ダイエット幻想 (ちくまプリマー新書)

著者 :
  • 筑摩書房
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感想 : 52
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480683618

作品紹介・あらすじ

モテたい、選ばれたい、認められたい……。ダイエットの動機は様々だけど、その強い思いで生きづらくなっていませんか? 食べると生きるをいま見つめなおそう!

感想・レビュー・書評

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  • 食べることにとどまらず、どう生きるかを考えるきっかけになる良書。

    特に承認欲求と食べることの関係性は、文化人類学ならではの考察だと思う。
    栄養学や医学の見地からではない、「痩せ願望」は中国の昔の纏足をイメージすれば分かりやすい。
    良いこと、正しいことは、時代、場所を換えれば唯一無二ではないと再認識できた。

    そして「食べること」を軸にして、改めて私自身を振り返ることができた。

    母は食事を作ることが難しい人だった。
    それは発達障害で家事能力が欠如しているとのちに判った。
    世間でいう「母の味」が分からない。大事にされた記憶も曖昧だ。

    食べることがよくわからない私は食べ方も、満腹の意も、充足の感覚も持ち合わせていなかったと今だから思える。どう生きるかもわからなかったのだろうな。

    食べることは生きることに直結し、その人の歩んできた背景、すなわち環境、人間関係、経済性、知性をも示す。
    それ故、「食べた結果」の体型は、その人を体現すると理解される。

    何を誰と、どう選び、食べるか。実はとても難しい問題だ。
    私は低い自己評価で、どうしても周囲からの承認や評価に自分の軸を置いて生きてきた。生きづらさの所以だ。

    本著は、私も含めて、他人の軸に置いて生きる日本人、特に若い女性の在り様に警鐘を鳴らす。
    「痩せたい」という気持ちと上手く付き合えているのか。
    愛されたい、認められたいと思うばかりに、他者の声に漂流するという呪縛に苦しんではいないか。

    体重、すなわち数字という外的な指針の支配下に飲み込まれるのでも、泡沫の如きダイエット法・健康法に振り回されることなく、「普通に食べる」とは一体どういうことなのだろうか。

    食べることは、生きることであり、誰かと、何を食べるかは、お腹ばかりではなく、心も充足させてくれる。
    自らの感覚に耳を澄ませ、日々の営みとして、歓びとして、これからも「食べること」を味わっていきたい。

  • ダイエットがテーマではあるが、文化人類学の見地から、他者との関わり方、自分とは何か、幅広い思考の手助けとなる良書。昨今のコロナ専門家との距離感の参考にもなる。

  • ダイエットで苦しむ全ての人(特に女性向け)に向けた処方箋。ダイエットの意味や目的を文化人類学の視点から根底的に見直し、痩せたい気持ちと上手く付き合う方法を提案している。

    この本を読めばダイエットに苦しんでいる人に対して、「他人のことなんて気にするな」とか「太ってても気にしないよ」などの言葉を掛けてもたいした効用を得られないのがわかる。問題は広く深い。だからこそ、真正面から痩せることについて考え抜いた本書は本気で苦しむ当事者の心を打つ。納得の内容である。



  • 「思考をほぐし、しなやかに生きる」。文化人類学者・小川さやかさんが選ぶ、今読みたい本。 | アートとカルチャー | クロワッサン オンライン
    https://croissant-online.jp/life/128091/

    筑摩書房 ダイエット幻想 ─やせること、愛されること / 磯野 真穂 著
    http://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480683618/

  • 夢中で読んだ。読みたいことがすべて書かれている、まさにjust for meな本。ダイエットというタイトルではあるけど、自分と他者との関係性、社会的まなざし、選び選ばれの構造、かわいいの定義、それでも人生には他者が必要ということが文化人類学的視点で丁寧に語られている名著。

    今、まさに摂食障害に悩んでいる10代20代の人たちにもいいと思うし、日々のSNS演出に疲れた大人たちにもいいと思う。他者から「よびかけられる」ことで自分を認識する、タグ付けの関係、点としての人間関係からラインとしての人間関係の構築へ。食べることは生きること、生きることは人と関わること。

  • 文化人類学の視点から「痩せ願望」の正体を分析し、「やせたい」という気持ちと折り合いをつけてうまく生きていく方法を考える。
    「やせたい」に限らず、自分と現代社会の「当たり前」「普通」とのずれをどうとらえたらいいか、数字や「科学的」とうたう健康情報にとらわれすぎずにどうつきあえばいいか、意外と考えさせてくれる好著。

    「ちくま」11月号の山本ぽてとさんによる「ここでいう「幻想」とは、ダイエットに限らず、「なんでもコントロールできる」と過信することなのではないか」という書評は核心をついていていい紹介だった(この書評を読まなかったら自分には縁のないテーマと思って手に取らなかったと思う)。

  • 選ばれる側と選ぶ側の話は本当に考えさせられました。いつのまにか、自分は選ばれる側にまわっているのだと気付かされた。色や数字の話も、そうですが人間の本来のあるべき姿(最初の原点)から時代が成長し、かけ離れて本質を見失ってしまう。感覚や感情など人間にしかないものを存分に味わい吸収するべきだなって思いました。

    食べる時に数字だけ気にするようになった社会。美味しいと純粋に言えることほど幸せなことはないのかもしれない。
    女性が弱くないとモテず、可愛いと思われないという話はまさに日本の社会が抱える、ジレンマで大人になるとその可愛さは痛い人へと変わっていく、やめ時を知らないといけないと思った

  • こんなことを書くと嫌がられるかもしれないが私はダイエットらしいダイエットをしたことがない。だからこれまで本書の存在は知ってはいても手に取ることはなかった。
    今回手に取ったのは、自分に関係なくても、多くの若い女性たちの関心ごとである『ダイエット』について書かれた本を読むことで彼女たちを知ることができるかもしれない、と思ったから。

    なんだけど、蓋を開けたら(表紙をめくったら)これはフェミニズムと生き方の本でした。
    著者の経歴を見れば専門は文化人類学。

    とりわけ興味深かったのは第3章、第5章。
    「かわいい」と日本女性の関係について紹介されている。

    ・「かわいい」というのは自分に危害を与えないという安心感、従順な素直さ、という条件付きの子どもっぽさである。つまり、「かわいい」とは本質的に内在するものではない。相手との関係性のあいだに現れる条件付きの状態である。
    ・「かわいい」は保護が必要な、無防備で無力な存在である。
    ・「かわいい」は大人になることを抑止すること力がある。
    ・大人になるということは、自立し、主体的であることである。
    ・女性は(殊に日本女性は)「選ばれる性」であることが思考・行動パターンを作り出している。

    ・ボーヴォワール『第二の性』から伸びた抜粋のまとめ:女性は男性の「他者」として常に存在しており、女性はその地位に対して何ら申し立てもせずに暮らしてきた。なぜなら、女が「他者」であることを拒否したり、男との共犯関係を拒否したりすれば、それは女にとって、上層カーストとの同盟が与えてくれる特典を全てあきらめることになるから。主君である男の家来でいれば、男は女を物質的に保護し、その存在の意味づけまで引き受けてくれるはずだ。自由はなくとも、生きることの不安や緊張からは逃れられる。

    →要は、女は男の他者であるほうが自分にとっても都合がいいので他者という地位に甘んじてきた。

    ではなぜこの、女性が「他者」である傾向、「選ばれる性」にとどまる傾向が日本では強いのか。
    著者は『「選ばれ組」に女性がとどまることを奨励する空気が日本の中にある』(p.112)と書いているが、それはなぜなのか。
    Girls powerを本来の『自立して生きる女性、従来の女性の枠組みにらとらわれず、いきいきと生きる女性の力』ではなく、『女の子はかわいくあることが一番』と解釈した広告に繋がってしまうのはなぜなのか。

    この本を読んでいたとき、昼のラジオから韓国アイドルの魅力はバキバキに踊れることだけじゃなくてどこかかわいらしさが残っていること、と若い男性(彼自身もアイドル)がいてうっとなった。

    かわいさを脱ぎ捨てて大人になろう。自立し、主体的に生きる人間になりたい。

  • 全国の思春期の女の子に配りたい。

    やせたい気持ちを否定するのではなく、
    「どう付き合っていくか」という切り口なのが好き。

  • とても良い。からこそタイトルで損をしているような。

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著者プロフィール

いその・まほ:人類学者。専門は文化人類学、医療人類学。2010年早稲田大学文学研究科博士後期課程修了。博士(文学)。早稲田大学文化構想学部助教、国際医療福祉大学大学院准教授を経て2020年より独立。
著書に『なぜふつうに食べられないのか-―拒食と過食の文化人類学』(春秋社)、『医療者が語る答えなき世界――「いのちの守り人」の人類学』(ちくま新書)、『ダイエット幻想――やせること、愛されること』(ちくまプリマ―新書)、『他者と生きる』(集英社新書)、共著に『急に具合が悪くなる』(晶文社)がある。本作では、著者の執筆に伴走し、言葉を寄せる。

「2022年 『「能力」の生きづらさをほぐす』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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