合う。以後、陸軍士官学校や法政大学で教鞭をとる。1920年には、作曲家・筝曲家の宮城道雄に知遇を得て親交が続く。同年、幼少期より寵愛を受けてきた祖母の竹が死去。1922年、はじめての著作集『冥途』を稲門堂書店より刊行。翌年、関東大震災に遭い、『冥途』の印刷紙型を焼失してしまう。1933年に三笠書房から『百鬼園随筆』を刊行してから、『冥途』の再劂版や第二創作集『旅順入城式』(岩波書店)、『百鬼園俳句帖』(三笠書房)などを刊行。その他、『贋作吾輩は猫である』(新潮社)、『ノラや』(文藝春秋社)など多数の書籍、作品を発表する。1965年には、これまでの功績を評価され芸術会員に推薦されながらも「いやだから、いやだ」とそれを辞退。それからも『麗らかや』『残夢三昧』(いずれも三笠書房)などを著す。多くの名筆を世に刻み、1971年4月20日に逝去。

「2023年 『シュークリーム』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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