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本 ・本 (320ページ) / ISBN・EAN: 9784480437693
作品紹介・あらすじ
チェンバロの綺羅綺羅しい響き、橋の袂に佇む天使、青暗い水に潜む蛇……独特な美意識で幻想文学ファンを魅了した作品から山尾悠子が25篇を選ぶ。==「一語の揺るぎもない美文、人工の言葉でできた小宇宙…」。須永朝彦を敬愛してやまない山尾悠子が遺された小説から25作品をセレクト。〈耽美小説の聖典〉と称された『就眠儀式』『天使』から、密かな注目を集めつつ単行本化を見なかった連作「聖家族」まで。吸血鬼、美少年、黒い森の古城…稀代の審美眼を有した異能の天才が描き出す官能と美の迷宮へようこそ!解題:礒崎純一追悼―――美しき吸血鬼、チェンバロの綺羅綺羅とした響き、冥府よりの誘惑者に恍惚と導かれゆく至福…山尾悠子が選ぶ珠玉の25編【目次】契ぬばたまの樅の木の下でR公の綴織画就眠儀式神聖羅馬帝国森の彼方の地天使Ⅰ天使Ⅱ天使Ⅲ木犀館殺人事件光と影エル・レリカリオLES LILAS月光浴銀毛狼皮悪霊の館掌篇滅紫篇聖家族Ⅰ聖家族Ⅱ聖家族Ⅲ聖家族Ⅳ蘭の祝福術競べ青い箱と銀色のお化け *編者の言葉 山尾悠子 解題 礒崎純一
感想・レビュー・書評
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本書巻末の「編者の言葉」を読んで、須永朝彦という人物を知ったのは、後半生のアンソロジストとしての仕事を通じてだったのだなあ、と分かった。
作家としての作品は初めて読むものばかり。確かに読者を選ぶ作品が多いとは思うが、掌編と言っても良いような作は面白いし、読みやすい。
もっとも、『小説全集』刊行時にパンフレットに寄せた文章にある「現実の自分には望み得ぬ境涯、言い換へれば自分が変り代りたき存在を選び取り、その肖像を描く事が即ち私の小説の方法となつた。」との一文にあるとおり、美しき吸血鬼や天使が度々取り上げられる。 -
今年2021年5月に没した耽美幻想派の作家の作品から
山尾悠子がセレクトした逸品集。
収録作は、
契
ぬばたまの
樅の木の下で
R公の綴織画
就眠儀式
神聖羅馬帝国
森の彼方の地
天使Ⅰ
天使Ⅱ
天使Ⅲ
木犀館殺人事件
光と影
エル・レリカリオ
LES LILLAS――リラの憶ひ出
月光浴
銀毛狼皮
悪霊の館
掌編 滅紫篇
聖家族Ⅰ
聖家族Ⅱ
聖家族Ⅲ
聖家族Ⅳ
蘭の祝福
術競べ
青い箱と銀色のお化け
――の、全25編。
隙のない流麗な文体で、
殊に掌編の上手さ(美味さ)が際立つ。
個人的BEST3を挙げるとしたら、圧巻の巻頭、
中秋の名月にチェンバロを奏でる
アルバイト要員を募集する《私》の目的「契」、
一人の青年を挟んで姉と弟が嫉妬し合うという
塚本邦雄(作者の短歌の師)の小説風な物語
「木犀館殺人事件」、
地図を広げて追憶に耽る男性の来し方、
ナボコフ「ある怪物双生児の生涯の数場面」への
オマージュ「聖家族Ⅳ」――といったところ。
作家自身の指向は知らないが、女嫌いなのか、
女性を排除した美的空間の構築に余念がなかった印象。
だが、読み進めるにつれ、
男性の同性愛や女性嫌悪云々より、
単に自己愛の強い人だったのか?
と感じるようになっていった。
鏡に映った自分の分身だけを愛していた――
とでも言おうか。
そう考えて表紙を見直したら
カラヴァッジョ「ナルキッソス」だったので、
やはり……と苦笑いしてしまった。 -
今年(2021年)5月に亡くなった須永朝彦、その作品の中から山尾悠子が編んだ追悼短編集。『天使』は単行本で読んだので、半分弱は既読の作品だったけれど、改めてお耽美世界に酔いしれる。
「契」から「森の彼方の地」までは、全て吸血鬼もの。ジャックだのヘルベルトだのが出てくるものも勿論好きだけれど、小野小町のなれの果てのような「ぬばたまの」も印象に残る。
「天使」三篇は、やはり2が圧倒的なインパクト。二十歳の美大生・百合男の部屋に、ある日美しい天使が舞い込んできて…というところまではファンタジーのようだけど、この言葉を話さない天使がどんどんDVモラハラ彼氏みたいになっていき、最後には…怖すぎる。
「光と影」から「LES LILAS」の三篇はスペインもの。「月光浴」「銀毛狼皮」は、どちらも「昔むかし、ババリア~」で始まる、童話のようだけれどオチが皮肉なお話。「悪霊の館」は、西洋版「耳なし芳一」的な。「滅紫篇」と「術競べ」はそれぞれもとは長編の時代もの。
「聖家族」四篇にはそれぞれに繋がりはないけれど家族がテーマ。ある兄弟と親しくなった主人公の2、姉妹と伯母たちに囲まれて女性たちに虐げられて育った主人公が復讐殺人を行う3も面白かったけれど、やはりシャム双生児の4が好み。
最後に収録されている「青い箱と銀色のお化け」は、あの世で乱歩と佐藤春夫と谷崎潤一郎が対談しているという異色作。三人を呼び集めたのは誰なのか。美少年と飛行機を愛する関西弁のあの人が突如箱の中から躍り出てきます(笑)
※収録
契/ぬばたまの/樅の木の下で/R公の綴織画/就眠儀式/神聖羅馬帝国/森の彼方の地/天使1~3/木犀館殺人事件/光と影/エル・レリカリオ/LES LILAS/月光浴/銀毛狼皮/悪霊の館/滅紫篇/聖家族1~4/蘭の祝福/術競べ(『胡蝶丸変化』より抜粋)/青い箱と銀色のお化け -
「聖家族」が文庫で読める喜び。全部『須永朝彦小説全集』で読めるとはいえ、版が異なれば別の本というわけで気になるのは仕方ない。
底本はまさに『須永朝彦小説全集』。底本の誤植をそのまま引き継いでいるのには閉口しちゃう(「天使Ⅱ」の誤植は底本と無関係)。
趣味の横溢せるままの掌短編集。趣味という一点でならどれを引いても外れのない著者の作品群から山尾悠子が選んだもの。美と恐怖。永遠に死を生きる夜のうからの美青年、あるいは彼を称える崇拝者、または彼に迎えられる無垢な青少年という表裏(主客)一体の憧憬を、古風でゆかしい耽美な叙述が支えて美しい。収録作全体のバランスもよく、似た趣向が続く食傷も遠ざけておけるんじゃなかろうか。ただし全集で著者が言っていた「ボロが出るでしょ」は忘れない。
著者にとってものを書くことは、日々の活計としてではなく、美を拝跪し美に耽溺する儀式とでもしたいものだったんだろうなと。それでもって小説は、これまでなかったから自分で書くしかなかったものを書いた、というところでひとつの終着を迎えていたのかも。 -
桃山学院大学附属図書館蔵書検索OPACへ↓
https://indus.andrew.ac.jp/opac/volume/1297209 -
吸血鬼、美少年、天使、偽書、短歌や植物への造詣。
今では手垢のついた耽美的なイメージになっているものもあるが須永が作り出したものだそうだ。
選者の山尾悠子が言うよう誰にも似てない作家なのかも。前髪で片目を隠した若い頃の写真がいかにもと言う雰囲気。好事家の好みそうな小説。 -
〈冥府よりの誘惑者、あるいは暗い美青年としての吸血鬼〉を創出し、天使や妖の美に悦んで屈服するマゾヒスティックな願望を描いた、耽美小説の極北。編者・山尾悠子。
吸血鬼小説を読み漁っていたころ、『就眠儀式』『天使』は特にお気に入りの作品集だった。旧仮名遣いの綺羅綺羅しい文体と、主人公と読者を暗い森へ誘惑するヴァンパイア。萩尾望都の『ポーの一族』の初出が72年、アン・ライスの『インタビュー・ウィズ・ザ・ヴァンパイア』は76年。70年に「契」を発表した須永先生は、耽美的吸血鬼小説の先駆者だった。
とはいえ、その原型はやはりレ・ファニュの『カーミラ』に見つけられるだろう。『カーミラ』は、少女が激しく惹かれ憧憬を抱く相手が少女姿の吸血鬼だった、という物語で、暗にレズビアニズムを描いた小説としても評価されている。これは吉屋信子の『花物語』に描かれたような"エス"の関係にも近く、日本で少女文化が吸血鬼幻想を盛り上げてきたのも必然だったと思われる。
だが、『カーミラ』型の〈お姉さまと妹分〉の関係が、そのまま男性同士の関係にスライドしたような小説はなかなか書かれなかったということなのだろう。三島由紀夫は66年に「仲間」という、父と息子がもう一人の男性と「三人になる」幻想小説を書いていて、たとえば東雅夫・編の吸血鬼アンソロジー『血と薔薇の誘う夜に』では「契」と並んで巻頭を飾っているが、ここにでてくる人びとは吸血鬼と明示されているわけではなく、容姿が美しいともされていない。
そこで須永朝彦である。この人が金髪碧眼、全身黒装束の貴族然とした吸血鬼と男性同性愛的表現を結びつけた。そのことにみんな感謝したほうがいい。改めて読むと、歌人として師事していた塚本邦雄の瞬篇小説から小説のスタイルも同性愛表現も多大な影響を受けているのがわかったが、須永先生はさらにファンタジックな世界を書くことに舵を切っている。吸血鬼だけでなく、さまざまな化生の者たちの美に惑わされ、"奪われる"快感に満ちた作品を遺した。「天使 Ⅱ」は幻想怪奇と被虐願望が融合した傑作だろう。
『悪霊の館』の収録作と単行本未収録の作品は今回初めて読んだが、前二作からどんどん小説としての面白さを増していると思った。『アルハンブラ物語』を読み返したばかりで読む「悪霊の館」はイベリコ半島の空気が真に迫る暗いメルヘンだったし、「銀毛狼皮」はババリアに舞台を移した竹取物語のパロディのようで楽しい。
そして「聖家族」。これは血縁を巡る幻滅と妄執の物語で、ある意味吸血鬼小説と表裏の関係だと言える。愛憎の"憎"を押し出した分、塚本にもさらに寄っているが、小説としては一番面白い。特に「聖家族 Ⅲ」のラストの切れ味はブラックな笑いを喚起する。谷崎・春夫・乱歩・足穂の架空対談「青い箱と銀色のお化け」もめっちゃ笑った。佐藤春夫と足穂のキャラよ。
山尾さんの「編者の言葉」は、もしかしてアンソロジスト須永朝彦の解説のパスティーシュ?と感じるような書きぶりで愛を感じた。私も須永先生には『書物の王国』や『日本幻想小説集成』などのアンソロジー、『美少年日本史』『日本幻想文学史』などの評論でたくさんお世話になりました。この文庫をきっかけに、ヘルベルト・フォン・クロロック公爵の名前が知れ渡りますように。
著者プロフィール
須永朝彦の作品





