解放されたゴーレム: 科学技術の不確実性について (ちくま学芸文庫 コ 50-1)

  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480510228

作品紹介・あらすじ

科学技術は強力だが不確実性に満ちた「ゴーレム」である。チェルノブイリ原発、エイズなど7つの事例をもとに、その本質を科学社会的に繙く。

感想・レビュー・書評

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  •  本書は、科学社会学という学問分野の書である。訳者あとがきによれば、科学社会学は、科学や技術を、さまざまな人々によって営まれ、政治・経済など他のさまざまな活動と互いに影響し合う社会的活動の一つとして理解し、その性質を明らかにする学問とされる。

     本書のタイトルにある"ゴーレム"とは、ユダヤ神話に登場する、粘土と水を材料に、呪文と魔術で味付けした人造人間で、力持ちだが不確実で危なっかしい。そうした、完了形になっていない「作られつつある科学・技術」を、著者たちはゴーレム科学と呼ぶ。それは専門家の見解自体が分裂していたり、研究室での実験では判断できないようや場合である。

     湾岸戦争でパトリオットはスカッドミサイルを撃ち落とせたのか、スペースシャトルの爆発事故は、技術者の警告を無視した経営陣の責任なのか、マクロ経済モデルの予測は意味があるのか、チェルノブイリ原発事故後の牧羊者と科学者の対立、エイズ治療における患者グループと医学会の対立と協調など、重要で興味深い7つの事例が取り上げられている。

     専門知の在り方や、科学技術に対して一般市民はどうあるべきかなどについて、非常に考えさせられた。新型コロナウィルスを巡る科学と政治の関係を誰もが考えざるを得ない時期だけに、ますますその感を深くした。

  •  原著は1998年。専門知の不確実性があらわになった具体的事例を取り上げて検討することで、科学・技術を価値中立的で秘教的なものと捉えがちな一般潮流に警鐘を鳴らし、またそれによって揺らぐこととなる科学の正統性をいかにして守るかを説いた書。
     コロナ禍を経て、専門知の無謬性への信仰などはとうに後景へ退いた今日の世界からすれば、本書のテーマ設定はやや古ぼけて見えるかもしれないが、まさにそうした「後知恵」でながめる科学観こそが本書で反駁されているともいえる。
     専門家、専門知とは何か、また一般市民はそれをどのように解し、どのように向き合っていくべきなのか。今でも答えが出ず、また今ほどその答えが求められている時代は他にないともいうべきこの問題について、本書は先んじて切り込んでいる。
     また文庫化にあたって書き下ろされた訳者あとがきにて、原著刊行後の動向を含めた科学論のおおまかな展開がわかりやすく記されている。

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著者プロフィール

ハリー・コリンズ(Harry Collins)
1943年生まれ。イギリスの科学社会学者。2012年にイギリス学士院フェローに選出。現在、ウェールズのカーディフ大学特別栄誉教授。かつて、バース大学の教授職を務め、「バース学派」と呼ばれる「科学的知識の社会学」の研究者グループの中心を担った。現在は、専門知論を中心とした科学論の「第三の波」の提唱者として著名で、重力波物理学コミュニティについての研究でも知られる。邦訳された著作に、『民主主義が科学を必要とする理由』(R. エヴァンズとの共著、鈴木俊洋訳、法政大学出版局、2022年)、『専門知を再考する』(R. エヴァンズとの共著、奥田太郎監訳、和田慈、清水右郷訳、名古屋大学出版局、2020年)、『解放されたゴーレム――科学技術の不確実性について』(T.ピンチとの共著、村上陽一郎、平川秀幸訳、ちくま学芸文庫、2020年)、『七つの科学事件ファイル――科学論争の顚末』(T.ピンチとの共著、福岡伸一訳、化学同人、1997年)などがある。

「2024年 『我々みんなが科学の専門家なのか?〈新装版〉』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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